還暦学生、「奈良学」に取り組む記

リタイアを機に「通信大学生」になった60歳。「趣味」の古代史を「学問」に近づけようと奮闘中。

考古学概論 4 年輪年代法とはどのような年代決定法か

2006年07月07日 | 考古学概論
木の年輪細胞は、樹皮と内側の樹幹の間にある形成層で作られる。春から夏にかけて細胞が発達し、夏を過ぎるとその発達が抑制される。このことによって年輪の細胞密度の濃淡が生まれる。また年輪の幅は、春から夏にかけての気温や雨量に左右され、夏が寒冷な年は狭くなり、温暖な年は広くなる。この年輪幅の変動パターンを利用して、指紋照合のように年代を決定するのが年輪年代法で、20世紀始め、米国の天文学者・ダグラスによって開発された。

実際に用いるには、古い木材のデータをいくつも重ね、標準となるパターンを作る必要がある。このパターンを確立できれば、パターンを重ね照合することによって、未知資料の年代が分かる。ただし照合する標準パターンは、未知資料が生育した土地と限りなく同一の地域ごとに作られることが望ましい。気候変動が似通っていなければ、照合パターンとはなりえないからである。

欧米では約1万年前までの標準パターンが作られているが、日本の標準は奈良文化財研究所で作成され、スギで前1313年まで、ヒノキで前912までなどのパターンがそろっている。最近では法隆寺五重塔の心柱の伐採年が、後594年との測定結果が発表され、法隆寺の再建、非再建論議に貴重なデータを提供した。

パターン策定には100年以上の年輪を持つ、保存のよい木材資料が必要といった制約があるが、測定制度が極めて高い上に、測定が非破壊で行うことができるということからも、優れた方法である。