長内那由多のMovie Note

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』

2017-06-16 | 映画レビュー(あ行)


事実は小説よりも奇なり。
驚愕の事実が次々と明らかになるアカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート作だ。ガレージセールで未現像フィルムの収集が趣味の青年ジョン・マルーフは、370ドルで約15万枚のネガを落札する。それは一級のポートレート写真の数々だった。被写体に限りなく近付き、人生そのものを想起させるような表情を写す。しかもそこはかとないユーモラスな味わいがあり、カメラマンが深いヒューマニズムの持ち主であったことが伺えるのだ。何より50~60年代のストリートを写したこれらは時代風俗の記録としても非常に貴重なアーカイブである。果たしてこの写真を撮った人物は一体何者なのだろうか?

カメラマンの名はヴィヴィアン・マイヤー。職業は乳母。住み込みで各地を転々とした彼女は収入も少なく、おそらく15万枚を現像する術も伝手も持ち合わせてはいなかったのだろう。何より他人との強い繋がりを避けた彼女は写真を公表したいというアーティストとしての自己顕示欲を持ち合わせてはいなかった。彼女が歴任した家族、子供たちの証言を集めていくと、ヴィヴィアン・マイヤーが精神を病んでいたことも伺い知れていく。

マルーフは彼女の写真を公表する事で一大センセーションを巻き起こすが、同時にヴィヴィアン・マイヤーがこのムーヴメントを望んでいたのかと自問自答を始める。これがこの映画の弱さ(若さ)で、成功や公表以前に、彼女が撮るという行為に何を見出していたのか、個人と創作の関係に踏み込もうとしていないのだ。
僕は彼女が富や名声に興味があったとは思えない。一期一会の被写体との間に豊かで美しい、心の小宇宙を形成する事に喜びを感じていたのではないだろうか。被写体に肉薄する写真そのものが、彼女の深いヒューマニズムを表している。



『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』13・米
監督 ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル
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