旅限無(りょげむ)

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「世代論」をちょっと考える 其の壱

2005-09-05 20:11:51 | 日記・雑学
■以前から、日本の近代史や戦後史を考える時に、詳細な世代論が必要だなあ、と思う事が多かったので、年表風の出版物や世代間ギャップを論じる本を少しずつ集めています。『日本人の全世代読本』三橋一夫著 毎日新聞社刊 1992年、という手軽な本が便利なので愛用していますが、文庫本になっている『悪魔祓いの戦後史』稲垣武著 文春文庫、のような通史や、『文藝春秋にみる昭和史』全四巻 文春文庫、のような文集も参考になります。

■記憶というものは、体験者自身のその後の体験によって語られ方が微妙に変わってしまうものなので、当時の原文を読み直す作業が必要になります。過去は必ず歪んでしまうもので、極端に美化されたり醜悪になったりして、後世の者を大いに混乱させることを承知しておかなければなりません。新聞の縮刷版のような物はとても便利なのですが、値段も高いし量が膨大なので素人には扱い辛いので、上手に捌いてくれる専門家が必要になります。『素顔の昭和』戸川猪佐武著 角川文庫や同じ著者の『小説吉田学校』全8巻、この作品はサイトウタカオさんが劇画にしてくれているので、活字嫌いの世代には便利でしょう。『党人の群れ』全3巻、『自民党戦国史』全3巻 伊藤昌哉著 朝日文庫、などのように現場に立ち会いながら第三者的な目を持っていた書き手が残してくれた本は有り難いものです。「自民党をぶっ壊す!」と総裁が言い出すような末期症状を呈している自由民主党の歴史を読み直すのには丁度良い時期でもあります。

■世代を分かり易く語ってくれる人を探していましたら、『日本にアジア戦略はあるのか 幻想の中国・有事の極東』岡崎久彦・中嶋ミネ雄共著 PHP研究所刊、という一冊の中に「戦後教育と世代の問題」という対談を見つけました。中国問題の参考にしようと読んで見たのですが、この対談が一番面白かった次第です。いくつか引用してみます。


中嶋 ……例えば、日中関係なら、72年体制の後遺症が根強く、台湾の重要性とか有事研究について議論すると、すぐに「それは中国を刺激するから危険だ」とか、「軍国主義といわれる」とか言って拒否反応を示す人がけっこう多くいます。もっとも、これはジャーナリズムも同様です。
岡崎 つまり、問題は戦後の許可書墨塗り世代以降なんですよ。世代論というのは必ず例外があり、一般化するといろいろ失礼な発言になるのですが、敢えて一般的に言えば年齢的には45歳から60歳の間、会社でいえば課長、その後部長、常務、専務クラスです。新聞も例外ではないでしょう。60歳が墨塗りを経験して、その後45歳までが全共闘世代、この世代がいまの日本の実力者です。
中嶋 戦争体験論や戦後体験論的な世代論というのは、われわれ日本の中だけで通用することで、グローバルには通用しません。日本は戦後ずっと平和にやってきましたが、例えば、終戦体験というのは日本だけの特殊な体験にすぎず、世界には今も戦争をやっているとこがある。そういう意味でわれわれはもうちょっと声を大にして、彼らに語りかける必要があると思うし、もっとオープンに議論していくことも必要だと思います。……


確かに、一般化した「世代論」から漏れてしまう特殊な人物は必ずいるもので、そういう人が時流に抵抗して書き残してくれた文章は貴重です。同時に、単に時流に乗っただけの軽薄な本というのも捨てがたい価値を持っているものです。

■この本は1996年に刊行されているので、年代に関しては10年プラスして考えないと行けませんが、「墨塗り世代」と「全共闘世代」という巨大な人口の塊が日本を動かしているのは事実です。墨塗り世代は中途半端に「戦争を知っている」と言い張る人達で、その反面、戦後明らかになった戦中の事実に関しては驚くほど無関心なので、GHQの注文通りに戦争を語る傾向が強いような気がします。「全共闘世代」はもっと扱い難いようで、明確な「敗戦」体験が無いのであの「闘争」は何だったのかが自分でも分からないまま、単なる熱き青春の思い出のようにして暗黙の了解事項を沢山共有しているようです。最も饒舌な世代なのに、核心的な事になると言葉を濁す、そんな印象が強い世代ですなあ。


岡崎 逆に70歳から90歳までの戦争体験論というのは益よりも害の方が多い。この人達はたとえていえば、つぶれそうな会社に入って、課長にもならないうちに会社がつぶれて苦労した人達で、会社の末期症状の苦しさは知っていても、会社の炯炯の事を知るはずがない。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という。ちゃんと歴史を勉強した若い人の方が、よほどよく戦争というものを知って言います。東大の入試が中止になった69年以降に東大に入った世代は大学紛争の影響をあまり受けていません。ですから、私はそのあとの世代に期待しているんです。
中国でも文革が終ってから、ちゃんと試験を受けて大学に入った世代に期待できる人物がいます。私は、日本は彼らに知的な面で圧倒されてしまうのではないかという気さえしています。というのは、日本は大学運紛争のあとで入った人はいちおう全共闘世代ではないけれども、日教組の教育の影響が残っています。歴史教科書などは良い例です。ところが、中国の文革後に大学に入った人は文革全面否定の教育を受けています。……中国の若い世代のようが魅力的です。


其の弐に続く

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