中村叶の詩

中村叶の詩です。元気になれる。勇気がでる。心安らぐ。

君は九九が全部言えますか?

2006-03-05 16:23:48 | おはな詩(生きる)
君は九九が全部言えますか?

君は九九が全部言えますか?   Yes!
だったら おれに比べれば君は
間違いなく 大きな可能性を持っているよ
おれはね 中学卒業のとき九九が全部は言えなかったんだから

小学校でいじめにあった
気が弱く 体が小さいおれは いじめの標的にされた
筆箱を隠され 上履きが隠されるのは 日常茶飯
休み時間には 後ろから蹴られたり
足に画鋲(がびょう)を刺されたり

学校がイヤでたまらなかっただから
勉強にも興味が持てなかった
まず 九九でつまずいた

中学生になって 希望に胸がふくらむよね
でも、中学校で最初にもらった通知票は
国語 社会 数学 理科 英語 ・・・1  1  1  1  1  ・・・
オール1だった

希望でふくらんだ胸が しゅんとしぼんだ
やっぱりおれはバカだ おれは自分で自分を見放した

中学卒業後 大工の見習いになった
親方の指導は厳しく 殴られることがしょっちゅうだった

母はおれのことを理解してくれた
その母に16歳で先立たれ 17歳で大工をやめた
18歳のときには父を亡くした

20歳のときに 豊川市内の建築会社に就職した
地元の会社で働いている純子と知り合って
いつしか恋仲になっていた

23歳のとき 純子に一本のビデオを手渡された
「光は波動か 粒子か」
ビデオには
アインシュタインの理論を解説したテレビ番組が録画されていた
光の本質をめぐって繰り広げられてきた物理学者たちの論争
真実を追究するアインシュタインの執念
いままで味わったことのない気持ちが心に広がった
もっと知りたい! 

書店へ行って 一番易しそうな物理学の解説書を買った
読んでも 数式がひとつも理解できなかった
物理学を理解するには大学へいかなくては
直感的にそう思った

物理学を理解したい そのために大学へ行きたい
大学へ行く第一歩として 定時制高校を受けようと決心した
まず九九をマスターすることから 夢への道が始まった
次に小学校3年生用の算数ドリルを購入した・・・
たった独りで 中3までの数学と英語を学んだ

24歳の春に 自宅に近い豊川高校の定時制に進んだ
物理学科のある 名古屋大学に進むために
毎朝5時に起きて 出勤時間まで勉強
仕事を終えたら 遊びの誘いも断って高校へ通い
帰ってからは 午前0時まで勉強した

もっと知りたい!
知識への、真理への、情熱が おれを後押しした

神様が(もしいるなら)
おれの努力を認めてくれたのか
努力に結果がついてきた
高2の秋には 全国模試で数学の得点が 愛知県内で一番になった
高3の3学期 大学入試センター試験では八割近い得点を取って
名古屋大学の理学部を受験した

名古屋大学理学部
中学卒業時に九九を言えない子どもがいたら
世の高校教師の99.9999%は 一生かかってもうからないと予想する
難関大学難関学部、名門大学名門学部だ

レタックスが自宅の郵便受けに入っていた
合否の通知だった 合格者の受験番号が列記されていた
その中に自分の番号があった
信じられなかった 不合格者の番号が掲載されているのだと思った
何度も、何度も確認したが 合格者受験番号という文字列の前に
「不」という字はついていなかった
やった~ 合格したぞ~
23歳で 九九の勉強からやりなおしたおれが
27歳で名古屋大学理学部に合格して
物理学の勉強ができる!

1996年4月 おれは名古屋大学に入学した
大学入学は最終目標じゃない
物理学の研究がおれのやりたいことだった

それから9年間 学部と大学院で宇宙物理学を専攻し
素粒子研究に没頭した
在学中に純子と結婚して 長男にも恵まれた
研究者なろう そう思ってきたが
順風満帆の日々の中で 別の思いが芽生えた

いじめられた小学校時代 悔しさと悲しさを知っているおれ
勉強のおちこぼれで その無念さがわかるおれ
落ちこぼれだったから 生徒がどこでつまずくのかがわかるおれ
中学卒業のときに九九も全部は言えなかったおれ
そういうおれの経験が
一番役に立つ仕事は教師ではないのか
あたらしい目標ができた
母校に電話をかけた
教職への思いを語り教壇に立ちたいと申し出た 
37歳のおれを採用してくれるのか

おれは 37歳で新米の数学教師になった
 「先生の話はわかりやすい」 生徒達そういってくれる
君たちが想像もできないくらいのおちこぼれだったから
君たちがひっかかるところ つまずくところはわかっているからね
自分の経験が 教えてくれるんだ

数学は積み重ねだから 前のところがわからなければ前に戻ればいい
これは、どの教科でも一緒なんじゃないかな

小学校の算数からやりなおすのはプライドが許さない?
そんなプライドは捨ててしまいましょう 今「わかる」ことが大切
ひとつがわかり つぎがわかり たくさんのことがわかってくる
自信がついてきて 興味がでてきて もっと勉強したくなる
だから、ますますわかるようになり
だから、ますます勉強したくなる
いい循環がはじまる
さぁ、いい循環をつくりだそう

おれの新しい目標は
君たちが目標を見つける手助けをすること
教師としては新米だけれど 
目標をみつけ その目標にむかって努力を重ねたら
不可能とも思われた目標に到達できて
つぎの目標にもたどりつけた
こういうおれの経験を語ることはきっと 君たちの役に立てると思う

I CAN and YOU CAN
どんなに不可能と思われることでも
目標を持ってこつこつと努力を重ねれば 可能になるよ

君は九九が全部言えますか?   Yes!
だったら 先生に比べれば君は
間違いなく 大きな可能性を持っている!
先生はね 中学卒業のとき九九が全部は言えなかったんだから


『読売新聞』2006年3月5日付朝刊『人物語』「先生はオール1だった」に紹介された私立・豊川高校(愛知県豊川市)の数学教師、宮本延春(まさはる)さんの「物語」(実話)に想を得て書いてみました。
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宮本延春宮本 延春(みやもと まさはる、男性、1969年-)は、日本の教育者、豊川高等学校教諭、エッセイスト。自身のいじめ体験をふまえたエッセイの出版や講演活動を行っている。初エッセイ『オール1の落ちこぼれ、教師になる』は10万部突破のベストセ...