小指ほどの鉛筆

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・優しさはひとすくいの砂糖ほど。(シャグラ)

2011年09月12日 13時28分28秒 | ☆小説倉庫(↓達)


*中盤に少々ERO有り。

__________





まさか本当に贈られるなんて。

忘れていた分、断わり辛い。


「シルバー。裏に名前掘ってある。俺の。」
「お前のかよ。」
「自分の名前のつけて何が楽しいんだよ。」
「そりゃもっともだけどよぉ・・・」
「文句あんのか。」
「・・・いや、別に。」
通路でばったり出会って、顔を知らない仲ではないから、適当に挨拶をして通り過ぎようとした。
いちいち立ち止まって会話を交わすほど、相手も暇ではないだろうと思って。
そしたら何度目だろうか、デジャブを感じざるを得ない強い力で腕を掴まれて、ポケットから出したリングをはめられた。
突然のことに頭が追いつかず、クエスチョンマークをいくつも浮かべる。
人通りがないわけではないから、もう少し辺りに注意を向けてくれてもいいのではないだろうか。
そうしたら、これだ。
思い出した。コイツに左手の薬指をあげたのだ。
光るシルバーリングをしげしげと眺める。
チラリとシャインの手を見れば、当たり前のように同じ形のものが同じ場所にあって。
ため息をついたら怒られるだろうか。
「大佐にもやったんだっけか?」
「そう。」
「ふーん・・・トリプル・・・ね・・・」
はじめてのことだ。
何度かアクセサリーをプレゼントされたことはあるが、相手が死ねば外していたし、任務が終われば捨てていた。
その例外はテルルただ一人だと思っていて。
別に決めていたわけではないから、こういうことをしてくれる、いや、されるのは別に不本意なわけではない。
けれども、やはりなんとなく、三角関係を匂わせるような行動は慎んでくれないだろうか。
こちらにはそういう気はさらさらないのだから。
「大佐は了解したのかよ。」
「しなきゃやらねぇだろ。」
「だな。なんでだ・・・?」
あの大佐が、シャインをふらふらさせたままで放置するはずがない。
「『ただし君の良心に任せるよ』だって。なんで嫉妬してくんねーんだろ。」
「お前が狙いすぎてるからじゃねぇか?」
加担していることになるのだろうか。
どちらが悪いかと問われれば、少々分が悪い。
それにこれを受け取ってしまえば、完全に共犯者ではないか。
テルルはなんと言うだろう。
どう思うのだろう。
こんな俺を、認めようとしてくれるだろうか。それはそれで苦しいのだ。
「・・・テーラに見せてくっか。」
呟いたグララをジッと見つめて、シャインは嘲笑った。
お前だって大分卑怯な男ではないかと。
「ま、いい結果になるといいなぁ?」
絶対にそうは思っていないだろう口調で。
けれども何か期待を込めた目で、
「結果が芳しくなけりゃあ、慰めてやるくらいはしてやってもいいぜ?」
とも付け加えた。
なんだそれは、罰ゲームではないか。
「俺はお前のこと慰めてやる気ねぇけど、それでもいいのか?」
「慰めさせるからいい。」
「ったく、相変わらず強引だな。」
でもお前らしい。
そう言ってシャインと別れた。
通路をどんどん進んでいく。
指の圧迫感。
重い。
ついついポケットに手を入れてしまう。
大佐の執務室に近い場所に、テルルの仕事部屋もある。
軽くノックをして、ドアを開いた。
緊張する。
心臓が五月蠅い。
吐きそうなくらいに、気持ちが悪い。
自分がしようとしていることが分かっているのか?
そう自問しながら、けれども外せない想いがある。
我ながらズルイ男だ。
嫉妬なんて、不安なんて、抱かせることになんのメリットがある。
これは何の真似事だ。
いくつもの問いを自分に向けて吐き出しながら、いつもの笑顔で迎えてくれたテルルに愛想笑いを返した。
ソファーに座って、恐る恐る左手をポケットから引き抜いた。
いつも通りにしようとして、けれども相手が相手だから、それも難しい。
いっそ自分から言い出してしまおうか。
別にやましいことじゃない。
自分は被害者だと大口をたたいてしまえばいい。
なのに。
「どうした?今日は随分と暗いじゃないか。」
「え?そうか?」
あぁ、なんでもそうやって勘付いてしまうんだから。
「何かあったか?」
わざわざペンを置いて。
そんな、大佐みたいに怖いことをしないでくれ。
真面目に聴いてほしい話じゃないんだ。
軽く流してほしい話題なんだ。
だって、きっと、俺はこの指輪を外す気が無いんだから。
無下には出来ないと、そう思ってしまっているんだから。
「え、と・・・」
しどろもどろになってしまう自分が憎い。
自分が悪いとわかっているのだ。
それなら何故と、問われているのは俺自身の良心。
蹴っ飛ばしてしまえるほど、軽いものではないのだ。
「・・・グララ、その指。」
ギクリとした。
表面上はきっと、いつも通り冷静な自分なんだろう。
もう少し分かり易くなれば、もっと可愛いんだろうな、と。
けれども仕方ないんだから、観念して顔を上げた。
左腕も同時に上げる。
「これか?」
「そう。」
たまに真面目な目になるものだから、困る。
「・・・シャインに噛まれてな。」
「またか。」
またアイツか。
またアイツだ。
「噛み痕隠しと男避けだとよ。わけわかんねーな。」
それを馬鹿正直につけた自分も。
「ルベウスは?」
「大佐とアイツと俺でお揃いだと。トリプルリング?」
「・・・それは、俺とお前でペアリングじゃダメだったのか?」
それは思った。
最初にシャインから提示された。
「アイツは、このクロスに嫉妬したそーだ。」
「クロス?」
「お前からもらったやつ。聞いてくれるか?『それがお前とテルル大佐の誓いだっていうなら、薬指くらい、俺にくれてもいいだろう』だってさ。俺、可愛いと思っちまったんだよな。」
顔をしかめたテルルの気持ちだって分からないでもない。
でも、可愛いじゃないか。
あんなに深い傷を残されておいてなんだが、それでも、彼の独占欲が素直に向けられる場所になれるなら、と。
そう思ってしまった自分は、彼の言うとおり御人好しなのだろう。
「指輪一つで変えられるような人生歩んでねぇよ。」
お前一人で変わってしまうような人生を歩んでいたけれど。
「俺は、お前に嫉妬してもらいたいとかそういうこと、全然考えてねぇんだ。その点、やっぱアイツの方が可愛いぜ。でもな、お前に理解してほしいとは思ってる。それでも、お前に無理に認めてほしいとは思わねぇ。言いたいことは言ってほしいし、お前が本当はどう思ってるのか、俺はいつも知りたいと思ってる。もし、もしもお前がこの指輪に嫉妬するようなことがあるなら、もっと本音で向き合ってほしいんだよ。良い感情だけじゃないだろ?文句も、もっと強い口調で言っていい。俺が抱いてる不満はそれだけだ。それだけは、アイツの方が好ましいんだ。アイツは俺の嫌いなとこズバズバ言ってくれっし、自分に正直だし。俺は甘やかしてやりたいんだ、アイツを。それをお前に分かってほしい。」
一息で言って、視線を上げた。
少し悲しそうな目が、グララの心をズキリと痛ませた。
「なぁ、グララ。」
「・・・はい。」
「お前はシャインを、大事にしてやってくれるんだな。」
そんなこと、言ってほしいわけじゃない。
「アイツのわがままにも、応えてやってくれるんだな。」
そんなことを、認めてほしいわけじゃないのに。
「ありがとう。」
微笑んだテルルの目をまじまじと見て、グララは絶句してしまった。
どうしてそんな顔が出来るんだ。
どうしてもっと、溢れ出そうな感情を言葉にしてくれないんだ。
分かりたいのに、分からせてくれないんだろう。
「でも、負ける気はないよ。シャインがその気なら、俺だって全力でお前にアプローチするさ。」
「へ?」
今度は途端に強気な表情になったテルルに、虚を突かれる。
「ペンダントがいいかな?時計がいいか?何が欲しい?」
精一杯の強がりなのだと、わかってしまう。
だから、
「・・・お前。」
なんて、いつもは絶対に言わない言葉を。
驚いたテルルに、してやったりと思ったりして。
「安いもんだろ?」
照れて笑ってみたりした。

「何、いい感じかよ?」

突然声がして、二人でハッとした。
ドアが細く開いて、ひょっこりと出てきたのはシャイン。
何食わぬ顔で、丸い目で、テルルに手を振った。
「ちわっす!」
「・・・やぁ。」
軽い足取りでグララの横までくると、きょろりと目を上げた。
グララと見つめ合う形だが、テルルは面白くない。
「シャイン、グララにずいぶんなものをくれたみたいだね。」
顔は笑っているのだが。
「あぁ、似合うっしょ?大佐がこれつけてるとマジ美人1000%増しっつーか、エロさ倍増っつーかぁ!」
「グララにまで渡す意味はなかったんじゃないかな?」
「それでいいっつったのはグララっすよ?」
「あー、指輪でもなんでもくれやがれっつったわな、俺。」
「わかってんじゃねぇか。」
目が怖い。
「ま、指噛み千切っても良かったけど、そーすると得するのはコイツだから。悔しいじゃんか。グララの得になって俺の得がないっつーのはさ。」
「どういうことだ?」
訝しげな眼をしたテルルに、シャインがフッと笑った。
勝ち誇ったような笑みが悔しい。
「八方美人っつーことだよ。よくわかってんだろ?俺。グララのこと。」
終始グララに喧嘩を売るような言い方をするシャインだが、グララはいたって落ち着いて頷いた。
「そーだな。お前の言うとおりだよ。正直ビビってる。でも、それを暴露されんのは辛いな。」
デスクに座って、テルルの頭に手を置いた。
ぐしゃぐしゃと撫で回す。
「!?グララっ!」
「そーいうのは、コイツのいないとこで頼むわ。」
「言いたいことはたっぷりあるぜ?今夜あたりどうだよ。」
「チッ、そういう誘い方やめろっつってんだろ。」
足を組んで、テルルの髪を梳いた。
あくまでも心配そうにグララを見るテルルは、シャインからすれば奥手でまどろっこしい。
苛々する。
「なぁ、俺の前でイチャついてんじゃねぇよ。」
「ん?」
わざとらしくテルルの頬に手を添えたグララが、挑戦的な瞳でシャインを見ていた。
恐らく彼は分かっているのだろう。
俺がテルルに反抗的になりきれないことも、いい子ぶっているのが人に言えた義理ではない事も。
それでも、甘やかしてくれる人。
だから好きだ。
「ちょ、グララっ、」
慌ててグララの手を掴んで引き離したテルルが、純情でバカだと思ってしまう。
これがシャインだったなら、恋敵の目の前でフレンチキスの一つや二つ見せつけてやっていることだろう。
「んだよテーラ。なんか不満かよ?」
「あまり恥ずかしいことをしないでくれ・・・心臓がもたない・・・」
「ハハッ、満更でもねぇくせに?」
赤くなったテルルのデスクから降りて、グララはシャインの横を通り過ぎた。
そのまま手を振って部屋から出て行くのを、テルルが深いため息と共に見送る。
シャインはソファーに座ると、心臓を落ち着かせているテルルを眺めて、初めてテルルに嫉妬した。
甘やかしてもらっている。
愛されている。
不安になってもらえる。
テルルが得ているものすべてを、俺は奪い取ってしまいたい。
それが彼の不幸につながることを知っているから、それが大佐にとっても辛いことであると知っているから、できないのだけれど。
「・・・シャイン、」
「んー?」
「お前は、グララが好きなのかい?」
当たり前の質問。
首を振りながら答えた。
「ちげぇ。愛しちゃってんの。」
「・・・」
凄く嫌そうな顔をされた。
「そんな顔する?」
「いや、だって・・・」
「本気だよ?俺。大佐に嫌われないよーにしたいけど、嫉妬してもらいたいし。グララに可愛がってもらいてーし?」
何が目的なのか、イマイチよく分からないと思った。
けれどもテルルだって負けるわけにはいかない。
いや、負けるはずがない。
けれども不安になる要素は、シャインが行動することによってグララの生活に支障が出ることだ。
グララが困るようなことになっているなら、助けを求めてほしいと思う。
ただし、それを望まないから困るのだ。
「シャイン、言っておくけれど、グララは俺のだから。」
「知ってる。俺よりテルル大佐の方がグララのこと好きだよな。それでもいーぜ?俺は。」
「っ!」
これは厄介だ。
どうしたって身を引く気がないらしい。
「でも、だからって全部をテルル大佐にもってかれるつもりはねぇし。」
「どういうことだ?」
「言ったっしょ?薬指くらい俺にくれって。他にも、色々・・・あの人に残ってるものは、もらう。」
サァーっと血の気が引いた。
「浸けこめるとこは、浸けこませてもらうんで。」
今までの怠惰が祟ったのだ。
「あんま隙ばっかだと、全部持って行っちまうから。」
笑ってソファーに寝転んだシャインに向かって、何を言えばいいのか分からない。
いや、何かを言っている場合ではない。
今すぐグララの元にでも駆けて行くべきなのだ。
そしてそれをシャインも望んでいるはずで。
けれどもそれができないのはどうしてだろう。
「・・・ビビりっすね、意外と。」
「なっ!?」
冷たい視線。
シャインのそんな瞳を真に受けたのは初めてで。
どれだけ自分が軽蔑されたのか、想像して怖くなった。
あぁ、確かに自分は臆病者だ。
けれども、それだけ慎重になってしまう気持ちだって、わかってくれてもいいではないか。
「グララにさ、もっと熱く接してやってもいいんじゃねぇの?」
「・・・お前は、そんなことが言えるほどグララのことをわかっているのかい?」
自分はどうなのだ。
シャインに投げかけた言葉がそのまま自分に返ってきて、深く突き刺さる。
いっそ、それでも愛していると、行動だけでもできればよかったのに。
それすらできないのだ。
目の前の男に反撃することもできない。
つくづく弱い。
「俺はグララのことよく知ってるぜ?アイツの弱音だって聞ける。俺の弱音だってアイツは知ってる。そーゆー関係。それ以上でもそれ以下でもねぇよ。」
割り切れてしまう彼が強すぎて、相手にもならない。
ため息ばかりが零れて、それがシャインを苛立たせるだけだと知っているのに。
「なぁ、テルル大佐。俺は応援してんだよ。アイツはどうしたって貴方が好きで、それを俺は変えたいわけじゃない。でも、あんまりもたもたしてるんなら、必然的に俺のものになるってだけの話。」
「・・・いっそ、」
「奪えねぇんだよ!テルル大佐!!」
強く大きな声を出したシャインを見る。
その目はさっきまでの冷たいものとは違う。
「俺じゃねぇんだよ!どんなことしたってアイツは御人好しでお前が好きなグララのままなんだよ!」
勝てないんだ、と呟いた。その目は酷く動揺していて。
きっと彼も不安なのだと。
突然一人の子供のように思えてしまった自分の神経を、図太いと言えるのだろうか。
「シャイン・・・」
「アイツは俺のこと許してくれんだよ。大佐に出来ねぇようなこと。俺がしたいこと、言いたいこと、全部受け入れちまうんだ。なぁ、アイツ、このままじゃおかしくなっちまうぜ?俺はどうしても離れられねぇんだよ。だから、貴方が・・・貴方がアイツの望んでること、叶えてやらねぇと・・・いい加減不憫だぜ。」
されるがまま。
どこか虚ろな目をした彼を愛したって、返ってくるのは優しさだけ。
彼の欲しいものは貴方なんだ。
「でも、俺、どうしても邪魔しちまうと思う。頼むから、負けないでくれよ。」
「・・・あぁ。」
負けないさ。
でも、自信はそれほどないのだ。
グララが優しいことを知っている。
それに浸けこめるだけの強さがシャインにあることを知っている。
どうしても自分だけ出遅れてしまう。
それを補えるだけの、ハンデが欲しい。
「んじゃ、俺は行くから。」
立ち上がって、一度だけテルルをまじまじと見た。
その目がいまだに不安そうなことを案じながら、部屋を後にする。
向かうのは、グララの自室。
夕暮れに染まるオレンジ色の通路を歩きながら、苛立ちも何もかもを踏みつけて進んだ。
「グララ。」
暗証番号は知っている。
まるで自分の部屋に入るかのような自然な動作が、我ながら滑稽だ。
「シャイン。テーラとの話は終わったのか?」
「おぅ。」
扉が閉まるや否や、ベッドに腰掛けていたグララに抱きついた。
普段は椅子に座っているから、こんなにダイレクトに押し倒せる機会なんてないのだが。
今日はついている。
この心のもやもや以外は。
「おっ、」
背に腕を回して、グララは素直に抱擁を受け入れた。
甘い。
いつも思うのだが、彼は誰に縋られてもこうなのだろうか。
「八方美人。」
つい口を突いて出る言葉。
「良いことだろ?」
そして彼は、いつだってその短所にポジティブだ。
今日は特に機嫌がいいだろうか。
「ムカつく。テルル大佐とイチャつければご機嫌かよ。」
「別にそーいうわけじゃねぇよ。」
「どーだか。」
やはり少し嬉しそうな顔が、シャインの踏みつぶしてきた苛立ちを復活させた。
「俺のこと嫉妬させて楽しいかよ?」
「へぇ?嫉妬してんのか。」
微笑まれると、弱い。
そういう余裕な言動が嫌いなのだ。
どうして子ども扱いされているのだろう。
こんなに傷つけているのに。
「・・・今日は泊まってく。」
「帰れよ。」
「いいだろ。どーせテルル大佐が来るわけじゃねぇんだ。」
「喧嘩売ってるか?」
珍しくかけていたサングラスを、奪い取るようにして外した。
グララとの夜は好きだ。
向こうもこちらも技術者だからだろうか。全てが上手くいく。
「んぅ、」
キスも嫌いじゃない。
長い睫毛が震えるのも、絡めた舌が熱いのも、唇の開き具合も、全てがツボだ。
大佐とはまた違う運命を感じる。
単純に相性がいいのだと思う。
テルルとどんなことをしているのかは知らないが、少なくとも自分としている間のグララは気持ちいいのだと思う。言葉で示されたことはないが。
悔しいが、大佐よりも感じてくれている気がする。
「シャ・・・あ、う、シャイ・・・ン・・・ちょ、ちょっと待っ・・・!」
服を捲っている腕を掴まれた。
おかげで支えのなくなったグララの身体がベッドに沈んだが。
「はっ・・・んだよ。」
片腕で唇を拭ってから、グララは再度シャインの身体を押し戻そうとした。
その指に自らが渡したリングがちゃんとはまっているのを見て、シャインは目を細める。
グララの腕の力に逆らい、もう一度深いキスをした。
いっそ、この場面をテルルが目撃でもすればいい。
そうすれば、もう少し危機感を持ってもらえるのに。
「~~っ!!」
腰骨をさすりながら、その手をだんだん下へと滑らせていく。
既にズボンは膝まで下がっており、太ももや膝裏を撫でられるくすぐったさが、快感に変わろうとしていた。
「や、待てって、嫌なんだって・・・!!」
「俺が待ったなしだって知ってんだろ。にしても相変わらず細っせーな・・・」
押し返されそうになる身体をぐっと前のめりにして、多少キツイだろう体勢にさせる。
仕方ないだろう。抵抗されるのだから。
「たまには素直に抱かれてくれよ。」
「ふざけんなっ!」
「相性良いじゃねぇか。わかってんだろ?いい加減認めろよ。」
「誰がっ・・・!?」
グッとグララのものを握ると、息の詰まったような声がした。
「俺の指も好きだろ?」
「や、め、」
「なぁ、なぁ、グララ。こっち見ろよ。今くらい。」
断固としてシャインの言うことを聞かないグララが、反抗的で、いじらしい。
果てる前にどうしても、彼からの言葉が欲しかった。
「好きって言えよ。」
応えはない。
ただ戸惑ったように瞳が移ろうのは、迷いの証なんだろうか。
もう一息なのに。
最後の砦が、どうしても破れない。
「何でもいいから・・・なんか言えよ。」
ただし、恨み言以外で。
優しい言葉が欲しい。
わがままを聞いて。
テルル大佐ばかり幸せになんてしてやらない。
大佐と幸せになりたいのになれない。
なんでもいいから。
こんな俺を慰めて。
「シャインっ・・・も、やめろっ、よ。」
「なんで。」
「俺だって苦しい・・・!」
「・・・なにそれ。」
俺と居るのが苦しい?
テルル大佐を裏切るのが苦しい?
いつだってマイペースなくせに。
俺の気持ちなんて、あの人の気持ちなんて、ちっとも知らないくせに。
「いーから、離せっ!」
「やだね。」
胸元に痕をつけながら、右手も動かし続ける。
不規則な喘ぎ声が、細い喉から絞り出されるように続いた。
「なんでもいいから言えよ。好きでも、愛してるでも、気持ちいいでも、なんでもいいから。」
「っあ、やぁ・・・!」
「どーしてそう強情なんだかな。もういい。じゃあ徹底的に良くしてやるよ。」
「は、あうっ!や、ぁ、あぁ、もっ・・・無理っ・・・!」
早くイってほしいのだ。
この部屋には色めかしいものが何一つないものだから、ローション代わりになるものもない。
だからいつも、指が濡れるまで待つ。
段階を踏んだセックスなんて、そんなのキャラじゃないのに。
ましてや彼に対してそんな優しさ、見せる必要なんてないのに。
そうしてしまう理由が、はっきりとわかってしまうのだ。
「お前っ・・・何イラついてんだよっ、」
心配そうな顔。揺れた緑の瞳。
嫌がりながら、それでも強引に押し戻すこともできず、優しさと甘さに浸けこまれて喘ぐ。
そんな彼の、慣れた息遣いや冷静な目。
結局どうしたいのか、どうされたいのか、何を望んでいるのか、分からないのはこっちの方だ。
「テルル大佐と喧嘩してぇの。あの人、もっと情熱的になってもいいと思うぜ。」
「あれ以上は暑苦しい。」
「マジで言ってんのかよ。」
そうとは思えないが。
執念深い=情熱的ではないのだ。
一途=情熱的でもない。
そんな単純なことを望んでいるのではない。
もっと、この手から彼を奪い返すくらいの力が、彼にはあるはずなのに。
「・・・テルル大佐に傷つけられた。」
「被害妄想じゃねぇの?っんあ・・・ごめ・・・はっ、ぁん!悪かったって・・・!」
睨んで思い切り先端を刺激してやったら、涙目で謝られた。
でも許してやらない。
「やめっ、も、イくってっ・・・!」
緩くしてやるだけの優しさはあげない。
おかげで大分苦しそうに達したグララに、シャインはニヤリと笑った。
熱い吐息を腕に感じて、思わず口付ける。
最初よりも簡単に開いた口の中で舌を暴れ回せば、唾液の音と共に、右手がくちゅくちゅと音をたてはじめた。
その音に敏感に反応して、グララの腕が時々シャインを押し戻そうとする。
しかしそれが無駄なことは今までの経験からも明らかなわけで。
すぐに諦めて首に腕を回したグララを見れば、これまでの調教の甲斐もあったというものだ。
「慰めてくれよ。」
一言呟いて、指を後ろに這わせた。
もはや嫌がるそぶりは見せないが、少し不安げに見上げる瞳の色が暗くなっていくことが、気がかりと言えば気がかりだった。
指を一本、まずは慣らすために挿し入れた。
それだけでもグララは小さな息を吐き、首に回った腕も震える。
慎重に、二本目も挿入した。
「んっ!」
ビクリと上がった肩が、骨ばっていて硬い。
抱き心地はよくない。
けれども華奢な身体は、抱きしめていたいと思わせる。
「キモチイイんだろ?」
ぐちゃぐちゃにする気で、二本の指を動かした。
関節や爪が壁を擦る度にグララの表情はトロンとしてきて、どんどん引き寄せられる頭が、再びキスを求めた。
「あ、あ、あっ、はぁっ・・・んん・・・んぁう・・・」
優しく触れるようなキスを繰り返すだけ。
物足りないグララの方から、頭を抱くようなキスを迫られた。
それはそれでいい。
ほら、お前もなかなか情熱的じゃないか。
四本に増えた指を引き抜いて、シャインは昂ったモノをあてがう。
グッと押し広げられる感覚に耐えながら、グララはうっすらと目を開けた。
余裕のないシャインの表情。
いつもそうだ。
きっと他のことなんて考えていないだろう表情。
そんな風に向き合ってくれても、糠に釘、暖簾に腕押し、本当に申し訳ないことをしているとは思う。
別にシャインのことを考えていないわけではない。
むしろちゃんと考えている。
けれども考えれば考えるほど、大佐やテルルの顔が離れない。
誰が悪い?
そんなことは関係ないだろうか。
誰が被害者だ?
自分だとは言いきれない。
そうやって考えていると、必ずと言っていいほどシャインは反発してきて。
彼が求めているものが何かと思ったときに、それが複雑すぎてよくわからなくなってしまったのだ。
それを考えてやろうとすれば、あちらは怒るのだから。
自分がすべきことは、ただ彼の欲を満たすことだけ。
ここだけの話、同情も含んでいる。
「首絞めんな。」
ぐいぐいと圧してくるシャインの首を、グララはいつのまにかぎゅっと絞めていた。
危ない。折れてしまう。
「わ、りぃ・・・」
「・・・っ、お前さ、マジ、バカなのかよ。ただの御人好しで俺とこんなことすんのか?」
嫌なら首を折ってでも、舌を噛んででも、必死で逃げればいいだろう。
なんでも応えてくれる優しい愛人。
だから好きだ。愛してしまった。
でも、それをテルル大佐が見たらなんと思うんだろうか。
「じゃ、お前は・・・俺がどういう心持でお前としてたら・・・納得できんだ?」
「テルル大佐より俺が好きだから。」
「はは・・・じゃあ一生納得できねぇだろうな、お前っ。」
こうもあっさりフラれてしまうのに。
「じゃあ、なんでだよ。」
「・・・なんでだろうな・・・」
首から腕を離したグララが、左手をシャインとの間に挟んだ。
光るシルバーリング。
胸元には鈍色のクロス。
昔の男なんて忘れて、片想いからやり直せばいいのに。
それで満足する人間は独りもいないけれど。
それで世界が安定するような気がするのだ。
「グラ・・・」
言葉の途中で手を当てられた。
口が塞がれて、リング越しのキス。
そんなの反則だと叫びたい気持ちを抑えて、腰を動かした。
手も、瞳も、それぞれがあるべき場所に添えられていて。
その瞳がいつもどこか違うところを向いていることが、とても不満だった。
「っ、グララ、」
何が不満なんだ?
こんなに優しいくせに。
こんなに甘やかしてくれるくせに。
他に何をしたら怒るんだ。
何をしなければセーフなんだ。
「なぁ・・・気持ち良くねぇの?」
俺はこんなにイイのに。
我ながら珍しく不安な声を出したと思った。
「あ、あ、あっ、や、んぁあっ!」
「くっ、あ、はぁ・・・なぁ、聞いてんのか?」
果てたシャインが、髪を掻き上げながら訪ねた。
眉の下がったシャインを見るのは初めてのことで、思わずドキリとしたグララは横を向く。
イケメンは何をしてもイケメンなのか。
「グララ。」
声もいつもより大人しめで、何を狙っているのか不安になってしまう。
疑うのはよくない事だと思いつつ、やはり信用は出来ない人間。
けれども慰めて欲しいと言われたことを思い出す。
テルルに傷つけられたって?大佐に冷たくされたって?俺が素直じゃないって?
ならばと、グララはシャインの髪を梳いた。
少し汗ばんでいるだろうか。
「っ・・・んだよ。」
「はぁ、はぁっ・・・きもち、いい、けど・・・」
「!!」
「いいけど・・・お前は、ハイペース・・・だから・・・」
疲れるのだ。
俺だけじゃない。お前にとってもハイリスクだろう?
「慌てんなよ・・・俺、ここにいるんだぜ?・・・お前の、手の中・・・」
それが望むことだろう?と。
微笑んだグララの胸元に顔を埋めて、いつだか噛みついたそこに、もう一度噛みついた。
薄い分痛いのだが、痛がる声は聞こえない。
存分に噛んで、それからもう一度グララを見た。
同じ笑み。
悔しいくらいに綺麗だった。
「あー、くそ・・・テルル大佐に返したくねぇ・・・」
それには少し困ったように笑って、それからグララは、やっぱり優しく頭を撫でてくれた。
もやもやなんて吹っ飛んで。
涙さえ出てきそうで。
「もう一回、しとくか?」
心を見透いたようなその発言に、あぁ、きっと俺は寂しかったんだろうな、なんて。
恋人の顔さえ浮かんできて。
甘えてばかりの自分が恥ずかしくて、でも幸せで。
「ねだって。」
「ったく、ちゃっかりしてんのな・・・んー、そうだな、」
少し考えて、シャインの顔を一度だけ見て、それからもう一度、目を泳がせた。
「普通でいいんだよ。テルル大佐になんかしねぇの?」
「そういうことはしねぇ。」
じゃあ、俺が初めてになるのか。
純粋に嬉しい。
「面白くねーぞ?」
「いいから、早くしろよ。」
強気な発言に棘がなくなったことに、グララは気づいているのだろうか。
「シャイン・・・シたい。」
「それでいいんだよ。」
変化させられているのは自分の方で。
自分でわかるくらいに優しい手つきが、初めて背徳的だと思った。
テルル大佐、早く彼を迎えにきてあげてくれ。
俺はもう今すぐにでも彼を隠してしまいたいくらいで。
大佐を愛していながらそんなの欲張りだとわかっているけれど、それでも貴方の得ているこの優しさが、俺も欲しいのだ。
心にもないことを、こんなに自然に言える人間なんていないから。
この戯れの半分くらいは、本心でできているだろうか。


苦い気持ちに溶け込むのは、たったひとさじの砂糖。
そのまま飲めるほど大人じゃないから、貴方がそっと入れてくれた優しさ。

壊れやすい感情の器を、自分は両手で包み込むだろう。
そうして飲み干した苦しみと、底に残る舌触りの悪い優しい嘘。
それさえも飲み干してしまいたいと、器に涙を溜めるのだ。

溶けて無くなれ。

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