名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

Э キネマ倶楽部 【恐怖の報酬 アンリ・ジョルジュ・クルーゾー】

2016年11月05日 | 日記
 クルーゾーは、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン、英国アカデミーと映画最盛期の国際的な映画賞を総なめにした名監督であり、ジャン・ルノワール、ルネ・クレール、ジュリアン・デュヴィヴィエ、マルセル・カルネと並ぶフランス映画界の大御所と云えるでしょう。「犯罪河岸(ヴェッィア国際映画祭監督賞)」「情夫マノン(ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)」「悪魔の様ような女(ルイ・デリュック賞)」など名作の数々を遺しました。

 その中でも特筆に値する傑作があります。「恐怖の報酬(べルリン国際映画祭金熊賞、カンヌ国際映画祭グランプリ、英国アカデミー作品賞)」この一作だけで、クルーゾーの力量と作風が良く分かります。研ぎ澄まされた台本、役者の自然な演技、リアリズムの様でロマンティックな美的映像、静と動のバランス、音楽と効果音の素晴らしさ、人間の尊厳と突然の死の感動など藝術的サスペンスのお手本と云える名作です。

 南米の油田で大火災が起きる。それを消す為に、大量のニトログリセリンを遥か5百キロ先迄おんぼろトラックで運ぶ物語です。一寸したショックで、辺り一帯が木っ端微塵となる程の爆薬を積み、でこぼこ道や沼、ターン出来ない山道や崖っぷちと、恐怖が連続する。そこに、四人の男たちの生き様と覚悟が描かれる。サスペンスではありますが、人間ドラマの傑作と云えるでしょう。イヴ・モンタン、シャルル・バネルが巧い。昔の名優には、演技技巧とはあまり関係の無い彼等自身の人間味を感じます。それは恐らく...、困難な時代を生き抜いた逞しさと自信なのでしょう。

 危険と恐怖を前提とするサスペンスで一番重要なのは「溜め」と「間」かと思いますが、この「溜め」が...特に映画では...難しい。演劇、美術、撮影、音楽、自然の背景など全ての要素が一体となっていないと、ほんの僅かな違いで観るに堪えない駄作となる。失敗作を並べるときりがありません。今時の映画だと作為が観えてしまう。クルーゾー映画には、登場人物が憑依する程のリアルな感性があります。近年では、ベルナール・ヘルツォークやコーエン兄弟が、本もののサスペンスを受け継いだと云えるでしょう。要は、藝術性と大らかな覚醒感かと思います。

「ピカソ・天才の秘密(カンヌ国際映画祭審査員特別賞)」というピカソの筆をカメラが追った風変わりな名作があると聞いており、もう何十年も捜し求めていますが未だに見付かりません。何かの折りにその一部分だけ垣間見た事がありますが、ぞっとする様な感銘を受けました。恐らく中々入手出来ないでしょう。が、それも何となく愉しい。今日これから死ぬという様な時に、「クルーゾーの映画を...観たかった」と、末期の台詞を遺しながら息絶えるのも粋なものです。


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