長内那由多のMovie Note

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『沈黙 サイレンス』

2017-03-20 | 映画レビュー(た行)


マーティン・スコセッシ監督が何十年もの時を経て映画化した『沈黙』はその苦節のプロダクションこそが希求心の物語であるかのようだ。映画という神への信仰に憑りつかれた男はいかにして真理を得たのか…キリスト教未開の地、日本で己の信仰心を試される牧師たちの物語は、遠藤周作の原作小説をフィルムに焼きつけようと格闘するスコセッシの姿とダブる。かねてより“ギャングと聖職者が同居する作家”と評されてきたスコセッシだが、本作ではより求道的な“映画聖職者”としてのピュアな面が強く感じられた。創作衝動とは熱烈な信仰に近い。

原作小説の再現のため、というよりもシネアストのスコセッシは本作を愛する日本映画のルックに近付けようとしているように思う。霧の奥から現れる隠れキリシタンを捉えたロドリゴ・プリエトのカメラのなんと魅惑的なことか。衣装・美術はダンテ・フェレッティ、編集セルマ・スクーンメーカーとスコセッシ組が揃った。ランニングタイムは162分。あぁそれでも語り足りない。しばしば主人公ロドリゴ以外のナレーションが入るスコセッシの苦肉ぶり。聞けば当初は3時間を超えていたらしい。

スコセッシの熱意に魅せられ、キャスト全員が素晴らしい演技を披露している。アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバーが捨て身の演技で飛躍を遂げ、日本人キャストがそれに劣らぬベストワークを見せているのが嬉しい。中でも殉教の意志を固める塚本普也監督の目、そしてハリウッドだろうがスコセッシだろうが一向にマイペースを崩さないイッセー尾形の独自の怪演技メソッドを見逃してはならない。他の役人キャストが所謂“時代劇演技”をしている事からも(このステレオタイプはスコセッシが日本映画から蓄積したものではないだろうか)、彼が演技面で自由な裁量を得ていたことが伺い知れる。

本作はスコセッシ宿願の企画として製作当初から大きく注目され、カンヌかアカデミー賞かと期待されたが、照準を合わせたオスカーレースでアメリカの批評家は“沈黙”した。それはキリスト教による前世紀の布教が“侵略”であった事を看破し、日本において敗北した事を描いているからであり、自ずと9.11以後のイスラム圏との軋轢(そして敗北)を彷彿とさせるからではないだろうか。

だがこの惑い、曖昧さこそ聖職者を目指しながらもギャングとつるみ、落第して映画作家となったスコセッシそのものなのだ。
『沈黙』は遠藤周作の原作を借りながらスコセッシが作家としての根源を追及した私小説のような、彼のキャリアの中でも極めて重要な1本と言っていいだろう。


『沈黙』16・米
監督 マーティン・スコセッシ
出演 アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、リーアム・ニーソン、窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、浅野忠信、キアラン・ハインズ
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