「ただいま戻りました。」
手習いも終わり、家に帰ったときでした・・・
「あら、澪ちょどいいとこに。今日は・・・お話しがあるの。とても大切な。」
母様は少し、笑って話しました。いったい?
「こんにちは。」
奥の部屋には、見たこともない・・・男の人が座っていました。私と年は同じくらいでしょうか。
きちんとした身なり、目は優しそうな方。大きな目からはキラキラと輝いたものが見えてきそうです。・・・ですが、私には他の男の人は興味ないのですがね。
「あの・・・こちらは?」
母様が2人分、お茶を持ってきてくれました。
「突然だけど・・もう澪もそろそろだとおもって。」
「え・・・?」
「縁組みよ。野分(のわき)様という表長屋住まいの方。
「え・・・?」
縁組み。その言葉は、私の心を深く、刺しました。深く、深く。
なぜ?た、確かに縁組みはそろそろかもしれません。ですが・・・私には!!
抑えきれない気持ちでいっぱいの、薫様がいるのに!確かに、薫様とは結ばれてはいません。女形の役者。全然世界も違う。でも・・・
「色々考えて、お父様のお知り合い様を捜していたら、ちょうど野分様がいいのではないか、と話し合いましたの。どうでしょう?今一度、お話しの刻を。」
「それは・・・ありがとうございます。」
野分?様が深くお母様に例をした。
表長屋ですし・・・由緒正しき商人の家ですね、きっと。
でも・・・私は薫様が。こんなに好きなのに、愛しいのに。届かない・・・
「では、私は此で。」
「ま、待ってください!!」
襖の側で母様を止める。
「なんですか?」
「ど、どうしていきなり?私の断りもなしに。」
「・・・あなたは、最近他のことに夢中なのではないですか?手習い以外に。」
ぐさりと言葉が刺さる。どうして?
「そんな・・・ことは・・・」
私はうつむく。
「嫁に行き、旦那様の家を継ぐこととなれば、うつつをぬかすなんてことはないでしょうね?」
「そんな・・・」
「私はわかっています。あなたは、商人様の家に嫁ぐのが一番ですよ。」
ぴしゃり。
襖を閉じられた。
ひどい・・・どうして?わかっていたのね!!
帰る刻は確かに遅いですが・・・
この時代は、親が決めた方と結婚するのが普通。反対なんてことは出来ない。
薫様・・・会いたい・・・会いたいです・・・
私は、そのまま涙を流し、座り込んでしまいました。
「ど、どうしました?」
野分様が慌てて、私のそばへ来てくださいました。その優しさが、苦しいのです・・・
「だ、大丈夫です・・・」
「いきなりで、あなたも混乱しているとは思いますが、今ひとたび、この刻を私にくださいませぬか?」
「え?」
「私も、正直驚いています。いきなり父が縁談を持ってきたのですから。さ、涙をお拭きください。」
「野分様・・・」
そう言って、布を貸してくださいました。
「すみません。」
「いいえ、泣かないでください、澪様。」
野分様は、私の肩に手をかけてくださいました。心遣い、嬉しいのですが、薫様が離れません。会いたい・・・今すぐに。ですが・・・
「あなた様は、三味線を習っているのですか?」
「はい、手習いを・・・」
「素晴らしいですね。」
耳に入ってみませんでした。もう、私は薫様のことしか頭になかったのですから。
次の日。
私はまた、親の目を盗んでいつもの場所に向かってました。
「あ・・・」
「薫様!!」
会えた、やっと・・・薫様!!
「澪さん。」
「はい!!」
つい、大きな声を出してしまいました。
「どうしたのですか?今日はやけにお声が大きいようで。」
「はい、薫様に会えるのが嬉しくて・・・」
つい、本当のことを言ってしまいました・・・
「嬉しいですよ、そんなことを言っていただけるなんて。」
「いいえ・・・」
笑顔が・・・すてきです。どんな人にも劣らない!
「澪さん、あれ、見てください。」
「え・・?」
見上げると、気がつかなかったのです・・・今までまったく見ていなかった。清め水の近くに、梅の木が咲いていたのです。赤い小さな花。綺麗・・・
「綺麗・・・ですね。」
「梅の花。本当に美しい。桜は舞台でも使われますが。」
「桜・・・吹雪の場面ですね!」
「ええ。梅は、舞台ではあまり散りませんから。」
「確かに。」
二人で、笑い会いました。この瞬間も、幸せです・・・
「ですが、桜は一緒には咲いてくれませんね。」
「え?」
「桜は、梅と一緒に咲いてはくれない。相容れない者なのでしょうかね。」
木を見上げながら、寂しそうな顔をしています。
「そう・・ですね。」
「一緒に咲いてくれれば、とても美しい物になると思いますが。」
「ええ・・・」
寂しそう。どうしてでしょうか?何か、嫌な気持ちにさせてしまったのでしょうか?
「薫様・・・どうしたのです?元気がない気がしますが。」
「え?澪さん、どうして?」
「あ、あの、なんとなく・・・ですけど。」
予感、がしたのです。不意に。
「わかって・・・しまいましたか。実は、澪さんに伝えなければならないことがあるのです。」
「何・・・でしょうか?」
どくん
どくん
胸が、痛いです。
「私は、千秋楽で京に帰ります。」
「・・・・・え?」
予感なんて、していなかった。
ずっと、江戸にいると思っていたのだから。
ですがそれは、ただの思い込みでした。
桜と梅は 相容れぬ
手習いも終わり、家に帰ったときでした・・・
「あら、澪ちょどいいとこに。今日は・・・お話しがあるの。とても大切な。」
母様は少し、笑って話しました。いったい?
「こんにちは。」
奥の部屋には、見たこともない・・・男の人が座っていました。私と年は同じくらいでしょうか。
きちんとした身なり、目は優しそうな方。大きな目からはキラキラと輝いたものが見えてきそうです。・・・ですが、私には他の男の人は興味ないのですがね。
「あの・・・こちらは?」
母様が2人分、お茶を持ってきてくれました。
「突然だけど・・もう澪もそろそろだとおもって。」
「え・・・?」
「縁組みよ。野分(のわき)様という表長屋住まいの方。
「え・・・?」
縁組み。その言葉は、私の心を深く、刺しました。深く、深く。
なぜ?た、確かに縁組みはそろそろかもしれません。ですが・・・私には!!
抑えきれない気持ちでいっぱいの、薫様がいるのに!確かに、薫様とは結ばれてはいません。女形の役者。全然世界も違う。でも・・・
「色々考えて、お父様のお知り合い様を捜していたら、ちょうど野分様がいいのではないか、と話し合いましたの。どうでしょう?今一度、お話しの刻を。」
「それは・・・ありがとうございます。」
野分?様が深くお母様に例をした。
表長屋ですし・・・由緒正しき商人の家ですね、きっと。
でも・・・私は薫様が。こんなに好きなのに、愛しいのに。届かない・・・
「では、私は此で。」
「ま、待ってください!!」
襖の側で母様を止める。
「なんですか?」
「ど、どうしていきなり?私の断りもなしに。」
「・・・あなたは、最近他のことに夢中なのではないですか?手習い以外に。」
ぐさりと言葉が刺さる。どうして?
「そんな・・・ことは・・・」
私はうつむく。
「嫁に行き、旦那様の家を継ぐこととなれば、うつつをぬかすなんてことはないでしょうね?」
「そんな・・・」
「私はわかっています。あなたは、商人様の家に嫁ぐのが一番ですよ。」
ぴしゃり。
襖を閉じられた。
ひどい・・・どうして?わかっていたのね!!
帰る刻は確かに遅いですが・・・
この時代は、親が決めた方と結婚するのが普通。反対なんてことは出来ない。
薫様・・・会いたい・・・会いたいです・・・
私は、そのまま涙を流し、座り込んでしまいました。
「ど、どうしました?」
野分様が慌てて、私のそばへ来てくださいました。その優しさが、苦しいのです・・・
「だ、大丈夫です・・・」
「いきなりで、あなたも混乱しているとは思いますが、今ひとたび、この刻を私にくださいませぬか?」
「え?」
「私も、正直驚いています。いきなり父が縁談を持ってきたのですから。さ、涙をお拭きください。」
「野分様・・・」
そう言って、布を貸してくださいました。
「すみません。」
「いいえ、泣かないでください、澪様。」
野分様は、私の肩に手をかけてくださいました。心遣い、嬉しいのですが、薫様が離れません。会いたい・・・今すぐに。ですが・・・
「あなた様は、三味線を習っているのですか?」
「はい、手習いを・・・」
「素晴らしいですね。」
耳に入ってみませんでした。もう、私は薫様のことしか頭になかったのですから。
次の日。
私はまた、親の目を盗んでいつもの場所に向かってました。
「あ・・・」
「薫様!!」
会えた、やっと・・・薫様!!
「澪さん。」
「はい!!」
つい、大きな声を出してしまいました。
「どうしたのですか?今日はやけにお声が大きいようで。」
「はい、薫様に会えるのが嬉しくて・・・」
つい、本当のことを言ってしまいました・・・
「嬉しいですよ、そんなことを言っていただけるなんて。」
「いいえ・・・」
笑顔が・・・すてきです。どんな人にも劣らない!
「澪さん、あれ、見てください。」
「え・・?」
見上げると、気がつかなかったのです・・・今までまったく見ていなかった。清め水の近くに、梅の木が咲いていたのです。赤い小さな花。綺麗・・・
「綺麗・・・ですね。」
「梅の花。本当に美しい。桜は舞台でも使われますが。」
「桜・・・吹雪の場面ですね!」
「ええ。梅は、舞台ではあまり散りませんから。」
「確かに。」
二人で、笑い会いました。この瞬間も、幸せです・・・
「ですが、桜は一緒には咲いてくれませんね。」
「え?」
「桜は、梅と一緒に咲いてはくれない。相容れない者なのでしょうかね。」
木を見上げながら、寂しそうな顔をしています。
「そう・・ですね。」
「一緒に咲いてくれれば、とても美しい物になると思いますが。」
「ええ・・・」
寂しそう。どうしてでしょうか?何か、嫌な気持ちにさせてしまったのでしょうか?
「薫様・・・どうしたのです?元気がない気がしますが。」
「え?澪さん、どうして?」
「あ、あの、なんとなく・・・ですけど。」
予感、がしたのです。不意に。
「わかって・・・しまいましたか。実は、澪さんに伝えなければならないことがあるのです。」
「何・・・でしょうか?」
どくん
どくん
胸が、痛いです。
「私は、千秋楽で京に帰ります。」
「・・・・・え?」
予感なんて、していなかった。
ずっと、江戸にいると思っていたのだから。
ですがそれは、ただの思い込みでした。
桜と梅は 相容れぬ