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( by 後藤 純一/めるがっぱ )

映画「警視庁物語」シリーズを見て

2017年05月30日 07時13分19秒 | Weblog
 
 
 東映の「警視庁物語」シリーズをネット配信(DMM)で見た。
殺人事件を捜査する警視庁捜査1課の活躍を描いた、一話完結の
シリーズもので、昭和31年(1956)から38年(1963)まで24作が作られた。
寅さんの48作には遠く及ばないとはいえ、当時のヒットシリーズだ。
今回、24作のうち23作を見た(「謎の赤電話」が未見)。
全作白黒で、前半の半数はスタンダードサイズ、後半が「東映スコープ」。
まだシネマスコープが新しかった。
幾つかは子供のころに見た記憶がある。
 

 昨今の刑事ドラマのような謎のトリックはなく、国家天下、組織を
論じる人物も出てこない。
被害者も加害者も庶民、刑事たちもどこにでもいる普通の人だ。
被害者の身元調べから始まり地道な聞き込みで関係者の周辺から
浮かんだ容疑者は一転アリバイが成立、捜査は振り出しに戻るの繰り返し。
1-2作目は今から見ると粗い演出だが、他は緻密な展開で楽しめる。
 ひょっとしたら、チームでの捜査を描いた最初の日本映画だろうか?
7人のうち、神田隆、堀雄二、花沢徳衛、山本麟一の4人がほぼ
固定で、あとのメンバーは回によって入れ替わっている。
7人のチームには親分、子分のつながりはない。
「長田警部」や「林刑事」らそれぞれがチーム内で自分はなにをやるかと
役割を自覚して動いている。縦社会の上下関係ではなく、
神田隆の「主任」を中心にした職能集団である。
7人は個性的だが、人間関係はあまり描かず、捜査の過程での屈折や
感情をさりげなく映している。
どの刑事も紳士として描かれるが、初期の数本では庶民が刑事にぺこぺこし、
刑事も、ポケットに手を入れたまま、胸をそらして応対する。
この方が実態に近かったのかもしれない。
 
 背景となっている昭和の雑然とした風景が面白い。
都内なのに石ころだらけの道に長屋のような安アパートばかり。
屋台の焼きそばが一皿30円で、リヤカーが活躍し、三輪トラックが走る。
夜道が暗い。
新幹線ができる前だから、大阪出張も東海道線の夜行列車である。
木造の椅子の車内は客でいっぱいだ。
犯人の仲間が連絡をとりあう上野駅の伝言板が当時の世相を感じさせる。
事件に関係して踊り子やストリッパーが多く登場し昼でも
タオル一枚で姿を現すのは(観客へのサービスと)時代の偏見だろう。
パトカーにこそ無線はあるが、携帯のない時代だから
警官が自転車で走り周って連絡をする。
死体を発見した警官が「近くに公衆電話はありませんか」と聞いている。
端役のアパートの大家や犯人まで生活感の濃い顔をしている。
「昭和」の顔だ。
 
 
 

*花沢徳衛
 
子供のころに数本を見ていて、花沢徳衛だけはよく覚えていた。
戦前からの叩き上げの林刑事役はこのヴェテラン俳優の
代表作と言っていいのでは。
当時、まだ40代の花沢はまだ小さな娘の父でもある刑事の
生活感を身体から匂わせていた。
煙草を吸わず、代わりにキャラメルを食べている。
 
 
*神田隆

捜査一課の司令塔である主任は、捜査の進め方や刑事たちへの仕事の割り振りに
説得力がある。常に「主任」と呼ばれ、名前で呼ばれることがない。
神田隆は安定感があり優し気で、好きな俳優だった。
滑舌がよく、きれいなよく通る声をしている。
後に時代劇で悪役になったのが子供心にはイヤだった。
 
 
*堀雄二
 
今度見て初めて知ったのだが、シリーズの多くはクレジットのトップに
この人の名前が来ている。子供のころ好きだった神田、花沢がずっと後ろ
なのは意外である。
堀、神田、花沢の3人がこのシリーズの基調を作っていた。
 
 
 
*山本麟一
 
後にやくざ映画の悪役で鳴らした山本がこのシリーズでは
若手の金子刑事でレギュラーになっている。
 
 
 


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