小指ほどの鉛筆

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64 タイトルは記事内に記載。(クル+父)

2008年07月13日 20時04分12秒 | ☆小説倉庫(↓達)
64 星の数ほどいる人間の中で、自分の運命の人を見つける確立より、無限大にある数の中から、1+1の答えを探す確立の方が正答率はずっと低いんだよ。……だからさ、大丈夫。ほら、言ってみろ。1+1はいくつだ?

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ピーーー

ピーーーーーー



ピーーーーーーーーーーッ・・・



安眠を妨害する、ラボに鳴り響いた警告音・・・その甲高い音に、クルルはだるい身体を起こした。
そして画面を確認し、音を止めた。
まだボーっとしている頭を叩き起こし、システムを起動させる。
入ってきて欲しくはない。
自分はまだ眠いのだ。
そして、再びベッドにダイブしようとした。
けれども、それは叶わなかった。

ピーーーー

ピーーーーーー

またしても鳴り響く警告音に、不快感を露にする。
見ると、システムが破壊されつつある。
椅子に座って最近吸わなくなったタバコを口に挟むと、だんだんと思考がはっきりしてきた。
コンピューターには浸入された跡。
クルルのシステムにこんなに傷跡を残せるのは、並みの相手では出来ない。
もちろん、トロロだって不可能だろう。
クルルは舌打ちをして、対策を考える。
しかし、考えるのはすぐにやめた。
抵抗しても無駄な相手なのだ。
しかももぅすでにこちらに向かっているのだから、コンピューター中の敵を破壊しているうちに、ラボにたどり着いてしまう。
諦めたクルルは、降参のために、白旗代わりの文書を送りつけた。
それを送るには悔しすぎる相手なのだが、仕方が無い。


「ずいぶんと諦めが早いじゃないか。もう少し粘ってもいいのではないかと私は思うぞ?」


そして、長い金髪を揺らした、クルルにそっくりの男が現れる。
「タイミングが悪かったか?」
「安眠妨害だ。」
タバコを口に挟んだまま苦々しそうにそう言ったクルルに、彼―クルルの父は微笑んだ。
「・・・吸うようになったのか?」
「たまにだ。今日は気分がワリィからな。」
「そうか。その方がいいな。」
スタスタと、クルルに断りも無くラボの中を歩き回る。
ものめずらしそうに機材を眺めては、何かを考えるような仕草を見せた。
「で?なんだ?」
「予告しておいただろう。忘れたか?」
真顔でそう言った自分の父親に、クルルは盛大な溜息をついた。

時は、2週間ほど前にさかのぼる――

クルルは本部に呼び出され、珍しく軍服をきっちりと着たりして、通路を歩いていた。
目の前の扉を大胆に開け放ち、その更に奥に居座っている上官に敬礼をした。
「久しぶりだな、クルル少佐・・・いや、今は曹長か。」
嫌味でもなく、ただ懐かしさ故にそういい間違えた上官には、クルルも嫌な顔はしない。
むしろ微笑を返すことすらして見せた。
「どのような御用で?」
「あぁ、ケロロ小隊の状況を、『ありのままに』話して欲しい。」
「近状報告については文書をお送りしたと思いますが。」
「違うだろう?アレは。」
クルルは言葉に詰まる。
確かにアレは、嘘と偽りを盛大に混ぜ込んだ報告書だ。
「文章では後まで残り、大勢の人に見られる恐れもある。私にだけ、素直に教えてはくれないか?」
「・・・全て、報告書の通りです。」
「ケロロ小隊を悪いようにはしない。地球での任務は継続できるようにしよう。ただ、他の小隊をどう作るか、どの任務につかせるかが問題になってくるからな・・・少しくらい知っておかないといけないだろう?あくまでも参考にしたいだけだ。」
それでもクルルとしては譲ることは出来ない。
ありのままを報告したら、それはもぅすさまじいことになる。
あんな生活・・・言えない。
「報告の通りです。」
「はぁ・・・頑固なだな・・・まぁいい。君がそう言うなら、そういうことにしておこう。」
ホッとしたクルルは、肩の力を抜く。
ある意味、呼ばれたのが自分でよかった。
隊長だったら・・・うっかり喋ってしまうことだろう。
「そうそう、最近頼もしい新入りが入ってね・・・君がよく知っている人だよ。」
「?」
「いずれ分かるだろう。今日はいきなり呼び出してすまなかったな。」
そう言って、上官は後ろを向いた。
クルルも敬礼をして扉を開く。
通路に出て扉を閉めると、溜息が出てきた。
地球で少しでも軍人らしいことをしていれば、もっと上手いごまかし方が出来たのだが・・・
そう考えると、隊長ののんきな顔が浮かんできた。
全てはあの能天気な隊長のせいだと決め付け、一人で頷く。
俯き加減にそのまま通路を歩いていると、曲がり角のところで誰かとぶつかりかけた。
もちろんクルルはすぐに避けて、再び歩き出そうとする。
知らない人にいちいち文句を言っているほど、今の自分は子供ではない。
「―クルル?」
けれどもその相手が自分の名を呼べば、振り向かざるを得ないだろう。
「あ?・・・へ?」
白衣のポケットに手を入れ、身体は反対方向を向いたまま、顔だけをこちら側に向ける、自分のよく知る男。
よく知る、というよりは、知らないとおかしい人物。
「ぉ、お前!何でここにいんだよ!!!!」
「父親を『お前』呼ばわりか。教育を間違えたようだな。」
「元々ろくな教育してねぇだろうが!!てか何で軍にいるんだ!?」
不適に笑う、実の父親。
クルルの混乱はピークに達する。
「私も働かなくてはいけないからな。まだまだ定年には早いんだ。」
「は!?それで軍に入ったってのか!?」
「あぁ。メカニックでも薬学でも、動物実験でも人体改造でも・・・後半は冗談だが、何でも出来るからな。」
流石は自分の父親だ。
本当なら後半の仕事も出来るのだが、それをしないのは、過去の過ち故だろう。
「普通の仕事は向いていないと思ってな・・・お前と同じところで働いてみようと思っただけだ。」
いくら戦闘兵ではないとはいえ、軍は危険なところ。
そこに好んで働きに来るなんて・・・彼が何を考えているのか、クルルには分からなかった。
「で、お前は何でここにいるんだ?地球での任務はどうした。」
「あぁ・・・上官に呼び出されたんだ。今地球に戻るトコだったんだけどな。」
「そうか。ドロロ君は元気かい?」
突然ドロロの名前が出てきたことに驚きつつ、クルルは頷いた。
「元気だぜ。今は夏野菜に夢中だ。」
「そうか。それならいい。」
嬉しそうに微笑む父に、首をかしげた。
何故だか彼はドロロが気に入ったようだ。
確かに、自分は父によく似たのかもしれない。
見た目も、趣向も、好みも・・・。
ドロロは死んだ母によく似ている。
見た目ではなく、雰囲気が。
彼もそれを感じ取ったのだろうか。
それとも・・・
「今度遊びに行くぞ。ドロロ君に会いにな。」
「来なくていい。」
「土産は何がいい?甘いのがいいか?それとも、ビターなのがいいか?」
話をどんどん進める父をジトっと見つめる。
「何だ。気に食わないか?なら、私の好きにするぞ?」
「勝手にしろ。」
そう言って、クルルは通路を早足で進んで行った。
上官が言っていた新入りとは、彼のことだったのだ。
どこか悔しさを感じながら、クルルは地球に戻った。

そして時間が過ぎ、その日のことなんて、すっかり忘れていた。

「『勝手にしろ』と言っただろう?だから、勝手にさせてもらった。」
今ラボにいる父との会話がよみがえり、後悔がこみ上げてきた。
「ドロロなら今いねぇぞ。」
「なら来るまで待つ事にしよう。冷蔵庫は何所だ?」
何所だと聞いておきながら、彼はすでにそれを見つけて扉を開いていた。
中に何かを入れ、代わりにトマトを一つ取り出した。
「これは彼が育てたものなのか?」
「あぁ、そうみたいだな。」
「もらうぞ。」
「へいへい。」
カプリとかぶりつき、満足そうに微笑む。
その様子を横目で見て、クルルは不思議な感覚に陥っていた。
昔は無かったこの感じ。
これが、平和というのだろうか。
これは親子としてあるべき姿なのだろうか。
「ドロロ君は、相変わらずお前が好きなんだな。」
ソファーに座っていきなりそんなことを言う彼に、クルルはタバコを片付けてから向かい合った。
「何言ってんだ?」
「これ、美味いからな。」
トマトがおいしくて何故、ドロロが自分のことを好きだということになるのか。
「意味がわかんねぇ。」
「植物は、育てる人の人格に合わせて育つ。お前はこのトマトを食べたか?」
首を振るクルルに、彼は自分が少しかじったトマトを差し出す。
そして、食べるように促した。
クルルは彼を一度見てから、かじる。
「・・・」
「どんな味がした?」
この味を、どう表現したらいいのだろう。
「甘い、っつーか・・・すっぱいわけじゃねぇしな・・・」
「美味いか?」
「まぁ。」
彼が笑う。
「だから、だ。」
「ふーん・・・」
意味はよく分からないが、自分にとって都合の悪いことでもない。
クルルはとりあえず納得したような反応を見せ、トマトを返した。
父はそれを再び食べ始める。
それを、クルルはやはり不思議な気持ちで見ていた。
「ドロロが俺を好き・・・か。」
「嬉しいことだろ?」
「・・・」
「どうした?」
不安そうな顔をするクルルに、彼は先ほどまでの微笑を消して尋ねた。
人が苦悩しているときに笑っているほど、彼は性格が悪くは無い。
「なぁ、運命の相手ってのは・・・いると思うか?」
「科学的には「科学じゃねぇ。アンタがどう思うかを聞いてんだ。」
彼は少し悩んでから、顔を上げた。
残ったトマトを一口で食べ、緑のへたを捨ててから口を開く。
「私と彼女は運命で結ばれていた。だから、運命は存在するだろうな。」
クルルは笑う。
「母さんは死んじまったじゃねぇか。」
自分が殺したのだが。
「俺は、ドロロと会ったのが運命であって欲しいと思ってた。けど、きっとそうじゃねぇ。」
「どこに根拠があるんだ?」
「アイツは沢山のつながりがある。俺が特別じゃねぇんだ。」
ドロロは自分ではない、誰か大切な人がいる。
ドロロとしても、ゼロロとしても、彼を愛する人や彼が愛する人は沢山いる。
「この世界で、俺はアイツ以外の誰も見つけられねぇ。けどな・・・アイツにとっては、世界はもっと広いんだ。俺以外の人間なんて、いくらでも見つけられる。」
父は腕を組む。
そして、静かに口を開いた。
「彼女は確かに死んでしまった。たとえ運命で結ばれていても、別れは来る。だが愛し合っていたんだ。最後の最後まで、な。だから私達は、彼女の死によって、最後まで愛し合っていた、運命のカップルだったと言えるんだ。分かるか?」
何が言いたい。
「運命は、ずっと繋がっていることではない。同時に、最初から最後まで想いあっていられることでもない。」
「・・・」
そこで彼は微笑んだ。
父親の、子供を安心させる微笑だった。
「星の数ほどいる人間の中で、自分の運命の人を見つける確立より、無限大にある数の中から、1+1の答えを探す確立の方が正答率はずっと低いんだ。……だから、大丈夫だ。ほら、言ってみろ。1+1はいくつだ?」
「・・・2。」
「そうだ。お前は、この答えが言えた。それなら、お前はもぅ、運命の相手が見つかっていても良いとは思わないか?それが今愛し合っているドロロ君だとしても、おかしくは無いだろう?そもそもお前が今考えている心配事は、好きな相手を他の奴に取られたくないというラブラブなカップルによくある悩みだ。全く、お前は安定している。」
その言葉に、なぜだかほっとした。
「それにしても、本当に来ないな、ドロロ君は。」
「あと30分もすれば来るだろ。」
キョトンとして彼がクルルを見る。
「なんだ、さっきまで乗り気でなかったくせに。」
「別に。」
そっぽを向いたクルルに、笑いかける。
「土産を冷蔵庫に入れておいた。ドロロ君が来たら食べようじゃないか。」
「何を持ってきたんだ?」
「○×△デパートの地下にある、有名な洋菓子屋で買ったチーズケーキだ。」
クルルが目を丸くした。
その反応に、彼は嬉しそうに話しだす。
「覚えているか?その様子だと覚えているな。」
「まぁ・・・」
「昔、私と彼女が出かけたときにお前に買ってきた土産だ。お前が気に入って、喜んで食べたからな・・・正直驚いた。以外に甘いものが好きだったのか?」
昔の話をされると、くすぐったくなる。
ここに母さんがいたら・・・なんて思うたび、自己嫌悪。
「クルル君?」
突然、天井から影が降りてきた。
その声に母親を重ねて、切なくもなる。
「よぉ、ドロロ。アンタに客人だぜ~~」
「久しぶりだな、ドロロ君。」
「あ、こんにちは。お元気でしたか?」
やわらかな微笑みは、あの頃彼女が向けてくれたものに似て。
クルルと父は顔を見合わせ、同じ事を思っているだろうお互いに、笑いかけた。
「ケーキを買ってきたんだ。クルルの好きだった、な。冷蔵庫に入れておいた。」
「お気遣いありがとうございます。皆で食べましょうか。持ってきますから、ちょっと待っててください。」
走るドロロを見送ってから、クルルは口を開いた。
「おいおい、俺だけじゃねぇだろ?」
「?」
どこか遠くを見るように、クルルは言った。
「アンタも美味いって言ってたじゃねぇか・・・あそこの洋菓子屋。」
素直に驚く彼を見ることも無く、クルルはただ、目を閉じた。
あの時は、幸せだった。
運命で結ばれた2人の親の間に、自分の姿があったから・・・。
    
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―母さん、これ、どこのケーキ?凄くおいしい。

―お父さんも好きなのよ、これ。本当にクルルはお父さんに似ているのね。

―そうなの?父さん。

―・・・

―また買ってきて!

―・・・あぁ。


あの時、目を逸らした彼の口元がわずかに笑っていたのは、きっと妄想ではないはずだから。


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父さんがだんだんと良い人に・・・!!
そして家族関係は完璧に修復されましたね。なんだか勝手にハッピーエンドですみません;


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