読書感想日記

最近読んだ本の感想

『乃木希典』 福田 和也 著 文藝春秋

2009-01-31 22:17:21 | 歴史物
 自分の命令一つで、何千何万人もの兵士を、戦場へ送り込む…
 本来の兵士はもちろん、召集されて戦地へ赴いてきた人々には、それぞれの人生があり、家庭には愛する家族が待っていて、大成したかも知れないやり残した仕事があって…そんな人々を、国のため、を大義として、死が口を開いて待っている場所へと進ませなければならない…
 乃木希典という人は、そのような自分の立場がとても苦しかったのでしょう。
 それら兵士を納得させるため、いや、そんな命令を下す自分自身を納得させるために、ただひたすら「徳」を極めようと、自らを追いつめんとばかりに生活を律し、まるで、死に場所を求めているかのような悲壮な人生…
 そして、運命に翻弄されつつも懸命に彼を支えた家族…
 日本では、能力主義が唱えられ、人格者な人は必要とされない社会となりつつあった時代の中で、彼を認めたのは、彼が忠誠を誓ってきた人であり、少年時代の昭和天皇の指導教育を彼に任せた明治天皇だったのです。
 以前、別の本を読んで、乃木希典という人は現代の日本に必要な人だ、と思ったのですが、まさに今、現れてほしい人だと痛感しました。
 もしかすると、時代が彼を、いや彼が無理だとしても、彼のように立派な人を近いうちに生み出してくれるような気がします。
 この本はとても読みやすく、乃木希典という人の入門書に適していると思います。
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『東京裁判「パル判決書」の真実』 太平洋戦争研究会 PHP研究所

2009-01-24 21:59:19 | 歴史物
 訴因について、証拠によって証明される事実からしか判断してはいけない。
 それが裁判の大原則である。
 太平洋戦争の責任を追及すると称して、戦勝国側が日本を裁くために開いた各裁判で被告とされた人は、戦争当時、重要な任務の指導的立場にいたこと、また、戦争とは人道的に許されない最大の暴力行為であることは間違いないでしょう。
 それら裁判の中でも、東京裁判と呼ばれている裁判は、A級の被擬事実、つまり戦争を共同謀議した、として起訴された人々を裁くために開かれ、ここで、被告人たちの無罪を唱えた人が、パル判事である。
 彼の主張は、明瞭だ。この裁判では、被告人たちが戦争を共同謀議した事実を証明する証拠は、ほとんど提出されず、よって被告人を有罪と認めるには至らない、としたのだ。
 ただし、日本の起こした戦争そのものを無罪としたわけではない。
 あくまでも、裁判の大原則に基づいて、被告人に対して下した結論である。
 そして、意見の端々に、戦勝国となった者たちへの批判もにじませる。
 裁く側となった人々の国は、はるか昔から、多くの国々に対して侵略行為をして、財物を略奪し、現地の人々を滅ぼし、奴隷とした結果、繁栄してきたのではないか。そして、その関係は、未だに続いているではないか、と。
 パル判事の意見ではないが、この裁判では、同じ戦争当時における行為であるにもかかわらず、一般市民に対して原爆を使った米国や、数万人もの日本人捕虜をシベリヤで強制労働させた露国の行為等に対する責任については、訴因となっていないため、全く触れられていないのである…
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『女工哀史』 細井 和喜 著 岩波文庫

2009-01-08 01:27:51 | 歴史物
 女工となった一人の少女の悲しい人生…という話しを想像していたのですが、実際は、大正時代における紡績工場での労働者、中でも女工と呼ばれる女性労働者の実態が、論文形式で記されていて、その緻密な内容に驚きました。
 これは、義や徳という人格よりも、技術を重んじる技術偏重主義に陥りはじめた日本の姿であり、その発展の礎には、実家への仕送りのために、喜んで自分の青春時代を捧げた、あまりにも数多くの少女の優しさを犠牲にしている、という事実である。
 最後まで冷静な文章で書かれているため、悲しい、というよりも、とても重いものが心に残りました。
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『乃木希典の世界』 桑原 嶽、菅原 一彪 編 新人物往来社

2009-01-01 16:46:52 | 歴史物
 以前から、乃木希典という人について知りたいと思っていました。
 一カ所の戦地で多大な部下の生命を犠牲にした人物というイメージが強く、神として全国で何カ所もの神社に祀られている人物とつながらなかったのです。
 その生涯を記した本を読むつもりで、題名でこの本を選んだら、立派な肩書きの著名な方々による評論集のような内容だったので、内容を確かめなかった自分のことをすっかり棚に上げて、少々がっかりしつつ読みはじめました。
 しかし、それぞれの文は、短編集のように簡潔にまとめてあり、またそれぞれの視点が異なるので、とても興味深く読ませていただき、乃木希典という人は、戦略・戦術に優れた軍人としてよりも、優れた人格者として現代でも最も尊敬されるべき人物の1人であり、いつか、乃木神社へお参りに行ってみたい、と思うようになり、また同時に、当初この本に軽く失望した自分を罰当たりだと反省しました。
 そして更に、名越二荒之助さんが書かれた「乃木希典の世界」という文を読ませていただいたことで、この本に出会えたことに感謝したいと思いました。日頃から私が疑問に思っていること、日本人が日本を大切に思わなくなった理由が、明確に述べてあったのです。
 確かに、人間が人間を評価することは、とても難しいことだと思いますが、自分の国の選手が全力を出して良い成績を出しているのに、過小評価ばかりするようなコメントを流す報道を堂々と流している国は、日本くらいでしょう。また、観客の方の声援で一目瞭然であると感じましたが、大きな壁を乗り越えて努力している人の迫力ある演技について、なぜ評価が低いのでしょうか。
 なぜ、努力することや、国を誇る気持ちを蔑んでしまうのでしょう。
 経済的だけでなく、真に日本を世界に誇れる国に変えてくれる人が現れることを祈るばかりです。
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