名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

Э キネマ倶楽部 【テオ・アンゲロプロス】

2016年11月05日 | 日記
 昔、場末の3本立て映画館で、映画評論家とおぼしき変なおばさんに「この映画は音を立てないで観なさい」と正面切って文句を云われた事があります。せんべいをかじっていたのです。御免なさい。反省してます。しかしながら...ひと言反論の余地があるとすれば...、この作品1本だけでも上映時間が4時間近くある。その上三本立てゆえに、せんべいでもかじらなければ餓死する危険がありました。「音を立てないで云々...」と云うのであれば、売店で「ぬれせんべい」でも売るべきではないでしょうか?とは云いながらも...その方のお気持ちは良く分かります。「旅芸人の記録(カンヌ国際映画祭国際批評家大賞、ロンドン映画祭最優秀作品賞)」は半端な名画ではありません。十度観ましたが、その度に感銘が大きくなります。物語はギリシャ神話と現代の内戦が重ねられており、主人公の名前も神話の登場人物です。が、ギリシャ神話や内戦の歴史を御存じない方が観ても感銘を受けるでしょう。アンゲロプロス独特の映画技法が抜きん出ているからです。演劇用語で云えば、異化効果を具現した名作とも云えます。

 360度回転や1シーン1カットの長回しが有名ですが、セット撮影と異なりロケですし多くのエキストラを使う為、「一体どうやって撮ったのだろう」という感嘆の声が多くの映画監督から聞かれます。特撮やCGとは違い、カメラ・ワークと演出の技巧です。演劇的な醍醐味という評論は的外れです。アンゲロプロスの手法こそ、正に映画的な伝統の上に現われたものです。そこには、エイゼンシュタインの歴史に基づきながら、モンタージュ理論の反対側、溝口健二、小津安二郎、黒澤明など日本の映像作家の影響、モンタージュでは描き得ない映画の呼吸が窺えます。

 これ程の作家になると、いかに手を抜いても、喩えスタッフに恵まれなくとも、駄作は撮らないでしょう。スタッフの力に依存しない確たる映像思想があり、その後も名作ばかりです。「アレキサンダ-大王(ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)」「シテール島への船出(感動の名作)」「霧の中の風景(ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)」「こうのとり、たちずさんで」「ユリシーズの鐘(カンヌ国際映画祭審査員特別賞)」「永遠と一日(カンヌ国際映画祭パルム・ドール)」と傑作ばかり。ちなみに、ギリシャの監督です。主義や政治思想を映画で表現しようとしたと云われますが、そういう観点を感じさせない迫力が画面に溢れている。どの映画にも、普遍の真理が描かれています。

 「その男ゾルバ」で有名なマイケル・カコヤニスとは無縁かも知れませんが、最近「ギリシャ映画の伝統」と感じるのは不思議な錯覚です。いずれ主義や主張を超えたアンゲロプロスの芸術観が分析される事でしょう。

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« Э キネマ倶楽部 【恐怖の報... | トップ | Э キネマ倶楽部 【イングマ... »

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。