小指ほどの鉛筆

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15.嫉妬(ジラ→グラ)

2011年02月22日 12時55分17秒 | ☆小説倉庫(↓達)
ジララは長い通路を歩いていた。
引退してしまった今では、仕事もないアサシンはただの浮遊するガラクタで。
とくにやることもなく、会う人もなく、故に放浪していた。
そうだ、グララに会おう。と。
そう思ったのは、彼もまた自分と同じ立場にいる人間であったから。
カゲゲに会うには理由が必要だし、ユララに会うには少し緊張する。大佐に至っては、用もなく会いに行くのは気まずい。
グララなら、この持て余した時間を有効活用する、たとえば読書に適した本でも貸してくれることだろうと思ったのだ。
そうと決まれば、進む方向は定まった。
ジララは慣れた道を進む。
しかしアサシン寮の手前、渡り廊下の隅で、目的の人物を見つけてしまった。
グララは通路のくぼみに少し入り込んでいて、壁際にはもう一人いる。
ジララはとっさに隠れてしまった。その必要は無いはずなのに。
しかし隠れてしまった手前、もう自然な形では登場できない。
ジララは半ば意図的ではあるが、仕方なく二人の会話に聞き耳をたてた。
グララの話している相手は、どうやらテルル大佐であるようだった。
「お前は、俺のことが好きか?」
いきなりとんでもない質問が聞こえてきて、ジララはビクリとする。
グララの返答を、自分は聞いてしまっていいのだろうか。
「・・・いきなりなんだよ。」
「いや、お前の部屋に行こうとしたのに、手前で止められたってことは、俺が来ることが想定の範囲内だったわけだろう?愛されてるな、と。」
「そう思うんなら、そうなんじゃねぇか?」
「わかってくれ。お前の口から聞きたいんだ。グララ。」
「そういうの嫌いだぜ。カップルごっこならするつもりねぇからな。」
「ごっことは失礼な。本気だよ。」
「ばかじゃねぇの。」
照れる様子もなく、お互い自然に、本当にごく自然に、会話をしている。
聴いているこっちが恥ずかしい。
しかしこの様子。二人は結局、付き合うことになったのだろうか。
それが二人にとっても、大佐にとっても、もちろん自分にとっても一番いい結果であるのは確かだが。
「そろそろ、後輩達のことは忘れて。俺と・・・」
少しだけ、動揺した。
俺を愛おしい目で見ていてくれたグララを思い出して、ちょっとだけ寂しくなった。
懐かしい以前に、悔しい。
テルルの言葉が、なぜだかとても許せないような気がした。
これはもしかして、嫉妬?俺が、グララのために?
ありえない。
そう何度も頭を冷静にしてみるが、どうしても先ほどのテルルとグララの様子が頭から離れなかった。
とても楽しそうな顔をしていた。
まるで昔の自分に見せていたように優しい笑みを、あの男にも向けていた。
そのことが、どうしてこんなに苦しい?
グララの気持ちを断り続けてきたのは、他ならぬ自分だった。
今では、それが正しかったのだと確信している。
グララは昔からテルルが好きで、彼が死んだ後、自分はその穴埋め、いや、グララの道化に付き合わされただけ。
本気にしなくて正解だったのだ。
けれども、今になってそのことが少しだけ悔やまれる。
どうせなら、本気で応えてみればよかった?
そうしたらグララは、自分を本当に好きになった?
それとも、申し訳なさそうにして謝っただろうか。
「俺と、なんだよ。」
ニヤリと、挑発するような視線でグララが笑う。
テルルはグララに一歩近づいて、その耳元で囁いた。
「俺と、新しい人生をはじめないか?」
テルルの言葉に、ジララは脱力したくなるような気持になった。
なんだそれは。
「40点の口説き文句だな。」
同感だ。と、ジララはひっそりとため息をつく。
「厳しいなぁ。」
「妥当だ。俺を惚れさせんなら、もうちょっとグレードアップしてこい。もしくは・・・」
耳元に顔を寄せていたテルルの頬に、グララは小さく口づけた。
テルルがバッと身を離し、呆気にとられる。
ジララもまた、とんでもない場面を見てしまったと小さくなった。
バレたらまずい。
いや、まさか既にバレていて、自分をからかうためにやっているのかも。
そうだとしたら、ある意味更にまずい。
「行動で示すか?」
「っ、男前だな、グララは。」
「だろ?」
「敵わないか。」
テルルが微笑み、グララはズボンのポケットに手を入れて、アサシン寮の方を向いた。
そろそろ会合が終わるのだと分かり、ジララは安堵する。
最後まで気配を悟られぬよう、細心の注意をはらいながらその場を後にした。
何故だか頬が熱い。
テルルになされたその行為が、まるで自分に対してされたことのような気がする。
昔、自分がまだアサシンに入ったばかりの頃、やはり彼はそうやって、自分の頬にキスをした。
歳の差が差であったし、自分の歳もまだ幼いころだったから、それは子どもに対する愛情のキスなのだとわかった。
ならば、今のは?
愛おしいと思う気持ちが同じなら、この差は、なんだ。
自分にされたものと何が違うのか。
どうしてこんなに、今になって、彼からのキスが狂おしいなんて。
「・・・!ジララ。」
アサシン寮とは逆方向の、突き当りのテラスに腕をかけていた。
向こうから来るテルルを見るために。
気が付いて外に出てきたテルルに、ジララは軽く会釈した。
「どうしたんだい?こんなところで。」
本当はアサシン寮に行くつもりだったのに。とジララは思う。
まぁいい。目的とは違う所に辿り着いてしまったが、こちらの方が暇つぶしになりそうだ。
「暇だったからな。」
「アサシン寮には行かないのかい。」
「・・・検討したが、行ってもすることがないと思ってな。」
「それで、こんなところで黄昏ているのか。」
「そんなところだ。」
冷たい風が吹いて、ジララの髪がゆらゆらと揺れた。
それを見て、テルルはどこか寂しそうに微笑む。
同時に揺れたテルルの長い襟足がキラリと光って、一瞬だけ大佐と同じ色になった。
「俺も、暇だなぁ。」
テルルもテラスの柵に背を預けると、ジララのことを見上げる。
にっこり笑った顔に、ジララは少しだけ、ほんの少しだけ、嫌悪感を覚える。
余裕の表情に、プライドが傷ついたのかもしれない。
先ほどまでグララと話していたのに、その動揺も引きずらないものだから。
「・・・グララとは、付き合うことにしたのか?」
自分の口からこんな質問が出てくるとは、正直想定外だった。
けれども、気になるものは仕方ない。
気になって気になって、きっと夜も眠れない。
「ん?あぁ。付き合ってください。って言ったら、頷いてくれた。」
「そうか・・・」
あのグララが。
「残念かい?」
からかうような質問に、ジララは静かに首を横に振った。
「いや、むしろ安心した。」
「そう?」
「大佐はそれを望んでいた。貴方が手に入らないなら、貴方の一番愛する人に奪われてしまいたい、と。」
テルルは相変わらず微笑みながら、それでも寂しそうな顔をした。
そんな必要はない。お前はただ、幸せになればいい。それが大佐の願いなのだから。
ジララは首を仰け反り、空を見上げた。
青くて、高い。
人工的ではあるが、それゆえに、あの頃と何も変わらない空だ。
「グララは、あの頃からちっとも変っていない。」
「・・・そうか?」
「少なくとも、俺にはね。何も変わらないんだ。付き合うって、こんなに味気ないものなのかい?」
味気ない、とは何事だ。
恐らくグララは、それなりに対応を練っているはずなのだから。
「アイツは変わった。お前がいなくなって20年も、どこか知らない土地で過ごし、戻ってきたときには、全てを悟ったような顔をしていた。」
あれほど人を愛し、守り、軍に仕えてきた男が、これほどまでに人間らしくなってしまうものかと、安堵感と共に絶望すら感じた。
彼はもう、軍での矛盾に囚われることはないだろう。
それはつまり、テルルとも、ジララとも、個人として接していくということなのだ。
ジララが尊敬したのは、アサシンとしてのグララだった。
冷静で、強くて、優しくて。
それを失うということはつまり、完全なる過去との決別も表すのだろう。
「アイツはもう、アサシンじゃない。一人の人間だ。一人の人間としてお前と付き合うんだ。それがどれほど度胸のいることか、お前に分かるか?」
ジララは少し強い口調でそう言った。
昔から、アサシンの誰よりも人間らしいのはグララだった。
しかし同時に、アサシンらしからぬ異常なまでの人々への愛は、一般常識ですらなかった。
彼はいつも、誰かを愛していたかった。
殺さねば生きてはいけぬ世界に、どうして自ら入り込んだのかは分からない。
けれども、そうしなければいけない身であったのなら、誰かを殺すのは、せめて誰かのためであってほしかった。
愛するしかなかったのだ。
それは、一つの生きる選択肢だった。
軍を異常なまでに過保護していたグララの戦闘を思い出して、ジララは顔をしかめた。
「やっと、アイツは必要に迫られることなく誰かを好きになれるようになったんだ。俺は、ゆっくりでも、その過程を見届けたい。」
心とはなんだろうか。
ゼロロがドロロになったように、グララもまた、アサシンであった自分から、素の自分へと変わった。
取り戻すことは、失うことと同じ?
得ることもまた、失うことと同義なのだろうか。
心が依然、分からない。
そんな自分にグララは、焦らなくても良いと微笑んで、頭を撫でてくれるのだろう。
その優しさを、強さを、自分は学んでいきたい。
「愚問かな?グララは全力で俺と向かい合ってくれていると思うかい?」
「愚問だな。当たり前だろう。」
そうでなければ、どうしてあんなに穏やかな表情を見せるだろう。
どうしてアサシンとしてではなく、グララとしてテルルの傍にいられるだろう。
「そう、か。」
ならよかったと安堵するテルルに、ジララは2度目の嫉妬をした。
愛されていることを不安がる必要なんてない。
グララはずっと、テルルが好きだった。
そのことを自分は、いつのまにか知っていて。
どうしてかって、そりゃ、あんなに嬉しそうな顔をしていれば、いくら表情の豊かなグララだって、ポーカーフェイスのアサシンだって、見抜けてしまうに違いない。
格別だった。自分たちアサシンの後輩に見せる笑顔と、テルルに見せる笑顔とは。
全然、違っていたのだ。
「お前は高望みをし過ぎだ。アイツは昔からお前が好きだった。」
「どうして、そう思うんだい?」
思うんじゃない。
知っているんだ。
だって、ずっと、ずっとその背中を追いかけてきたから。
「俺はアイツを見て育った。表情の変化くらい、気づけて当然だ。」
少し誇らしげなその様子に、テルルは苦笑してから背筋を伸ばした。
「じゃあ、ライバル、かな。」
「は?」
「俺も、グララのことはよく見ていたつもりだったんだけど。君には敵わなかったらしい。好きなんだね、グララのこと。先輩としてかな?」
「・・・勘違いするな。俺はアサシンとしての洞察力に優れているだけだ。お前と同レベルで見られては困る。」
「ははは。師弟揃って手厳しい。」
テルルは笑うと、テラスを出た。
ジララは相変わらずそこにもたれかかっており、テルルが手を振って帰っていく様子を、じっと眺めていた。
それからやっと、ため息をつく。
少しムキになったかもしれない。
尊敬する先輩も、手塩にかけた後輩も、次第に心とやらを取り戻しては幸せになっていく。
それをじれったく思う自分がいることも確かで。
未だちゃんと理解できていない自分を、ムチで追い回すように競りたてた。
嫉妬。
それは彼の恋人に対してなのか。はたまた、彼の進む優しい未来に対してなのか。
まずはそれを理解するまでに、ジララは更に時間を要することとなった。

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