長内那由多のMovie Note

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『マーガレット』

2017-05-17 | 映画レビュー(ま行)


難産の映画だ。
本作は2005年に完成していたが、ファイナルカットを巡りケネス・ロナーガン監督とスタジオが対立。その後、マーティン・スコセッシが助け舟を出し結果、上映時間150分となって2011年に劇場公開された経緯がある。アメリカ版DVDはフルサイズで3時間というのだから、いかにロナーガンが語るべき尺にこだわっていたのか察する事ができる。

『マーガレット』は一見、アンナ・パキン演じる高校生リサを主人公にした成長物語だ。
彼女はある日、中年女性がバスにひかれる交通事故に遭遇する。故意ではないにせよ、リサが運転手の注意を逸らしてしまったのが原因だ。末期の女性の手を握ったリサは、その凄惨な出来事に心を痛めてしまう。

事故をきっかけに惑い、バランスを崩していくリサを描く一方で、ロナーガンは舞台女優である母の描写にも時間をかける。離婚し、女手一つで子供を育てながら舞台女優であり続ける母の自尊心が、リサの人格形成に影響を与えていることは想像に難くない。
リサはバスの運転手に社会的制裁を与えようとしていく。若さゆえに潔癖な自己愛の強さは、アンナ・パキンの研ぎ澄まされた演技により見る者に強い嫌悪感を誘う。自身の正義を追及するその姿は歪だ。

2005年のアメリア映画のムーヴメントを思い起こしてほしい。『ブロークバック・マウンテン』がアメリカの不寛容さを描き、スピルバーグが『ミュンヘン』でテロ戦争の不毛に挑み、ジョージ・クルーニーが『グッドナイト&グッドラック』で赤狩り時代から現在を照射した。『マーガレット』でもしきりに中東問題が語られるが、少女の自己愛の歪さはイラク戦争を正当化しようとしたアメリカの正義の歪さにも見えるのだ。

残念ながらそのサブテキストは2011年時点で鮮度を失ってしまった。アートには生まれるべきタイミングがあるのだ。ロナーガンはこの後、ようやく2016年に第3作目『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を発表。見事、アカデミー脚本賞を受賞するに至った。


『マーガレット』11・米
監督 ケネス・ロナーガン
出演 アンナ・パキン、マット・デイモン


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