小指ほどの鉛筆

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色々と忘れたいことがある。1(大佐受け)

2008年12月29日 12時06分39秒 | ☆小説倉庫(↓達)
お前はダメな男だな・・・

それだけの階級を持ってしても尚、臆病だ・・・

・・・

過去に縛られるも
今に惑うも
彼らに託すも
己を貫くも
城壁を築くも

それはお前の自由だ。

だがね・・・

忘れない方が良い
目をそむけない方が良い

さもないと、大切なものは崩れ去ってしまう。

そんなのはあんまりだろう?

幸せになってもらいたいんだよ・・・

私はお前を見守っている。

いつでも
どこでも
お前の笑顔を嘲笑おう

だれでも
かれでも
お前の為だけに殺そう

さぁ
恐れるな

私のところに来い

戻ってくれば幸せにしてやろう

皆は所詮、お前を理解しない・・・

自由にすれば良い
好きなだけ足掻けば良い

そうして

最後に戻ってくるのは私のところだと

そう、信じているよ。


―我が愛しのジュエリー・・・


______


「大佐、休暇を頂きたいのですが・・・」
デスクの前で姿勢を正した部下に、大佐は溜息をついた。
今日で5人目だ。
「それは私に言う事じゃないよ、君。」
「いえ、貴方の傍で働いているからには、貴方に許可を貰わなくては。」
「真面目だね~、そんな事いちいち言わなくても休めばいいのに。年末年始の休暇くらい、自由にとっていいよ。」
年末年始。
それは無論ケロン星でも重要な時期であって、滅多に家に帰ることの出来ない軍人にとっては、特に貴重な時間だったりもする。
そして今日はそんな時間を求める部下達が、一斉に休暇届を出しに来ていた。
「すみません、人手不足になるようでしたら・・・」
「構わないよ。別にやることもないし。」
「あ、ありがとうございます!!」
明るい顔で頭を下げた部下に、笑顔で手をひらひらさせる。
どうやら上層部の大半は、こういった時期にも部下を休ませてはくれないらしい。
酷い話だと思いつつも、本来は自分もそうしなくてはいけないことくらい分かっている。
暗殺者も休暇をとっているとは限らないし、反乱なんていつだって起こる。
そういったときに能力のある者がいなくては、悲しい話ではあるが、対抗できない。
「大佐。」
代わって扉から入ってきたのは、馴染みの深い、やはり真面目な部下。
「やぁガルル君。久しぶりだね。」
つい最近まで長期任務にあたっていた彼と会うのは、どれくらいぶりだろうか。
「お久しぶりです。」
「君も休暇届かい?」
にっこりと尋ねると、渋い顔で否定された。
「違いますよ。」
「あっそう。」
「そもそも、休んでいる暇なんてありません。こうして貴方のところにファイルを届けに来なくてはいけませんし、貴方がサボっているときに他の兵士達の手を煩わせるのも申し訳ありませんから。」
それはなんの義務感だろうかと首をひねるが、それはそれで嬉しくもある。
「貴方も、ここから抜け出せないのでしょう?」
気の毒そうに顔を歪めるガルルに、大佐は極めて明るい表情で頷いた。
「そうだね~・・・もちろん抜け出すのは可能だけど、怒られるだろう?」
「でしょうね。」
思ってみれば、軍に入ってからガルルもあまり両親と顔を合わせていない。
年賀状などは送っているものの、両親にとっては自分の顔写真を送るなどという考えは無いのだろう。
「こういうときくらい、軍の機能も停止しちゃえばいいのに。」
「そういう事は思っても言わないでください。」
「ごめんごめん・・・でも、そう思わない?」
意地の悪い顔で尋ねられ、ガルルは言葉に詰まる。
確かに、こういうときくらい平和に暮らしたいものだ。
もちろんそれは、宇宙全体が許さないだろうが。
「それにしても・・・抜け出せるのに抜け出さないとは・・・貴方らしくないですね。」
考えれば、重要なときに抜け出すくせに、こういった時期には抜け出したりもしない。
両親に会いたくはないのだろうか?
「大佐、失礼ですが・・・」
「失礼は今更じゃないkイテテテテテッ!!!」
頬をつねられ、思わず涙目になる。
「うぅ・・・本当に今更だよガルル君・・・」
「大佐のご両親は、健在なのですか?」
「・・・」
途端に黙りこくった大佐に、既に亡くなったのだと悟る。
「笑顔のまま黙られると、怖いですよ。」
「そう?」
「えぇ。」
よくある話だ。
若くして親がなくなり、軍に入らざるを得ない子供は今も少なくない。
けれども大佐は、そうではないと思っていた。
特殊に思えるほどの能力と知能を買われたのだと、勝手に想像していたのだ。
けれどもその能力があったことは、幸運だった。
軍に来ても、適応できずに体調を崩したり、訓練で死んでしまうケースは多い。
そんな中で何か一つでも能力があり、しかもデスクワークを主な仕事とすることが出来たというのは、奇跡にも近い。
「・・・両親は、私が本当に小さいときに亡くなったよ・・・私がそれを理解できないほどに小さな時に、ね。」
むごい話だと思う。
「病気か何かですか?」
「毒殺。」
「え・・・?」
笑顔のまま、大佐は淡々と語る。
その表情が仮面なのではないかと思ったほどに、話しに不釣合いな笑顔だった。

「私がまだ小さくて、世界が大きく見えた頃の事だ・・・記憶はぼやけていてよく分からないが、両親は毎朝のコーヒーを飲んでいた。それは大人の日課のようなものなのだと、その頃の私は思っていたんだけどね。その日、一人の客が来たんだ。両親は笑顔で、その人を家に入れた。父親の弟だと説明を受けて、それだけで、その客と私はあいさつを交わさなくてはいけなくなった・・・子供の本能は感じ取っていたんだよ?そのとき確かに、『逃げなくては』と思ったんだ・・・」

「母はコーヒーを淹れに台所へと消えた。父はコレクションを持って来ようと部屋に消えた。そして彼と私はその場に2人きりになったわけだ。彼は口の端を吊り上げた笑い方をする男だった。私をジッと見つめてから・・・懐から、小瓶を取り出して振って見せた。青い瓶に入っているのは液体だと分かったよ・・・それが毒だとも、分かった。直感だったけれど。それを両親のコーヒーに一滴ずつ点して、彼は再び笑った。何か言おうとした私に・・・今となっては何を言おうとしたのかも覚えていないんだ・・・叫ぼうとしたのか、尋ねようとしたのか、分からないけれど・・・男は、そんな私に向かって笑い、人差し指を笑みの前に立てた。意味は・・・黙っていろ、か、静かにしろ、か、秘密だ、か・・・その辺だろうね。」

「分からなかったんだ。それが毒だとは思っても、自分のその言葉を両親が信じるかどうかも・・・それを飲んだら死んでしまうのかどうかも・・・だから、何も言えなかった。両親が戻ってきて、その男が何食わぬ顔で微笑んでいるのを、見ていることしか出来なかった。口は開かず、身体は動かず、少しの恐怖と混乱で、これほどにも自由が利かなくなるものなのかと思ったよ。本当。恐ろしい・・・。もちろん、両親はそのコーヒーを飲んだ。冷めているのも気にせず、淹れ直す事もせず、口に含んで、喉を通した。」

「それで、死んだ。」

「分かりません、大佐。」
「何が?」
首をかしげた大佐に、ガルルはズバリ言い放つ。
「どうして貴方は、笑っていられるんですか。」
それを聞いて、大佐は失笑した。
ゾクリと、背筋が凍るのが分かるほどに、ガルルは恐怖を感じた。
戦場では良くあることだ。
特にアサシンを目の前にしたときに良く感じる、この恐怖。
気まぐれと、己の欲望のために人を殺すことも出来る人間の、目。
―怖い・・・
「だってさ、怖くない?」
相手の気持ちが分かったかのように、大佐はやわらかい微笑みを湛え直した。
「笑っていたほうが、良いと思わない?」
「・・・時と場合によるでしょう。」
さっきの話は、笑ってすることじゃない。
けれども大佐は、そんなことも気にせずに微笑み続ける。
「でね・・・続きがあるんだよ・・・私の人生で最悪の時期が・・・」
そのときの顔は、笑っているというよりは、何かを憎んでいるかのように見えた。

「彼は、喉を押さえて倒れた両親に目もくれず、私の元に歩み寄ってきた。私は既に椅子からは立ち上がっていたけれど、それでも立ちすくむことしか出来なかった。恐怖は、完璧に混乱に飲み込まれていた。彼は尋ねた。『名前は?』と。私はもちろん、答えることなんて出来なかった。それよりも、兄の子供の名前も知らないのかと、どうでもいいことに疑問を持っていた。だってそうだろう?父はどうして、子供の名前も教えていない人間に、いくら兄弟だからといっても、家に上がらせたんだ。実はそれほど親しくもなかったのではないか?と、そう思った。」

「結局、私は名前を教えなかった。彼は静かに、父のコレクションである宝石を拾い上げた。赤いものと、青いものを。そして、一つのマジックをしたんだ。右手にルビーを持って、左手にサファイアを持って、尋ねた。『どっちがどっちだと思う?』とね・・・私は、首を振った。分からないという意味だったんだけどね・・・彼は満足そうに笑ったよ。大体、そう聞くという事は、なにかするつもりなんだから・・・見たとおりの状態が保たれているはずがないじゃないか。どちらの手に何が入っているかなんて、マジシャンしか知らないよ。」

「彼は、静かに両手を開いた。どちらの手にも、宝石は入っていなかった。私は溜息が出たね。昔から遊び心も子供心もない子供だったんだよ。こんな子供だまし、と、そう思っていた。そしたらね、彼は人差し指を左右に振った。まだまだこれからだと、そう言っているかのようだった。両親が死んだことに対してのショックが少なかったのは、彼が気を散らしていたからだ・・・。彼は、私の右手を指差した。きつく握っていた手を開くと・・・もぅ分かるよね。ルビーが・・・それも姿を変えて、そこにあった。」

「そのマジックは今の私にも出来ない。彼だから出来たんだ。人ならざるものだからこそ、出来たんだよ・・・。彼は私に手を差し伸べた。私はその手をとるために・・・左手を開いた。そこには、やはり姿を変えたサファイアがあった。彼は笑っていた。そして両手の中身を眺めている私を抱えて・・・窓から飛び降りたんだ。でも考えてみれば、窓といっても一階のリビングのだ。ただ地面に落ちるだけのはずなのに・・・そのときは、何所までも落ちていった。気がついたら、知らない土地に来ていた。それが他の星だと知ったのは、それから2年が経ってからだったけど。」

「彼の家・・・基、城かな。そこには、同じくらいの歳の、少年がいた。でも私のほうが少しだけ年下だったな。見つめてくる彼に、私はさっきのサファイアの化身を差し出したんだ。何かの贈り物のように・・・恭しく。彼はそれを手にとって・・・あぁ、止めておこう。これ以上は。あんまり思い出したくもないし・・・色々と忘れたいことがある。とりあえず、私の両親は、育ての父に殺されたんだ。兄のように思っていたあの人が、彼の子供だったのかはわからない。けど、私よりもずっと、彼を慕っていた。」

「今更、帰りたくはないんだよ。どちらにも。」
「そうでしたか・・・」
御伽噺のようだと、ガルルは思った。
「ねぇ、ガルル君は私をカッコイイと思う?」
「はい?」
「どうだと思う?」
唐突に聞かれ、悩んでしまう。
かっこいいとは思わない。
尊敬はしているが、それは彼の聞いている類とは違う。
「なんでしょう・・・例えようがありませんね・・・」
「うん、それが普通だと思うよ。それも理由の一つ。彼は、普通じゃない。だから接したくない。」
「どういうことです?」
「まぁ、知らないほうが良い事もあるよ。」
それっきり、大佐は喋らなくなった。
ガルルは少しの間どうしようか考えてから、傍にあるソファーに腰掛けた。
大佐はそれを横目でさり気なく確認してから、仕事を再開させる。
この珍しい光景は、今後軍の中で広まることとなる。
「時にガルル中尉。」
「は、はい。」
「君は、ファイルを渡すために来たんだよね?」
「はい。」
「他の仕事は?」
「今のところはないです。」
その言葉に、大佐は苦笑する。
なんだ、他の奴等もなかなかやるじゃないか。
「人は少ないのに、仕事も少ない・・・どういうことでしょうね・・・」
悩んでいるガルルを見ると、どうやら軍も甘くなったらしい。
恐らく上層部の他の人々も、大まかな仕事は終わらせてしまったのだ。
そして今やっている仕事は、休暇をとった兵士達のもの。
塵も積もれば山となる。
一人ひとりの持分は少ないものの、それがこの時期では山のようになる。
それを片付けるために、自分達が働く。
普段忙しく走り回っている兵士達が、今日くらいゆっくりできるように・・・
「ふ~ん。」
手元の仕事を見る。
あまり慣れてはいないが、出来る限りで頑張ろうじゃないか。
もちろん、他の人達よりは数倍早く終わるだろうけれど。
「暇なのに、実家には帰らないのかい?」
「今の話を聞いて、なんとなくその気も失せました。」
「あーあ、失敗しちゃったね。ごめん。」
「いえ。元から帰るつもりはないですよ。どうせ親父が無理するでしょうし。」
この無理というのは、現役でもないのにガルルやギロロを特訓しようとして、うっかりぎっくり腰になったりすることを言う。
「そう。」
いくつかの書類にサインをして、大佐は立ち上がった。
仕事の山はいつの間にか3分の1程度に減っていて、これならあと半日もかからずに仕事が終わることが目に見えた。
「コーヒーでも飲む?」
「お気遣いなく。」
「そう言われると気遣いたくなるね。」
笑った大佐は、背筋を伸ばす。
そして、子供のようにウィンクした。
「抜け出そう。」
「はいぃ?」
「カフェにでも行こうじゃないか。今回はお酒は無しだ。良いだろう?」
大佐がお酒を飲まないということが一番意外ではあるのだが、それでも、大佐のテンションがまず異常だ。
さきほどの話しが響いているのだろうか。
彼の大切な人は、ことごとく死んでいく。
自分ひとりが残されていく恐怖。
人を愛することへの不安・・・
そういったことを頭から離そうとしているのだろう。
「良いですよ。たまには・・・今日は特別です。」
「よしきた!!」
嬉しそうにマントを外してラフな格好になった大佐は、上にコートを着てガルルを引っ張った。
「ちょ、私も寒いんですけど!!」
「君の家に寄るよ。」
「けど家にはゾルルが・・・」
「彼はあと1時間で帰って来るかな。まだ時間はある。」
走り出した大佐に、ガルルは溜息をつくことしか出来なかった。
そしてこの逃走も、後に軍で噂されることになる。


「今日は楽しかったよ~。またいつか。」
町に明かりが灯り、空はすっかり暗くなった時間。
たわいない話でもずいぶんと場は持つようで、二人は夜の道を歩きながら家路についた。
「寒くないですか?大佐。」
「全然。なんで?」
「いえ、誰かが貴方は寒がりだと言っていたので。」
所詮は噂話ですね、と言ったガルルに、大佐は首を振る。
「そうでもないさ。多分それを言ったのはアイツだね。前にあの人のことで私にお節介を仕掛けたあの。」
「あぁ、そういえば、そうでした。」
大佐はフーっと溜息をつき、そして空を見上げた。
「アイツと会ったのは、あの人の仕事を隣で見ていたときだ。あの人は誰にでも親しく話しかける・・・私と彼が同期だと知ったのもそのときだったよ。それから、彼はしつこいほどに私の後についてきてね・・・一度本気で訴えてやろうかとも思ったんだけど。でも、まぁ、今となっては良い友人だよ。」
確かに、もう少し若い頃は割りと寒がりだった。
あの雪の日以来、あまり寒さというものは感じなくなった。
最近思うのは、自分の適応力はあまりにも優れすぎているという事。
一度雪の中で寒さを体験しただけで、こうも慣れてしまうはずがない。
一度酒に酔ったからといって、その後何本飲んでも酔わないわけがない。
なのに、自分にはそれが起こっている。
おかしな話だ。
自分の能力は頭脳だけではないという事だろうか。
だとしたら、原因はやはり、彼ら?
「大佐?」
「あぁ、すまない。ちょっといくつか考え事をね。彼の話は古いものだから、信じなくても良いんだよ。」
「今後はそうします。」
苦笑したガルルに、大佐も微笑む。
それからどうでもいい話などをして、一度軍に戻った。
でっち上げを言って大佐の執務室に入る。
すぐに秘書とゾルルがやってきた。
「今まで何所で何をしていたんです!!ゾルルさんも心配していたんですよ!?」
「心配、など・・・!!」
「してました!!」
「・・・」
秘書の剣幕に押され、大佐はいそいそとコートを脱いで椅子に腰掛けた。
ガルルはゾルルに手を合わせて謝っている。
「悪かったよ。すぐに仕事は終わらせるから。」
「それより、お客さんです。」
え?と聞き返した大佐に、秘書はもぅとり合ってはくれなかった。
「誰だい?」
「名乗りませんでした。よほど親しい人物なのかと・・・」
「いいや、外部に知り合いなんていないはずだよ?」
訝しげな顔つきになった大佐に、秘書も考え込む。
怪しい人物を招いてしまったのだろうか。
「今日のところは引き上げていただきますか?」
「・・・うん。そうしたいところだね。」
了解した秘書は、扉へ向かって歩いていく。
けれども途中で立ち止まり、もう一度戻ってきた。
「忘れていました。これを。」
「?」
彼女が懐から取り出したのは、黒くて小さな箱。
よく結婚指輪などが入っているような、あの箱だ。
けれどももちろんそんなものが入っているわけがない。
慎重に、大佐は手をかけた。
「・・・これは・・・」
ガルルが、感心したように声を上げる。
ゾルルも目を丸くしていた。
中には、小さなピアス。
それが作り物でないことくらい、分かっていた。
「ルビーですね。大した贈り物です。どうします?会ってみますか?」
秘書のその言葉は、大佐の耳に入っていなかった。
ただその赤を見つめて・・・
そして、失笑した。
「た、大佐?」
冷たい空気が流れる。
「赤い宝石・・・血の、赤・・・ルビー・・・」
途切れ途切れに、大佐は言葉を放った。
そして、秘書に向かって一言。
「彼は・・・笑っていたかい?」


「ルビーに微笑み・・・話していた、あの?」
客室への通路を歩きながら、ガルルは大佐に問いかけた。
厳しい顔になった大佐を先頭に、ガルル、ゾルル、秘書、と続く。
「多分ね。・・・最悪だ。」
「どういうことです?大佐。」
「彼の近くに、もう一人、青いピアスをした男がいなかったかい?」
秘書は驚いたように目を開いた。
「い、いました!」
「彼らは私達と同じ種族じゃない。『【闇のもの】ダーク・レイス』だろうね。」
「!!」
早足で先頭を行く大佐には、表情を見なくても皆が驚いてることが分かった。
けれども、彼らのことだけを言えるわけではない。
「多分私も・・・半分は闇の血が入っているはずだ・・・いや、今となっては半分以上かもしれない。」
彼が闇のものなら、自分の父も同じ闇のもの。
2人の性質は違うものだが、それでも血には抗えない。
「母親はケロン人だ。それは確かなんだが・・・」
正直、父親の出身を聞く前に彼に連れ去られてしまったから、詳しいことは言えない。
今もっている知識は、殆どが古い書物から得たものだ。
「それは初耳ですよ大佐!!」
「だって言ってないもん。」
見た目は母親譲り。
性質は父親譲り。
そして、育ての親の血も『入れられている』。
あまり大きな声では言えることではない。
「我々も闇の狩人から言えば闇のものに程近い。けれど、だんだんと進化を繰り返して浄化が進んでいるんだ。」
そんな中で、恐らく自分を振り分けるとしたら闇のものだろう。
「最近は色濃く感じる。自分の血が、彼らの血に変わってきている事が・・・」
「すみません、私達にはよく分かりません。」
「うん。それで良いよ。」
知っても何の徳もない。


「大佐、ようやくお越しですか!」
「彼は?」
「中でワインを。」
「・・・」
客室の扉の前、兵士と少しの会話を交わしてから、大佐は大きく深呼吸した。
あの大佐でも笑顔を失うほどの人物。
それがいったいどんな人なのか、ガルルは興味と共に恐怖を感じた。
あれほどの恐怖を感じた大佐の無表情も、今は戸惑いと不安に歪んでいるように見えた。
「どうぞ、こちらへ。」
扉が開かれ、奥へと進む。
明るい室内に見えた人影は、その一瞬に微笑んだ気がした。
肩より少し長いほどの黒髪を緩く一つに括り、赤い瞳でこちらを見る。
その人物こそが、大佐の両親を殺した張本人に違いなかった。
「やっと来たか。我が愛しのジュエリー・・・ルベウス。」
あだ名であろうルベウスというその名に、大佐は目を細める。
その手に持った正真正銘のルビーのピアスを、箱に入ったまま強く握り締めた。
「久しぶりじゃないか。サファイラスも、そう思うだろう?」
隣でワインを抱えている、短い黒髪で眼鏡をかけた男に、彼は問う。
「えぇ・・・とても久しぶりです。」
サファイラスと呼ばれた男は、大佐の目を見ずに頷いた。
「なんだ、照れているのか?」
「ち、違・・・」
「ふむ、まぁ可愛げは昔に劣るが、未だに美しい目をしているからな・・・」
「えぇ・・・って、いや、そうじゃ・・・」

「アダマス・・・何をしに来た。」

「・・・本当に可愛げがなくなったな。躾がわるい。」
「貴方以外に私を躾けようとする人なんていないさ。」
「フフフ・・・まぁ良い・・・『アダマス』か・・・覚えていてくれるとは、嬉しいよ。」
一方的に睨みつける大佐に、彼は余裕の笑みを浮かべる。
その口元から鋭い牙が覗いていることに気がついたのは、ゾルル一人だけだった。


「家族で、新年を祝おうじゃないか。」




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