ねこのひるね 本と本屋についてのブログ

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『暗い時代の人々』

2017-05-14 22:10:18 | レビュー/感想

森まゆみ『暗い時代の人々』(亜紀書房)


暗い時代の人々 [ 森 まゆみ ]

1930年から45年、満州事変勃発から太平洋戦争終結に至る15年間。
その「暗い時代」に、精神の自由を掲げて戦った9人の物語。
彼らが点したのは、「ちらちらゆれる、かすかな光」

間違いなく翳に覆われつつある今の時代において、本書はその小さな光です。
それを消さないように、大きくするように、本を売っていきたいと思います。

あとがきに引用されているのは、ドイツのルター派牧師・マルティン・ニーメラーの言葉。


ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから

社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義ではなかったから

彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから

そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった


「再び同じ道に迷い込まないように、わたしはあの大正デモクラシーから昭和の戦前・戦中をぶれなく生き抜いた人々について書いてみたいと思った。」


『銀杏堂』

2017-05-14 22:07:39 | レビュー/感想


入荷のお知らせではありませんが、最近読んでいた本の紹介です。

橘 春香『銀杏堂』(偕成社)


銀杏堂 [ 橘 春香 ]


小学1年生のレンちゃんには、いつも気になっているお店がありました。
「銀杏堂」という名前のそのお店は、どうやら〈骨董屋さん〉だそう。
お店にあるものがなんなのか知りたい、おばあさんと話してみたい。
興味津々のレンちゃんはある日、ついに勇気を出してお店に入りました(この時のエピソードがキュンとするんです)。

そこに並んでいるのは店主の高田さんが世界を旅して集めた幻の品々。
〈にしきごいのうろこ〉〈いなずまのかけら〉〈文字虫〉〈すべての望みをかなえる羽ペン〉〈溶岩コーヒー〉……。
見たことも聞いたこともないモノたちばかりです。
そしてそのどれにも、高田さんの物語が秘められていました。


女主人・高田さんによる、世界を股にかけた冒険物語には本当に心が躍ります。
まさに古今東西、縦横無尽。
ページをめくりながらレンちゃんと一緒にその冒険譚に聞き入っているかのよう。
読み終わるのがもったいないくらいでした。


14の物語、すべてが素晴らしいですが、あえて印象的なものを一つ挙げるなら、
「サバンナの逃げ水」でしょうか。

店にあった銀色のお盆のような鏡。でも実はそれは、蜃気楼で遠くに見える水たまり。
近づくと逃げて行ってしまう、その水たまりをつかまえようとした男の話です。
男はどうやって逃げ水をつかまえたのか?そしてなぜそれが銀杏堂へやってきたのか?
気になる方はどうぞ本書をお読みください。


一見怖そうに思えた高田さんの、お茶目な一面や人間味あふれるエピソードも読みどころ。
そしてドキリとする一言も。優しさと滋味のあふれる大切なものがたくさんちりばめられています。

作者は、絵本『こどももちゃん』のたちばなはるか
最初は驚きましたが、子どもに向けられる温かな眼差しに納得です。
挿画も美しく、宝箱のような1冊です。

どうぞ開いてみてください。