小指ほどの鉛筆

日記が主になってきた小説ブログサイト。ケロロ二次創作が多数あります。今は創作とars寄り。

264.傍にいないと心配で(シャにょぐら)1

2011年08月11日 17時12分58秒 | ☆小説倉庫(↓達)
グララ女体化です。
最初のうちはそうでもないですが、ちょっとしたEROがこれから入ってくるので、一応注意。

__________



またこの展開か・・・
普段なら笑い飛ばしてしまうような現状。
しかし彼だけは・・・洒落にならなかった。

「グララ・・・」
「グララ、だな、どう見ても。」
「どうしたんだ。」
「術じゃないんだよな!?」
口々に驚く面々を気まずそうに横目で見て、グララは数回かかとを鳴らした。
普段なら見下す位置にいるテルルも、今は見上げなければいけない。
要するに、グララは縮んでいた。
「今度は誰が誤射したんだ。」
「ガルルがやっちまいました。」
シャインが指を指す先にいた、冷や汗ダラダラのガルル。
ジララはため息を一つつくと、明らかに狼狽えているグララを見て、肩をすくめた。
「女体化、か。」
ケロン軍ではよくあること、だろうか。
少なくともこの仲間内ではよくあることである。
そもそもどうしてこんな面倒なものを、性懲りもなく保管しているのだ、なんて。
誰に言えばいいのかも分からない文句を、今は自分にぶつける。
「あまり変わらないな。」
「いやいや!!変わるだろ!?」
ムキになって反論するグララを、もう一度足先から頭のてっぺんまで眺める。
ジララは今度は感嘆のため息を漏らし、首を振った。
元々髪は綺麗なストレートだった。
今は少し長くなっただけの、あまり変わらない髪質。
相変わらず長い睫毛に、切れ長の目。
変わったところなんてほとんどない。
けれどもどうしてだか、性別だけは真逆だとすぐに分かって。
それがどうしてかと聞かれると、分からないのだ。
声はハスキーだし、時々ヒステリックに高くなるそれも、それほど不愉快には感じられなかった。
「シャインと同じようなものだ。全体的にコンパクトになったくらいで。」
「コンパクトて・・・」
呆れたように脱力したグララの胸元が、サイズの合っていないシャツの所為で大きく開いている。
それをチラリと見て、シャインが言った。
「胸もねぇしな。」
その一言に、グララは多少なりともムッとしたようだった。
「ある程度はあるだろ。良いんだよ動きやすくて!」
「大佐とジララは巨乳だったぞ?」
「お前が言うか。」
自分はAカップだったくせに。
Cくらいはあるだろう自分の胸を一度だけ見て、グララは頬を膨らませた。
それに、女体化したシャイン自身が、薄い胸を必死にカバーしていたことを思い出す。
他人のことを言えないくせに、妙に強気な姿勢にむしろ呆れた。
「それより、テルル大佐が凝視してんだけど。」
そっとシャインが示した先には、ぼーっとつっ立っているテルルの姿。
何を呆けているのだ。
「言うな。気が付かないふりしてんだよ。」
だって、目がいやらしい。
テルルとグララの付き合いはそれなりに長い。
彼が何を見て何を考えているのかなんて、それなりに軽く予想がついた。
「グララ可愛い・・・」
思わず出てきたのであろうテルルの言葉を聞いてしまったグララは、今更耳を塞ぐ。
ほら、思った通りだ。
「言葉出てっけど?しらばっくれんの?」
それはどこか反抗的な目で。
例えそれが変態でも、テルルはシャインにとって憧れの先輩。
足蹴にするような真似は、許してくれそうになかった。
「ったく・・・めんどくせー・・・」
「とか言う割には、嬉しそうじゃねぇか。」
冷めた目で見てくるシャイン。
毎度のことながら、嫌なら関わらなければいいのにと思う。
それともなんだ。ツンデレなのか。
「バカ言うな。ハズイんだよ。」
「どっちにしろのろけか。」
フーッとため息をついて、シャインは腕を組む。
事の成り行きを見守ろうといったところだろうか。
グララは一歩踏み出してテルルを見上げた。
「おいテーラ・・・」
「!!」
そして、この赤面である。
絵に描いたように真っ赤な顔。
視線を彷徨わせる様子が、不覚にも可愛い。
「・・・何で照れんの。」
「いや、その・・・」
未だかつて見たことのないような狼狽えっぷりに、グララも首をかしげる。
「んだよ。女は苦手か?」
そんなことはないと知っているけれど。
他にそれらしき理由も思い浮かばずに、そう探りを入れた。
しかし、返ってきたのは羞恥心を煽るだけの殺し文句。
「違う!グララが・・・あんまり美人で、可愛いものだから・・・」
「バッ・・・!んだよそれ!」
不意打ちだ。卑怯だ。
思わず赤くなった顔は、テルルのものよりもマシだろうか。いや、変わらないだろうか。
「いや、いつものグララも美人だし可愛いが・・・!!」
また的外れなことを言っている。
テルルはいつもそうだ。
グララの考えていることなんて、何一つ分からないといった顔をして。
けれども懸命に正解の言葉を告げようとする姿が、何より愛おしいのだ。
「んなこと聞いてねぇ!!」
あぁ、熱い。
恥ずかしい。
普段から感情を表に出すタイプではない。だってアサシンだから。
けれどもどうしてだろうか。
今なら、全てが素直に顔に出てきそうな気がする。
言葉を選ぶことなんてなく、想いの全てをぶつけてしまえるような気がする。
「なんだ、ラブラブか。」
近くから聞こえた冷やかしの声に、心臓まで汗をかいたようにヒヤリとした。
反動の、熱い感情の波。
「シャイン、あんまり茶化しちゃ悪いよ。」
「はーい。」
大佐のたしなめに素直に従って、けれどもシャインは悪びれた様子もなく、テルルとグララを交互に見つめていた。
そんな中、気まずい青春のような空気を漂わせた二人の間に、的確であり無神経な言葉が飛んでくる。
「グララ、服が大きすぎて胸元が危ない。」
「ジララ冷静っ!」
先ほどからジッとグララだけを見つめていたジララが、やっと言葉を発した。
「流石はロリショタ担当。胸に興味無し。」
「おい、シャイン。」
「ごめんって。」
キッと睨まれて、肩をすくめて縮こまる。
これを言うまで、ずっとグララの胸を凝視していたのだろうか。
それはそれで犯罪めいた香りがして、シャインは結局苦笑を浮かべるだけの謝罪を表す。
ジララの冷静な発言は続く。
「服飾課に行ってきた方がいいな。」
ジララは異様にファッションにこだわる人間だ。
自分は大して飾る気がないくせに、他人に対しては見栄えを猛プッシュしてくる。
だから、こういった状況の時、一番に服装を気にするのはジララなのだ。
「え。あぁ、確かに・・・」
「俺としてはスカートタイプの軍服に黒タイt「ジララ自重して。」
しかし、マニアックなこだわりも強い。
「普通にパンツタイプだろ。」
正論を発したグララに眉をしかめると、それでもと更に推してくる。
「何故だ。」
「いや、何故って言われても・・・」
だって、元が男の人間が、例え姿が女であろうと、そんな簡単にスカートなんて穿けるか、と。
恐らく一般的な返答であるはずの抗議を述べたいのに、ジララの視線がそれを許さない。
「だって・・・うぅ・・・ジララ怖い・・・」
「ほらジララ。グララ大尉が困ってるぞ。」
ジララの裾を引いたカゲゲが、上司であるグララに助け船を出す。
しかしジララ、内心では意外と興奮しているらしく、聞く耳をもたない。
外見がクールな分、心の内で何を考えているのか分かりにくい男だ。
それを悟ってやれるのもまた、グララなのだが。
「困ることはない。別に俺がコーディネートすれば問題ない話だ。」
「それは私でも引くからな。」
自分色に染めたい願望があるわけではない。
ただ、趣味の服を着せたいだけだ。
ジララにとっては人形遊びのようなものなのかもしれない。
しかしグララにとっては洒落にならない。
「っ、と、とりあえず・・・服飾課、な。そっちでアドバイス貰うわ。ジララは来なくていい。」
「・・・」
慌てて出て行ったグララの後ろ姿を、少しテンションの下がったジララの視線が追う。
残念そうなそのの肩に、シャインが腕を乗せる。
グララの不幸を望むわけではないが、もっとジララに翻弄される様子も見たかった。
「残念だったなー。」
カラカラと笑うシャインを一瞥して、ジララは長く息を吐いた。

それから数十分後、戻ってきたグララの衣装は、当たり前のようにパンツルックスだった。
タンクトップにジャケットを羽織り、黒いパンツにロングブーツ。
あまり変わらないと言えば変わらないのかもしれない。
「あぁ、その方が似合う。」
最初はあれほどスカートを推していたジララも、自然な容貌に頷いた。
あまり扇情的でも困る。
これくらいが丁度いいのかもしれない。
「胸元変わってねぇけど?むしろ開いてっけど?」
「けしからん。」
シャインの発言に、全員の視線が胸元へ集中する。
顔を赤くしたテルルが、それでも凝視して止めなかった。
「テルル大佐、落ち着いてください。」
大佐がテルルをなだめている間に、シャインが更に発言を加える。
女体化なら、同じく経験済みだ。
「服飾の女共、下着にこだわるだろ。」
形の整った胸や腰を見れば、それなりの対処をされたのだとわかる。
「・・・なんか泣きたくなったわ。」
男として、それなりのプライドくらいはある。
それをこうも簡単に蹴散らしてしまう女性というのは、やはり恐ろしいものだ。
「グララ、もしかしてノーブラタンクトップだったり・・・」
「するけど何か問題でも。」
「ある。」
当たり前のように胸を張ったグララに、ジララが抗議を申し立てた。
ズイと一歩踏み出す。
しかし、すぐに大佐に止められた。
これ以上暴走されても困る。カゲゲも困っているではないか。
「ジララはもういいから。」
「あー、ほら、テルル大佐が鼻血出した。」
シャインが冷静に指差す先には、血まみれのテルル。
顔が真面目な分怖い。
「弱いなアイツ。」
ため息をついたグララは、どこから取り出したのか分からないティッシュを差し出す。
「下は?」
「それ聞くか?あー、テーラが血塗れに・・・」
更に勢いよく噴出された血に、テルルが悶絶する。
グララは手の施しようのなくなったテルルを放置して、明らかに茶化しにきているシャインに向き直った。
「穿いてんの?」
「穿いてるわ。」
当たり前だろう、と言いつつも、それが当たり前なのか本当は分からない。
何もかも、世界さえもが正反対になってしまったかのような感覚。
自分が自分でないような気さえして。
「女物?」
だって、性別なんて本当は、簡単に変わってはいけないものだろう?
「・・・あの女の子たち怖いよな・・・」
「容赦ねぇもんな。」
「グハッ!」
「あ、テーラのライフが・・・」
「ゼロになったな。」
想像したのか、テルルがどばどばと血を流して倒れた。
「テーラー、しっかりしろー・・・返事がない、ただの屍のようだ。」
動かなくなったテルルに、グララはもうお手上げだと首を振る。
昔から妙に血気盛んな男だったから、大出血してもまだ死なないだろう。
「純情ですねー。」
ティッシュをテルルの鼻に詰め込みながら、大佐が苦笑する。
手が血にまみれている大佐は、正直グロイ。
それを恍惚とした表情で見ているシャインが、更にシュールだった。
「んな可愛いもんじゃねぇよ・・・絶対に後で反動がくるぞ。」
「いつ戻るんだろうな。」
「例の如く不明だってよ。あー、嫌な予感しかしねぇ。」
項垂れるグララを見て、周囲も同情以外の念を感じ得ない。
「それにしても、軍服の似合う人ですね。」
沈黙を破ろうと、大佐がそう言った。
最初はジララやテルルが軍服では味気ないと言ったのだが、ここがどこだか忘れるなというガルルの叱咤のもと、軍服にしたのだ。
それが正解だったと悟る。
「そりゃどうも。」
「ハツラツとしていらっしゃる。これで文学少女なんて。」
どこからどう見ても、好戦的なのに。
「文学淑女じゃね?むしろ文学熟女じゃね?」
茶化すシャインは、先ほどからジッとグララを見つめている。
「おい。」
「んだよ。まだ若い気か?」
「いや、そうじゃねぇけど・・・なんだかな・・・」
そもそも論点が違う。
自分が嘆くべきは年齢ではなくて、この性別なのだから。
誤射してしまったガルルに悪意はないのだろう。けれども、出来ることならその口に雑草を詰め込んでやりたい気分だった。
「見た目は女王様って感じだけどな。」
シャインがそう言うと、グララは肩をすくめた。
「そうか?まぁ、元々俺様気質に思われがちだったからな。」
それで意図せず敵に回した先輩だって何人いたことだろう。
同期にも喧嘩を売られた。
「踏んでください!」
足元から聞こえたような声も、時々だが、聞かないわけではなかった。
「テーラ・・・起きて一番にそれはねぇよ・・・マジキモい。」
蔑んだ瞳で見下せば、呼吸を荒くする始末。
手におえないとため息をついた。
「悦ぶだけですよ。」
その通り。大佐の言うことは正しい。
「だな。」
足元に倒れ込み、ローアングルを楽しんでいるだろうテルルの背を、一度だけ強く踏みつぶした。
嬉しそうな声は無視して、部屋を出る。
「自室に篭るわ。」
「それがいいですね。うかつに行動しないようにしてください。」
「はいよー。」
申し訳ないと幾度も頭を下げるガルルに微笑んで手を振り、グララは速足で部屋まで帰った。
アサシンの能力は殆ど使えない。
元々あった身体能力だけが、今のグララを支える唯一の武器。
それでもそれは、一般兵とは比べ物にならないほどに強い。しかしアサシンであることを考えれば、ほとんど無力に近かった。
バタンと扉を閉める。
安心するのはまだ早いが、とりあえずここまで、アサシンたちとすれ違わずに来れたことは殆ど奇跡に近い。
気配だけは今でも感じられるから、身に危険が迫っていることも感じてしまう。それは怖いのだ。
机の上の本を手にとり、読み始める。
感じ方、捉え方も少し変わっただろうか。感情的に読書をすることが、こんなに疲れるものだとは。
けれども楽しいと思う心は、何も変わらない。
時間が過ぎていくことも忘れて、ただただ没頭した。
―コンコン
ドアがノックされる音に、ハッと我に返る。
気がつけばあれから3冊の本を熟読していた。
「はーい?」
恐る恐る、来客を確認する。
人によっては相当気を遣う確認作業だ。
「グララ、大丈夫か?」
心配そうな目をしたテルルが立っていた。
誰かの変装でないことだけは分かって、一安心する。
そういう凝ったやり方で人を貶める奴もいるのだ。
「今開ける。」
ガチャリと鍵を開け、部屋の中に入れた。
少しだけ慌てていたのは、彼にとっては自分よりも危険だろうこのアサシン寮を、何食わぬ顔で歩いてきたから。
いつも安易に訪れるなと言っているのに。
「大丈夫か?気分が悪くなったりしてないか?」
「へーきだよ。」
自分の心配よりも他人の心配をしてしまう、優しい人。
こんなところが好きなのだ、なんて。
自分はいったいどうしてしまったのだろうか。
「顔が赤い。熱は?」
「っ!な、ないっ!!」
「本当か?」
訝しげに見ていたテルルが、おもむろに手を伸ばしてグララを捕まえた。
引き寄せられ、冷たい手の平を額に当てられる。
「うん。熱はないな。でも、頬は熱い。」
滑らされた指が輪郭をなぞっていって、最終的には顎を持ち上げ、テルルは笑った。
「体調はいいみたいだけどな。」
「そうかよっ・・・」
バシッと手を払えば、つれないの一言。
それはそうだろう。さっきまで変態発言ばかりだった男と、二人きりで何を話せばいい。
「本を読んでいたのか。」
「おう。」
「相変わらずだな。」
いつも通りのテルル。
いつも通りの読書時間。
いつも通りの自分の対応。
変わったことは、この感情の昂りと、胸の苦しさ。
さっきまでは全然なんともなかったのに。
急に苦しくなってきた呼吸を整えようと、少し荒い息をした。
頬が熱い。
冷たい指の感覚が、忘れられない。
テルルはそんなグララを後ろから見ながら、やはり同じような気持ちを感じていた。
いつもそっけなくされるその態度とはまた違う。もっと分かり易いそれ。
怖がらせないように背後から、そっと腕を回した。
両肩を包み込むようにして抱きしめれば、腕の中からは小さな驚きと身動ぎの気配。
「なんだよ。」
「いや、この身長差は新鮮だな、と思って。」
見下されてきた俺が、見下している。
「照れてるか?」
「ち、違っ・・・!」
立場まで優勢になって、なんだかいいことばかりだ。
「可愛い。食べてしまいたい。」
「離れろ!!」
わざと意地悪く耳を食むと、小さく叫び声があがった。
ここが苦手な事を知っている。
「嫌か?」
その甘えた声に、グララは束縛を解こうとしていた腕を静止させた。
何だ今の声は。
嫌な感情なんてなにもかも無に帰してしまうような、毒気の抜かれるようなこの声は。
いつもと変わらないはずのテルルの、やっかいな武器が増えた。
違う。自分の弱点が増えたのだ。
「嫌、か?」
もう一度、確認するようにそう問われる。
胸がキュンとして、その不埒な望みを叶えてやりたくなる。
ほだされていくばかりの心が、自分のものとはとても思えない。
「嫌っつーか・・・無理っつーか・・・」
ただでさえ、爆発してしまいそうな心なのに。
「大丈夫だ。今までよりもずっと自然な行為なんだから。」
今までしてきた男同士のあれこれが思い出させれて、グララは赤面する。
そうだ、今の自分は女なのだ。
テルルとどんな恋愛行為をしたって、それは至って自然な本能。
誰からも咎められはしない。
「もちろん優しくするさ。」
な?と、腕をキュッと締める。
その動作が、声が、グララを翻弄する。
優しい温もりが伝わるその腕を、振りほどいてしまいたくはなかった。
「それでもダメだ。」
ダメなのだ、と。
自分に言い聞かせるようにして、腕を振りほどいた。
こんな自分に、テルルを惚れさせやしない。
ありのままの自分に戻って、それから、それでも愛してくれる彼が好きだ。
「わりぃ・・・けど・・・」
「いや、俺も卑怯だったな。ごめん。」
情けなく笑うテルルが、半端じゃないくらいイケメンだ。
こんなこと、思ったことなかったのに。
「ちょ、ちょっと訓練見てくるわ!」
「え?」
錯乱した結果の、判断ミス。
「待って!一人で歩くのは・・・!」
「説明すりゃ大丈夫だから!絶対来んなよ!?」
「グララ!!」
速足で部屋を出た。
バクバクする心臓が止まらない。
そのままの格好で、そのままの気持ちで、アサシンの訓練室に入っていた。
ほとんど口が動くがままに話をして、それから、いつものように監督をして。
やっと落ち着いてきた頃、寒気がした。
自分は今、下手をすれば谷底に落ちかねないような場所にいるのではないか?
慣れない気持ちにテンパった結果、追い詰められていることに気が付く。
周りにいるのはアサシンだけ。
今の自分が敵う相手などいない。
それじゃあ今日はこれで帰るから、と告げて踵を返した頃には、グララは完全に冷静さを取り戻していた。
早く帰らなければいけない気がする。
その勘は当たってしまうが故に嫌いだった。
突然の打撃。
いや、攻撃を加えられたわけではない。
強い力で肩を叩き掴まれ、振り向かされたのだ。
「!?」
ありえない事ではない。それは分かっていた。
今まで敵わない先輩として接してきた男が、突然か弱い女になったのだ。いや、一般的に弱くはない。アサシン的に、弱いのだ。
下克上のチャンスを彼らが逃すとは、むしろ考えられなかった。
それはアサシン監督としては喜ばしく、しかし現時点では絶望的だった。
目の前の青年は、優秀な人材。
これからもっと伸びるだろう才能の持ち主。
「なんだよ・・・」
だからこそ、道を外させるわけにはいかなかった。
それは親心か、単なる詰めの甘さか。
「仮にもアサシントップだったグララ様が、こんなに無防備な姿で、しかも1人でこんなところにいるなんて・・・俺にも運が向いてきたみたいです。」
にじりよってくる男を見上げながら、グララは退路のない白い壁に背を預けていた。
突然の、鈍い痛み。
男の腕が、叩きつけるようにしてグララの肩を掴んでいた。
強い力で壁に押し付けられ、身動きはほとんどとれない。悪足掻きとは知っていながら、グララは右膝を男の腹に向かって跳ね上げた。
手応えがあって、瞬間的に目の前が拓ける。
しかし流石はアサシン。すぐに体制を持ち直すと、殺気の籠った目で睨み付けてくる。
今のグララでは、経験と技術力でしか対応できない。
そんな時に、この相手は非常に厄介だった。
「やってくれましたね・・・」
「こんな女に一発入れられてるようじゃ、まだまだだな。」
強気な発言ではあるが、決して余裕ではない。
男は相手を見くびるのを止め、隙の無い顔で再度グララを追い詰めた。
当然だ。
しかしこんな時にまで相手を見定めて難くせつけてしまうのは、監督としての悪い癖である。
「許しませんよ。」
「それはこっちのセリ・・・って、ちょ、お前、どこ触って・・・!」
攻撃する気のない違和感と、腕の軌道の違和感と。
最初からそのつもりだったのか、それとも今ので気が変わったのか。
どちらの方がマシだったのかなんて、考える暇もない。
男はグララの両腕をまとめて左手で押さえつけると、空いた右手で胸の辺りを撫でまわす。
気持ち悪いと顔を歪めたグララに気味悪く微笑み、上着のジッパーを下ろした。
タンクトップ一枚の上から、男の手が容赦なくグララの胸を揉む。
「っ・・・!!」
「本当に女になってるんですね。大丈夫ですよ。殺したりしませんから。でも、アサシン監督には戻れないかもしれませんね。」
それはそうだ。こんなことをされたとあれば、元アサシントップの名を棄てるどころの問題ではないのだから。
顔向けできない、というのが一番かもしれない。
苦い顔をしたグララの胸を揉み続け、男は今度は膝をグララの足の間に入れ込んだ。
刺激を与えるように突き上げれば、グララの眉が少しずつ下がる。
「やめっ・・・ここがどこか分かってんのか!」
「アサシン寮近くの通路ですよ?誰かに見られたら、面目も何もないですね。プライドの高いグララ様のことですから。」
言われるほどプライドのある方ではないと思うが、人並みの羞恥くらいはある。
つまり、恥と思うなら自害しろ、と。そういうことだろうか。
しかしそれは困るのだ。
やるべき事は残っているのだから。
「グララ様、気持ちいいんじゃないですか?」
「ふざけんなっ・・・」
「じゃあ足りないんですかねー?」
男の手が、タンクトップを捲るために滑り込んでくる。
肌にダイレクトに触れた熱。
テルルの体温とは真逆の、こびりつく様な熱さ。
気持ち悪い。
けれども目を瞑ってしまったら負ける気がして、グッと視線を男に向けた。
と、その時、横から伸びてきた手によって、男の、その肌に触れていた手が引き剥がされた。
被害者も加害者も、ハッとして横を見やる。
そこに立っていた人物の無表情に、男は一瞬顔を青くした。
「シャイン!」
同時に顔色が変わったのは、グララ。
一番仲の悪い知り合いであり、顔見知りだからこそ性質の悪い存在。
なにも今登場してこなくてもいいではないか。
「・・・何してんの。」
そう問うシャインの表情は、酷く冷たかった。
それはもう、グララがゾッとしてしまうほどに。
けれどもどうしたことか、嘆かわしいことに男はその気配に気が付かない。
「え、あぁ、今な・・・そう、シャインはグララ大尉が嫌いだったな!一緒にやろうぜ。好きにしていいから・・・」
「何してんの。」
再度問いかけたその言葉は、今度はグララに対してだった。
この男が当てにならないと察したのだろう。
しかし最初に自分に尋ねてくれなかったことに、グララは相変わらずのシャインの性格の悪さを恨む。
そんなに嫌わなくてもいいのに。
「・・・え、と・・・」
「言えねぇようなことしてんのかよ。」
見ればわかるだろうと言いたい気持ちをグッと抑える。
最初から彼を味方だとは思っていない。
けれども、少なくともこれ以上この話が広まるのだけは、防がなくてはいけなかった。
なんとか誤魔化す方法を探しているうちちに、シャインは盛大なため息をつく。
男は何を勘違いしたのか、そんなシャインの肩に手を乗せて笑った。
「シャイン、違うとこに移動して・・・グァッ!?」
グララの方を見たまま、シャインは拳を男に打ち付けた。
まるで裏切られたような顔をしている男を見たのは、グララの方だった。
「シャイン・・・っ!」
驚いた。
手を出すような雰囲気なんて、これっぽっちも感じなかったのに。
シャインは倒れた男を見ることもせず、グララに向き直る。
ビクリと肩を跳ね上げたグララを見下しながら、罵るように口を開いた。
「お前バカじゃねぇの。なんでこんなとこいるわけ。同僚を誘惑でもしてたのか?それとも、自分が強いとでも思ってんのかよ。」
起き上がろうとした男の脇腹を、やはり一瞥もくれずにシャインは蹴り飛ばした。
アサシンに受け身をとらせない手の速さには、グララも恐怖を覚える。
呻く男を心配して横を向いたグララは、けれどもすぐにシャインに頭を掴まれて戻された。
「黙ってんのかよ。ジララに突き出すぞ。」
それは最大の脅し文句。
今グララが一番恐れていることだから。
「それはやめろ!!」
そしてそんなグララの弱点を知っていたシャインもまた、何かジララに後ろめたさでもあるのだろうか。
「・・・チッ、御人好し。」

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。