壁際椿事の「あるくみるきく」

都内在住の男性。約10年の編集プロダクション勤務後、フリーライターに。日々感じたことを書きます。

『知事抹殺』(佐藤栄佐久著)

2012年02月17日 | よむ

以下は、読書後の記憶を頼りに書いているので、曖昧な部分、本の内容と異なる部分があるかもしれません。ご興味のある方は、直接、同書でご確認ください。

『知事抹殺』(佐藤栄佐久著)を読みました。著者は、参院議員を経て、福島県知事に当選。5期まで務めた人物。在任中は、地方税たる核燃料税の引き上げによる、国からの地方の自立強化、地方分権を求める活動などで、中央と闘う知事として知られています。

しかし、弟がからむ収賄事件で逮捕・起訴され、一審・二審で、執行猶予付きの有罪となりました。現在、最高裁に上告中。

収賄の構図は、次のとおり。佐藤家の家業であり、弟が社長を務める郡山三東スーツ(縫製業)があります。福島県で公共事業(木戸ダム工事)を受注したいゼネコン(前田建設)が、この弟に賄賂を送り、弟から兄へと意向と金を渡らせることで、知事から「前田は頑張っているな」との天の声を出させた、というもの。その声を聞いたのは、(実質的に公共事業の落札者を決める?)県土木部長です。

賄賂に関しては、現金でなく、郡山三東スーツの社有地を、時価より高く買うことに賄賂性があるとされました。100名を超える社員がいる郡山三東スーツは経営難で、スリム化のため退職金を必要としていました。また、政治資金規正法改正で、企業献金が禁止され(献金は個人だけ。これじゃ大口は集まりませんよね)、政党交付金がもらえる政党に属さない知事は、選挙資金不足という状況にありました。

当然ながら、元知事の著者は、天の声は発していないと書いています。一方、聞いたと証言しているのが、坂本亮一・元土木部長です。

秋保(温泉)会談というのもあり、ここでは建設会社の担当者、坂本氏の前任者である江花・元土木部長が登場します。この席で実質、落札者が決まったとの経緯も書かれていました。

政商とされる水谷建設の水谷功氏が、「当時は自分の脱税の捜査中だから本当のことを言えなかったが、今なら言える。秋保会談で決まった。知事は関与していない」と言ったとか。でも、それは証拠採用されなかった。なぜ、証拠採用されないんでしょうか? 分かりません。僕は、たぶん、これが事実だと思います。

本件は、中央に楯突いていた知事に対する、国策捜査だとも噂されます。国家権力とは何かを知りたくて、同書を手に取りました。

あとがきに「一部はプライバシー保護のため仮名にしてある」とありますが、検察官の名前が出てきます。これは実名でしょう。ヒドい取調べをする彼らは、確かに国家権力の体現者だけど、逆にいえば、職務に忠実なだけ、ともいえますね。彼らを動かしているのは誰か? 直接的には特捜部長だろうけど、その上に誰かの意思があるはず。誰なのか? 興味があるところですが、そこまで書かれていない。書くと、名誉毀損で逆に訴えられるというリスクもありますから、書けなかったのかもしれませんが、これは残念なところです。

国家権力について、個人まで特定するというのは、不可能なのかもしれません。太平洋戦争だって、「誰」が開戦の決断をしたかというと、個人まで遡れない。軍上層部とか政界とか、「空気」によって決まったのでしょう。

であれば、この国策捜査も、誰が指揮したわけでもないかもしれない。霞ヶ関という空気が、そうさせたのかもしれない。

(以下引用)私が闘ってきた「霞ヶ関」の官僚の行動原理は、基本的に「自己保身」であった。官僚は自らの責任として何かをなすことを嫌い、「顔」がなかった。対して特捜検察は、その行動が「自己目的化」しているのだ。(中略)公判の最後には、その自己目的化の筋書きが破綻していることも明らかになった(中略)が、最初の見込みが外れても、無理矢理、私や(弟の)祐二から虚偽の自白をとり、人間を押しつぶしながら進んでいくのである。(引用終わり)

ブルドーザーに例えています。さて、最高裁判決が興味深いですね。

鐸木能光さんの『日本のルールは間違いだらけ』に、裁判員制度のことが書かれていました。民間人が判決に関わる裁判員制度は、殺人など凶悪犯罪でなく、行政事件に適用してこそ意味がある、という趣旨です。まさに、本件に当てはまると思います。

検察、取調室の緊迫した描写。「それはあなたの想像でいいですよ。私は、誰も信じてくれないから、私の本当の心情はひとりだけに言っておこう、そして広げる必要もない。(だから長男だけに本当のことを話して)(引用者注:関係者が受けているヒドい取調べを止めさせるためにも、たとえ虚偽でも自白することで)火を消すなら徹底して消すのが、これはもう安全管理の常道ですから」

安全管理の常道――。

法廷に入るとき、兄弟は別々に行動します。でも、カメラマンはツーショットが欲しい。兄弟がグルだ、という印象を読者に与えられる。インパクトが強い。そのために、先に入ろうとする兄を呼びとめ、弟が追いつくときにシャッターチャンス。そんなマスコミの手法も載っていました。(結局、写真が撮られたかどうかは失念)

もし、そんな写真が載った新聞を、何も知らない読者が見たら、どうでしょう。情報操作なんて、簡単なんだなぁ。僕らは何を信じたらいいんだろうか。

書きたいことは山ほどあるけど、この辺で。なお、僕のこの感想文はあまりに拙い。同書は、元高地県知事の橋本大二郎氏と、ジャーナリストの手嶋龍一氏の書評があります。これが、すごく参考になるので、紹介します。

●橋本大二郎氏の書評
http://eisaku-sato.jp/blg/2009/12/000029.html

●手嶋龍一氏の書評
http://www.ryuichiteshima.com/bookreviews/r20091018.php

以上、長くなりました。失礼しました。

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佐藤栄佐久 裁判員制度 橋本大二郎 太平洋戦争 政党交付金 福島県知事 政治資金規正法
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