「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#73)

2017-04-18 01:46:46 | RUN&GUN風土記
翌日、幸佑は監督の指示どおり渋谷にあるスタジオの第7会議室に来ていた。
昨日は到着が遅くなり先輩たちを待たせてしまうという事態を招いてしまったため、今日は指定された時間よりかなり早めにやって来た。
会議室には、幸いまだ誰も来ていない。 ほっとしながら、幸佑はコの字に並べられた長机の一角に腰を下ろした。
鞄から台本を取り出して、頁をめくる。
今日は幸佑と桐畑、馬場の3人の通しリハーサルが行われる。
映画の最初から最後までのひと通り、この3人が演じるシーンすべてを監督の前で演じるのだ。 いわばこの映画の屋台骨を作る作業ともいえる。
この通しリハーサルを元に、監督が演技指導などの調整を行い、肉付けをしていくのだ。
映画作成の手順からいえば、本来もっと早くに行われるべきものだが、幸佑の入院により今になってしまった。
あらためて、自分の不注意が原因で倒れたことにより、周囲の色んな人に迷惑をかけていたことに気付かされる。
これからはその大きな借りを返すべく、全力で映画に取り組んで良い作品に仕上げなければと心に誓い、開いていた台本に集中しはじめた。


しばらく台本に没頭していた幸佑は、不意にドアが開く音で我に返った。 部屋に入って来たのは、馬場だった。
幸佑が椅子から立ち上がり、会釈しながら挨拶する。
 「おはようございます」
 「ああ」
馬場はチラリと幸佑を見て、一言だけ返事を返した。 そのまま幸佑の向かい側に進み、ゆっくりと腰を下ろす。
昨日もそうだったが、馬場はほとんど現場で口を開かない。 役者としてのキャリアは20年を超えており、今回のキャストの中にも彼と知り合いの役者は何人かいるようだが、必要以上のことは喋らないようだ。
再び椅子に腰を下ろした幸佑は、向かいに座って台本をぺらぺらめくる馬場を何となく見つめていた。
するとその気配に気づいたのか、馬場が顔を上げた。 一瞬、目が合う。
すぐに目を逸らすのも気まずいような気がして、幸佑はしばらくそのまま馬場から目が離せずにいた。 だが、馬場は何も言わない。
やがて、馬場の方から何気なく視線を外された。
幸佑は安堵しつつも、心のどこかで戸惑いを感じていた。 
元々口数が少ないうえに表情も乏しい馬場と、どう接して良いかがわからないのだ。
役者としての才能は素晴らしいものを持っており、様々な役柄をいつも完璧に演じきっている。 
舞台や銀幕の中ではあらゆる表情を見せるのに、現実の彼は感情をどこかに置き忘れてきたのかと思うほどに無機質だ。
だが、それは冷たいというのとは違う。 無表情でぶっきらぼうではあるが、拒絶されているという感じはない。 
相変わらず台本を流し読みしている馬場を視界の隅に感じながら、幸佑も台本に目を落とそうとしたとき、再度ドアが開いた。
 「おっ、早いね」
 「おはようございます」
そこには桐畑が立っていた。 幸佑が再び立ち上がって挨拶すると、桐畑が笑みを浮かべながら近づいてきて、幸佑の隣に腰を下ろした。
馬場は桐畑を一瞥しただけで、何も言わない。 桐畑も、挨拶がないことを不審に思っているふうでもなさそうだ。
役者としてのキャリアこそそんなに変わらないが、年齢は桐畑の方が馬場よりひと回り以上年上だ。
年功序列が重んじられるこの業界で、年下が年上に挨拶しないというのは、それだけで大問題になりうることもある。
そんな馬場の桐畑に対する無礼な態度も不可解だが、それを咎めるでもない桐畑の方もよくわからない。
そんなことをあれこれ考えていると、桐畑が幸佑の顔を覗き込みながら問いかけてきた。
 「・・・なに難しい顔してるんだい?」
 「あっ、いえ、何でもありません」
余計な詮索をしてしまったことへの後ろめたさからか、幸佑は必要以上に体を固くしてそう答えた。
桐畑は、そんな幸佑の反応を楽しむかのように口の端を上げて微笑むと、顔を近づけながら話しかけてきた。
 「幸佑くんは、彼女いるの?」
 「えっ・・・・・・」
唐突な質問に桐畑の意図を図りかねて口ごもっていると、その戸惑いが伝わったのか、桐畑が穏やかな口調で付け足した。
 「ほら、今回の映画は愛憎劇だろ。 幸佑くんの恋愛経験が役に影響すると思うからさ。 あ、彼女いるかどうかより、いま恋愛してる?って聞いた
  方がいいかな」
桐畑の言わんとしていることが何となく理解できた幸佑は、少し考えたうえで真面目に答えた。
 「・・・・・・恋愛は、してます」
その言葉を聞いたとき、桐畑がすっと目を細めた。 しかしその表情は、笑顔とは違う。 そこに秘められた感情を読み取ることは難しかった。
だがすぐにその不可解な表情は消え去り、今度は明らかな微笑みを浮かべて、桐畑が呟いた。
 「・・・そう。 それはいいことだ。 きっとこの作品でも、素晴らしい演技を見せてくれると期待してるよ」
 「・・・・・・ありがとうございます」
心のどこかにひっかかるものを感じながらも、幸佑はひとまず礼を述べた。
桐畑の思惑がどうであれ、今は涼という役柄に全力で打ち込むことが最優先だ。 気を緩めると雑念に支配されそうになる心を叱咤激励すべく、幸佑はぎゅっと強く目を閉じた。
やがて監督の声が聞こえてきたことで、幸佑は役者へと思考のスイッチを切り替えることに成功した。
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