夏喜のものろーぐのべる。

清道夏喜が書く謎の小説置き場です。
コメント大歓迎です!

~少女形美 桜梅~ 第7話 「なぜ、報われませんか?」 

2008-03-23 22:26:53 | 短編小説。
「ただいま戻りました。」
手習いも終わり、家に帰ったときでした・・・

「あら、澪ちょどいいとこに。今日は・・・お話しがあるの。とても大切な。」
母様は少し、笑って話しました。いったい?

「こんにちは。」
奥の部屋には、見たこともない・・・男の人が座っていました。私と年は同じくらいでしょうか。
きちんとした身なり、目は優しそうな方。大きな目からはキラキラと輝いたものが見えてきそうです。・・・ですが、私には他の男の人は興味ないのですがね。
「あの・・・こちらは?」
母様が2人分、お茶を持ってきてくれました。
「突然だけど・・もう澪もそろそろだとおもって。」
「え・・・?」
「縁組みよ。野分(のわき)様という表長屋住まいの方。
「え・・・?」


縁組み。その言葉は、私の心を深く、刺しました。深く、深く。

なぜ?た、確かに縁組みはそろそろかもしれません。ですが・・・私には!!
抑えきれない気持ちでいっぱいの、薫様がいるのに!確かに、薫様とは結ばれてはいません。女形の役者。全然世界も違う。でも・・・

「色々考えて、お父様のお知り合い様を捜していたら、ちょうど野分様がいいのではないか、と話し合いましたの。どうでしょう?今一度、お話しの刻を。」
「それは・・・ありがとうございます。」
野分?様が深くお母様に例をした。
表長屋ですし・・・由緒正しき商人の家ですね、きっと。
でも・・・私は薫様が。こんなに好きなのに、愛しいのに。届かない・・・

「では、私は此で。」
「ま、待ってください!!」
襖の側で母様を止める。
「なんですか?」
「ど、どうしていきなり?私の断りもなしに。」
「・・・あなたは、最近他のことに夢中なのではないですか?手習い以外に。」
ぐさりと言葉が刺さる。どうして?
「そんな・・・ことは・・・」
私はうつむく。
「嫁に行き、旦那様の家を継ぐこととなれば、うつつをぬかすなんてことはないでしょうね?」
「そんな・・・」
「私はわかっています。あなたは、商人様の家に嫁ぐのが一番ですよ。」
ぴしゃり。
襖を閉じられた。

ひどい・・・どうして?わかっていたのね!!
帰る刻は確かに遅いですが・・・

この時代は、親が決めた方と結婚するのが普通。反対なんてことは出来ない。

薫様・・・会いたい・・・会いたいです・・・

私は、そのまま涙を流し、座り込んでしまいました。
「ど、どうしました?」
野分様が慌てて、私のそばへ来てくださいました。その優しさが、苦しいのです・・・
「だ、大丈夫です・・・」
「いきなりで、あなたも混乱しているとは思いますが、今ひとたび、この刻を私にくださいませぬか?」
「え?」
「私も、正直驚いています。いきなり父が縁談を持ってきたのですから。さ、涙をお拭きください。」
「野分様・・・」
そう言って、布を貸してくださいました。
「すみません。」
「いいえ、泣かないでください、澪様。」
野分様は、私の肩に手をかけてくださいました。心遣い、嬉しいのですが、薫様が離れません。会いたい・・・今すぐに。ですが・・・

「あなた様は、三味線を習っているのですか?」
「はい、手習いを・・・」
「素晴らしいですね。」


耳に入ってみませんでした。もう、私は薫様のことしか頭になかったのですから。



次の日。
私はまた、親の目を盗んでいつもの場所に向かってました。

「あ・・・」
「薫様!!」

会えた、やっと・・・薫様!!


「澪さん。」
「はい!!」
つい、大きな声を出してしまいました。
「どうしたのですか?今日はやけにお声が大きいようで。」
「はい、薫様に会えるのが嬉しくて・・・」
つい、本当のことを言ってしまいました・・・

「嬉しいですよ、そんなことを言っていただけるなんて。」
「いいえ・・・」
笑顔が・・・すてきです。どんな人にも劣らない!

「澪さん、あれ、見てください。」
「え・・?」
見上げると、気がつかなかったのです・・・今までまったく見ていなかった。清め水の近くに、梅の木が咲いていたのです。赤い小さな花。綺麗・・・
「綺麗・・・ですね。」
「梅の花。本当に美しい。桜は舞台でも使われますが。」
「桜・・・吹雪の場面ですね!」
「ええ。梅は、舞台ではあまり散りませんから。」
「確かに。」
二人で、笑い会いました。この瞬間も、幸せです・・・



「ですが、桜は一緒には咲いてくれませんね。」
「え?」
「桜は、梅と一緒に咲いてはくれない。相容れない者なのでしょうかね。」
木を見上げながら、寂しそうな顔をしています。
「そう・・ですね。」
「一緒に咲いてくれれば、とても美しい物になると思いますが。」
「ええ・・・」

寂しそう。どうしてでしょうか?何か、嫌な気持ちにさせてしまったのでしょうか?
「薫様・・・どうしたのです?元気がない気がしますが。」

「え?澪さん、どうして?」
「あ、あの、なんとなく・・・ですけど。」

予感、がしたのです。不意に。

「わかって・・・しまいましたか。実は、澪さんに伝えなければならないことがあるのです。」
「何・・・でしょうか?」

どくん
どくん
胸が、痛いです。


「私は、千秋楽で京に帰ります。」

「・・・・・え?」


予感なんて、していなかった。

ずっと、江戸にいると思っていたのだから。
ですがそれは、ただの思い込みでした。


桜と梅は 相容れぬ

~少女形美 桜梅~ 第6話 「気持ちは抑えられません」

2008-03-16 00:57:03 | 短編小説。
「はあ・・・」
寝床につくとき、私は今日のことをずっと考えていました。

幸せでした。
まず、商店街の飴売りに行き、小間物屋に行きました。女形でも必要であるし、・・・私にも櫛をくださったのです。
「似合うよ、澪さん。」
そう言ってくれましたときに、私の胸は張り裂けそうでした。
幸せで・・・そして、おそろいのべっこうの櫛もいただいて・・・

一緒の物を持つなんて・・・期待しては・・・いけませんが。

そのあとはいつものお寺に行って、たくさんの話をしました。
薫様の生い立ちを詳しく・・・聞きました。私は幸せ者ですね。
薫様は・・・両親がいなかった。安房の親戚のもとにいたけども、芸事をするために京にに行ったという・・・

私が・・・心を癒してあげられたらいいのに。なんて考えてしまいました。
いけません!!そんなこと・・・

でも、このような気持ちは、もう高ぶるばかりです。


朝になって。
また、手習いの前にお寺に行ってしまいました。
会える。今日も。

「澪さん?」
いました!!いつもの笑顔で。
「また、お会いできて嬉しいですよ。」
「私もです!!」
もう、抑えきれません。・・・でも、私から思いを伝えるなんて・・・出来ないです。

「澪さんは話していて、とても心が安らぎますよ。」
「え・・・」
笑顔で言ってくれた。薫様・・・

「京に行ってから、年上の方達しか話しておらず、年の近いおなごと話せるなんて嬉しい物です。」
「は・・・はい」

そ、そんな感覚ですか??私・・・ちょっと愕然としましたよ・・・
私はそのようにしか思われていないのでしょうか。
「でも、澪さんの感情は違いますね。」

違う??それはいったい?なんですの??
「・・・あ、そろそろ行かなくては。楽屋の準備もありますので。」
「はい・・・また。」



私も・・・京に行きたい。
行けば、薫様と一緒にいられる。なんて、思ってはいけないのに・・・
どうしてそんなことばかり考えてしまうのでしょうか??


そんな気持ちで、手習いは集中できず、帰ってみたら・・・


気持ちを打ち砕く出来事が、次々に襲ってきたのです。
なんて時代は残酷なのでしょうか。
私の・・・さらに先の者たちには、ずっとずっと幸せであって欲しい。
私が、薫様と幸せになれないなら・・・

せめて、願うばかりです。
なんて、考えてしまいました。

時代は、辛いものです。
聞こえていたら、あなたたちは、幸せですか?と、聞きたい。










時は一度、現代に向かう。


2006年。東京。昔の江戸である。


「ん?」
一人の少女が、気配に気付く。
「なんだろ??」



それは、悲しみの序章なのかもしれなかった。

~白波道化~ 番外編 初代の真実最終幕

2008-03-16 00:40:47 | ~白波道化~
「終わりにさせない?」
「うん、ここまで・・・短いけどやって来たんだから、意味のない物にはしたくない。」
「・・・ああ。ここまでやる気を出してくれたのか。気がついたら・・・」
「え・・・まあ。」

顔が赤面した紗綾。
「あの・・・・」
「じゃあ。」
もう行ってしまうのか?
返事をまだ言っていないのに!!

「待って・・・」
「何?」
遠野が止まる。
「返事・・・まだ言ってない。」
「・・・ああ。いいよ。もうわかってるから。」
そう言って昇降口へ行く。

わかっている・・?どういうことか?

体が、動かなかった。

気がついたら乗せられて、変な化粧されて・・・でも、楽しかった。この数日間は。遠野と一緒にやってきたこと、全てが気がついたら大きな思い出に変わっていた。
紗綾は、迷わず終わりにしないと言った。
苦手だった遠野が・・・気がついたら・・・

言わなきゃ。

そのときだった。
渡り廊下の窓から、裏門に向かって歩いていく遠野が見えた。
「遠野君!!」
大きな声なんて、演劇部でしか出したことないのに。紗綾は叫んでしまった。

「私・・・」

手を振っていた。笑顔で。

「私・・・やっぱり・・・」

そのとき、遠野が自分のブレザーのポケットを指さした。

「え・・・?」

大声ではなく、無音で一言言った。

「み て」

「見て?」
紗綾は気付いた。
自分のブレザーのポケットを見ると・・・

「え?」
紙切れが入っていた。
「これ・・・」

携帯のメールアドレスだった。当時は携帯はあまり普及していなかったので、二人とも携帯を持っていなかった・・・どうやら・・・買ったのか?

「め え る し て よ」

PCは持っていたので、メールは出来る。

紗綾の顔がぱあっと明るくなった。
「は い」

今度は叫ばず、大きく手を挙げて、そのまま振った。
また、会える。大好きな人に。


そのまま、遠野は後ろを向いて、帰ってしまった。
「遠野君・・・」
そのまま廊下にしゃがみ込んだ。生徒も見ているのに・・・気にしなかった。
「ん?」
気がついたが、裏に何か書いてあった。

「道化は舞い狂う あなたのために」

これが、3代続いている、キャッチフレーズのような物だった。
「遠野君・・・」
なぜか涙が止まらなくなった。
「ありがとう・・・」

楽しかった。
寂しいけど、連絡手段はある。会える、必ずもう一度。
そして・・・道化を語り継いでいこう。
あなたのために、この学校のために。


道化は、舞い狂います。




「で、どうやって結婚したわけ?」
海がカップに紅茶を入れながら聞く。もう何杯も飲んでいる・・・
「まあ、あのあとメールして、今後の行く末聞いて、そのまま付き合って、で、結婚。」
笑顔で言う。
「え・・・でも、どうやって言ったの?改めて告白したの?」
「まあ・・・ね、ちゃんといいます~みたいに。」
「姉貴ぼかしすぎ。」
「だったら~言いなさいよ。3代目をどうやって落としたか。」
「それは言いたくない。」
「じゃああたしも言わない。」
「なんだよ・・・」
むくれながら、カップに口をつける。
「でも・・・3代続いて良かった。しかも、彼女が道化、これも因果ね。」
「因果って・・・」
「長くなかったけど、あのときは楽しかったな~」
「・・・で、旦那さんは高校どうしたの?」
「ああ、通信制行って、そのまま大学行けるようになって、で、大丈夫。」
「大丈夫って・・・」

「ま、こんなとこ。学校も変わって安心よ。・・・海。まだ、続けてよ。」
「退学にならない程度に」

「何其れ?お姉さんがじっくり指導しましょうか?」
「じゃあ、彼女のお母さんに連絡する」
「・・・まさか・・・舞咲先生?・・・勘弁」
「弱みを持ってるわけですよ、俺は。」
海がにやりとする。

「・・・ったく・・・でも、道化はまだまだ舞い狂っているわけか。」
「ああ。」

「って!!気がついたら深夜0時かよ!!早い!!」
紗綾がソファーから素早く立ち・・・
「どこ行くんだよ!!」
「おふろ。早く入って寝る」
「うわ、俺だって学校あるんだよ!!」
「私だって可愛い生徒が待ってるし」
「俺明日依頼の約束が」
「私、面談あるから」


姉弟の仲はいいものである。
初代は、幸せになっている。

道化は、裏に生きるものではない。

表を支えて、幸せになれるものである。




朝・・・
海はいつもの電車に乗り、学校の最寄り駅にいた。

「先輩!!」
いつもの笑顔。
舞い狂う人。

いつの時代も、道化は変わらず。

「おはよ。」

真実は、奇なり。


~完~

~白波道化~ 番外編 初代の真実5幕

2008-03-13 23:03:19 | ~白波道化~
「長くなかった・・・?」
「うん。・・・公にはしないつもりだったんだけど、すぐばれた。」
「・・・公って・・・俺たちはかなり公だったけど」
「校長が替わったからじゃないかな?当時は厳しかったし・・・秘密で行こうって思ったのに。」
「秘密・・・どころじゃないからな、今。」

3代目の道化は、先生達でも賛成と反対意見が出るほどである。生徒はほとんどが賛成しているのである。
ヒーローのような道化扱い・・・ではないのか?
「扱いが違ったみたいね。当時は先生達がかなりシビアだったから。」
「先生・・・あ、道化のパートナーになる前、セクハラ教師をつかまえたみたいだけど。」
「ええ!!」
紗綾は危うくカップを落としそうになった。
「危ないって・・・なんか、聞いた話だけど、親友が酷い目にあってたらしくて。」
「そう・・・そんな先生も道化が解決してくれる時代になったの。」
「時代って・・・」
「冷たかった。けど・・・私達は気にしない・・・つもりだったのよ。」




「行くよ、今日の仕事。」
放課後、紗綾の部活がない日に活動をする。道化として、問題解決をするのだった。上手く丸め込まれた気もするが。
「はい!」
でも、紗綾は気にしなくなった。
この人、なんか不思議。そう思った直感からか。

「じゃ、行ってるから。」
着替え場所の資料室で待っている。これが行ってるから、の意味である。
そのときだった。
「ねえ・・・紗綾、遠野君と最近仲良いけど、どうしたの?」
まだ部活に行かなかった舞が話しかけてきた。
「え・・・」
「なんか、急にだよね?苦手だったはずなのに。」
不思議そうに聞いてくる。
「あ・・・いや・・・」
道化やってますなんて、さすがに言えない。解決した人達にも、口止めをしているくらいだから。
「ちょっと、話が合った~みたいな。」
ごまかした。今はこれぐらいしか浮かばない。
「そう・・・でも、変なことされないようにね。心配なんだ。」
「うん・・・」

舞、ごめんね、と心の中で言うしかできなかった。
なんか・・・わからない。あの人についていくのが。自分でも。
そんな気持ちだった。

「その帽子、盗んだんでしょ?」
振り返った先には、道化の二人が居た。衣装はとりあえず決めて、黒のコート、黒の帽子という黒づくめだ。
「あ・・・あなたたち誰?」
「盗みを解決する、黒の道化です。他言無用。しゃべれば大変なことになりますよ。」
笑顔で遠野がにらんでいる。その隣には・・・紗綾。
紗綾はゆっくりと彼女に近づいた。
「ねえ、どうしてこんなことを?」
「・・・見てもらいたかったから・・・私が拾ったってことに。」

声を絞り出すようだ。
「頭良い」
「は?」
紗綾、いきなり何を言うのか。
「それで見てもらいたかったのね、納得。・・・でも、本当の気持ちは伝えなきゃ・・・だめなんじゃないですか?」
帽子を手元から素早く取る。先輩だけど・・・盗みは悪いこと。解決するしかない、と思ったら手が動いたのだった。

「そうだ。とにかく見逃すから・・・もうこんなことするなよ。」
遠野は豪胆だった。
「は・・・はい。」
「それと、口外無用です。このことは誰にも言わない。それと同時に私達のことは他言無用で、お願いします。」
紗綾が頭を下げる。

「・・・はい!!」
最後は涙を流していた。

資料室に戻った二人。
「さーて、これで5件目か。」
もうすでに、ユニフォームを盗まれたとか、教科書がない、とかの問題は解決していた。元の持ち主にも返している。
「そう・・・だね。」
「ごめんな。でも、田辺さんだからこういうことしているんだよ。」

「え・・・?」


「いや、俺よくアプローチとかわからねえし・・・口実でもあるし・・・変化もしれないけど・・・」
言っている意味が分からない。どういうことか??
「え・・・?どういうこと?」





「好きだから一緒にやりたかった。」



「え・・・・?遠野・・・君?」


「好きだから」




夕日が眩しかった。

二人を照らす、赤い、赤い夕日。



気がついたら紗綾は、遠野の手の中にいた。

「あの・・・?どうして・・・」
「また高校生だから、なんて言えないけどな。・・・一緒に、やってくれてありがとう。」




答え、出さなきゃいけないのに。



「俺、学校が好きだよ。でも、この学校、なんかおかしい。窃盗のあるこの学校。だから自分で解決したかったけど・・・でも、限界がある。生徒には制限があるんだよ。・・・悔しい。だからって出来ることが、この・・・道化だった。」
「遠野君・・・」
「入学出来たけど・・・田辺さんに会えたけど・・・」
いきなりうつむく。
「ねえ、今日やっぱりおかしくない?ねえ・・・」
「その前に。」

顔を上げた。

「返事が聞きたい。・・・俺、入学式の頃から気になってた。・・・だから思い切って誘ったんだ。そしてら強引だったけど、俺の我が儘に付き合ってくれて・・・」

「わ、私は・・・」
「今じゃなくてもいいんだ。」


無言のまま、化粧を落とした。

そのままブレザーを片手に持ち、もう片方で鞄、黒コートをつかんだ。
「・・・待ってる。」

「・・・うん。」


そのまま資料室をあとにした。

「どうして・・・」

顔が赤い。胸が痛い。

私を・・・遠野君が?

わからなかった。
どうして??
答え、出さないと。


楽しかったよ、二人で道化が出来て。


そのまま眠れなかった。
次の日・・・衝撃が走った。

「紗綾!!大変!!」
教室に入ってくるなり、舞が大あわてで駆け寄った。
「どうしたの?いきなり。」
「・・・遠野君、学校やめるんだって。」


「え?」
時が、一瞬止まった。

昨日まで一緒にいた。道化やってた、遠野君が?なぜ?

「なんか、生徒に悪影響だとか、自分でも気に入らないから、とか言ってたみたいで・・・今職員室で・・・」

待ってよ!!

「紗綾!!」
すぐさま鞄を投げて、職員室に向かった。

遠野君、どうして!!どうしてよ!!


「遠野君・・・」

息を切らして来たところに、遠野が校長室から出てきた。

「遠野君・・・」
「田辺さん・・・」
「ねえ、どうして?もしかして道化のせい?」
「まあ・・・そうかもしれないけど・・・」
いつもの覇気がある遠野ではなかった。元気がない。
「・・・この学校が合わなかったみたい。それに、道化は口外された。」
「そんな・・・誰が??」
「わからない。けど、俺たちのやったことは裏目に出たみたいだな。」
「ううん・・・遠野君は・・・考えたんだよね・・・」
気がついたら涙が出ていた。
「な、泣くなよ・・・・でも、これで終わりだ。」

「終わりに何かしない。」
「え?」
「来て」

何を思ったのか、校長室の前だと聞こえるので、渡り廊下の前に遠野を連れてきた。

「どうしたんだ?」
「引き継ぐ。」
「え?」
「今、考えたの。こうやって生徒を助けてきたことを、無駄になんかしない。」
「田辺さん・・・」


「絶対、終わりになんてさせないから。」

~白波道化~ 番外編 初代の真実4幕

2008-03-09 18:39:16 | ~白波道化~
「え・・・?」
紗綾は一瞬固まった。この人と二人で?という考えなんて・・・
「な、やろうぜ。」
「無理です」
「なんで?」
「そんなことしても、変わるんですか?」
今度は紗綾が一喝・・・したつもりだった。
「変わるさ、絶対。ま、それには正体を見せなければいいんだよ。」
「正体・・・?」
「そう。」
「公表しないってこと?」
「・・・ま、そんなとこ。」

見たこともない、遠野の表情。好奇心というか、自信というか・・・

「ま、見てな。ちょっと待ってて。」
「え?」
目の前でブレザーを脱ぎ、後ろを向いた。
「いったい何を・・・?」
「10分はかかるなー・・・ま、待ってて。あ、こっちは向かないで。」
「はい・・・」
素直に紗綾は従い、待ってみた。

10分後。

「公表しなくても、道化師としていればいい。」
そういいながら紗綾のほうを向いた。
そこには・・・
「え?」

ピエロのような化粧をした遠野がいた。なんだか違和感・・・
「うっ・・・」
笑いを必死に抑えている。
「笑うな!!これでも俺は考えたの。とりあえずおまえも。」
「えええ!!なんで私が。」
「いいから。俺が選んだ相手だ、狂いはない。」
「ええ?」
いきなりそう言うと遠野は紗綾の腕をひっつかみ、片方の手で頬を触る。
「せ、せ、セクハラー!!」
「うるさい、おとなしくしろ。」
「女の顔に何するんですかーー!!」
「いいから。学校生活楽しみたいなら聞け。」
「はい。」

また従う。どうして逆らえないのか。単に怖いだけでは・・・なかったのかもしれない。
不思議と、わめいても鳥肌は立たなかった。触れた手は、綺麗で温かかった。

「ええ!!」
数分後。まったく同じ化粧にされていた。リボンタイプのブレザーのままだったので、かなり違和感はあるが・・・
「な・・・にこれ」
「いいから。どうせ演劇部も化粧するだろ?同じ。」
「違うよー!!」
「道化の誕生。これから行くよ。問題の教室に。」
「ええ・・・」
「あ、着替えてよ、これ使って。」
そう言うと遠野はスーツのズボンを紗綾に渡した。
「これ・・・」
「姉貴の。たぶん身長は同じくらいだし。」
「それって・・・」


「俺はあんたを選んだんだよ。田辺紗綾さん。」

立ち上がって言った遠野が、少しだけかっこよく見えた。なぜか・・・


着替えてから、問題の2年生の教室に行った。
放課後なので、生徒は誰もいないようである。

そっとのぞく二人。

「ねえ・・・またやるの?」
「いいじゃん、困らせてやろうよ。」

紗綾は目を疑った。この学校でこんなことが・・・?


「おまえたち、何してるんだ?」
遠野はすでに教室に突入していた。
「ちょ・・・何あんた?」
「いいから、何してるんだ?」
「わ・・・っ。」
女子生徒の手元にあった教科書を、・・・蹴った。
「ちょ、何してるの!!」
もう一人があわてて拾う。
「盗みして偉いのか?楽しいのか?」
問い詰めた遠野。

「ご・・・めんなさい・・私・・・」
教科書を拾った生徒が、泣き出してしまった。
「あ、あ・・・」
紗綾も教室に入った。
「え・・・あんたも仲間?」
「まあ・・・そうかもです。」

「とにかく、・・・何のつもり?関係ないでしょ?」
「関係ある!!犯罪を止めるんだよ!!この学校で・・・」
「・・・美奈、私たち・・・盗んだんだよね、犯罪・・・だよ。」
声を絞って女子生徒が近づく。


「・・・わかったよ・・・」
「これは、いじめかもな。」
「え・・・・・・お、お願い、見逃して!!」
遠野の肩をつかみ、説得する。
「・・・わかった。他にもこういうことあったら教えて欲しい。」
「・・・F組かも。きっと多い。」
うつむいて答えた。
「ありがとな、これは戻すから。」
遠野は目の前にあった机の中に教科書を入れる。
「じゃ、これで・・・」


「待って!!あんたたち・・・何?」

「道化。・・・黒の道化。」


「黒の・・・道化?」
「黒?なんで・・・」
立ち止まっていた紗綾も疑問だった。

そのまま、二人は渡り廊下を歩いていた。


「早く、落としたいです、化粧。」
「あー・・・そうだったね。」
「もう・・・いったいなんなんですか!!」
「でも、現状知ったでしょ?」
「・・・まあ。」

「じゃ、これからよろしくね、田辺さん。」
「・・・はあ。」

これが、道化の始まりだった。




「何か、強引じゃねーか、章さんって。」
「・・・もとからだったのよ。」
「にしても、なんかやり方は俺たちと一緒なんだな。」
「ま、そうね・・・」


「で?活躍したってわけか。」
「うーん、そうかもしれないけどね・・・」
「え?」

一瞬、紗綾が悲しそうな顔をした。
「・・・長くなかったの。道化の初代は。」

~白波道化~ 番外編 初代の真実3幕

2008-03-08 20:28:23 | ~白波道化~
「まさか・・こんな形になるなんて思わなかったろ?ねーちゃんは。」
「まあね・・・そうかもしれない。」

紗綾は立ち上がり、ティーポットを取り出す。
「なんか飲む?」
「ああ。」
「じゃ、紅茶入れるね。」

「・・・で?どうやって道化になったんだ?」
「うーん・・・」

紅茶を入れながら、話は続ける。





怖かった。
とにかく次の日から怖かった。
なんだか遠野君に見られている気がして・・・
「紗綾・・・疲れてない?」
「え・・・?そんなことないよ。」
なんだか紗綾は休み時間も疲れていたようである。それもそのはず。遠野に見られている。視線は続く。抗議しようとしても、怖くて話しかけられない。私がいったい何をしたのか・・・不思議な思いと怖い思いは交錯していた。


1週間経って・・・
「憂鬱。」
友人の舞が話しかける。
「そ、そうだよね・・・」
一応であるがこの高校は進学校。服装の乱れは心の乱れ。ということで7時間目が終わった後、抜き打ち服装検査をやるという。
「ま、スカートおろせばいいよね。」
「うん・・・」
先生の目の前でスカートをおろせばいい。巻いているのを下げればいい。女子はほとんどがそんなことを考えていた。


7時間目が終わり・・・
「はい、いいわよー。」
もちろん、一発で通った生徒ばっかり。
そのときだった。
「ちょっと!!遠野君・・・何それ。」
「別に、いいじゃないですか・・・」
遠野のズボンには、チェーンが幾重にもついていて、ズボンは下げ・・・いわゆる腰パンである。ほかの生徒はなおしたというのに・・・
「ねえ、遠野君・・」
廊下で説教にあっている男子達を尻目に、検査が終わった生徒達は白い目で見ている。
「別に・・・こんなことしたって意味がないでしょ?教室見てみればいいじゃない。うわべ。うわべで生徒は先生にいい目で見られようとしている。・・・でも、俺はいいや。これが、その象徴、なーんてね。」
女の先生の目をじっと見て、象徴?であるチェーンを指さす。
「なんなの・・・遠野君。」
舞が怪訝な目で見ている。
「遠野君・・・」
変だとは思っていたが、まさかこの学校で反論するなんて、と考えていた。
この学校で・・・?

学校だから・・?

紗綾は一瞬でも、学校に対して不思議な感情を持った。

楽しい・・・けど?

進学校。
校則。


だから・・・何?
でも・・


実はこのときから、疑問には感じてはいたが、紗綾は教師になるのが夢だった。


「遠野君。とにかく今日は見逃すけど、次見たら職員室に来てもらいますから。」
「ええ、いいですよ。」
けろっとしている。堂々としているというか、変というか・・・
「遠野君、やっぱ変だね。」
「うん・・・」

今は同調するしかなかった。今は・・・

放課後。今日は部活は臨時で休み。普通に帰ろうかな・・・と考えているところだった。
「田辺さん、ちょっと・・・」
「へ!?」
紗綾の机まできて、遠野が話しかけてきた。
「今日は、ちゃんと話したい。」

しばかれる!!
頭でいっぱいだった。
「え・・・でも・・・」
舞はとっくに部活にいっている・・・味方が!!みんな部活にいってしまった(全員部活が違う)
「いいから!!」

ぐい。
いきなり腕を捕まれた。
「ちょ・・・何・・・!!」

中央館の資料室に連れて行かれた。
そう、道化の現在の着替え場所に・・・

「・・・あのさ、あんた騒ぎすぎ。そんなに俺が怖いの?」
目をじっと見ながら話す。
「だ、だって・・・きょ、今日の・・」
体が震えてる。男の子に連れて行かれたら大変だ。ドラマでもよくやっている。そんな認識しかなかった。
「今日・・・?ああ、あんたおかしいと思わなかったの?入学して。」
「え・・・?」

「この学校の現状。悪夢だね。」


悪夢??
「え・・・?」
「知らないんだ、じゃあ教えてあげる。」

床に座り込んで、話し出した。
「じゃ、じゃあ・・・」
つられて紗綾も隣に座った。一応・・・
「・・・学校で盗みがあるの、知ってる?」
「盗み??」
「声大きい。」
「すみません・・・」
「・・・盗み。よく教科書とか、体育ものとか、ロッカーから良く盗まれてるみたい。」
「そう・・なの?」
「1年はあんまりないみたいだけど、2,3年はひどいよー。生徒が生徒をけなしあってる?みたいな。」
「そう・・」

知らなかった。ただ楽しい毎日を送っていた紗綾にはわからなかった。
「でも・・・どうして知っているの?」
「ちょっと、噂で聞いて。で、2,3年の教室を見に行ったらそれでクラスの生徒が騒いでいる。お互いを信じられなくなっているみたい。」

「それって・・・なんかかわいそう。」
紗綾がしゅんとなったのを、見逃さなかった。

「そうだろ??だったら、解決すればいいんだよ、気づいた奴が。」
「でも・・それは先生に」
「だめだ!!信じられないって。」
一喝された。

「そう・・・だったらどうするの?」

「俺たちが、助ける。」


「・・・たち?」


「あんたと、俺。二人でやるの。」

☆おことわり 文章☆

2008-03-08 20:04:06 | じこしょうかい。
☆はじめに☆

ここは、小説ブログです。
感想は小説の感想、リクエストのみ受け付けます。
それ以外のコメントは削除させていただきます。ご了承下さい。
なお、コメントに関しての苦情は一切受け付けません。あしからず。ネットマナーを正しく守れる方のみ、閲覧下さい。どうかよろしくお願いします。


管理人より。

~白波道化~ 番外編 初代の真実2幕

2008-03-07 10:34:24 | ~白波道化~
「別に、いいよ長くなっても。」
「わかった。」
姉の方も食べ終わって、向かい側のソファーに座った。

「だって、よくわからないまま俺は姫さんと道化やってたんだぜ?ちゃんと知りたいし。」
「そう。」

天井の方を向いた紗綾は、話し出した。
今夜は満月。月もきれいである。

「もうかなり前だったな・・・」




「緊張する・・・」
紗綾16歳。入学式はかなり緊張していた。
「あーどうしよう。」

体育館の席で、妙に緊張していた。そのとき、前の席にふと目をやった。

「ん・・・?」
なんだか態度の悪い男子生徒。足を投げ出している。
「わ・・」

あんまり関わりたくない。これが、第一印象だった。



しかし・・・
入学してから、紗綾は友人にも恵まれ、すてきな高校生活を過ごしていた。
「紗綾ー!!お昼にしよう!」
「うん!」
なんとか友人も出来たし、安心だ・・・なんて思っていた。
「ねえ・・・あの子、変だよね。」
「うん、ずっと寝てるし・・・遠野君・・・だっけ?」
「そ、そうだよね・・・」
遠野章(あきら)。これが男子生徒の名前。
ずっと机に突っ伏して寝ている男子生徒。入学式では紗綾によっては最悪の印象だった・・・あの生徒。
「なんだろ?ほんと・・」

しかし、長いつきあいになるとは、このとき考えていなかった。



「ねえ。」
「へ?」
4月も終わりになった頃。演劇部に所属することになった紗綾は、部活にいくところだった。
「ちょっとさ・・・話ある。」

怖い!!
殺される!!
それしか考えられなかった紗綾は、逃げるしかなかった・・・??

「ごめんなさい!!急いでるから!!」

鞄をひっつかんで、すぐさま駆けだした。

「なんだ・・・あれ?」




「で、それが出会い?最悪だな。」
「姫ちゃんの出会いの方が、印象的だな。」
「ぐっ・・・別に変態じゃねーよ。」

資料室をのぞいたことから、関係が始まったのだから・・・ちょっと変わっている出会いかもしれない。

「で?結局どうやって道化になったんだ?」
「まあ・・・色々とね。」