長内那由多のMovie Note

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

『エベレスト 3D』

2017-06-13 | 映画レビュー(あ行)


2009年の『アバター』の成功以後、3D技術は映画に再び“見世物”としての魅力を与え、映画館へ観客を呼び戻す事に貢献している。『ゼロ・グラビティ』が僕たちを宇宙空間に引きずり込み、そして本作『エベレスト』は標高8000mへと誘う。宇宙は行けそうにないが、エベレストなら行ってみたいかな…なんて甘い考えをぶち壊すには十分な地獄の山岳映画だ。

それもそのはず、1996年に起きた大量遭難死を描いた実録映画である。“見世物”にするにはあまりに悲惨極まりない。地上の数分の一しかないという酸素がたった1歩のあゆみからも体力を奪い、肺を破裂させ、意識を奪う。標高5000m以上は体力の問題ではなく、そもそも生命の存在を許さない“デスゾーン”と呼ばれる領域なのだ。IMAX3Dで拡がるランドスケープよりもこの過酷さを見る者に訴えるリアリズム演出が圧巻だ。とりわけ遭難者たちから視界と方向感覚を奪ったであろう風の音響設定はぜひ音の良い劇場で体感してほしい。吹きつけるホワイトアウトによってここがどこか、誰がどこにいるのかわからなくなる後半は、編集も相まって凄まじい臨場感である。
登場人物の多さの割には個々のキャラクターを描くことは放棄されており、ここでも見世物であることが優先されている。オールスターキャストによって役名がわからなくても顔で認識しろというわけだ。

大量遭難の背景には自然探訪をツアー化した商業主義がある。プロ判断に欠けた軽率さ、無謀さが原因であった事が示唆されているが、バルタザール・コルマウクル監督はそこに批評的視座を持ち込むには至っていない(これがポール・グリーングラスだったら!)。この淡白さが良くも悪くも映画を見世物以上にはせず、やや物足りない印象であった。



『エベレスト 3D』15・米、英
監督 バルタザール・コルマウクル
出演 ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジョン・ホークス、ロビン・ライト、エミリー・ワトソン、キーラ・ナイトレイ、サム・ワーシントン、エリザベス・デビッキ、ジェイク・ギレンホール
『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 『シェーン』 | トップ | 『アメリカン・ドリーマー ... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
エベレスト3D (本と映画、ときどき日常)
監督 バルタザール・コルマウクル 出演 ジェイソン・クラーク     ジョジュ・ブローリン     ジョン・ホークス 1996年にエベレストで実際に起こった遭難事故。 も......