精神世界と心理学・読書の旅

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サブリミナル・マインド(下條信輔)

2010-06-15 23:00:14 | 心理学全般
◆『サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ (中公新書)』下條信輔(中央公論新社)

1520年、世界周航をめざすマゼランとその一行が、南米最南端のフエゴ島に到達したときのこと。マゼラン一行は上陸のために、自分たちの大型船四隻を島 の湾内 一時停泊させた。何世紀もカヌーだけで生活してきた島民たちは驚きの目で上陸してきた彼らを見た。  

しかし、マゼラン一行がどのようにしてやって来たのか、島民たちはまったくわからなかった。なぜなら、フエゴ島の人々の目には湾に錨をおろしている大型のスペイン帆船の船団が映らなかったからだ。島民の目には、大型船団に視界を遮られることなく、いつもと同じように、湾の向こうにのびる水平線が見えていた。 これはその後、何度目かのフエゴ島再訪の際、島民たちがマゼラン一行に語ったことからわかったという。彼らの頭のなかの枠組に大型帆船のイメージがなかったため、 目には映っていても、その映像を脳が拒否し、見れども見えなかったのである。 (濱野恵一著 『インナー・ブレイン―あなたの脳の精神世界』)

この話は、サイト「臨死体験・気功・瞑想」の中の小論(「覚醒・至高体験とは」) でも紹介した。『サブリミナル・マインド』には、こうしたエピソードを裏付ける ような実験例が載っている。 知覚心理学では、タブー語を瞬間呈示すると、無意識裡に抑制されて、主観的には「見えない」という実験が報告されているのだ。タブー語とは、観察者本人にとって強い不快感や羞恥心をもたらすことば、たとえば性的なスラングとか、ユダヤ人にとってのハーケンクロイツなどである。無意識的な認知プロセスが働いてタブー的な語をあらかじめ選別し、知覚意識に昇るのを抑える「知覚的防衛」が働くらしい。フエゴ島の人々には、まさに同様の「知覚的防衛」が働いたのであろう。  

この本は、こうした様々な「潜在的な認知過程」を豊富なデータに基づいて論じる。「潜在的な認知過程」というと精神分析学や深層心理学でいう「無意識」を連想するかも知れないが、この本で扱う「潜在的過程」は、それよりもはるかに広い射程をもち、行動・認知・神経科学的な過程を含む。それらの各分野において、フ ロイトの時代よりどれほど多様で豊富で説得力のあるデータが蓄積されているかが、読み進むにつれていやというほど分かる本だ。  

人は自分で思っているほど自分の行動の動機を分かっていない。自覚がないままに意志決定をし、自分の行動の本当の理由には気づかない。「認知過程の潜在性・ 自働性」がデータの上でますます強力に実証される。そうした事実は、確かに人間 の意志決定の自由と責任に関する社会の約束ごとさえ脅かす。

しかし、だからから こそ瞑想に関心をもつものは、瞑想的によって深まる「自己覚知」によって、そう した「潜在的認知過程」からどれほど解放されるのか、自ら実践的に問い続けるべ きだと思った。
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