碧田直の いいじゃないか。

演劇ユニット、ミルクディッパー主宰の碧田直が、日々を過ごして、あれこれ思ったことを、自由気ままに綴ります。

無題そのさんじゅうご

2016-05-23 13:12:44 | 日々
以前、先端(尖端?)恐怖症の傾向があることを書いた。いわゆるはさみとか、ペン先とかに恐怖心を覚え、眉間のあたりがムズムズしていられなくなる症状のことだ。

実をいうと、自分ははさみもペン先も大丈夫だ。顔の近くに持ってこられるとキツいが、使用する分には支障ない。耳かきなんかも平気だし、症状自体は軽いのだと思う。

調べてみたところ、重い症状の人になると、起き上がることもできなくなるそうだ。部屋中の尖端という尖端が怖いらしい。
自分も一度だけ、テレビの角が怖くなったことがあったが、無類のテレビっ子だっただけに、克服もあっという間だった。角を見ずに、画面に集中すればいいのだ。テレビの角だけ凝視している人間はいない。これは簡単だった。

床屋は大の苦手だが、丁寧にやらず、顔の近くに刃先を持ってくることがなければ、どうにかなる。特にもみあげや、耳の周りの散髪は地獄の苦しみなので、もういっそのこと刈り上げてしまおうかと思ったりもする。

だが、この数年、新たな尖端恐怖症が現れ、俺を悩ませている。しかも、実は尖端関係ないのに、ある場所にいると、同じ症状の恐怖を感じるので、秘かに困っているのだ。
尖端恐怖症の恐怖を感じるのに、尖ったものが関係ない場所。それは……。

電車の座席である。

……まあ、話は最後まで聞いてほしい。あるときのこと、電車の座席に座り、長旅だからと目を瞑った途端、眉間のあたりがムズムズしはじめ、次第に恐怖を感じるようになった。いてもたってもいられず、突如として叫びたくなるような恐怖。うまく言えないが、そういうものだ。そして、それはまさに尖端恐怖症の時に感じるのと同じだった。

しかし、不思議なことにどこにも尖ったものはない。試しに立ち上がり、しばらくつり革につかまってみても(空いていた)、何の恐怖も感じないのだ。それはそうで、つり革は丸いし、座席も柔らか、尖ったものなど、どこにもないのだから。

それでふたたび座り直し、目を瞑ると……やっぱりムズムズし出した。眉間に手を当てて気を落ち着かせる。理由はわからないが、こうすると落ち着くのだ。手を離すとムズムズ。当てるとホッ。ムズムズ…ホッ…ムズムズ……はたから見れば、目を閉じて眉間に手をやったり離したりしている姿は、ただのアブナイ人である。しかし、当人は真剣なのだ。真剣に原因を追求しているのだ。
何度か繰り返して、ふと気づいた。これは床屋の椅子と同じだと。

床屋では、髪を切られている姿が鏡に映るのを見ていられないため、いつも目を瞑っている。それがかえって恐怖を煽るときもあるが、目を開けてはどうしてもいられないので、固く瞑ることもしぱしばだ。

いまのシチュエーションは、まさにそれ。 床屋を思い出す格好だからムズムズしたのだ。では眠らなければいいのかと考えた。いやだ、電車では眠りたい。ではいったいどうすれば……。考えているうち、猛烈に眠気がきて、最寄り駅まで寝て着いた。

以来、電車で一眠りするまでは苦労している。頬杖ついたり、全身リラックスさせたり。しかし、いまだにすぐには眠れない。我が身はこんなにデリケートだったのか。しかし、絶対に克服してみせよう。全力で眠ってやるのだ。恐怖症などに負けてたまるか。アブナイ人は毎朝こうして、人知れず戦っているのである。
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