名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

@ 非論理エッセイ 【夏目漱石の文学論】

2016年10月15日 | 日記
 子供の頃、夏目漱石全集の【文学論】に大きな感銘を受けました。そして、氏の作品が他の日本文学とはかなり異なる点を解析した事があります。この論点は、芥川龍之介、太宰治などにも共通する様に思います。

 当然の事ながら、夏目漱石の作品は【日本語】で書かれています。文体も修辞も日本的であり、極端に云えば【日本語を極めた作家】とも云える。しかしながら...、これが論点なのですが...、【夏目漱石】の文学論にはイギリス文学の要点が【英語表記】で正確に記されているのです。文学は、言葉の表層を示すものではありません。単語相互の矛盾、対立、決裂、皮相から深い想念が示されます。主義主張や安易な論理は、邪魔にこそなれ役に立ちません。新聞記事や論文とは異なり、言葉の背後にある【想念思想】が無為自生と現れるものです。その為に、良い作品には、ある種の広く深い観点があるのです。芥川龍之介や太宰治の文学にも、広い世界観の思想があります。ゆえに、閉鎖性のあった当時では本当の意味に於いて理解されず、社会や一般の作家との間に軋轢がありました。自然主義だのプロレタリア文学などと云う様な狭い観点ではありません。存在の根本義を求めているのです。

 文法や思想構造の異なる英語や中国語の作品を、...それも学者の稚拙な翻訳文から学べば...、日本語の良さが失われるばかりでなく中途半端な論理思考に侵される。ゆえに、僕自身は原文を読む癖があります。若い頃は大変困難な作業でした。しかしながら、そういう苦労を透過すると翻訳文とは異なる本物の文体が会得出来る。文体は、文法にも西洋風の論理形態にも関係ありません。そんなものは、表層の問題であり肝心なのは文学思想かと思います。偉大な作家の【想念思想】を直感する訳です。

 芥川龍之介や太宰治はごく若くして亡くなった為か(40歳近くになって作家となった夏目漱石ですら60歳以前ですが)、その本質に迫ろうとして苦労した様に感じます。若い頃の作品群は、単純で完璧な出来です。が、晩年と云われる作品群は...、本来は【過度期の作品】と捉えるべきなのですが...、かなり迷いが生じている。しかしながら...、屁理屈詰めの論理哲学の観点ではないので...、それが欠点とはならず、悩む想念が見事に表現されています。夏目漱石御本人も含めて、あの作家諸氏がもっと長生きしていれば飛び抜けた傑作をものしたであろうにと、早逝が惜しまれます。が、彼等の苦悩は修辞技巧ではなく...、そんなものは乗り越えています...、【深奥の摂理】であったに違いありません。卓越した世界に通じる思想形態の芽が、早期・中期の作品から感じ取れるゆえです。世界の文学史を振り返れば、本当の傑作文学は作家が50代から80代に書かれている。それ以前に書かれた所謂【傑作】には、大きな欠点があります。【一即多】の【多】が観えていない。ひと言で云えば、確たる思想に基く【正しい見地】が欠けているのです。処が、芥川龍之介の「芋粥」も、太宰治の「富岳百景」も、素晴らしい出来です。もっと長生きしていれば、より優れた作品が出来ただろうなと残念に思う所以です。

 現代では、【夏目漱石の文学論】の原書入手は難しいかもしれませんが、文庫本はあるでしょう。僕自身かなり昔の話ですが、一度原書を無くした後にお茶の水の古本屋を探し回って初版を入手しました。表層技巧から学ぶと、遠回りせねばなりません。先ず西洋も含めた思想の根本から学ぶべきかとは思いますが、余程の奇縁がないと難しいものです。【臨済録】の中国語版をかなり読みましたが、約四百回ほど精読した後に学者諸氏の日本語訳がかなり間違っていると気付いた経験があります。そもそも、あの【ごく単純な摂理を見事に表現した思想書】は、論理哲学とは異なり同じ様な思想経験を経た者でなければ読破出来ない。しかしながら、体験とは異なる本当の経験はひと言で云えば【困難な人生をしっかりと生き抜く】という事であり、かなりの覚悟と度量が必要です。そういう観点から、先に述べた三作家が大好きです。他にも沢山います。千の利休、鴨長明、近松門左衛門、松尾芭蕉、良寛、森鴎外、平田精耕。映画だと、小津安二郎、溝口健二、黒沢明などなど...数え上げるときりがありません。

 さてと、夏目漱石の【草枕】でも久しぶりに読んで見ようかな。と、思われる方は是非お試しください。面白い事請け合いです。しかしながら...、分からない方には、百回生まれ変わっても無理かも知れません...


ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« @ 非論理エッセイ 【E=... | トップ | ♪ スクリューボール・ジョー... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。