うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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名勝負数え歌Vol.12 「途絶えた記録(下)」

2010年08月15日 | 名勝負数え歌
◆女子バレーボール・シドニー五輪世界最終予選兼アジア大陸予選
(2000年6月24日 @東京体育館)

クロアチア 3(26-28、23-25、25-20、28-26、15- 9)2 日本



中国に逆転負けした翌6月22日、日本は4戦全勝で首位を走るイタリアと対戦。前年のW杯では日本がフルセットの末に勝利した相手でした。だが、イタリアはこの間に急成長し、立場が完全に逆転。攻撃パターンを研究された日本は中々得点に結びつかず、逆に美女選手としても有名なフランチェスカ・ピッチニーニとシモナ・リニエーリの2門の大砲の餌食に。結局、イタリア相手に殆ど何も出来ずにストレートで完敗。プロリーグのあるイタリアと、国内リーグのプロ化に頓挫した日本との差が鮮明になった一戦でもありました。同時に、5戦全勝のイタリアがこの時点で初の五輪出場権を獲得し、この大会に与えられた4枠のうちの1つがまず決まりました。のちに、この結果が日本に微妙な影を落とすことになります。

予選もあと残り2戦。第5戦を終了時点で、日本とクロアチアはともに3勝2敗。日本はこの試合に勝てば五輪出場権を獲得でき、クロアチアが勝てば最終節のイタリア戦に委ねられます。ただし、日本は、最終戦で当たる相手が過去5年で1勝20敗と大の苦手にしている韓国なので、クロアチア戦に絶対に勝利する必要がありました。また、前回の4年前に大阪で開催されたアトランタ五輪世界最終予選では、日本は吉原知子の獅子奮迅の大活躍でクロアチアにストレートで快勝して五輪出場権を獲得した経緯があります。シドニー行きを左右するこの一戦は、お互いにとってまさに正念場でした。



この試合の前に行われた韓国vs中国戦では中国がフルセットの末に勝利しましたが、複雑な予選方式の為、韓国がセット率の関係で出場権を獲得。残りの切符はあと2枚になりました。クロアチア戦の焦点はただ1つ。エースアタッカーのバーバラ・イエリッチをいかに止めるかです。イエリッチはかつてVリーグのデンソーに1994年から5年間在籍した選手ですが、身長193cmから繰り出す男子並みの強打で個人賞を総なめにした実績があります。1998年の世界選手権ではベストスコアラーにも輝きました。ただ、クロアチアはあまりにもイエリッチに頼りすぎる単調な攻撃に陥る悪癖があります。アトランタ五輪予選で日本が勝利したのは、彼女を徹底的に研究したからに他ならないです。

第1セットを28-26、第2セットを25-23と日本が競り合いを制して連取。日本はイエリッチを上手く封じ込め、前回同様にストレートでこのまま勝利するのかと思われました。ところが、10分間のインターバルの後、第3セットに流れがガラリと変わります。大懸のアタックが捕まり始め、他の選手のスパイクも迫力が失せ、攻めのサーブは鳴りを潜めるなど、五輪切符がチラついて浮き足立った日本は攻撃力が著しく低下。一方、大砲イェリッチは次第に調子を取り戻し始め、前半とは別人の働きをします。結局、日本は第3セットは20-25で失います。

そして、運命の第4セット。序盤から日本が優勢に展開。スコアは21-17と日本がリードします。サーブ権を持った方が圧倒的に不利なバレーだと、先に20点台に乗せた方がかなりの高い確率で勝利を手に出来ます。しかも、4点差だったので日本がこのまま逃げ切るのかと思われました。ところが、大砲イエリッチの5連続得点でクロアチアに22-23で一気に逆転を許します。負けじと、大懸も打ち合って日本は26-26の同点にまで縺れ込みます。そしてこの後、両国の運命を分ける重要な局面に遭遇します。竹下が上げたトスを大懸がスパイク。しかし、旧ソ連から帰化したセンターのエレーナ・チェブキナにブロックされてついにリードを許します。その後のプレーでも、大懸が放ったスパイクが、またしてもチェブキナのブロックにシャットアウト・・・。

結局、日本は取れる筈だったこのセットを26-28で失います。こうなると完全にクロアチアのペースに。その後は、機銃掃射のようなイエリッチの強打に滅多打ちにされ、日本は第5セットを9-15で簡単に失い、痛恨の敗戦。まさかの大逆転負けを喰らった日本は、自力での五輪出場が消滅。勝ったクロアチアがシドニー行きに大きく前進しました。やはり、日本にとっては中国戦の第2セットと、このクロアチア戦の第4セットを、いずれもリードを守りきれずに、大接戦のデュースの末に落としたことが致命傷となりました。

ちなみに、EUN(旧ソ連)のバルセロナ五輪の銀メダリストだったチェブキナは、かつてVリーグのイトーヨーカドーに在籍したことがあります。チェブキナは日本チームで唯一の五輪経験者の大懸を徹底的にマークし、最も大事な場面でその高い経験が功を奏しました。一方、日本にとって本当に痛恨だったのは、前回の五輪予選のクロアチア戦勝利の立役者であり、「日本で一番上手いセンターの選手」と言われた吉原を“若返り”を理由に選出してなかったこと。つまり、本当に選ぶべき実績と経験のあるベテラン選手を、日本は理不尽な理由で選出していなかったのです。なので、肝心の勝負所で若さが裏目に出た格好となりました。



だが、日本は五輪出場の可能性がまだ完全に消えた訳ではありませんでした。日本が予選最終戦の韓国に3-0もしくは3-1で勝利した上で、日本の前の試合に行われる中国vsアルゼンチン戦とクロアチアvsイタリア戦で、中国かクロアチアのどちらかが負ければ、日本の五輪出場の道はまだ繋がりました。しかし、実力を考慮しても、中国が格下のアルゼンチンに負けるのは考えにくいので、番狂わせは殆ど期待できませんでした。また、イタリアは6戦全勝と首位を快走してましたが、既に五輪出場を決めていたこともあり、五輪本番を見据えて正セッターを外して控え選手を起用することを、試合前日の記者会見で監督が明言。両者のモチベーションには明らかに差があり、イタリアにも期待が持てませんでした。真綿で首を絞められた日本のシドニーへの道は、もはや風前の灯でした。

予選最終日となった6月25日。第1試合では中国がアルゼンチンに順当にストレートで勝利し、中国が五輪出場権を獲得。残された切符はあと1枚に。第3試合のクロアチアvsイタリア戦では、第1セットこそクロアチアの動きが硬くミスを重ねたこともあり、イタリアに奪われます。しかし、その後は鬼の形相をしたイエリッチに徹底的にボールを集め、気迫のこもった強打を炸裂するなど獅子奮迅の大活躍。そして午後4時34分。クロアチアが25-22で第4セットを奪って3-1で勝利を決め、初の五輪出場権を獲得。ついに、最後の五輪出場枠が埋まりました。同時に、この瞬間に1964年東京五輪から続いていた日本の五輪連続出場が9で途絶え、史上初めて五輪出場権を失いました。

それでも、日本は消化試合となった予選最後の韓国戦を戦わなければなりませんでした。第1セットこそ、気力を振り絞った日本が25-21で奪いますが、意地を見せたのはここまで。さすがに、戦う前から既に結果を知っていた事もあり、次第に戦意が完全に低下。結局、日本は韓国の速さに圧倒されて続けて3セットを失い、1-3で韓国に完敗。無気力な戦いで対韓国戦6連敗を喫した日本は、落日を更に印象付けました。



あの屈辱の敗戦からちょうど10年の月日が経ちました。その後の日本は暫く低迷の一途を辿りますが、2003年に就任した柳本晶一が監督の時代にある程度建て直し、アテネと北京の両五輪大会に連続出場を果たして、空白期間を最小限に留めます。とはいえ、両大会とも準々決勝で優勝した中国とブラジルにそれぞれ成す術なく完敗を喫し、頭打ちの印象がありました。現状では、次のロンドン五輪の出場権争いは、日本は決して安穏とはしていられません。

現在の日本は眞鍋政義監督が率いてますが、北京五輪終了後に柳本監督の後継問題で躓いて出遅れたこともあり、昨年はワールドグランプリで最下位の6位、アジア選手権は3位、グラチャンは4位と成績が不振。現在の実力では、世界のトップクラスとの実力差があり過ぎるので、自力で表彰台に届くとはとても思えないです。また、現在の中国は優勝したアテネ五輪以降、やや低迷している状況なので、来年秋のW杯で3位以内に入れる保証は無く、他力本願も期待出来ないのが現状です。つまり、10年前と同様に、中国の存在が日本の運命を左右する構図なのです。

また、アテネ五輪での敗戦を最後に、日本は韓国に現在16連勝中と抜群の相性を誇ってます(なお、日本は2008年のアジア杯で韓国に敗れてますが、この大会の日本は主力不在なのでカウントしてません)。しかし、韓国には身長192cmの大型アタッカーの金軟景(現在VリーグのJTに所属)がおります。今年のVリーグでJTをレギュラーラウンドで25連勝に導くなど、金には恐るべき才能を秘めてます。日本の水に慣れて金が更に成長したら、日本の対韓国戦の連勝も止められて再び脅威になる日も近いでしょう。

また、前回の世界選手権では台湾が初めて日本を倒して躍進し、北京五輪では新参のカザフスタンが本大会の出場権を獲得(といっても、突然のルール変更によるドタバタ劇がありましたが・・・)。昨年のアジア選手権では、それまで弱小国だったタイが優勝するなど、新興勢力が台頭しつつあります。現在のアジアは混沌としているので、油断すると足元を掬われる事も十分にありえます。次のロンドン五輪こそが、日本女子バレーにとっての真の正念場となるでしょう。



▼女子バレーボール・シドニー五輪世界最終予選兼アジア大陸予選の日本の成績

2000/06/17 ○3-1 アルゼンチン
2000/06/18 ○3-0 カナダ
2000/06/19 ○3-1 オランダ
2000/06/21 ●1-3 中国
2000/06/22 ●0-3 イタリア
2000/06/24 ●2-3 クロアチア
2000/06/25 ●1-3 韓国   ←この韓国戦の前にクロアチアが勝利した時点で、日本のシドニー行きが消滅
(日本は3勝4敗で8チーム中6位に終わり、史上初の五輪予選敗退)

・シドニー五輪世界最終予選兼アジア大陸予選の最終成績
 1位・イタリア、2位・韓国、3位・クロアチア、4位・中国、5位・オランダ、6位・日本、7位・アルゼンチン、8位・カナダ
 (イタリアと韓国とクロアチアと中国がシドニー五輪出場権を獲得)


【シドニー五輪世界最終予選兼アジア大陸予選の代表選手】
江藤直美(日立)、板橋恵(日立佐和)、津雲博子(NEC)、大貫美奈子(NEC)、大懸郁久美(NEC)、熊前知加子(東レ)、森山淳子(東洋紡)、満永ひとみ(オレンジアタッカーズ)、竹下佳江(NEC)、高橋みゆき(NEC)、鈴木洋美(イトーヨーカドー)、杉山祥子(NEC)
監督:葛和伸元


シドニー五輪世界最終予選兼アジア大陸予選の詳細の記録
  シドニー五輪の詳細の記録


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【参考資料】読売新聞、朝日新聞、毎日新聞
        Number Plus「2000年を見る」に掲載された、吉井妙子著・全日本女子バレーボール「傷跡の価値」
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2 コメント

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1度しくじれば いいと思っていたけれど (こーじ)
2010-08-15 22:18:27
 アトランタ五輪の時に180を越える大型選手を
信用しなかった小島・吉田体制のバレーを見て
東京五輪の亡霊に取り憑かれている女子バレーを見て‘1度出場権を取れずに恥をかけばいい’と思ってましたが、想像以上にダメージは大きかったようですね。

 アトランタ前のW杯のオランダ戦を福岡で生観戦した感想を言えば試合開始から手の内全てを曝け出すので第3セットからしっかり対処されてしまうという状態でした。

 アトランタでの日本首脳陣の無為無策ぶりは
Numberでの沢木耕太郎氏のレポで詳細に語られてます。

 シドニーをしくじった事で柳本体制になって大山加奈や栗原恵、大友愛などの若手大型選手を起用するようになり期待してましたけど、彼はオフトと同じく勝負士ではないので互角か格下相手までは勝てますが格上のチームには歯が立たないという感じでした。

 果たして真鍋氏が柳本氏を凌ぐ器ならいいのですけど、今のままでは停滞はあっても進歩は
なさそうですね。

 個人的にはアーリー・セリンジャー氏に率いてもらいたかったと思いますが。
コメントありがとうございます (猫なべ)
2010-08-16 01:43:51
こんばんは、こーじさん

日本のバレーの最も良くないところは、継続性が全く無い強化体制だと思います。
このシドニーの予選は、前回の五輪代表が大懸ただ1人なのがそれを象徴しております。
かつて、単独チームでナショナルチームを構成していた名残なのかもしれませんね。
そして、90年代以降に、監督の首をいたずらに挿げ替えたことが弱体化に拍車を掛けたと思います。

また、このシドニー予選の代表は、チーム結成当初は体格を重視しておりました。
だが、実態は、チーム結成時に25歳以下の選手を選抜しているように、
決して実力本意の選考ではなく、年齢を基準に選考しておりました。
極端すぎる世代交代により、年齢が近い世代が集中しすぎたことが、
肝心の勝負所で堪えきれないひ弱な体質を生んだと思います。

また、吉原が選出されなかった事に対しては、当時のメディアやバレーファンから強い疑問がありました。
もしかしたら、吉原が長年に渡って代表選出を見送られていたのは、かつて日立から解雇された騒動の影響で、
協会幹部から疎まれていたのかもしれませんね。

やはり、カビの生えた伝統を捨てる覚悟で、海外から指導者を招聘して長期的な視野で一貫指導体制を
取るぐらいにならないと、復活は厳しいような気がします。

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