「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#97)

2017-07-16 01:10:37 | RUN&GUN風土記
 「お疲れさまでーす!」
 「お疲れさまぁ!」
役者たちの威勢の良い挨拶が、熱気あふれる稽古場に小気味よく響く。 今日から立ち稽古が始まったことで、役者たちにも殊更熱がこもっているようだ。
最低温度まで下げたエアコンをフル稼働させてはいるが、室内に充満した熱気は演者たちに大粒の汗を流させた。
人々はタオルで汗を拭ったり、頭から水を被ったりしてそれぞれクールダウンを図る。
そんな中、里美も首から掛けていたタオルで滴る汗を思うさま拭きながら、稽古場の隅にある休憩スペースへとやってきた。
いくつか並べられた長机には、役者たちの鞄や手荷物が雑然と置かれている。 里美は自分の鞄を置いてある場所の椅子に腰を下ろし、しばし心地良い疲労感に浸った。
 「里美ちゃん、お疲れ」
声と同時に肩を叩かれ里美が見上げると、今回の舞台で初共演する山之内晴哉が笑顔で立っていた。
 「あ、お疲れさまです」
里美も笑顔を返しながら、軽く会釈する。
山之内は里美より5歳年上の先輩役者で、今回の舞台でお互い初顔合わせだった。 だがリハーサルや読み合わせなどを行っているうち、山之内からこうして声をかけてくることが多くなってきた。
雄也に別れを告げたものの、彼への想いは未だ消えていない里美にとって、この山之内の行動は複雑な気分だった。
だが、彼の持つ優しい雰囲気や穏やかな性格に触れているうちに、次第に会話することが楽しいと感じるようになってきた。
彼と話していると、不思議と心が落ち着く。 雄也とはまた違う心地良さを与えてくれる山之内に、里美もいつしか少しずつ心を開き始めていた。
そうしてしばし談笑していると、里美の鞄から携帯の着信音が聞こえた。
 「あ、ちょっとすいません」
山之内に断りを入れて、鞄から携帯を取り出す。 発信者は、玲奈だった。 意外な相手に少し戸惑ったが、里美は椅子から立ち上がり、雑音を避けるために部屋を出た。
 「・・・はい」
廊下を足早に歩きながら、電話に出る。
 『里美さんよね? 森下です。 いきなりで悪いんだけど、今から少し時間ない? 会って話がしたいの』
 「え、今からですか?」
本当に突然の誘いに、思わず聞き返してしまう。
最後に玲奈と会ったのはいつだったかも思い出せないほど、彼女とは疎遠になっていた。 それなのにいきなり電話でこんなことを言われ、里美は答返答に困った。
正直、この後予定はないため断る理由はない。 だが何か引っかかるものを感じて、素直に誘いを受けることができない。
その雰囲気が玲奈にも伝わったのか、じゃあ、と妥協案を持ちかけてきた。
 『この電話でいいから、ちょっと教えてほしいことがあるの。 雄也くんの記憶って戻ってないわよね?』
 「え?」
 『米原くんのこと思い出したかどうか、雄也くんから何か聞いてない?』
 「・・・・・・」
思わず里美が黙り込む。 なぜ玲奈は突然そんなことを聞いてくるのだろう。 心なしか、電話口の玲奈は焦っているようにも感じる。
落ち着いた大人の女性という雰囲気を纏っていた彼女の、いつもとは違うその様子に激しい違和感を抱いた。
 「・・・・・・どうしたんですか? 何か、あったんですか」
ひとまず玲奈の質問には直接答えず、少し様子を窺おうとすると、やや苛立ったように玲奈が答える。
 『あなたには関係ないことよ。 記憶が戻ったかどうかだけ教えてくれればいいから』
強い語気でそう言い切られ、里美はますます不審感を募らせた。 これは完全におかしい。 まるで強迫観念に捉われているような、切迫した気配を感じる。
だがそんな玲奈とは対照的に、あえて静かなトーンで里美はぽつりと呟いた。
 「・・・・・・あたし、雄也くんとは別れたんです。 だから、わかりません」
 『え?』
さすがの玲奈も、このひと言で言葉に詰まった。
 『別れた・・・? いつ・・・?』
 「つい最近です。 でも、その前から雄也くんとはあまり会ってなくて」
 『どうして? 雄也くんから別れようって言われたの?』
 「いえ、あたしから言いました」
 『なぜ? あんなに雄也くんを愛してたじゃない。 米原くんを憎むほどに』
 「・・・・・・・・・」
まだ血が滲んだままの心の生傷を抉るような玲奈の言葉に、里美が眉を顰める。 束の間の沈黙後、里美が絞り出すように口を開いた。
 「・・・・・・あたし気付いたんです。 雄也くんの本当の気持ちに」
 『本当の気持ち・・・?』
 「ううん、本当はずっと前からわかってたのに、気付かないふりをしてた。 だけど、そんな状態にだんだん耐えられなくなってきて・・・。 何より、
  あたしには向けられない雄也くんの愛情を近くで見てるのが辛くて、惨めで」
 『・・・・・・・・・』
 「・・・このまま雄也くんのそばにいたら、どんどん嫌な女になってって、いつか嫌われちゃうと思ったから・・・。 だから、そうなる前にもう・・・」
 『・・・・・・・・・』
 「こんなこと言うと、綺麗ごとだって思われるかもだけど、あたしやっぱり雄也くんには幸せになってほしいって、心から思えるようになったんです」
一人胸に閉じ込めていた雄也への想いを一気に吐き出す里美の独白を、それまでずっと無言で聞いていた玲奈が、ふと口を開いた。
 『・・・・・・見損なったわよ里美さん。 あなたなら、雄也くんへの愛を何があっても貫き通すと思ってたのに、そんな少女じみた感傷に捉われてあっけ
  なく手放すとはね』
 「森下さん・・・」
 『私は違うわよ。 私なら、何があっても愛する人から離れない。 いえ、離さないわ』
 「・・・・・・・・・」
それは里美に向けての言葉というよりも、独り言のようでもあり、また自分自身への誓いのようにも聞こえた。
そこに、玲奈の秘められた脆さと不安を垣間見たような気がした。 まるで呪文のように自分に言い聞かせることで、辛うじて心の均衡を保っているのだろうか。
もしそうだとしたら、もしかして玲奈は苦しい恋でもしているのか。 
こんなに美しく素晴らしい女優の玲奈をもってしても、手に入らない人の心の不思議に想いを馳せる。
 「・・・森下さん。 いつまでも報われない想いにしがみついてるのは、辛くないですか」
 『え』
 「心が抜け殻の恋人がそばにいても、虚しいだけじゃないですか? それじゃあいつまでたっても幸せになれないと思います」
静かにそう話す里美の言葉が、玲奈の胸の深いところを思いきり抉った。
玲奈自身が心に蓋をして直視しないようにしてきた真の気持ち。 それを強引に掘り起こされ、白日の下に晒された気分だった。
図星を指された玲奈は、思わず我を忘れて激しく反論した。
 『私はあなたとは違う! あなたみたいに簡単に諦めたりしないわ! それが私のプライドよ!』
叫ぶようなその声を最後に、電話は切れた。
里美は終話ボタンを押しながら、複雑な想いに駆られていた。 あんなに取り乱した玲奈は初めてだった。
それほどまでに、何かが彼女を追いつめているというのか。 いったい何に?
先ほどの内容からすると、雄也と幸佑が関わっていることは間違いないだろう。 だが雄也と決別した今、自分がそこに介入することはできない。
非常に不穏な気配を感じるが、自分にはどうすることもできない。
願わくば、雄也と幸佑の関係が壊れてしまうような事態にならないよう祈るばかりだ。
雄也と幸佑・・・。 チクリ、と胸のどこかが痛んだ。 
里美はゆっくりと深呼吸をして、その微かな痛みを振り払った。 そして山之内が待つ部屋へと戻るために、おもむろに踵を返した。

ジャンル:
ウェブログ
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 風に吹かれて(#96) | トップ | 風に吹かれて(#98) »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うーん (ちょるん)
2017-07-19 01:04:25
同じ女性として、里美の気持ちも玲奈の気持ちもわかります。
玲奈も、ある意味一途ですよね。 だいぶゆがんだ愛情表現だけど。
それにしても、桐畑が玲奈に惚れてたとは!
この二人の陰謀って、何なの???
続き、とっても気になります!!
いらっしゃいませ*(^ω^@) (ななりん)
2017-07-20 01:27:05
里美ちゃんは、結局善人なんですよね。
かといって玲奈ちゃんも悪人というわけではない・・・はず・・・ (笑)
自分の欲望に忠実なだけの、ある意味不器用な女性かもしれません。

あ、桐畑は正真正銘の悪人だと思います(笑)

老体なのでなかなかハイペースで投稿できませんが(汗)、続きを楽しみにしていただけると
とっても書き甲斐があります!
ありがとうございます(*´∀`)/

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。