えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

雨下曇天

2017年08月12日 | コラム
雨が降っていた。土砂降りは衰えて雨が続いた道路は黒く、街灯が暗く公園のケヤキの枝ぶりを際立たせている。
玄関の鍵をかける音も雨に流れて、傘立てに刺さっていたビニール傘を引き抜いて黒いボタンを押す。
傘は大きく広がり透明なビニールが雨を透かして、次から次に粒の貼りつくさまが街灯を透かして明らかだ。
時刻はあと三十分で明日になる。傘を閉じようかと手を伸ばして雨を手に受けた。雨粒がまとわりついてじみじみと
手が湿った。手を引っ込めて傘の握りを掴み、サンダルの歩を道路へ置く。

交差点には車が雨を跳ね飛ばし、勢いをつけて行きかう。車高の低い黒い車の前を青信号になる直前の赤信号を見上げながら
横断した。車は横断歩道の二十メートル前から減速し、車用の信号機が赤になったところで停車線丁度にバンパーが止まり、
私は道路を渡り終えた。

何年前かは思い出せないが五年以上更地のままの元公団脇を、黒いフェンスに沿って歩いた。前から白いブラウスとスカートの、
胸元にリボンを付けた長髪の女が来た。休日手前の飲み会か仕事帰りだろうか。すれ違ったような気がした。
ぽつぽつと閉まったシャッターの上で消し忘れの看板が茫洋と光っている。近頃はファミリーレストランも二十四時間の無理を
やめて、客を外へ送り出すようになった。電車は終電に近づきながらも客を家に帰すための下り電車だけは静脈のように
動き続けている。下り坂の奥から風切り音のように車両が唸って遠ざかって行った。

空いていたファミリーレストランに滑り込むと鉄板の焦げる音やピザと鉄板を機械的に運ぶウェイターが行きかっていた。
客が減ると店の奥でやさぐれた金属のかちあう音が店内の客を「早く帰れ」と急かす。誰が選んだわけでもないジャズめいた
英語のポップスの悠長な調子を掻き消して雨が騒ぐ。黒い握りをテーブルの角にひっかけて、傘に従い流れるはずの水を
みようとした。細かくポリエチレンに張り付いた水滴は容易に流れ落ちないようで、傘の先端は一円玉ほどの水たまりしか
出来ていなかった。客は途切れない。

時計から目をそらし、時計に目をやると進んでいる。人は動いている。笑い声も交じる。店員を呼ぶためのチャイムが
定期的になる。それぞれは紛らわしく孤立して、孤立同士が塊に膨れあがり曇りガラスの仕切りの向かいで影が席へ私の
身体を押し込むように傾いた。疲れのない二人がしゃべっている。ようやく一時間が過ぎたところで席を立つ。
夜に入るには明るすぎたのかもしれない。一挙一動のけだるい店員を会計に呼び出して、私は雨の中へ戻った。
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