「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#77)

2017年05月11日 01時04分50秒 | RUN&GUN風土記
赤坂見附の駅に着くのとほぼ同時に、空からは再び雨粒が落ち始めた。 あたりを行き交う人々の足がにわかに早まる中、雄也も駆け足で駅の中へと入った。
病院へ行くには、メトロの丸ノ内線に乗らなければならないが、なぜか雄也は丸ノ内線ではなく浅草線の方へと向かっていた。
それは無意識の行動だった。
通勤ラッシュの人ごみに揉まれながら、雄也の足はまるで目的があるかのように何の迷いもなく進んでいく。
ホームに着くと、ちょうど電車が到着したところだった。 開いた扉から雪崩のように大勢の乗客がホームに吐き出されてくる。
それと入れ替わるように、今度はホームで待ち構えていた人々が勢いよく乗り込んで行く。
雄也もぎゅうぎゅう詰めの車内にどうにか収まると、電車はゆっくりと動き出した。


雄也が下り立ったのは、浅草駅だった。 改札を出たところでふと足を止めた雄也の横を、帰宅を急ぐ人が次々と追い越していく。
雄也はしばしその場に佇んで、あたりの風景をぼんやり眺めていた。 いつか見たような気がするこの景色。 自分はきっとここに来たことがある。
脳内に広がるデジャヴに従い、雄也はしとしとと降る雨の中、再び足を踏み出した。
20分ほど歩くと、3階建ての古びたアパートにたどり着いた。 鉄製の階段を上って2階にあがり、一番突き当りの部屋までくると、雄也は足を止めた。
階段と同じく鉄製と思しきドアの横にある表札には、「米原」の表示。 紛れもなく、ここは幸佑の部屋だった。
自分の記憶に残る範囲内では、ここへ来たことはないはずだ。 だが不思議なことに、頭ではなく体が覚えている、そんな感覚に導かれるままここにたどり着いた。
雄也はゆっくりと深呼吸すると、表札の下にある呼び鈴を押した。 だが、返答はない。
もう一度押してみるが、やはり同じだった。 雄也はひとつため息をつくと、壁にもたれかかって目を閉じた。
瞼に浮かび上がるのは、病に倒れる以前の、眩い光の中で舞台に立ち思いのままに演じている自分。 様々な共演者たちと共に、ひとつの作品を創り上げる充足感。
大きな劇場に立つことはなかったが、小さな舞台だからこそ、出演者たちの一体感は素晴らしいものがあり、観客の反応も手に取るように感じることができた。
あの熱気、興奮、感動・・・。 思い出すほどに、体中の血が熱く沸き立つ。
だが、今の自分はそんな世界から遠く離れた場所で、かつての仲間たちが活躍する様を羨望の眼差しで見つめることしかできない。
目を閉じたまま、雄也は苦し気に眉を顰めた。 たった一人取り残された孤独と不安、そして恐怖が、絶え間なく雄也を襲う。
壁にもたれていた体をずるずると落とし、雄也はそのままコンクリートの通路に座り込んだ。 立てた膝の上に両肘を置き、組んだ手を額に当てて頭をうなだれる。
この荒廃した心を鎮められるのは、もう幸佑しかいないような気がした。 本来その役目に一番ふさわしいはずの里美は、もはや本音すら言えない存在になっている。
今はただ、誰よりも幸佑に会いたかった。
 (幸佑、早く帰ってきてくれ・・・・・・)
まるで呪文のようにひたすらそう心で繰り返しながら、雄也は再び目を閉じた。


それからどれくらい経ったのか、雄也は誰かの足音でふと我に返った。 音のする方に視線を向けると、待ちわびていた幸佑がゆっくりとこちらに近づいてくるのが見える。
雄也はその場に素早く立ち上がりながら、幸佑の名前を呼んだ。
 「雄也・・・」
ドアの前に佇む雄也を見て、幸佑はひどく驚いた。 なぜ彼がここにいるのか? 
雄也がここに来たのは記憶をなくす前、それも2回だけだったはず・・・。 突然のことに混乱している幸佑に、雄也が訴えかける。
 「急にこんなとこまで来て悪い・・・けど、どうしても会いたくなって・・・」
じっと目を見つめながらそう言われて、幸佑は思わずドキリとした。 急に激しくなった動悸に阻まれ、どう答えて良いかわからずに立ちすくむ幸佑の様子を見て、不意に雄也が不安げに尋ねた。
 「あ・・・もしかして迷惑やったか・・・? いきなり押しかけてきてしもて・・・・・・」
その言葉ではっと我に返った幸佑が、慌てて否定する。
 「違う、迷惑なんて思ってへんよ。 ちょっとびっくりしただけで・・・」
首を左右に振りながらそう言ってみせると、ポケットから部屋の鍵を取り出した。
 「散らかってるけど、入って」
ドアを開けて笑顔で雄也を促す。 途端に雄也の表情がぱっと晴れやかになった。 お邪魔します、と小さく呟きながら玄関に足を踏み入れる。
その後に幸佑が続き、静かにドアを閉めた。
ワンルームの室内には、やはり見覚えがあった。 間違いなく雄也は、かつてここへ来たことがあると再認識した。
しかしそれはいつのことだっただろう・・・。
部屋に上がったところで突っ立ったままぼんやり考え事をしている雄也に、幸佑がふと声をかける。
 「・・・どないしたん? 座りや、狭いけど」
 「あ・・・、うん」
はっとして、雄也は幸佑に勧められるままテーブルの前に腰を下ろした。
散らかっていると謙遜していたが、部屋の中は綺麗に片付けられ、無駄なものは何も見当たらない。 思わず雄也は自分の部屋と比べてしまう。
誰かが来るときはそれなりに掃除もするが、普段は男やもめそのものの雑然とした部屋だ。 こことはまさに対照的だった。
おそらく几帳面で綺麗好きな性格なんだろうなと感心していると、いつの間にか氷の浮かんだグラスを2つ持った幸佑が、雄也の隣に腰を下ろしながらグラスをひとつ雄也に差し出した。 カラン、と涼し気な音を立てて氷が踊る。
 「サンキュ」
今さらながら喉が渇いていたことに気付いた雄也は、細かい水滴がつき始めたグラスを手に取ると、ごくごくと美味そうに飲み出した。
その様子を微笑ましそうに見つめていた幸佑も、ひと口喉を潤す。
あっという間にグラスを空にした雄也が、満足したように大きく息を吐く。 ふと、隣でグラスを持つ幸佑の右手が目に入る。
血管が透き通って見えるほど白く滑らかなその手首に、不意に赤く変色した痕を見つけた。
 「・・・これ、どうしたんや?」
右手首を指さしながら尋ねてくる雄也に、幸佑は反射的に左手で手首を押さえながら答えた。
 「・・・ちょっと、映画のリハでな。 手首掴まれるシーンがあって・・・」
そう話しながらグラスをテーブルに置く間も、手首を隠す左手を離そうとしない。
雄也が訝しそうな顔をした。 こんなに痕が残るほど強く掴むものだろうか。 しかもただのリハーサルで。
何か腑に落ちないものを感じながらも、雄也が話しかける。
 「・・・映画、どんな感じなんや? もう撮影には入ってんのか?」
 「いや、まだ。 来週あたりからかな」
そういえば、今回の映画は同性愛ものだと言っていた。 不意に、雄也の胸がざわついた。 
だが、雄也が何か言おうとするのを遮るように、幸佑が強引に話題を変えた。
 「それにしても、ようここがわかったな」
 「あ? ああ・・・何となく。 歩いてるうちに、なんかたどり着いた」
 「何か・・・あったんか? こんなとこまで来てくれるなんて、嬉しいけど・・・」
じっと雄也の目を見ながら、幸佑が呟く。 いつの間にかグラスから右手は離れ、テーブルの下に隠されていた。 それは自然な動きだったため、雄也が不審に思う余地はなかった。
何より幸佑のこの問いかけで、雄也はここへ来た当初の目的を思い出していた。 先ほどまでの、筆舌に尽くしがたい想いが蘇る。
 「・・・・・・今日、里美が出てる舞台を観に行ってん。 そしたら、なんかもう色々と考え込んでしもて・・・。 いつになったら俺は役者に復帰できる
  んか、とか、俺だけ取り残されて、みんなはどんどん実力つけてって、そのうちもう手の届かへんとこに行ってしまうんちゃうか、とか・・・」
 「雄也・・・・・・」
 「なんか、そんなこと思ったら無性におまえに会いたくなって・・・」
そう言うと、雄也は俯きかけていた顔を上げて幸佑を正面から見つめた。 幸佑の瞳がふと揺らぐ。 たまらず、雄也が幸佑を抱きしめた。
 「自分でも情けないと思うけど、おまえに慰めてほしいって思ってる。 なんでかわからんけど、おまえがそばにおってくれると、めっちゃ安心でき
  んねん」
 「・・・・・・・・・」
雄也の腕の中で、幸佑は震えるほどの幸福を感じていた。 最高の言葉をくれた。 記憶をなくしても、自分をそんなふうに思ってくれているなんて。
だけど・・・・・・。
勘違いしてはいけない。 これを「愛」だと思ってはいけない。
不安でナーバスになっている時だけに雄也が見せる顔。 その時が過ぎれば、泡沫の幻。 また愛する誰かの下へ戻っていくのだろう。
それでも・・・。 今このときだけは、誰よりも自分を求めてくれる雄也を、幸佑は精いっぱいの想いで包み込んだ。
 「・・・・・・俺は何もしてあげられへんけど、こんな俺でええならいつも傍におるから」
そっと、雄也の背中に腕をまわして優しく抱きしめ返す。 それはまるで、幼子をあやす母のような優しさで。
すると、それまで幸佑の髪に顔を埋めていた雄也が不意に顔を上げ、幸佑の目をじっと見つめた。
そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。 幸佑はそれでもまだ、彼が何をしようとしているのかわからずにいた。
やがて雄也の唇が、そっと幸佑の唇に触れる。 
その瞬間、幸佑の頭が真っ白になった。 思わず体の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを雄也が受け止める。 と同時に、雄也が唇を離した。
 「・・・ごめん」
小刻みに震える幸佑の体を支えながら、雄也がぽつりと呟く。 床に座り込んでしまった幸佑の体をベッドへもたれかけさせると、雄也はそっと体を離した。
 「こんなことするつもりじゃ・・・。 ほんとに、ごめん。 俺、今日はマジでどうかしてるから、許してくれ・・・」
幸佑の顔を見ることができず、雄也は顔を背けたまま絞り出すようにそう告げると、素早く立ち上がって部屋から出て行った。
部屋に一人残された幸佑は、今の出来事をどう解釈していいかわからず、放心状態でその場にいつまでも蹲っていた。
 
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