長内那由多のMovie Note

映画レビュー、俳優論など映画のことを中心としたブログ

『スター・トレック BEYOND』

2016-12-07 | 映画レビュー(さ行)


今年のハリウッド夏興行はからきしダメだった。大ヒットしたのはディズニーアニメとホラーだけで、屋台骨とも言える大作・続編群は金に目が眩んで製作を急いだ開発不足ぶりが目立った。本作も期待されたほどの収益を上げられず…いや、ちょっと待て。60ウン年に及ぶ長寿シリーズが今更そんなケチをつけられる謂れはない。オタク系喜劇俳優サイモン・ペッグを脚本に迎えた本作の精神はトランプ時代の今だからこそキラ星の如く輝きを放っている。

これまでの監督J・J・エイブラムスが離脱した事でタメがなく、せわしない演出からも、オールドファン向けのマニアックなネタでくすぐるドヤ顔演出からも解放され、いわば『スター・トレック』らしい安さとタルさが取り戻されているのが特徴だ。謎の惑星のセットはどこか安っぽい手作り感に溢れており(後半の舞台となる宇宙コロニーの精緻なCGから逆算すると明らかに演出)、そこでは離ればなれになったクルー達がいつもと違うカップリングで行動していく。カークとチェコフ、マッコイとスポック、ウフーラとスールー、そしてスコットと新キャラのジェイラーだ。3作目ともなるとキャストアンサンブルもまさにあうんの呼吸。見ていて実に小気味良く、一生続けて欲しいくらいだ。ジェイラー役ソフィア・ブテラも素顔を見せないのに何とも魅力的に好演している。

敵役クラールの正体についてここでは伏せるが、“旧き良き時代”への回帰を目指し、混乱を招こうとする彼とエンタープライズ号の戦いは今年、大統領選によって分断されたアメリカの理念の衝突にも重なる。「俺が生まれた時代は違う」と言い放つカークが背負うのは、人種も性別も星すらも超えて結びつくエンタープライズ号という人類共存の理想そのものである。『スター・トレック』とは60年前からアメリカのみならず世界中がジレンマとして抱えてきた理想を具現化してきたシリーズであり、こんな時代だからこそ今一度その真価を認められるべきであろう。題材と時代の接点を見出している事はもとより、反抗の精神をビースティ・ボーイズで表現したペッグの脚本はもっと評価されるべきだ。
そしてレナード・ニモイとアントン・イェルチンに捧げられたクルー達の優しさに、僕はたまらなく泣けてしまったのだった。

『スター・トレック BEYOND』16・米
監督 ジャスティン・リン
出演 クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、カール・アーバン、サイモン・ペッグ、アントン・イェルチン、ジョン・チョウ、ソフィア・ブテラ、イドリス・エルバ
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