名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

Э キネマ倶楽部 【ジョージ・ロイ・ヒル】

2016年10月29日 | 日記
 ノスタルジックな映像で、過酷な現実を過去の出来事として描きます。「Butch Cassidy & The Sandance Kid(邦題:明日に向かって撃て)」も「The Great Waldo Pepper(邦題:華麗なる飛行機野郎)」も、幕が降りた後で主人公は死んでいる。が、彼等の精神が、観客の心に残ります。

 ジョージ・ロイ・ヒルは戦時中空軍のパイロットという生粋の戦中派です。「華麗なるヒコーキ野郎」には奥深い精神がにじみ出ていますが、これはヒル氏の戦争体験から生まれた本ものの情熱かと思います。名作群の中でも、円熟期に創られたこの作品が恐らく最高傑作でしょう。主演のロバート・レッドフォード初め、共演のスーザン・サランドンも見事な演技ですが、後に「スーパーマン」の恋人役で有名になったマーゴット・キダーの若々しい存在も光る。そして、ドイツ空軍の英雄・ケスラーを演じたボー・ブランディンの迫力も群を抜いてます。

 この物語は、典型的な悲劇です。サランドン扮するメリー・べスは、アクロバット飛行の際に落ちてしまう。ウォルド・ペッパーも映画撮影の空中戦で死ぬ結末です。しかしながら、観劇後は大らかな喜劇として印象に遺る。それは、小さな物理的観点を超えて精神的な大極を描くゆえにそうなるのです。戦時を生き残った空の英雄エルンスト・ケスラーは、戦後人生に絶望している。ケスラーに憧れるペッパーは、アクロバット飛行で死んだべスや友人を悼み自暴自棄になっている。その二人が、本当の空中戦を演じる事に拠り、お互いに尊敬する飛行機乗りとして誇りを取り戻すエンディングです。落下傘を捨て、互いに機が損傷して落ちると知りながら、決戦に挑むペッパーもケスラーも大らかに微笑んでいる。そこには、これから死ぬ身でありながら、戦争の様な虚名ではなく飛行機乗りの真の精神に満たされた歓喜が溢れています。その大きな感動を見事に描き切った傑作と云えるでしょう。こういう高貴な精神は、戦争体験など身に迫る危険を覚悟し腹を据えた経験がなければ、本当には実感出来ないものかも知れません。この映画の精神的主題は、8年後の名作「ライト・スタッフ」に良く似ています。二つの映画は、飛行機乗りの命を賭けたスピリットを描き切っている。はからずも、興行的に失敗した点も共通しています。が、共に歴史に遺る傑作名画と云えるでしょう。

 若い頃の作品に、ジュリー・アンドリュース主演の「ハワイ」と「モダン・ミリー」がありますが、音楽と映像の融合に影響がある様に感じます。「スティング」の騙し技巧を多くの観客が絶賛し、アカデミー賞主要部門を独占しました。あの可笑しさは、「テキサスの五人の仲間」に次ぐ騙しトリックの傑作と云えるでしょう。「スラップ・ショット」では、ホッケー選手の狂気すれすれのスポーツ魂と、男のストリップに笑わされます。「ガープの世界」では、演出に磨きが掛かりました。若くして賞を取り続けた舞台の名女優グレン・クローズの映画初出演作品であり、若きロビン・ウィリアムズの本格映画初主演でもあります。

 未見の作品に「スローター・ハウス 5」があります。カンヌ国際映画祭の審査委員賞他絶賛されているので、初めて観るのを愉しみにしています。ジョージ・ロイ・ヒルの作品ゆえに、傑作だという予感があります。
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