小指ほどの鉛筆

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・寄り添いながら笑いあうなら、(ヒジカズ)

2013年03月28日 18時32分47秒 | ☆小説倉庫(↓達)
寄り添いながら笑いあうなら、きっと君は幸せになれるのに。

「俺はぜってぇ許さねぇからな!」
反抗期の子どものような、故にどこか幼さを残した慟哭の怒号は、あまりにも場違いな場所から聞こえてきた。
長官のいる部屋、その程度にしか認識していなかったドアの前ではいつも頭の痛くなるような会話しか聞こえてこないのに、今回に限っては耳をつんざくようだ。
カズキはLAGの中を、猫のように自由気ままに散歩する。
暇を持て余しているようにも見えるかもしれないが、これは楽曲のイメージを生み出している間のカズキの癖であり、あまりジッとしていられる性質ではなかった。
「許せないのはどちらだ」
冷静な石寺の声と一緒に聞こえてきたのは、間違いなくヒジリの声だ。
「分かった風な口利くんじゃねぇよ!!」
流石はヒジリ、怒鳴り声もよく通る。
カズキは心配を通り越して感心さえしながら、感情的になって出て行ったヒジリとすれ違ってため息をついた。
ヒジリもヒジリだが、子どもの怒りを抑えつけようとする石寺も石寺だ。
先生ではないから、子どもの扱いに慣れているわけではないし、ましてやカズキは音楽以上の伝達手段を知らない。
けれども第三者から見ても、これはどうやら石寺の方が幾分大人げないように思われた。
「トゥデイはそんなクライな顔してどうしたんだい?ストーンテンプル長官は、もっと明るくシャイニング!」
長官室のドアを豪快に開けて飛び込んでいったカズキは、半ばあてずっぽうで落ち込んでいるだろう石寺に声をかけた。
もっとも、その勘が案外当てになることを知って得意にもなったが。
「カズキか…私がそんな明るい顔をしていたことがあったかね」
「うーん、そうセイされるとドントになかったかもね。だけどバッド、クライな顔をしているのはリアルに本当だよ?」
石寺は小さく頷くと、カズキに座るように促した。
自分より目下の者にそうして配慮を示すのが珍しいくらいの男だが、どうやら今日は本当に参っているらしい。
それが個人的な心傷によるものなのか、それともヒジリの言葉が突き刺さったのか、はたまた計画に穴が開いたのか、そこまでは量れないけれど。
「君個人は、ヒジリをどう思う」
唐突に尋ねられた言葉には、とても深い意味があるような気がした。
けれどもたかだか生徒一人、しかもまだ未成年の変人に投げかけられた言葉なんて、頭を悩ませるほどの解答は求められてはいないだろう。
「ヒジリメンは、グレートな歌声の持ち主さ。誰かのためにソングできれば、モアベターにベストなんだけどね」
それでもカズキは至って真面目に返答した。
それは石寺のためというよりは、むしろヒジリのためだ。
潜在的能力も、経験値も、歳下であるはずなのに自分よりよっぽど多い。それなのに彼が長官に認めてもらえないのは、二人の不和に他ならない。
どちらが悪いなどと、裁判官のように判決を下す権限など当然カズキは持っていないが、それでも同じ子どもとして大人への反発心は人並みにある。
自制されて、言葉を選ぶ程度には成長しているけれど。
「やはりヒジリには荷が重かったか」
「そんなことナッシングだよ!ヒジリはオールメンよりよっぽどタフだからね。でも、セブンティーンだからさ、少しくらいスイートでもいいんじゃないかな」
「そんな甘いことを言っていられる状況であればな」
深いため息をついた石寺には、自分たちの知らない情報が入っている。
きっとこれからまたとんでもない状況に立たされるのだ。非情な戦場に送り込まれて、戦うことになるのだ。
自分たちライダーの未来を知っているのは、この時点で石寺ただ一人であるのだから、こうして頭を悩ませるのは当然のこと。
むしろ一人で判断を担う立場というのは、アキラを見ていても思うことだが、どうしても神経質になるものだろう。
「…ストーンテンプル長官は、しっかりしすぎチャッチャッてるからね」
可愛そうな大人だと、遅かれ早かれ自分もそうなることを知っていながら、カズキは微笑んだ。
自虐的な彼の笑みは、もうその時点でグランバッハに負けている。
「世界の運命を背負うのに、やりすぎということもないだろう」
石寺の言葉には力がある。
けれどもそれを超えるだけの希望を、自分たちライダーは持っている。
心配されていることは分かっているが、もう少し信じてくれたっていいじゃないか。
ヒジリの言いたいことは、そんな子供じみた我が侭にも近いのだろう。
「その世界を救うのは、ミーたちかもしれナッシングじゃないか」
自信満々に胸を張って見せたカズキに、石寺はわずかに視線を上げて応じた。
ふざけて見せているが、カズキは他の誰よりも大人らしく場の空気を読んでは道化を演じている。
もっとも、時と場所を選んで演じ分けることが出来ないあたりがまだ半人前ではあるが。
「タクトと君はそれなりの自覚があるらしいが、他の奴らはどうだ?」
「ヒジリはティーチャーをブックヒットに大切にしているよ」
そもそも、ヒジリのために弁解に来たカズキのことだ。
けれども石寺の頭を悩ませているのは、女神に選ばれる資格を持つ一人の男に関することというよりは、むしろそれによって運命を分かたれる世界についてなのだ。
「彼女は選ぶだろうか」
「女神のチョイスはいつだって残酷ディスティニーだからね。ミーたちの思う以上のことが、グッドorバッド、必ず起こるはずさ」
石寺やヒジリに直接聞いたわけじゃない。けれども本能的に分かってしまうことがある。
アキラはこの世界にとっての女神であり悪魔なのだ。
彼女の待遇や経歴については疑問に思うことが多かったが、それが最近ようやく理解できるようになってきた。
惨酷なのは彼女なのか、それとも彼女を世界と認めた自分たちなのか、はたまたデスゲームを始めた石寺一人の罪なのか。
それでもライダーである自分たちだけは、アキラが教官であると、愛おしい人であると、信じて疑うことはないだろう。
あるいは、彼女が人の形をしている限りは。
「大丈夫、きっとなにもかも上手くいくさ」
遅かれ早かれ、好かれ悪かれ、どちらかにとって良いことは、どちらかにとっては悪いこと。
けれどもどちらの世界も幸せになれる道を、諦めたわけじゃない。
「ストーンテンプル長官もヒジリも、紅も青も、みんな上手くいくようになる」
ほんの数秒目を閉じて、カズキは自分自身に言い聞かせるようにして呟いた。
「僕はそう信じてる」
信じるだけは叶わない。
彼女のために、世界のために命をかけているカズキだからこそ言える言葉。
それを否定できるだけの行動を伴えなかった石寺は、頷くこともできずにただ目を逸らす。
カズキは攻めるような言葉を使わない。自分を高めるような表現を使ったとしても、相手を落とすようなことは絶対に言わない。
これが育ちの良さというやつだろうか。今はただ、それが同情のようで辛い。
「明日はトゥモロー、ヒジリに優しくしてあげてよ」
最後にそれだけ告げて部屋から出て行くカズキの背を見て、石寺は再びため息をつく。
自由にこだわるカズキは、誰よりも強い意思でそれを貫き通そうとする。
カズキのような人間が何人もいては敵わないが、一人だけ、こうして直々に言葉をかけてくれる人がいるならば、この魂も救われるのだろうか。

「フー・イズ・ミー!」
海辺で沈む夕日を眺めていたヒジリは、突然塞がれた視界に驚きつつ、分かりきった相手に怒る気も失せた。
目を塞ぐ両手は控えめに少しだけ浮いていて、レザーのグローブは滑らかだが冷たい。
語調からバレバレなのだが、そもそも隠すつもりもないのだろういつもの声に、ちょっと安心してしまっただなんてそんな。
「カズキぃ…そーゆーのは女の子にやってもらいてぇんだけど」
名前を呼ばれるとすぐにひょっこりと顔をのぞかせたカズキは、にっこりと笑ってヒジリの隣にちょこんと体育座りをした。
身長180㎝もある男につける効果音がちょこんというのもおかしな話だが、それが実にしっくりとくる膝の抱えっぷりである。
そういうところが、相棒のリッケンバッカーとそっくりだ。
デカいくせして行動は子供じみているというか、なんというか。
「ストーンテンプル長官と、何かトラブルしちゃったのかい?」
なんの遠慮もなく、デリケートな話題に首を突っ込んでくるところも、大人とは大概言い難い。
「別になんもねぇよ!つーか、お前に関係ねーじゃん」
そうだ、カズキにはなんら関係がない。
過去の事件も、女神の正体も、カズキだけでなく第六戦闘ユニットはヒジリ以外誰も知らない真実。
そのことについて論じることが出来るのは、生きて帰ってきた者だけだ。
逃げたのは俺じゃない。今の相棒にも不満はない。それでもこのことを武勇伝のように語る気は起こらなかったし、知らない方が幸せな事だってあるのだ。
誰に対する配慮だかも知らないが、ヒジリは自分の優しい感情を柄にもないと思っていたから、ぶっきらぼうに傷付ける言葉ばかり使ってしまう。
けれどもカズキはそんな強がりの本質さえ見抜いているかのように首を傾げる。
「そんなサッドなことをセイ・セイ・セイしないでおくれよ。ミーたち仲間じゃないか!」
「んなこと、思ってもねぇくせに」
「思っているさ」
一段と強く返答された言葉は、きっと他の誰からも受け取ることなんてできなかっただろう。カズキだからだ。
カズキ以外の誰も、こうしてしょっぱい風に向かってヒジリと話してなんてくれないだろうから。
「思っているよ。少なくともミーはね。タクトはピリピリしているけれど、じきに落ち着く」
本当は優しいんだと言うその根拠を尋ねることなんて出来なかった。
同い年だというそれだけの繋がりが、他のメンバーと違うどういった絆を生み出しているのかも理解できなかったが、やはりカズキにだけわかる何かがある。
本能的に察するその敏感さには恐れ入るが、それが時々怖かったりもした。
「…アンタって、ほんとよくわかんねぇっつーか、絡み辛ぇっていうか…」
「なら、レッツミュージックだよヒジリ!」
「はぁ!?」
どこから取り出したのか、ウクレレのような弦を持つ小さな楽器がその手に握られていた。
「ミー&ユー、分かりあうならミュージックしかナッシング!」
そしていつでもそれだ。
いったい音楽が何だというので、彼はこうして歌うことを強請ってくるのか。
もうこの口は、心は、ラブソングも紡げないっていうのに。
「意味わかんねぇ!!っつーかついて行けねぇ!!」
「ミーの曲で、ヒジリがシンガーソングしてくれたらいい!」
「歌うって、お前の歌詞センスマジビミョー…」
「そんなことないだろう?僕はヒジリのボイスがベリーに大好きだからね!さぁ、レッスン・トゥー・ミー!」
掠れてしまったこの声が好きだと、その口は何の偽りもなくそう語る。
「マジか!マジでガチでか!」
照れ隠しのように顔を覆って、大仰に飽きれたポーズをとってみても、カズキの笑みは崩れない。
音楽は勇気をくれる。愛をくれる。そしてそれによってのみ、自分からも愛を伝えられる。
言葉にするのがヘタクソな、カズキの綺麗なメロディーに刻み付ける言葉。
「ん?ヒジリ、顔がレッドホットだよ?」
「なんでもねぇよ」
一度意識してしまえば、そう簡単に取り除けるものではないのだから。
久々にあの賑やかなメンバーに囲まれて、バカみたいに騒いで、そうして彼のためにその曲を歌ってやってもいい。
絆されていく気持ちは、まだ幼かったあの頃にはなかったものだから、アキラにだって教えてもらえない。
石寺、お前のことはまだ許してねぇんだからな。
でも、今回のライダーはなかなかいい線いってんじゃね?
特に〝コイツ〟とか。
「それじゃ、スタジオにレッツゴー!」
「って、おい!引っ張るな!!」
砂に足をとられながら、それでも解かれないこの手が嬉しい。

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