「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#93)

2017年07月01日 01時48分32秒 | RUN&GUN風土記
メトロの浅草駅に降り立つと、湿った空気に混じって細かな雨粒が肌を濡らした。 雄也は雨に濡れないよう、持っていたレジ袋の口を縛り直して、幸佑のアパートへと急いだ。
アパートの階段付近までやってくると、ふと人の気配を感じてあたりを見回す。
すると、少し離れたところにある植え込み付近に、人影が見えた。 はじめはアパートの住人かと思ったが、それにしてはどこか違和感がある。
目を凝らすと、手にカメラらしきものを持っているようにも見える。
訝しげにじっと見つめる雄也の視線に気づいたのか、その人物は怪しい動きで木の陰に身を隠した。
雄也はますます不審感を募らせたが、これといって特に何をしてくるわけでもない。 いつまでたっても木の陰から出てくる気配もないので、後ろ髪を引かれながらもその場から離れ、階段へと向かう。
鉄製の階段を上るカンカンという乾いた音だけが周囲に響く。 やがてドアが開閉する音を最後に、あたりには静寂が戻った。
それからしばらくして、木の陰に隠れていた人物がゆっくり姿を現し、雄也が消えて行った部屋を見上げると、手にしていたカメラを握り直して静かに歩きだした。


 「思ったより早かったな」
雄也の濡れた髪を見て、タオルを差し出しながら幸佑がそう言うと、まぁな、と雄也が答える。
 「雨降ってきたから、急いで来てん」
受け取ったタオルでがしがしと髪を拭き終えた雄也が、さっぱりしたような表情で幸佑の隣に腰を下ろした。
 「とりあえず、乾杯しようぜ」
レジ袋から缶ビールを取り出して一つ幸佑に手渡し、自分もプルタブを開ける。 そしてお互い缶を掲げると、雄也が音頭を取った。
 「幸佑の映画クランクアップと、俺の退院を祝して・・・」
乾杯~!という掛け声とともに、二人は缶を合わせてビールをひと息に飲み干した。
ふーっと気持ちよさそうなため息を吐いた雄也が、幸佑に問いかけた。
 「・・・過換気症候群って言うたよな、おまえ倒れたの」
 「うん」
 「何か・・・あったんか?」
 「何かって?」
ツマミに手を伸ばしながら、幸佑が無邪気に尋ね返す。 雄也は早くも2本目の缶を開けながら、ためらいがちに口を開く。
 「いや、あの病気ってストレスか何かが原因って聞いたことあるから・・・。 仕事で何かあったんかと思て」
 「ああ・・・」
幸佑はツマミに伸ばしていた手を止めて、少し間を置いてから口を開いた。
 「・・・慣れへん映画の仕事が続いて、ちょっと神経をやられたんやろ。 共演者もベテランばっかりやし、緊張も半端なかったしな」
言い終え、ふと視線を逸らす。 嘘ではない。 確かにそれも要因のひとつとは思うが、肝心のことはとても言えなかった。
桐畑に迫られ、挙句付き合ってくれとまで言われたなど。
からかわれているだけなのはわかっているが、それでも雄也にこんなことを言えるわけがない。
そんな幸佑の心の葛藤を知る由もない雄也は、それでも納得したのか、少し痛そうな表情をしてそうか、と目を伏せた。
自分の身を案じてくれている雄也に、茶を濁したようなことしか言えない自分が情けなくて、幸佑は密かに唇を噛んだ。 知らず知らず、缶を握る手が小さく震えていた。
その様子に気付いた雄也が、どないした?と声をかけてくる。
 「もしかして、また具合悪くなってきたんか?」
そう言われて、幸佑はようやく自分の尋常でない様子を自覚した。 慌てて笑顔を取り繕い、平静を装う。
 「大丈夫、何でもあれへんよ。 それよりおまえの方はどうなんや? 今日も仕事やってんやろ」
 「ああ、来月のお盆過ぎから舞台でな。 今日は顔合わせやってん」
 「へえ、どんな舞台? 誰と共演すんの?」
長い闘病生活を終え、ようやく念願だった役者の世界に戻れたことがよほど嬉しいのだろう。 雄也は満面の笑顔で次の舞台のことを滔々と語り続けた。
 「・・・・・・そっか。 いい舞台になりそうやな。 暇見つけて俺も観に行くわ」
 「うん、来る日にち決まったらチケット取っとくわ」
 「で、体調の方はどうやねん?」
 「もうすっかりええで。 半年後の検診までもう病院も行かんくていいし」
その言葉を聞いて、心底安心したように幸佑がふわりと微笑みを浮かべた。 その柔らかな笑顔に、ふと雄也がドキリとする。
急に、幸佑を意識し始めてしまう。
目に映る彼の白くしなやかな指、すらりと伸びる腕などがやけになまめかしく見えてしまい、思わず目を逸らす。
胸に芽生えたやましい気持ちを払拭すべく、ビールを一気に煽る。 そんな雄也を不思議そうに眺めつつも、幸佑が話しかける。
 「でも、退院するときくらい言うてほしかったなぁ。 迎えくらい行けたかも知れへんのに」
 「あ・・・いや、仕事の邪魔すんの嫌やったから・・・」
相変わらず幸佑から目を逸らしたままボソッと呟く雄也に、幸佑がふっと微笑んだ。
 「そんなに気遣わんでええのに。 あ・・・でも、退院の時は里美さん来てんやろ? 彼女がおるのに俺が行ったら邪魔やったかもな」
 「そんなことは・・・」
 「里美さんとはうまくいってるんか? あ、もしかして明日の休みはデートか?」
 「・・・・・・・・・」
急に黙り込んでしまった雄也に、幸佑も言葉を止めて彼を見る。 しばしの間の後、雄也がぽつりと零した。
 「・・・・・・里美とは、別れてん」
 「えっ」
驚いた幸佑が、思わず雄也を凝視する。 すると、なぜか雄也がふっと苦笑いを漏らした。
 「いや、正確には俺が振られてん。 あいつから別れようって言われたし・・・」
 「・・・・・・・・・」
今度は幸佑が言葉を喪う番だった。 思いがけない事実に、脳が理解することを拒否している。
あんなに雄也を想っていた里美が。 嘘をついてまで幸佑を雄也から遠ざけようとしていた里美が。
いつかの、自分を見る彼女の哀しくも烈しい目が心に残る。 本能で、恋人に纏わりつく恋敵を見抜いていた。 
そんな里美が、自分から別離を告げるなど、到底考えられない。 いったい彼女の中で何が起こったのだろうか。
 「・・・・・・でも、おまえは里美さんのことまだ好きなんやろ。 里美さんかてきっとそうやろ。 なんで・・・」
 「・・・・・・・・・」
雄也には、何も言えなかった。 
幸佑を愛してしまったがゆえに、里美に残酷なことを言わせてしまった自分。 きっと血を吐くような想いで別れを告げた里美の優しさに、結局は甘えてしまった。
ふと、自嘲の笑みが漏れた。 自分を愛してくれていた里美の心を踏み台にして、のうのうと日々を過ごしていることがたまらなくなる。
 「・・・・・・とにかく、俺は振られたんや。 あいつも俺みたいなつまらん男より、もっとええヤツ見つかるはずや」
 「・・・・・・・・・」
吐き捨てるようにそう呟いてビールを煽る雄也に、幸佑はもう何も言えなかった。 きっと彼も色々悩んだことだろう。
第三者の自分が口を出すべきことではないと悟った幸佑は、空になった缶を置き、新しい缶に手を伸ばした。
そして、ゆっくりと二人だけの夜は更けて行った。 
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