マロンの名前で、いつも思い出すのは、子供の頃に頂いた、フランス製の高級なマロン・グラッセのコト。金箔の刻印がほどこされた、シックな厚い紙のフタを開けると、光沢を放つエンジ色の布の台座に、金色の紙に包まれたマロン・グラッセが納められていました。 その中からひとつをつまみ上げ、心を躍らせながら、丁寧に包みをむいて、大粒のソレを、口の中に放り込むと、クラクラするような高級な感じの香りが広がったんです。しかし、ソレを噛みしめた瞬間に、恐ろしいほどの甘さが歯にしみました。『高級な感じの香り』だと感じたのは、おそらくブランデーの香りで、刺激的な甘さを、いっそう引き立てていました。気を引き締めて、もう2、3度噛んでみたものの、味わうコトなど出来るはずはなく、そのまま飲み込んでしまいました。 「マロン・グラッセっていうのは、こういうモノだったのか」と思ったワタシは、大人になるまで、いかなるマロン・グラッセも、決して口にするコトはありませんでした。 どうして、わが家の2匹の猫たちに、選りに選ってプリン・ア・ラ・モードやマロン・グラッセなどの、苦い思い出を連想させる名前をつけてしまったのか、と思うコトがあります。でも、実はプリマロと暮らすようになったから、ずっと眠っていた思い出がよみがえったのです。数ある苦い思い出の中で、あの2つの思い出が、ワタシにとって特別なモノとして記憶されるコトになったのでした。 |
プリンの澄ました顔を見ていると、ときどき、『プリン・ア・ラ・モード』という言葉が脳裏を過り、続いて、プリン・ア・ラ・モードの姿が、頭にポワンと浮かびます。何十年か前に、デパートのレストランのショウ・ケースに並んでいた、サンプルのイメージそのままの姿です。 そして最後に、いつまでも忘れられない子供の頃の苦い思い出が、フーッとわいてきます。あの特別にゴージャスなサンプルの容姿に憧れて、一度だけ母に注文してもらったプリン・ア・ラ・モード。本物のプリンのカラメルの苦さが、幼かった私の舌には馴染まず、プリンだけ残すはめになってしまったプリン・ア・ラ・モード。 プリンの名前と、ちょっと澄ました表情が、ほろ苦いけど、私にとってはスペシャルな、プリン・ア・ラ・モードの思い出を、強く呼び起こすのです。
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