「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#102)

2017年08月09日 01時48分25秒 | RUN&GUN風土記
桐畑が新宿のバーを出たのは、もうすぐ日付が変わろうとする頃だった。 万一のことを考えて、玲奈は15分ほど前に時間差ですでに店を出ている。
外は相変わらず雨が降り続いていた。
しばし軒先で雨の様子を窺っていた桐畑だったが、いつまでたっても止む気配がないことを悟ると、ひとつため息をついて覚悟を決めたように歩き出そうとした。
すると、少し離れた場所から誰かに呼びかけられた。
 「桐畑さん」
声がする方を見ると、肩にカメラを掛けた中肉中背の男が傘をさして立っている。 男を見た桐畑の唇が、卑屈に歪んだ。
 「・・・これはこれは。 俺よりもどこの誰かわからん奴の言うことを聞く武内くんじゃないか」
いきなり強烈な皮肉を投げつける桐畑に、武内はほんの少し眉を顰めた。
桐畑に命じられて幸佑のアパートを張っていた時、雄也に帰れと忠告された武内が桐畑に無断で撤収したことを責めているのだ。
武内としては、その際確認するためにきちんと桐畑へ電話したのだが、突然怒り出して一方的に電話を切られたのだった。
だが桐畑はそんなことをいちいち覚えてはいないのだろう。
武内も、そんな桐畑の態度に腹を立て一旦はアパートから立ち去ったものの、後になってやはり勝手に帰ったのはさすがにまずかったと思い、改めて翌日からまた張り込みを再開していた。
 「・・・勝手な行動をしたのは謝ります。 すいませんでした」
頭を下げてそう詫びる武内を、フン、と鼻で嗤いながら桐畑が口を開く。
 「で? 何か言い訳でもしに来たのか?」
相変わらず高慢な態度を崩さない桐畑に内心辟易したが、それでも武内はゆっくりと顔を上げて、実は、と話し始めた。
 「昨日、幸佑のアパートに馬場瑛士が現れて、そこにいた記者全員を追い払ったんです」
馬場の名前を聞いた途端、桐畑の表情がすっと変わった。
 「馬場だと・・・? なんで奴が幸佑のアパートに」
 「わかりません。 突然現れて、幸佑に付きまとうと俺が黙っていないぞ、って脅しをかけてきたんです」
 「・・・・・・・・・」
 「馬場のマスコミ嫌いは有名だし、彼の事務所に睨まれたら自分たちの仕事がやりづらくなるのわかってるから、みんなすぐにいなくなりましたよ」
淡々と語る武内の言葉を無言で聞く桐畑の顔からは、先ほどまでの不敵な笑みは完全に消えていた。
一見無表情に見えるが、その瞳だけはギラついた鋭さを孕んで異様な雰囲気を放っている。 その様を見た武内の背筋が、ぞわ、と粟立った。
 「・・・・・・ふん。 そこまで幸佑に肩入れしてるとはな・・・」
独り言のように小さく呟いた桐畑が、ふと武内を見た。 
 「で、おまえも同じように尻尾巻いて退散したわけか」
 「・・・・・・・・・」
苦い顔で黙り込む武内を見て、桐畑が再び鼻で嗤う。
 「どうやらおまえは俺の言うことを聞きたくないみたいだな。 一度ならず二度までも、勝手な行動とるくらいだから」
その冷徹な声が、武内の骨の髄まで凍り付かせる。 そんな彼の心の内を見透かすように、今度は優しげにも見える微笑みを浮かべて、桐畑が呟く。
 「これじゃあ契約は不履行になっちゃうね。 雇い主の命令を聞けないんだから、まぁしょうがないよね」
 「・・・まさか・・・」
 「ちゃんと契約書にも書いてあっただろ、雇い主の指示に従わない場合は一方的に契約を破棄できるって」
 「・・・・・・・・・」
 「ご苦労さん。 残念だったねぇ、タダ働きになっちゃって」
強張った表情で言葉を喪う武内を気にすることもなく、桐畑はニッコリ笑ってみせる。
 「契約書は破棄しとくね。 じゃ、終電が出ちゃうから俺は先に行くよ」
呆然と立ち尽くす武内を尻目に、それだけ言い残すと桐畑は雨の中へと歩き出した。
取り残された武内は、遠ざかって行く背中を放心状態で見つめていた。
桐畑と交わした契約。 幸佑のアパートに張り込んで、その状況を逐一報告し、必要時には写真を撮影する。 そして桐畑の許可が出るまで続けること。
契約金額は、20万円という破格なものだった。 これだけ簡易な内容でこの金額は相当美味しい話だ。 
この話を持ち掛けられた時、ちょうど仕事が空いていた武内はすぐに飛びついた。
フリーカメラマンとして活動してはいたが、決して売れっ子とは言えない武内にとって、ここまで条件の良い契約は初めてだった。
だが。
桐畑という人間をよく知らなかった武内は、契約を交わして仕事をしていくうちに、徐々にその醜悪な面が露わになってくるのを感じていた。
桐畑は、自分と契約する人間はなかなか長続きする奴がいないと同情を誘う言い方をしていたが、彼の人間性が一番の理由なのは一目瞭然だ。
 「・・・・・・・・・」
嫌な思いをしてタダ働きさせられたというショックはあったが、これで桐畑と縁が切れる、という安堵感のほうが徐々に強まってきた。
もうあんな傍若無人で危険な人間と関わらなくて良いと思うと、心なしか気が晴れた。
そうしてどうにか気持ちに踏ん切りをつけると、武内はすっかり人通りのなくなった舗道をゆっくりと歩き出した。
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