電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宇佐江真理『通りゃんせ』を読む

2016年10月05日 06時01分05秒 | 読書
出張先で見つけた角川文庫で、宇佐江真理著『通りゃんせ』を読みました。
主人公・大森連は、スポーツ用品メーカーの社員として東京に転勤することとなり、交際相手と別れた失意と孤独を、休日のマウンテンバイク&アウトドア生活で紛らせています。そんなある日、甲州街道の旧道にある小仏峠で滝の水を汲んでいるときに地震に遭い、天明六年にタイムスリップしてしまいます。

助けてくれたのは、青畑村の時次郎とさなの兄妹でした。時次郎は青畑村の領主である旗本の松平伝八郎の命により、青畑村に配された間者の役割を負っており、連を従弟として養ってくれるのですが、天明の大飢饉が迫る不順な天候のせいで、百姓たちの動きも不穏です。庄屋の家が襲われ、庄屋が殺されるという事件が起こり、身元を疑われた連は時次郎の計らいで江戸の領主家の中間として住み込むこととなります。それでも天明の大飢饉はじわじわと百姓たちを襲い、青畑村も無事では済みませんでした。



タイムスリップ小説にはいろいろなパターンがありますが、本作は何の力もない現代の若者が地震をきっかけに天明の大飢饉の時代に投げ込まれる話です。女性作家らしい、なるほどという展開でした。個人的には、冷害に強い稲の品種の話だとか深水などの栽培技術による対策だとか、人智をしぼって対応してみてもかなわない気象災害の冷酷さを描いてほしいという思いもありますが、それは農業の経験のない作家には無理なことなのでしょう。さなさんとのご縁は、ちょいといい話でした。


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