「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

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風に吹かれて(#87)

2017-06-14 02:05:21 | RUN&GUN風土記
雄也が退院したその翌日、幸佑は映画「哀歌の街」の撮影最終日を迎えていた。
映画というものは、台本どおりの順序で撮影を行うわけではなく、効率性を重視して行われる。
例えば屋外のシーンや同じ場所でのシーンはまとめて撮影するなど、撮影時間が最小限で済むことを第一に考えられることが多い。
ゆえに、最初の撮影がいきなりラストシーンから始まるなんていうことも起こりうる。
「哀歌の街」も、最後の撮影はストーリーの中盤、梨香が死亡したという知らせを聞いた涼が病院に急行、そこで梨香の亡骸と対面して理性を失う、という場面だった。
都内にある廃業された病院を借り切って、霊安室での撮影が開始された。
台本では、寝台に横たわった梨香の傍らに看護師が立ち、そこに涼が駆け込んできて呆然とする、とある。 そして看護師が涼に、梨香が妊娠していたことを告げて立ち去り、代わりに隆が現れて、茫然自失となった涼を慰めるという流れだった。
撮影は順調に進み、看護師と入れ替わりに隆が室内に入ってくるシーンまで終了したところで、少し休憩を挟むことになった。
幸佑と桐畑は、次のシーンについて監督と話し合っていた。
 「次は感極まった涼が隆にその感情を爆発させるシーンだ。 台本には自分にすがりついて泣く涼を隆が慰める、としか書いてないけど、ここは二人の
  感情がぶつかる一番の見せ場だから、桐畑くんも米原くんも自分の思うように自由に演じてくれ。 君たちの感性に任せるから」
自分たちに演技を一任すると言われた幸佑と桐畑は、わかりました、と力強く頷きながら応えた。
 「じゃあと15分したら撮影再開するから、それまで二人で打ち合わせしておいてくれ」
監督がそう告げてその場を離れていくと、桐畑が幸佑に話しかけてきた。
 「幸佑くん、次のシーンできみが俺にしがみついてきた後、俺のやり方で涼の昂ぶった感情をなだめるから、きみはそれに対して素直な反応を返して
  くれれば良いよ」
 「え? どういうことですか」
桐畑の言葉の意味がよくわからず、幸佑が怪訝そうに尋ね返す。 だが桐畑は軽くウインクしてみせると、とにかく俺に任せてくれ、とだけ言い残して喫煙スペースへと向かって行った。
しばらくその背中を見つめていた幸佑だったが、やがて小さくため息を漏らすと近くのパイプ椅子に腰を下ろした。
手元の台本に目を落として再度シーンのイメージを練っていると、ふと近くに人の気配を感じて顔を上げた。
 「・・・馬場さん」
馬場が演じる和樹の撮影は昨日ですべて終了していて、幸佑たちより一足先にクランクアップを迎えていた。
本来なら今日は現場に来る必要はないのだが、元来真面目な性格なのか最後まで撮影に立ち会うべくここに来ていた。 先ほどから現場の片隅で撮影風景をじっと見つめる彼の視線を、幸佑も感じ取っていた。
 「・・・飲むか?」
立ったままぶっきらぼうに缶コーヒーを差し出す馬場に、幸佑は笑顔で礼を述べて受け取った。
 「・・・さっき、桐畑はあんたに何を言ってたんだ?」
自分も缶コーヒーを口にしながら、馬場が尋ねる。
 「あ・・・なんか次のシーンは俺のやり方でやるから任せてくれ、みたいなことを・・・」
少し首をかしげながらそう答えるところを見ると、幸佑自身も納得しかねている様子が窺える。
 「次は確か、嘆く涼を隆がなだめるシーンだよな」
 「はい、そうです」
 「・・・・・・・・・」
馬場は持っていた缶コーヒーをテーブルに置き、しばし険しい顔で考え込んだ。
 「・・・・・・さっきチラッと聞こえたけど、監督はあんたたちに演技を任せるって言ってたよな」
 「はい」
 「・・・・・・何かあるな。 注意したほうがいい」
 「え・・・でも、どうすれば・・・」
戸惑う幸佑を、馬場がふと見つめた。 確かに、何かあったとしても撮影の最中ではどうしようもない。 演技は二人に任せると言った以上、よほどのことがない限り監督は演技を中断させるようなこともない。
さすがに桐畑も、作品をぶち壊すほど過激なことはしないだろう。
相変わらず不安そうな眼差しで自分を見つめている幸佑に、馬場は少しだけ表情を和らげて語りかけた。
 「・・・まぁ、さすがにヤツもそんなにひどいことはしないと思う。 悪い、あんたを惑わすようなこと言った。 さっき言ったことは気にしないでくれ」
そう呟き、テーブルの缶コーヒーを手に取って立ち去ろうとした馬場を、幸佑が呼び止めた。
 「あの、馬場さん」
幸佑の脳裡には、ずっと引っかかり続けていることがある。 いつか桐畑から聞かされた、あの話。 茜という馬場の恋人との一件。
桐畑の言うことが正しいのか、それとも馬場こそが正しいのか。
今この場で話題にするようなことではないと思いつつも、このまま悶々とした気持ちをいつまでも引きずるのはどうにも我慢できなかった。
こちらを振り返って幸佑の言葉を待っている馬場に、どうやって切り出すべきかしばし考えた末、幸佑は慎重に言葉を選んで問いかけた。
 「・・・・・・あの、前に話してくれた恋人とのお話・・・」
 「ああ・・・」
ふと、馬場の表情がわずかに曇る。 だが幸佑はひるまずに続けた。
 「桐畑さんが本当に犯人なら、なぜ警察沙汰にならなかったんでしょうか」
 「・・・・・・・・・」
真剣な目でそう尋ねる幸佑を、馬場がまじまじと見た。 そして、今の言い回しで幸佑が何を言わんとしているのかを悟った。
 「・・・あんた、本当に素直というか、嘘のつけない奴なんだな」
ふっと微笑みを漏らしながらそう呟いて、馬場が続ける。
 「桐畑から何を吹き込まれたかだいたい想像はつくけど・・・」
そこで言葉を切り、馬場がふと真摯な目で幸佑を見据えた。 その眼差しに、なぜか幸佑がドキリとする。
 「あんたなら、誰の言うことが真実なのか、多分わかるだろう。 ここで俺がどうこう言ったところで、信じる信じないの判断はあんた次第だから」
そう言い終えると、馬場がふと目を伏せた。
 「・・・桐畑の濁った眼が、あんたを見つめ続けてるのを見るのは・・・」
それは微かな、ともすれば独り言ともとれる小さな呟きだったが、再び幸佑をじっと見つめると、今度ははっきりとした声で告げた。
 「・・・とても、耐えがたい気持ちになる」
力強いその言葉を聞いて、幸佑の胸に何とも言えない気持ちが広がった。 
この人は、自分のことを認めてくれている。 自分を受け入れてくれている。 頭ではなく心で、そのことを痛切に感じた。
その瞬間、幸佑の中で誰を信じるべきかが明確にわかった。 それはもう揺るぎない確信だった。
自分の言ったことが急に恥ずかしく思えたのか、馬場がぎこちなく幸佑から視線を外し、そのままゆっくりと立ち去って行った。
その後ろ姿を見送る幸佑の胸が、じんわり温かくなる。 こうして誰かから自分の存在を肯定されたのは、すいぶん久しぶりのように感じる。
馬場の澄んだ切れ長の瞳が、印象に残った。 
知らず知らず微笑みがこぼれた幸佑の耳に、撮影再開を告げる監督の声が飛び込んできた。
幸佑は開いていた台本をおもむろに閉じると、撮影場所へと向かうべく立ち上がった。

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2 コメント

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ああ・・・ (ちょるん)
2017-06-14 12:19:45
なんか、馬場さん素敵ですね。 ぶっきらぼうだけど優しい。 幸佑は馬場さんに惹かれてくんじゃないんですか?
里美も、あれだけ雄也に執着してたけどやっと覚悟を決めましたね。 なんだかんだ良い子ですね。
今後の展開がとても楽しみです。
ちょるん様^^ (ななりん)
2017-06-15 02:03:57
そうなんです、実は馬場さんが私の一番好きなキャラだったりしてw
というわけで、私が惹かれていきます(笑)

里美も、一時は悪女になりそうでしたが
ちゃんと道を踏み外さずに済みました。
健気な里美、次は良い恋をして幸せになってほしいものです^^

コメありがとうございました☆ また何でも聞かせてください!

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