長内那由多のMovie Note

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『アクトレス 女たちの舞台』

2017-06-09 | 映画レビュー(あ行)


いつからを“円熟”と呼ぶのか。
オリビエ・アサイヤス監督による“Clouds Of Sils Malia”は見る者に痛烈に老いの意味を感じさせる。そして驚くことに、同時に若々しい感性にも満ちているのである。

大女優マリアは自身のデビュー作である戯曲『マローヤのヘビ』の再演に出演する事となる。かつて演じた若く奔放なシグリッド役ではなく、彼女に翻弄され、自滅する上司ヘレナの役だ。恩師の意志を継ぎ、残されたスイスはシルス・マリアの別荘でマネージャーとの読み合わせを始めるが、どうにも上手くいかない。

ハリウッド大作にも出演し、名声を得てきたマリアだがブロックバスターを軽視し、『マローヤのヘビ』もセリフが陳腐だと切り捨てる。聡明なマネージャー(そして彼女の一番のファン)であるバレンティンの創造的で新鮮な助言にもマリアは聞く耳持たない。ああ、老いとはこうも頑なで、価値観がサビつく事を言うのか。
一見、マリアにとって脅威と映るバレンティンと共演女優ジョアンだが、その若さと向こう気、ピュアネスこそ苦境に立つ老人が鑑みるべきものだろう。大女優ジュリエット・ビノシュを相手に受けて引き出すクリステン・スチュワートはもはやスターというよりも演技巧者としての開花だ。

さり気なくも残酷な終幕が忘れがたい。マリアはジョアンに演技アドバイスをするが、一笑に付されてしまう。でも、20年前の彼女も同じことをしたのではないだろうか?『マローヤのヘビ』、それを稽古するマリアとバレンティン、それを演じるビノシュとクリステン。何重もの入れ子構造が乱反射し、僕らは老いと若さ、あらゆる相反する事象について思いを馳せる事となる。
“マローヤのヘビ”とはシルス・マリアの峠を抜ける雲海を指すらしい。めったに現れないその自然現象は時折、ふと僕らに存在を自覚させる時の流れそのものではないだろうか。
そして雲海を待たずに消え去ったバレンティンの不在が、僕らに深い余韻を残すのである。


『アクトレス 女たちの舞台』14・仏、独、スイス
監督 オリビエ・アサイヤス
出演 ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ
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