「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#2)

2016-10-16 14:02:12 | RUN&GUN風土記
かすかに熱を孕んだ初夏の風が、木々の梢を優しく揺らす。
病院の裏庭にあるお気に入りの場所で、洋介がいつものように煙草をふかしていると、これまたいつものようにどこからともなく智が現れて、隣に腰を下ろしながら呟く。
 「もう5月も終わりか。一年は早いな」
 「年寄みたいなこと言うな」
 「いやいや今年で36だから、もう若くはないだろ」
煙草に火をつけながら、やや自嘲気味な口調で智がごちる。
洋介と智は、大学時代の同期生だ。医者になってからはお互い別々の病院に勤務していたが、4年前に洋介が、そして3年前に智がそれぞれこの病院へ配属になった。
 「若いといえば、こないだ入院してきた患者が25でな」
 「そりゃ若いな。どこが悪いんだ?」
 「膵臓と、たぶん肝臓も。まぁ過労が原因だと思うが」
 「過労? 何の仕事してんだ?」
 「役者らしい」
 「へぇ? 芸能人か?」
 「さぁ。詳しくは聞いてない」
煙を吐き出しながら冷めた口調でそう言う洋介の様子に、クッと喉を鳴らして智が笑う。
 「おまえ、相変わらずだなぁ。普通そういうの興味あるだろ」
 「別に。テレビとかあんま見ねぇし」
 「まったく、らしいわ。 で? その役者さんがどうかしたのか?」
 「精密検査のときに役者仲間も来てたんだが、二人とも若いのにしっかりしててな。久しぶりに実のある人間を見たというか」
 「ほぉ。最近の若者にしては珍しい」
 「あと、二人とも関西人みたいで。訛りがちょっと懐かしかった」
 「ん? おまえ生粋の東京じゃないのか?」
 「父親が大阪人。つっても俺が7歳のときに離婚して、母親と東京来てから会ってないけどな」
 「そうだったのか。俺は生まれも育ちも東京だから、ちょっと羨ましいぞ」
 「なんで」
 「故郷があるからさ」
 「もうほとんど記憶もないし、俺にとっちゃ故郷とは言い難いけど・・・」
そこまで言うと、洋介は少し目を細めてふと顔を上げる。
 「ただ関西弁を聞くと、無性に懐かしく感じるんだよな」
 「ふぅん・・・」
それきり何となく黙り込んだ二人の間を、さわさわと柔らかい風が吹き抜けていった。




 「やっぱり彼女なのかなぁ」
 「じゃない? あんなに親しげだし」
 「だよね~。 あ~、やっぱり彼女の一人や二人いるに決まってるかぁ」
 「コウスケ君は彼女いるのかなぁ?」
勝手に喫煙所と決めている裏庭から洋介がナースステーションに戻ってくると、若いナースたちがおしゃべりに花を咲かせていた。
 「また永田君のことか? 君らも好きだなぁ」
 「だって先生、雄也君に女の子が面会に来てるんですよ! やっぱ彼女なのか気になるじゃないですかぁ」
 「そりゃもう25なんだし、彼女くらいいるだろうよ」
 「でも、彼は私たちのアイドルなんです! だからショックで~」
一体どこまで本気なのか、彼女たちの様子から判断することは難しいが、飽きることなく雄也たちのことを議論している声に軽い眩暈を感じて、洋介はその場を離れた。


 「なーに疲れた顔してんの?」
書類の山がいくつか築かれた自分のデスクに座ってため息をついていると、不意に頭上から涼しげな声がかかる。
女にしては低めな、凛とした響きを持つその声は特徴的で、姿を見ずとも誰なのかはすぐ推察できた。
 「沙季か・・・。 いや、ちょっとアイドルについて考えてた」
 「なにそれ」
片眉をひょいと上げて、沙季がクスリと笑う。
 「はいこれ。 永田君の生検結果出たよ」
言いながら、脇に挟んでいた茶封筒を洋介に渡す。
 「お、待ってたんだ。 どれどれ…」
手渡された封筒から書類を取り出し、しばし書面に目を泳がせていた洋介の表情が、わずかに曇った。 デスクに腰かけてそんな彼の様子を見下ろしていた沙季が、ぽつりと呟く。
 「・・・初期の肝がん」
検査技師として10年のキャリアを持つ沙季の目は確かだ。書類には疑いようのない結果が浮かび上がっていた。
 「初期だけど、若いから・・・」
 「・・・だな・・・」
ひととき、二人の間に重い空気が流れる。それとは対照的に、背後からは相変わらずはしゃぎ続けているナースたちの楽しげな声が響く。
 「・・・永田君、見てくるわ」
小さくため息をつきながら書類を封筒にしまい、そう告げて立ち上がる洋介に沙希は小さく頷いて、目の前を通り過ぎていく彼の背中を見送った。


見慣れた内科病棟の廊下をぼんやりと歩いていた洋介は、前方から見覚えのある人物が近づいてくるのに気付いた。 と同時に、相手も洋介に気付く。
 「あ、平岡先生」
 「え・・・と、確か永田君のご友人の・・・」
そのときふと、名前を聞いていなかったことを思い出す。
 「米原幸佑です。雄也がお世話になってます」
 「あ、米原さんか、どうも」
そういえばさっきナースたちが話していた中で、コウスケという名前が出ていたことを唐突に思い出し、彼女たちの情報の的確さに改めて感心してしまう。
それにしても、まるで雄也の家族のような口ぶりに少々違和感を感じつつも、目の前の美青年に話しかける。
 「永田君の面会に来たんだよね?」
 「はい、そうなんですけど・・・先客がいたので、また出直してきます」
件のカノジョか、と内心呟いた洋介は、軽く会釈をして立ち去ろうとした幸佑をふと呼び止めた。
 「米原くん。永田君と君は同郷なの?」
 「あ、はい。大阪出身で同級生なんです」
 「そうか・・・。大阪のどこ?」
 「市内ですが・・・。それが何か?」
 「あ、いや、僕の身内が大阪市出身でね。君たちも大阪弁だったんで、ちょっと気になって」
唐突な質問に少し怪訝そうな表情を浮かべていた幸佑だったが、洋介のこの言葉を聞くとその表情をふんわり和らげた。
 「そうだったんですか。あ、ちなみに僕は住吉区で、雄也は心斎橋が地元なんです」
 「そうかぁ。僕の身内は南港の方だから、米原君とけっこう近いかな」
 「ですね。僕の実家から南港までチャリで20分くらいです。死ぬ気になれば10分ちょいで行けるかも?」
思いがけないところで地元の話ができたとあって、幸佑は普段より饒舌になっている自分に気付く。
 「あ、なんか僕の方が懐かしくなってついベラベラと・・・。 すいません、忙しいところ」
 「いや、僕が話しかけたんだから。 それにほら、ちょうど先客が帰るみたいだよ」
洋介が指さす方を見ると、雄也の病室から小柄な女性と、点滴スタンドを押した雄也が出てきたのが見えた。 お互いに軽く手を振り、少し名残惜しそうにしながらも、女性はやがて正面玄関へ向かって歩いて行った。 
その後ろ姿が見えなくなり、ゆっくり踵を返そうとした雄也の目が、幸佑の姿を捉える。
 「あ、幸佑! 来てくれたんか?」
 「あ・・・、うん。ちょっと様子見に」
なぜか少し口ごもるように小さく呟く幸佑。 その瞳は雄也ではなく、自分の足元を見ている。 
そんな彼の様子を洋介は不思議に思ったが、これから雄也に告げなければならない事実を思い出し、急に重くなった足と気持ちを奮起させ、幸佑とともに病室へ入って行った。 


 「具合はどうだい?」
ベッドサイドのパイプ椅子に腰を下ろした幸佑の隣に立った洋介は、あたりさわりのない話題から切り出した。
 「点滴のおかげで、だいぶ楽になってきました」
点滴スタンドに吊り下げられた点滴袋から延びるチューブが、雄也の右腕へと繋がっている。 その先端が埋まる内肘の固定テープを見つめながら、雄也が柔らかな表情で答える。
 「そうか。 熱の方は?」
 「今朝の検温のときには、36度台まで下がってました」
 「順調だね」
一ヶ月余りも強い倦怠感と微熱に悩まされてきたことを思えば、今の状態がどれほど嬉しいか、それは雄也の様子を見れば一目瞭然だ。
 「こんなことならもっと早いうちに病院来てたらよかったな」
ボソッと呟いた雄也の言葉に、それまでずっと俯いていた幸佑がようやく顔を上げて、恨めしそうに口を開く。
 「・・・だから早く病院行けって言うてたのに」
それだけ言うと、再び視線を自分の足元に落とす。 その様子がまるで言い訳をする子供のように思えて、洋介はクスリと小さく笑った。
 「幸佑には早い段階から病院行けって言われてたんですけど、仕事が立て込んでてなかなか来れなくて・・・」
やや言い訳じみた口調でそう話した雄也は、相変わらず下を向いたままの幸佑に視線を移す。
 「だからゴメンて。 おまえの言うこときかんかった俺が悪かったって」
 「・・・もうええわ。 良くなったんならそれで」
 「それ全然ええっていう態度やないやろー。 おまえにはほんま感謝してるんやで。 手紙も届けてもろたし。 毎日こうやって見舞いにも来てくれるし」
ヘソを曲げた幼子のように意固地になってしまった幸佑の頭をポンポン、と優しく叩いて、穏やかな微笑みで見つめる雄也。 やがておずおずと雄也の顔を見上げた幸佑も、微かに微笑み返す。
そこには、長年培ってきたであろう友情と愛情が溢れていた。 それは、周りの者に不思議な安堵感と安らぎをもたらす効果をも秘めている。
そんな彼らの様子を微笑ましく見つめていた洋介だったが、しかしこれからその空気を粉々に砕くであろう宣告をしなければならないことを思い出す。
脇に挟んだ生検結果の封筒に目を落とす。 掌にじんわりと汗が滲む。
これまでも幾度となくこういう局面を迎えてきた。 医師である以上、死と向き合うことは避けられない。 また、目を逸らすこともできない。
だからこそ、感情を押し殺して、あくまでも冷静に対処してきたはずだ。 感情を持ち込めば、それは即ち自己の精神をも傷つけてしまう。
洋介は、自分が実は非常に脆い人間だということを自覚していた。 その脆弱な精神は、時に医師として致命的な過ちを犯す要因になる。
これまで装ってきた無機質な人格は、すべてこれらの危うい魂核を覆い隠すための虚構にすぎない。
そして、この人格形成に色濃く影響した幼年時代の心的外傷(トラウマ)・・・。


 「---先生?」
いつの間にか黙り込み、遠い目をしたまま動かなくなった洋介に、雄也がふと声をかける。
我に返った洋介は、はずみで落としそうになった封筒を抱えなおし、少しぎこちなく口の両端を上げて笑ってみせた。
 「あ、ごめん。 何か言ったかな?」
 「その、退院はいつごろになるのかなって」 
 「あー・・・。 それはまだ何とも言えないなぁ。 あと数日はまだ点滴も必要だし」
 「そうなんですか・・・」
少し落胆した様子の雄也に、何かもうひと言声を掛けようとした時、病室の入り口からナースの真奈の声がした。
 「平岡先生、至急205号室の患者さんのところへ来て下さい」
それだけ言うと、真奈は慌ただしく戻って行った。 205号室には、洋介が担当している終末期のがん患者がいたはずだ。 真奈の様子から察するに、容体が急変したか・・・。
そんなやり取りを見つめていた雄也と幸佑も、ただ事ではない雰囲気を察したのか、若干不安そうな表情でこちらを見ている。
 「それじゃ、お大事に」
洋介は短くそれだけ言うと、足早に病室を出て行った。
結局肝心なことは何も伝えられないままになってしまったが、心のどこかでそれに安堵している自分に気付いて、自嘲気味に頬を歪ませた。
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ななりん様 (葉月)
2016-10-17 13:52:13
私のところにコメントを書いてくださりありがとうございました。
初めてあの名無しの方に対して私の事を擁護してくださるコメントを書いてくださった方が出来て嬉しかったです。
あの名無しの方は、多分ですが、いつも私のブログを見ていては、何か、愚痴やら、他の方へのコメントの対応やら、少しでも私があまり良くない態度の文章を書くと必ずコメントできつい言葉を寄せてくるのです。
多分、必死すぎて笑える…とか、書いたのもあの方ではないかと。
いつもタイトルも名前も空白なんです。
もう、長年の付き合いみたいな方でして。
苛めというか、ストーカーというか。
余程私が気に入らないようで、でも、見に来るんですよね!
で、嫌なら見に来なければいいのに、って書くと、そういう事を言う権利はないって。
見に来るのは自由で、コメントも自由で、そういうとこに、私が書き込んでるんだからって言ってくるんです!
ああ言えばこう言うで。
そんなあの方にそう言って頂けて嬉しかったです。
ありがとうございました。
すみません、私のブログのコメント欄に、こういう事を書いてお礼を言ってるのも何か変な感じかもと思ってしまい、こちらに関係のないのにお礼を書かせていただいてしまいました。
お許しください。

新しい小説、読ませていただきました。
やはりとても文章の書き方とか素晴らしくて、驚いてばかりです。
米原さんでよかったですか?漢字間違ってませんか?
もしも違ってたらごめんなさい。
出てきましたね!!彼とこの先生が恋に落ちていくのかなぁとか思って。
それとも、肝臓ガンだった彼との恋なのかしら。
この彼と先生?でも、米原さんがななりん様のお好きな方だから、主役ですよね。
と色々と想像を巡らせています。
肝臓がん…私、実は肝臓の数値が悪くて、脂肪肝なんですけど、精神科にも通ってるのでその薬のせいかもしれなかったり。
とにかくこのままの状態でいけば、近い将来、肝臓がんになるかもしれないんです。
体も毎日だるいし、本当に疲れやすくて。
でも、検査は怖くて行けなくて。
エコーは撮ってもらい、いまは肝臓は脂肪肝だけしかわからないみたいなので大丈夫みたいですけど。
ごめんなさい、暗い話で。私は鬱病も患っててその薬をずっと飲んでるんです。
だから、ブログもおかしい時があるかもしれません。
それで離れて行かれた方もいらっしゃいますし、ななりん様も、私はそんな人間なので、おかしいと思われたら、サヨナラされても私は大丈夫ですので、その時はどうぞお気持ちのままにしてくださいませね。
お嫌でしたらこちらにも来ませんので、言ってくださいませね。
実は母も癌で、胃癌だったのですが、一応治って今は何とか生きてます。
うちは両親とも癌の家系なので、必ず私もそうなると思ってはいます。
すみません、関係ない、それも暗い話で。

本当にななりん様のコメント有り難かったです。
感謝しております。
こうして助けてくださる方もいらっしゃるのだから、頑張らないといけないですよね。
それでは、すみません、長文になってしまいました。
また、ななりん様が良ければお邪魔しますね。
本当にありがとうございました。
葉月さま♪ (ななりん)
2016-10-17 21:06:35
こちらへの書き込みありがとうございます^^
てか、私の方こそ揉める原因になるかもしれないようなことを葉月さんのブログに書いちゃってすいません
でも、ちょっと我慢できなかったんです;;
失意のどん底にある人に対して、あれはないですよ~
決めつけもひどいし・・・(  ̄っ ̄)
でも、葉月さんがちょっと元気になられたみたいで良かったです♪

あ、ちなみに私も鬱です 爆
しかも、もう4年くらいのお付き合いです
今はもう薬は飲んでませんが、病院へは定期的に通ってます
鬱が原因で23年勤めた職場を退職するハメにもなりました・・・
なので私としては、こんなところまで私と葉月さんは似てるんだなぁ~って、変に感心しちゃいました(´∀`;
そしてさらに、私も癌の家系なんです・・・で、過去に脂肪肝も患ってました!
ここまでくると、何か運命を感じますよ(笑)
もしかして血液型ABですか?(さすがにそれはないかw)

ということで、似た者同士、そして同じ病をもつ同士、きっとわかりあえることも多いと思うので
これからも末永いお付き合いよろしくお願いします^^*

あ、小説の感想もありがとうございます☆
これからどうなっていくのでしょう・・・ふふふ・・・ (笑)
そう、米原さんで合ってますよ♪
葉月さんが書いてた予想の中に、はたして正解はあるのでしょうか!?
私も断然書くのが楽しくなってきました^^
執筆活動頑張ります♪

最後に、暗い話、ナーヴァスな話、何でもOKですよ
ぶちまけたいことや、聞いてほしいことがあったらいつでも、何でも書いてくださいね!
人に話した方がラクになれるときってありますから(^_-)-☆
では、またお待ちしています♪ 

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