「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#31)

2016年12月26日 22時50分39秒 | RUN&GUN風土記
待合室には、数組の家族がそれぞれの患者の手術を待っていた。
室内にはソファセットと畳のスペースがあり、テレビが静かな音量でつけられている。
幸佑は、一番隅にある2人掛けのソファに腰を下ろした。
背もたれに体を預けて目を閉じると、急に疲労が押し寄せてきた。
ここのところ、朝から晩までびっしりとスケジュールが詰まっている。 本当なら今日も夜に打ちあわせがあったのだが、調整して後日にずらして
もらって、どうにかここへ駆けつけたという状況だった。
雄也にはまだ告げていないが、実は来年上映される映画の主演が決まったのだ。
休み明けにマネージャーからそう聞かされて、嬉しい反面、雄也に対して申し訳ない気持ちになった。
雄也は何も言わないが、きっと心の中では密かに仕事に対する焦りと戦っているに違いない。
今回の入院で、決まっていた舞台を降板せざるを得なくなり、以降の仕事についてもすべてキャンセルとなってしまった。
周りの役者の中からひとり取り残されていくような孤独感を抱えながら、病気とも戦わなければならない。
そんな雄也に、自分の浮かれた話などできるはずもなかった。
だから幸佑にとっては、話さずに済む今の状況が正直有難かったのだ。
映画の話を聞かされてから、多忙の日々が始まった。 映画の仕事などほとんどしたことがなかったため、日々初めてのことだらけで、思っている以上
に神経をすり減らしていたらしい。
ソファにもたれたままいつの間にかうとうとしていたのか、幸佑はふと肩を叩かれて目を開けた。
 「おい、ずり落ちそうだぞ」
目の前には岡本が立っていた。 重い瞼をどうにかこじ開けて、幸佑が不思議そうに問いかける。
 「あれ・・・岡本さん、なんでここへ・・・?」
 「玲奈に聞いてな。 こないだ永田くんと会ったばかりだし、俺もちょっと気になってさ。 ・・・隣、いいか?」
 「あ、はい」
幸佑が慌ててだらしなく開いていた足を閉じてスペースを作ると、岡本がゆっくりと腰を下ろした。
 「どれくらいかかりそうなんだ?」
 「手術ですか? 順調にいけば4時間くらいって言ってました。 だから、7時くらいには」
二人が何となく腕時計を見る。 午後5時15分。 幸佑は2時間ほどここでうたたねをしていたようだ。
 「おまえ・・・。 大丈夫か? なんか顔色悪いぞ」
 「大丈夫です。 ちょっと疲れてるだけで・・・。 あ、なんか飲みますか? そこに自販機あるんで」
 「いい、俺が行ってくるよ。 コーヒーでいいだろ?」
幸佑が立ち上がるより先に岡本がそう言い、手で幸佑を制す。 すいません、と素直に好意を受け取り、その背中を見送る。
再びソファにもたれ、天井を仰ぐ。 手足に蓄積された疲労は、鉛のようにべったりと貼りついて容易に取り除けない。
少しでも気を抜けば、このように動けなくなってしまう。 自分の体力のなさに泣けてくる。
実を言うと、明日も早朝からオフショット用の撮影が入っている。 朝7時に現場入りしなければならないため、逆算すると6時には自宅を出なければ
ならない。
そのことを思うと余計体が重くなったような気がして、幸佑は深くため息をついた。
 「ほら。 ちっとは目覚めるだろ」
いつの間にか戻ってきた岡本が、仰向いて目を閉じていた幸佑の額に冷たい缶コーヒーを当てながら言った。
 「ありがとうございます」
姿勢を直して、受け取った缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲み込む。 エアコンのせいで喉が乾燥していたらしく、味気ないはずの缶コーヒーが
思いのほか旨く感じた。
岡本はコーヒーを飲む幸佑の様子をじっと見つめていた。 嚥下するたびに仰け反った白い喉で、喉仏がわずかに上下する。 そのなめらかな肌には、
玲奈がつけた先日の痣はもうどこにも見当たらない。
ふと、岡本の心に言い表しがたい感情が毛羽立った。
だが、その感情が何なのかを認識するのを避けるように、岡本は無理やり思考をもみ消して、一気にコーヒーを飲み干した。


手術終了予定の時刻になっても、洋介は待合室に姿を見せなかった。
時計は、すでに午後8時をまわっている。
 「・・・ちょっと、遅いな」
 「はい・・・。 何かあったのかな・・・」
かすれ気味の声で、幸佑が心配そうに呟く。 室内には、数組いた家族も姿を消し、いつの間にか幸佑たちだけになっていた。
 「わからん・・・。 幸佑、おまえマジ顔色悪いぞ。 もう誰もいないし、そこの畳に横になれよ」
 「でも・・・」
 「呼びに来たら起こしてやるから、どれだけでも寝とけ。 明日も仕事なんだろ」
 「はい・・・」
眠れるかどうかわからないが、それでも横になって少しでも体を休めておいた方がいいと幸佑も思ったため、岡本の申し出に甘えることにした。
ソファから立ち上がろうとしたとき、不意に眩暈が幸佑を襲った。
 「幸佑! 大丈夫か?」
グラリ、と上下の感覚がなくなったような気がして、そのまま倒れそうになるのを、岡本のがっしりとした腕が支えた。 
岡本の腕の中に倒れ込みながらしばらく動けずにいたが、やがて少しずつ視界が明るくなり、そっと目を開けると、眩暈はどうにか収まっていた。
 「す・・・すいません。 ちょっと、眩暈が・・・」
まだ若干ふらつく足取りで、幸佑が岡本から離れようとした。 しかし岡本はそのまま幸佑を軽々と抱き上げた。
 「岡本さん、大丈夫ですから・・・」
 「いいから」
驚いた幸佑がそう訴えるが、岡本はかまわず畳のところまで運ぶと、そっとそこへ寝かせた。
 「おまえ・・・ちゃんとメシ食ってるのか? 軽すぎるぞ」
痛いところを突かれた。 実はここのところ忙しすぎて食欲がなく、夜はほとんどビールを飲むだけで何も口にしていない。
 「・・・・・・」
黙り込んでしまった幸佑を見て、岡本はため息をついた。 何も言わなくても、この様子ではほとんど食べていないことは一目瞭然だった。
 「おまえな、ちゃんとメシは食わなきゃだめだぞ。 メシ食って体力つけんと、こんな細っこい体じゃすぐ倒れちまうの当たり前だ」
 「・・・食欲が・・・ないんです」
 「そんなこと言ってる場合か。 無理にでも食わなきゃだめだ。 今日は俺が後でメシに連れてくからな」
 「・・・・・・」
仰向けに寝転んだ幸佑の鎖骨が浮き出ている。 元々華奢だった首から肩にかけてのラインも、さらに線が細くなってしまった。
岡本はそんな幸佑を痛まし気に見つめていたが、ふとあたりを見回し、畳の隅に置かれた毛布を持ってくると、幸佑の体にそっとかけてやった。
 「・・・とにかく、今は休め」
 「はい・・・」
かけられた毛布を握り締め、幸佑はそっと目を閉じた。 
すると、深い沼へ沈んでいくような感覚とともに、睡魔が幸佑の意識を奪って行った。
やがて穏やかな寝息を立て始めた幸佑の顔を、岡本はそのままいつまでも見つめていた。 
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