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宮本百合子 1951年1月11日 その3(日本死人名辞典)

目覚めたとき百合子は、いつものように見えた、病と免疫系の争いの様子が違っていた。
それまでにも免疫系が劣勢になる場面は多々あり、それは暗い未来を予想させたが、今まさに暗い現在だった。
免疫系の鎧はぼろぼろになり、所々割れている。その割れ目に向かって河童はつばを吐きかけてくる。河童のつばは塩酸並みに触れるものを融かしていく。じゅわわじゅわわと融けだす鎧を脱いで河童にその鋭いくちばしでつつかれるものも出てきた。中に入っていたのはなよなよとした男子で、いかにも文学好きだけどたくましさにかける現代男子であった。
みるみるうちに免疫系は減っていく。対して河童はぐんぐん増えている。
それはつまり世界の終わりが近づいているということに他ならず、百合子は見舞いにくるもの立ちに、最後の言葉とばかり、とても印象に残るような名言をいくつも残しはじめた。
見舞いにくるもの立ちも何か今までと様子が違うぞと感じ、百合子の言葉に耳を傾けた。

かくして、2、3週間がすぎ、百合子はだいぶ衰弱していた。食べ物ものどを通らない。管を通して胃に直接送り込んでいるがすぐに吐いてしまう。その一連の動作が体力を消耗させさらに食べることができなくなる。悪循環であった。魔のスパイラルであった。

今日、最後の免疫系が河童に踊り食いにされた。悲鳴を上げているそれを河童の大群がついばみ、百合子はその様子を見ていられないほど痛々しいものであったが、しっかりと目を開けて自分を長い間守ってくれた免疫系にあらためて敬意を表した。感謝をあらわした。食い終えた河童が四方からじわりじわりと近づいてくる。
百合子は目を閉じた。
見舞客は涙を流す。いくつか百合子の名を呼んでいるものもいる。河童は百合子に近づくと横になり、眠り込む。何をするわけでもない。ただ、近づいて眠る河童がすべて眠ってしまった後、百合子は起きて、導かれるままに天へ昇った。
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