電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

中岡哲郎『日本近代技術の形成~〈伝統〉と〈近代〉のダイナミクス』を読む

2016年02月01日 06時02分58秒 | -ノンフィクション
明治期の技術移転について、ある程度詳しく知りたいと思い、購入して読み始めた中岡哲郎著『日本近代技術の形成~〈伝統〉と〈近代〉のダイナミクス』を読んでいます。当初の目的であった、当ブログの「歴史技術科学」カテゴリーの記事の参考に、というねらいを超えて、ひじょうに有益な、おもしろい本であると感じました。

本書の構成は、次のとおり。

第1章 工業化の始点
第2章 武士の工業
第3章 明治維新と工部省事業
第4章 過渡期の在来産業~その原生的産業革命
第5章 機械紡績業の興隆
第6章 工部省釜石製鉄所から釜石田中製鉄所へ
第7章 近代造船業の形成
第8章 日本近代技術の形成

この中で、とくに印象深かったのが、工部省釜石製鉄所の破綻・失敗と、釜石田中製鉄所の成長のプロセスです。木に竹を継ぐような大規模技術移転が失敗し、在来のシステムを生かした小規模経営は一定の成功を見ます。しかし、鉄鋼石を還元する炭素Cを木炭に依存する限り、やがて周辺の森林を破壊しますし、遠方での木炭製造と運搬はコスト増を招くのは必至で、結局はコークス還元に転換せざるを得ません。良質のコークス製造を含めた製鉄所全体のシステムは、在来の木炭使用型の小型高炉と新規のコークス使用型の大型高炉とを併用して経営することになります。

このあたり、助言し実際の改善に携わったのが、工部大学校を前身とする東京大学工学部の野呂景義とその弟子の香村小録であったところが注目されます。「維新の志士」世代の無謀な計画が頓挫し、近代工学を体系的に学んだ世代が実地に応用を工夫努力することによって実現をみることで、社会的評価を高めて行ったプロセスと言えます。


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