「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#89)

2017-06-18 03:25:56 | RUN&GUN風土記
最後の最後に桐畑のとんだハプニングがあったが、それでも「哀歌の街」の撮影はすべて終了し、正式にクランクアップを迎えた。
あとは映像の細かな編集や調整などを行い、約4ヶ月後の11月初旬から、関東地区で一斉に公開される予定だ。
 「お疲れさまでした」
 「お疲れっす!」
監督と画像処理担当等はまだしばらく仕事が続くが、出演者と多数のスタッフは今日で仕事がひと段落となる。 皆笑顔で撮影中の労をねぎらいながら挨拶を交わし合った。
そんな中、幸佑は群衆から離れた場所で一人椅子に腰かけてぼんやりしていた。
体は長期間の撮影で疲労困憊していて錘がついたように怠いが、神経がやけにピリピリと尖って落ち着かない。
それはひとえに、桐畑から受けた爆弾発言のせいに他ならない。
公衆の面前で平然とあんなことを言うなんて、いったいどういうつもりなのか。
当の桐畑は、監督やスタッフたちに囲まれながら、まるで何事もなかったかのように談笑している。 その様子を目にした幸佑は、思わずため息が漏れた。
自分は、またしても桐畑にからかわれたのだろうか。 いや、きっとそうに違いない。 
思えば、ベッドでの撮影の時も、果ては桐畑のマンションでの一件も、結局は面白おかしくからかわれただけなのだ。
そう思うと、無性に腹立たしくなる。
馬場の恋人の話も、自分の反応を見て楽しむために悪質な虚言を言ったのだろうか。 だとすれば、何ともたちが悪すぎる。
人の不幸を自分に都合の良いように脚色した挙句、事実をねじ曲げて誤解を好発させるそのやり方が、非常に悪意に満ちている。
しかも、茜を犯したのも、恐らく桐畑本人なのだ。
知らず知らずのうちに、スタッフたちの向こう側で白々しく笑っている桐畑を険しい目で見据えていた。
その気配を感じたのか、ふと桐畑が幸佑の方を見た。 一瞬、目が合う。 とっさに幸佑は視線を外したが、桐畑はそれを見逃してはくれなかった。
 「幸佑くん、そんな隅にいないでこっちに来いよ。 何てったって主役は君なんだから」
桐畑のその声で、まるで今幸佑の存在を思い出したかのように人々が一斉にこちらを見て、口々に呼びかけてきた。
 「米原くん、桐畑さんが呼んでるよ~!」
 「早く桐畑さんのとこに来てあげてくださいよ!」
それは映画の主役を無事務め上げたことを賛辞するものではなく、下衆な好奇心と話題づくりの打算から、桐畑との関係を親密にさせようとする連中の下心丸出しの声だった。
何とも言えない不快感に襲われた幸佑は、弱々しく首を左右に振って拒否したが、あっという間にスタッフに囲まれ、なかば無理やり桐畑のところへ連れて行かれる。
高慢そうな笑みを浮かべた桐畑と、興味津々な群衆の眼に晒され、不愉快を通り越して吐き気を催しそうになる。
たまらず、幸佑はとっさに馬場を探した。 だが、見渡す範囲に彼の姿は見つけられない。
絶望感が重く胸に広がっていくのを感じながら、まるで絞首台に登る囚人のような気持ちで、桐畑の隣へと立たされた。
待ちかねたように、桐畑が幸佑の肩を抱いて、自分の方へと引き寄せる。 すると、人々から冷やかしとはやしたての声が湧いた。
 「いや~、お熱いっすねぇ! 米原さんにもうゾッコンですね桐畑さん!」
一向に治まらない吐き気を必死に堪え、口元を手で押さえながら、幸佑は桐畑から逃れようと身を捩る。 
だが肩を抱いているその手は思いのほか力強く、容易にほどけない。 それでも虚しく抵抗を続けていると、不意に胸が苦しくなってきた。
深く息を吸い込んでも、まるで肺が機能していないかのように体に酸素が行き渡らない。
そのうち息苦しさで目の前が暗くなり、冷や汗が吹き出してきた。 次第に呼吸が浅く早くなる。
そんな幸佑の異様な様子に、桐畑が気づいた。
 「幸佑くん、どうした?」
眉間に深く皺を寄せて苦し気に喘ぐその顔を覗き込む。 すると幸佑の体が前向きにグラリと傾いだ。
 「幸佑くん!?」
倒れそうになったその体を、桐畑が抱きとめた。 それまで笑いながら周囲でふざけていたスタッフ達も、さすがに幸佑のただ事ではない様子にざわつきだした。
 「米原くん、どうしたんですか?」
桐畑が幸佑の状態を注意深く観察する。
 「・・・ここ、休ませる場所とかあるかな? 畳の部屋とか」
 「あ、第三控室がたしか和室ですよ」
 「よし、そこで少し休ませよう。 今は気を失ってるけど、たぶん心配ないと思う」
そう言うと、桐畑はぐったりと力の抜けた幸佑の体を抱き上げて、控室へと向かった。


桐畑が控室にやって来ると、気を回したスタッフの誰かが、座布団を並べて簡易の布団を作ってくれてあった。 そこにゆっくりと幸佑を寝かせる。
 「これ、使ってください」
桐畑の後を追いかけてきた若いスタッフが、濡れたタオルと乾いたタオルを桐畑に手渡す。 それを受け取り、幸佑の肌に浮かんだ冷たい汗を拭き取ってやる。
その様子を心配そうに見つめていたスタッフが、ためらいがちに尋ねた。
 「・・・米原さん、いったいどうしたんスか?」
幸佑の襟もとを広げて、さらに汗を拭いながら桐畑が答える。
 「たぶん過換気症候群だよ。 精神的なものだね。 きっとこれまでの疲れが出たんじゃないかな」
さらりと言う桐畑を、スタッフが感心したように見る。
 「へぇ、桐畑さん医療に詳しいんスね。 実は医者とか?」
遠慮なく疑問をぶつけてくる今どきの若者だが、桐畑は特段気分を害したふうでもなく、笑みすら浮かべながら違うよ、と答えた。
 「前に友人が同じような状態になったことがあってね。 意識があれば袋を口に当てて数回呼吸すればすぐ落ち着くんだけど」
そうなんスか、と納得したように頷いて、スタッフが幸佑に視線を移す。
 「・・・でも、どうします? 米原さんのマネージャーに連絡して迎えに来てもらったほうがいいッスか?」
スタッフの提案を聞いて、しばらく桐畑は思案したが、やがてそうだな、と呟いた。
 「幸佑くんの家知ってたら俺が送ってくんだけど、あいにく知らないし。 マネージャーに連絡してやってくれるかい?」
 「了解です!」
勢いよくそう返事をして、スタッフはすぐに部屋を出て行った。 
まだ他にも何人かのスタッフが遠巻きに幸佑の様子を窺っていたが、桐畑があとは自分が看てるから、とウインクして見せると、邪魔者は消えろとばかりに一斉にいなくなった。
幸佑と二人きりになった部屋で、桐畑は汗を拭き取っていた手をふと止めた。 横たわる幸佑はまだ目を開けない。
幸佑を見下ろしていた桐畑の表情に、ふと憐みの色が滲んだ。
 「・・・しかし可哀想に。 玲奈に憎まれたばかりに、こんな目に遭って・・・」
青白い頬に手を当てて撫でながら、口先だけの薄っぺらい同情を囁く。 心からの言葉ではないその証拠に、桐畑の唇の端がいびつに歪んでいる。
 「・・・これから忙しくなるぞ。 頑張って玲奈を喜ばせてやってくれよな」
汗で張りついている幸佑の前髪をかき上げ、唇を吊り上げたまま桐畑が体を屈めてその額にキスをした。
やがて満足したように体を起こすと、おもむろに携帯を取り出してどこかへ電話をかけだした。
 「・・・あ、もしもし。 週刊文潮さんですか? スクープです! 俳優の桐畑晃さんが、共演の俳優に付き合ってほしいって告白したんですよ!
  ・・・あ、僕はその場にいたスタッフなんですが・・・」
わざとらしく声音を変えてそうまくし立てる桐畑は、ひどく楽しげだ。
その傍らに横たわる幸佑は、未だ何も知らないまま、まるで亡骸のようにひっそりと眠り続けていた。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 風に吹かれて(#88) | トップ | 風に吹かれて(#90) »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。