物語を食べて生きてます
アニメや小説など物語に感謝を込めて
 



これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

 う〜ん、う〜んと唸り声。
 りーん、りーんと電話のベル。
 六畳一間のアパートに、オーケストラの如く音が響き合い、ハッキリって
五月蠅い。
 風邪で寝ていた海城だったが、寝てられずむくっと起きあがろうとした。
 くらっ、頭が揺れ視界が歪む、まだ熱が引いてないようだ。
 海城は起きあがるのを諦めてた、でも電話は止めないと五月蠅くて寝てられ
ない。仕方ないと、海城は布団にくるまったまま毛虫の如く這って電話の所ま
で行くことにした。
「さっちゃんには見せられないな〜」
 なんとか辿り着き、海城は電話を取った。
「はい、か」
「大変です」
 名乗る間も与えられず、せっぱ詰まった少女の声が響いてくる。
「えっと、何が」
「健気な少女に悪の魔の手が迫っているのです。
 力を貸して下さい、天空レッド」
「えっ、あなたは誰? なぜ、この番号を知っているのですか?」
 少女が危険云々より、自分の正体が知られていたことに衝撃を受ける海城。
 基本的に、正体は秘密。
 この電話番号だって、天空レッドとしては誰にも教えてないはず。
「私です、必殺技コーディネイターのツインローズです」
 なんだと、ほっとして、はっとなる海城。彼女とは正義の味方の関係上色々
連絡を取り合ったが、基本的に番号を教えてない。いつもこちらから一方的に
非通知で電話をしただけ。
 決して熱の所為でない寒気が海城に襲いかかる。
「どうかしました?」
「いいえ、気にしないで下さい」
 そうだ、今は熱で記憶が混乱しているだけで、きっと教えたんだね。
 そうだ、そうだよ、そうだよね。
 海城は取り敢えず必殺「先送り」を放った。
「それより少女が危ないって」
「はい、今一人の少女が悪い男に騙されて、悪の巣窟に送り込まれてしまった
のです。
 そこから、連れ出したいのですが、私の力では無理なのです。
 お願いです力を貸して下さい」
 ツインローズこと西条が言うのは、当然沙耶のこと。
 そして沙耶を誑かした悪い男とは、当然海城のこと。
 なのですが、何も知らない海城の脳裏には、イケメンでスマートな男の映像
が浮かび上がる。浮かび上がったイケメンが美少女を甘い言葉で誑かさす三文
ドラマが脳裏で展開される。
「くそっクズ男め。イケメンは敵だ」
 勝手にイケメンに怒りに燃える海城だが、別に海城はイケメンじゃないよ。
「このままでは、彼女は、×××や○○○など、18禁小説になってしまうこ
とをされてしまいます。どうか力を貸して下さい。
 御礼に私が今後天空レッドを全面的にバックアップしますわ」
「しかし・・・」
 ツインローズの援助といっても、微妙だしな〜。
 何より、今自分は病に伏せり、人を助けるどころか、自分の命の方が危ない
状態。
 今一、魂に火がつかない海城であった。
「お願いです、あなたしかいなのです」
「俺しかいない」
 海城の冷えた心に薪がくべられてしまった。
「そうです。
 無垢な少女を救い出せるのはあなただけなのです」
「無垢な少女」
 海城の心に油が撒かれた。
「お願いです、天空レッド。
 正義の為に戦って」
「正義の為に」
 正義の味方が喜ぶキーワード、「あなたしか」、「無垢な少女」、「正義」の
三段攻撃。単純だが効果的、海城の魂は燃え上がった。
「分かりました。詳しい場所を教えて下さい」
 ・
 ・
 ・
 チンッ、電話は切られた。
 海城はふらつく体を押して立ち上がろうとして、片膝を着いてしまった。
「立て立つんだ天空レッド。無垢な美少女が俺を持っている」
 海城は布団をはね除け立ち上がった。
 やはり頭がクラッとする。そりゃ、風邪で熱が出てるからね。
「なんだこれくらい、お前の正義の力はそんなものかっ。
 今こそ天空の力よ俺に宿れ」
 海城は天を仰ぎ、両手を掲げた。
「ぐおおおおおっーーーーーーーーーーー、力が漲ってきた」
 気のせいというか、そんな気がするだけとか、思い込みです。
 祈って、天から力が貰えたら人間苦労しないよ。
「よしっこれならいける。
 闘うんだ天空レッド。
 お前がやらねば誰がやる」
 海城は酔っぱらいのように自分で自分を賛美するナレーションを恥ずかし気も
なく自分でしゃべる。
 いや、海城は酔っていたのである。
 そう病を推して戦う正義の味方に酔っていたのである。
 みんなは海城を馬鹿だと思うがだろうが違う、こういう自分に酔える人間でな
ければ正義の味方なんて一円にもならないことをやるわけない。
 そう正義の味方とは、自分に陶酔出来るナルシストでなければ、出来ないのであ
る。これはやがて来る世界でも変わらない理なのである。
 海城はタンスから天空レッドスーツを取り出すとダッシュでヤガテヒルズに向かっ
たのだった。


                                      つづく 

                                        
 このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
 存在する人物団体とは、一切関係ありません。

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これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「ここやな」
 沙耶は、繁華街の少し外れにそびえ立つ700メートル級ビルを見上げた。
 
 ヤガテヒルズ
 環境問題に積極的に取り組んだエコビル。
 屋上が森になっているのは当然として、外装内装には植物が根付けるように
なっているハイポリマー樹脂を採用し、壁一面植物で覆うことが可能。
 太陽、地熱、風力を合わせた動力システムによる水の循環システム。
 ミラーコートを用い窓から取り入れた光がビル中を照らし、照明不要。
 まさに、やがて来る世界を代表するエコビルになるはずだった。
 だが、官僚やら政治屋がピンハネし過ぎて外装が完成した時点で資金がゼロ。
 その後追加資金を投入しようとしたが、野党の反対で頓挫。牛歩戦術・ボイ
コットなどなどてんやわんやと国会が空転しているうちに、内部に犯罪者・マ
ッドサイエンティストなどが住み着き、その内の誰かが事故ってバイオハザー
ドを起こしてしまい、ヤガテヒルズは一気に木々がうっそうと生い茂る都会の
ジャングルと化してしまったのだった。
 後はお馴染み責任の擦り付けの末、取り壊そうと思えば環境保護団体の狂気
の反対運動などにあい、やがて来る世界でも引き継がれた伝統芸の臭いものは
蓋、すなわち放置で決着が付いた。
 と政府は手を引いたが、ビル内部には自然界には存在しない、幻の薬草がご
ろごろ。一攫千金を求め今日も冒険者が挑んでいく。

 外装をすっかり緑に覆われてしまったヤガテヒルズは、もはやビルというよ
り垂直にそびえる山といった印象。
「まっててや海城。うちが直ぐに薬草を採って来るからな」
 沙耶は覚悟を決めるとヤガテヒルズ敷地を取り囲む柵を乗り越えた。
 ここから先は日本であって日本じゃない無法地帯、犯罪者から捨てられ凶暴
化したペットまで渦巻く、力だけが正義の世界。
 沙耶はリュックより、愛用のトンファーを取り出し右手に装着。
 くるく〜ると回して感触良好。
「よっしゃ、これで何が出てもへっちゃらや」
 沙耶は意気揚々と正面玄関に続く道を歩き出す。
「しっかしここほんまに日本か?」
 敷地外には灰色のビルが建ち並んでいるのに柵を越えただけで、密林の如く
木々が茂っている。
「やっぱ、温暖化の影響なのかな?」
 沙耶は頭上より強襲する蛇、視界を遮る木々をへし折って現れる犯罪者など
などと警戒して警戒して。
「もういやや〜」
と気付いたらダッシュしていた。
 まあ引き返さないだけ根性はあるんやと自分を励ましている内に、何と無事
に正面玄関に辿り着いていた。
「はあっはあ、ざっとこんなもんや」
 沙耶は、息を整え、胸を張り、ビル内部に広がる秘境を覚悟して、回転扉を
潜った。
「いらっしゃい、いらっしゃい、大麻が安いよ〜」
「さあさあ、寄ってらっしゃいそこの奥さん、取れたて新鮮産地直送トリアグ
ラ草、これで今夜の旦那さん猛ハッスル」
「なんやねんこれ?」 
 困惑の沙耶の瞳には、ヤガテヒルズ一階に広がる市場が映っていた。
 ごった返す人、活気溢れる呼び声、怪しいと思いつつもお祭り好きの血は抑え
られず、ふらふら〜と引き寄せられていく沙耶。ふらふら〜と近付いていっぺん
に頭が冷えた。
 仮面、仮面、仮面、客も店主もみんなみんなほとんどの人が仮面を被っている。
 それはもう、戦隊物のお面からひょっとこ、果てはアニマルマスクまで、コス
プレ会場かと思うくらいだ。
 うっ胡散臭さすぎやねん、かかわったらあかんで。沙耶は、騒ぐ血を抑え、無
視を決心。
「そこのお嬢さん、これどう本日入荷したばかりのほれ草、これを使えば強力な
惚れ薬がつくれちゃうよ」
「ほんまか、おっちゃん」
 思わず食いつく沙耶、相手が例えスキンヘッド、頬に刀傷があろうとも、恋す
る乙女心は抑えられない。
「ほんとほんと、今なら作り方のレシピも付けちゃうよ」
「う〜っ」
 沙耶の脳裏に浮かぶ光景とともに、にやける沙耶。
「いいかも、これ・・・」 
 よろよろ〜と伸びかけた腕だったが、バンッと伸ばし掛けた腕も思わず引っ込
める勢いで足が踏み込まれた。
「なにしやがるっ!!」
「クーリングオフっしょ」
 沙耶が恐る恐る足の上の方を見ていくと、レッドのサングラスに赤毛が燃える
ショートカットの少女が獰猛に笑っていた。
「この前は良くも騙したっしょ。
 乙女を騙すなんて復讐天罰天誅のギッタボロっしょ」
 ビシッと店主を指差す乱入少女。
 さっするに、偽物を掴まされて怒っているんやな。つまり、このほれ薬もばった
もんか〜。
 はあ〜と溜息ついちゃう沙耶。
「お嬢ちゃん、いちゃもんつけてもらっちゃこまるな〜」
 むく〜と立ち上がった店主は雄に二メートルを越す筋肉隆々大男。
 ぽきぽき指なんか鳴らして威嚇してる。
「べ〜っしょ。この椿ちゃんは可憐聡明豪傑、ウドの大木なんか怖くないっしょ」
「このジャリ娘共、フロにまとめて沈めてやる」
「ええ〜うちも?」
 いつの間にやら巻き込まれていた沙耶、まあ災難なんてそんなもん。
 店主は怒り爆発、椿に低い姿勢からの高速タックルで挑んだ。
「迎撃撃墜墜落、踵落とし」
 椿のカウンターで放った踵落としは見事なまでに決まったが、店主も伊達じゃない
脳天に踵を喰らっても耐えた、耐えてさっと椿の足を掴み取る。
 捕まれば絶対の体格差、絶体絶命椿。
「う〜ん、えいっ」
 悩み出す前に決断、沙耶。
 くるくる〜と回転遠心力の乗ったトンファーの一撃を、自分の真横で急所晒す店主に
叩き込んだ。
「ぐおっ」
「チャンスっしょ」
 店主が怯んだ一瞬、椿は速攻の蹴りを店主の急所にショットした。
 
「ナイス一撃だったね。ボクは椿」
 椿は無邪気な笑顔を沙耶に向け、その笑顔に沙耶も心を許してしまう。
「うちは沙耶や」
「綺麗な名前だね。
 どうボクと一緒に組まない?」
「いっしょに?」
「沙耶もここで買えなかった以上、自分で取りに行くんしょ。
 この上は危険が一杯、でもボクと沙耶が組めば余裕楽勝勝利っしょ」
「そうやな〜。うん、組もう」
 丁度一人で心細くもあったし椿を気に入っていてもいたのでOKを出す沙耶。
「やったね。よーし、ヤガテヒルズ30階に生息するという幻の草「ほれ草」一緒にゲッ
トしよう」
「おーーーっ」
 意気揚々と気勢を上げる沙耶でしたが、当初の目的をすっかり忘れてますよ。

                                      つづく 

                                        
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 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「やったバイト代だ〜」
 六畳一間ちゃぶ台の上、海城は給料袋をひっくり返した。
  ちゃりん、ぱらぱらと硬貨とお札がちゃぶ台の上に投げ出された。
「ひいふうみいよ」
 数え終わると、沙耶に奢ったとはいえ、いい火薬を買って、一回くらい贅
沢が出来る金額が手元に残っていた。
「どうしよう、2千円も余る。ファミレスのステーキが食べられる」
 ずるっと涎が口の中に広がった。
 いつ食べたのか忘れていても蘇ってくる肉の感触、溢れる肉汁。
「だが、だが、いざというときのため天空レッドの武装強化をしておくのも」
 脳内麻薬が頭の中に広がった。
 カッコよく新必殺技で悪を倒しランキングが上がる達成感、充実感。
「どうすればいいだっ!! 腹と心どっちを満たせばいいだーーーーーーっ」
 真剣に悩む海城。
 笑うなかれ、海城は普段そこまでストイックに生きているのである。
「悩む〜ゴホッ」
 突然咳き込む海城。
「バイトとかでちょっと無理しすぎたかな。まあ平気か丈夫だけが取り柄だし。
 おっともうこんな時間、パトロールに出よ」
 特に気にすることなく海城はパトロールに出掛けた。

 土曜日の朝、ゆとりの世界は完全週休、みんなまったりする中元気に飛び跳ね
る娘が一人。
「こらーーーーーーーーーっいつまでねとるねん」
 6畳一間の汚いアパートの一室に、いつもの如く沙耶の罵声が轟く。
 何の遠慮もなくズカズカ部屋の真ん中に歩み寄ると一気に布団を剥ぐ。
「いい加減におきんかい。はれ」
 いつもならここで弱々しくも抵抗をする海城から全く反応がない。
 寝たまま荒い息を吐く海城に、沙耶は慌てふためいた。
「ちょっと、どうしたん」
 さっと、手をおでこに当てる。
「あつっ熱があるやん。大丈夫?」
 沙耶は思わず大声を出してしまい、それにやっと気付いたようで、昼寝中のカバ
のように反応する海城。
「ああさっちゃんか、ご免、今日はちょっと寒くて。仕事手伝えないや」
「そんなはどうでもいいねん。それより、病院行った方がいいんとちゃうか」
「無理。俺の保険証定額100万円だから」
 やがてくる時代、従来の保険制度は崩壊していた。
 代わりに採用されたのが定額保険証。
 これは自分で設定した治療費までは全額自己負担するという制度である。
 治療費が設定した定額を越えると保険が効きだし、自己負担額が減るのである。
 当然のごとく高額に設定するほど安くなるので、金がない人は本当にいぞというと
きにのみ使用するように高額に設定する。
 当然の如く海城も高額設定。風邪如きで病院に行って全額治療費を払っていたらあっ
という間に自己破産。
 やがて来る世界、健康保証に幾ら掛けるかも自己判断・自己責任である。  
「でも、でもこんなん熱が出て、どないかなったら」
「大げさだな〜さっちゃん。俺丈夫だから寝ていれば直るって」
 泣きそうな顔をする沙耶の頭を海城はそっと撫でた。
「すぐ直るって。ただちょっと疲れたから、もう寝るね」
「うん」
 沙耶は自分が剥ぎ取った布団を優しく海城に掛けてあげると、何かを決心したように
部屋から出て行った。

 アパートに隣接する自分の家に飛び込み、ささっと自分の部屋に戻った沙耶が、何や
らリュックに色々と物を詰め込んでいると携帯が鳴った。
「はい」
『ちょっと沙耶さん。どうしたんですの今日は学園祭実行委員会の打ち合わせがある日
でしょ。皆さん待ってますわよ』
 口調は怒っているが、どこか寂しそうに響く西条の声。沙耶に会えないのがそんなに
寂しいか。
「ごめんうち用事が出来たねん。会合出れない」
『ちょっとあなた委員長でしょ。一体どんな用事ですの』
 納得出来なければ、携帯の向こうから乗り込んできそうな勢いの西条の声。
「うちこれからヤガテヒルズに行くねん」
 間
 間
 間
『ちょっと、それはどういう意味ですの』
 一瞬の間の後、西条の驚く声が響いた。
「ご免急ぐんねえ切るね」
 沙耶はこれ以上の時間を惜しむように一方的に携帯の電源を切った。
「待っててや海城。うち行ってくるで」
 サファリルックに身を包んだ沙耶は立ち上がると足早に出発するのであった。

                                      つづく 

                                        
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 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

 夜の繁華街。喧噪とネオンが輝きが人の心を浮つかせる。
 人並みに紛れ、ひょっろとして神経質そうな男が、キョロキョロしつつ歩いていた。
「お兄さん、ひまん」
 何かを求めているそれを的確に見抜いたかのように、一人の少女が声を掛けた。
「なんだ君は」
 威厳を保とうとしつつ、男の目線は胸もとに注がれて、早くも少女の値踏みをしていた。
「野暮は無しや。
 ねえ、これでどう?」
 少女は、パッと両手を広げて見せた。
「うっ」
 男は流石に引きそうになったが、少女はぐいっと腕を絡ませ逃がさない。
「ねえ、おにいさんはみみっちい事いわへんよな」
「まっまあ」
「うち、お金持っている人大好きや。
 サービスするよん」
 上目遣いの舌っ足らずな口調に男の理性はとろけた。
「分かった。
 その代わり無制限で頼むぞ」
「もちろんや。
 なら、前金で半分ちょうだいな」
「しっかりしてるな」
 苦笑しつつ男は財布から惜しげなく大5枚を抜き出し少女に手渡した。
「じゃあ、いこか」
「おう」
 下半身が張り切って歩き出そうとした男の腕が、何者かに掴まれた。
「誰だ」
「こいうもので」
 怒り顔で振り返った眼前に、さっと出される警察手帳。
「インコーの現行犯ですな」
 やがて来る世界でも、廃止に成らなかった法律。
「ちょっちょとまて。
 俺はインコーなんて、君も何か言ってくれ」
 男こと小谷野が少女の方を向いたときには少女はいない。
「さあ、警察に行きましょう」
「ちょっとまて少女は?」
「残念ながら逃げられてしまいましたな」
 缶は、さそ残念そうに演技して言うのであった。

 さて、その頃には、少女は既に小谷野から死角になる曲がり角に逃げ込んでいた。
「ご苦労様、さっちゃん」
「ほんまや。ぺっぺっぺ、あーー汚い」
 沙耶は小谷野に触っていた腕を神経質そうに拭く。
「でもさっちゃんのおかげで、ここら一帯でヤクをばらまいていた悪が逮捕されたよ」
「それだけ?」
 沙耶は海城を睨み付ける。
「え〜と」
「まさか、こんな可愛い乙女にあんな事させといて、言葉一つで済ます気やないやろな」
「え〜と」
「んっんん〜」
 顔を近付け睨み付けてくる沙耶。
「分かりました。今度レストランで奢らせて下さい」
「もう一声や」
 海城にしては大奮発だが、それで許してくれない沙耶。
 というか、いい機会だからと甘えているようにも見える。
「その前に映画でも一緒に行きましょう」
「上出来や」
 はあ〜バイト代が〜。
と落ち込みそうになった海城だが、嬉しそうに腕にしがみつく沙耶の顔を見て。
 まあ、いいか。
 残念どころか、ちょっと、嬉しく思える海城だった。

 というわけで、
 やがて来る世界では合法的に認められている囮捜査でまんまんと小谷野を逮捕。
 明らかに別件逮捕ですが、これから小谷野は缶により搾られ、ヤクについて白状させられ
るだろう。
 海城は、アマの誇りを捨て、プロに徹した。
 プロはプロらしく、法律の隙間をかいくぐりいやらしく利用してみせました。
 これにて一件落着。

 かな?

                                        
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 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「ここまでだな、悪のランキング157位 怪人えろはげ」
 天空レッドの眼前には、なまはげの格好をした怪人がよろめいていた。
 天空レッドのジャブジャブローキックの小技連続の前に動きが止まってしまったのだ。
 今こそチャンス、ここで普通に殴れば勝負は決まるのだが、なぜか一歩下がる。
 ついでに、ビシッと天空を指差しポーズを決める。
「喰らえ、天の怒り、バーストナックル」
 前口上とともに、大きく右手を振り上げた。
 プすッ
「へっ?」
 本来ならここで肘に仕込んだロケットノズルが噴射するはずなのに、しけった花火のよ
うな音1つ。
 動きが止まってしまった天空レッド。
 このチャンスに、えろはげが逆襲に出た。
「くらえ、えろえろビーム」
 強烈な光がえろはげから放たれた。
 銭湯を盗撮する為にしこまれていた強力フラッシュが輝いたのだ。
「ぐわっ」
 強烈な光線に目を焼かれ、視力が戻ったときにはえろはげはもういなかった。

 六畳一間、風呂なしトイレなし、ぼろアパートに帰った海城は悩んでいた。
「けちって火薬の質を落としたのが悪かったかな」
 海城は、この部屋唯一の家具ちゃぶ台の上に、ロケットノズルを置いて点検をしていた。
 別に機構的には簡単な物、それが作動しない原因など数が知れている。
「でも、いい火薬を使おうと思うと金がな〜」
 ついつい、生活苦に負けて火薬のランクを落としてしまった海城。
 でも、でも、海城だって若い男なのだ。
 たまには納豆以外、肉を食べたかったのだ、それもスーパーの半額セール品。
 これを堕落を誰が責められる?
「でも、バイトをすると正義の味方の活動する時間がなくなるし」
 褒めてやってくれ、海城は、バイトをする時間すら惜しんで正義の味方の活動を頑張って
いるのだ。
「でも、金が無くても支障が出る」
 こんな失態が続けば、人気が下がり正義の味方の資格を剥奪されてしまう。
 無償で働く正義の味方の辛い所であった。
 これは海城だけじゃない、正義の味方なら誰もが通るジレンマだった。
 ある者は、サラリーマン。
 上司の残業命令を断り、駄目社員の烙印を押されても正義の味方をする。
 ある者は、高校生。
 受験勉強する時間を削ったため、志望校が危なくなっても正義の味方をする。
 全ては己の信じる正義を証明するために。
「仕方ない、短気でバイトするか」
 ギリギリの妥協案であった。

「今度入ったバイトの海城君だ」
 海城の前には、一目で堅気でないと分かる面構えの男達がいた。
 潜った修羅場を物語る鋭い眼光が海城に突き刺さる。
 だが、海城とて修羅場を潜った猛者、たじろぎはしない。
「海城 剛です。
 短い間ですけど、宜しくお願いします」
 張りのある声で挨拶をする海城。
 こいつは使える、男達にどこか認めた雰囲気が流れた。
 それに機敏に嗅ぎ取った海城を紹介していたボスが、一人の男を呼んだ。
「缶こっちに来い」
 頬に切り傷が残る見るからにフタクセもありそうな面構えをした中年が出てきた。
「新入りはベテランの缶と組んで、ヤクの密売ルート解明捜査に当たってくれ」
 強面の男達、それは日夜犯罪者と戦う刑事達。そう海城のバイト先は警察なのだ。
 やがて来る未来。
 犯罪の増加と人手不足は深刻化し、とうとう警察ですらバイトを雇うご時世。
 正規警察官の監督の下なら、流石に逮捕権はないけど捜査権を許されるのだ。
「新入り、俺が缶だ」
「よろしくお願いします」 
「いい面だ、早速行くぞ」
「はい」

 街に蔓延る売人達、だがこんなのは幾ら逮捕してもトカゲの尻尾切り。 
 大本のボスを叩かなくては成らないのだ。
 正義に燃える海城と缶。
 雨の日、風の日、嵐の日、来る日も来る日も泳がせている売人達の尾行を続け、足を
棒にする毎日。
 やがて一人の男が捜査線上に浮かんでくる。
 名は、小谷野奈々光。高級官僚の息子であった。
「こいつは迂闊に手が出せないぜ」
「あそこにあるのは確実なのに」
 海城は、小谷野がいる超高層マンションを見上げ言う。
 下界にいる者達を嘲笑うように煌々と電気が点いている部屋。
 セキュリティー抜群のマンションのあの部屋に、ヤクが隠してあるのはほぼ間違いなし。
「ああ、捜査令状が取れれば一発なんだがな
 決定的な証拠でもない限り、許可が下りないだろうな」
「缶さん、こうなったら、いっちょ乗り込みましょう」
「馬鹿野郎、俺達は法律を守るプロなんだよ。
 そのプロが法律を逸脱してどうする」
「でも」
 海城は拳を握り締めた。
 正義の味方なら、令状なんか関係ない。
 ずばっと乗り込める。
 そして結果さえ出せば、それで大衆の支持さえ得られればいいのが正義の味方。
 そう正義の味方は、法律の番人じゃない。
 大衆が信じる、正義という幻想の番人なのだ。
「そう悔しがるな若人。じっくり腰を据えてやるぞ」
 海城は、今日の夜にも天空レッドとしてマンションに乗り込みたい衝動が走る。
 だがそんなことをしては、この一緒に地道な捜査をしてきた缶に対するを裏切り。
 海城は、今は警察官何だと自分に言い聞かせ答えた。
「はい」
 海城はもう一度部屋を睨み付けると、缶と供にこの場を後にした。


                                        つづく

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 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「結婚して下さい」
 締まった空気が解凍されていく、朝の登校時。
 校門を潜って、花束と共に愛の言葉を送られた沙耶。
「ごめんなさい」
 即答で頭を下げてご免なさい。
 頭を上げると、沙耶は少年の顔すら見ずに校舎に向かって歩き出した。
「ちょっと待って下さい」
 これで、下がれないのが少年。
 見れば結構いい顔。
 その顔は、ストーカーと紙一重なほどに思い詰めている。
「やんやねん、もう振られたんだからおとなしくあきらめえな」
「僕の何が不満なのですか?
 勉強も出来るし、スポーツも出来る。
 そして結婚を申し込める勇気もあるんですよ」
 やがて来る時代では、結婚に対する敷居がかなり低い。
 個人の自由の元、年齢制限なし、親の同意もいらない。
 その為、ティーンエイジャーの間では一時結婚がブームになったほどである。
「いい加減にしなさい。沙耶さんが困っているじゃありませんか」
 横から割って入ってきたのは西条。
 少年の視界から、沙耶を完全に遮るナイト気取り。
「君は確か西条さん。
 はっもしかして沙耶さんは、既に君と結婚しているのか?」
 まじめな顔で驚く少年。
 そう結婚制度に、性別の制限もない。
「なっ何を言っているのですか、わっ私と沙耶さんは決してそんな・・・」
 明らかに狼狽動揺している西条、これではしているとみんなに誤解を与えている
ようなものである。
「でも、それでもいいのです。
 多夫の一人として、僕と結婚して下さい」
 更にちなみに、結婚相手が一人でなくてはならないという制限もない。
「お願いします」
 もう後には引けない決意の顔。
 思い詰めたら一直線のティーンエイジャーエナジー。
 振られたら何をするか分からない、純情少年の思い込み。
「負けたねん。結婚するわ」
 沙耶は、少年の思い込みの強さに、心ほだされたのか、恐れを成したのか。
 仕方ないって感じで、OKを出した。
「ありがとうございます」
「ほな、さっさと手続きやろか」
 沙耶は携帯を取り出し、ぴぽぱで区役所のHPを開く。
「え〜と、結婚手続きは〜」
 結婚申し込み電子フィアルを呼び出し、必要事項をピポパで打ち込む。
 最後に、同意しますのボタンを押して、ハイ終了。
 僅か、2分半、カップラーメンより早くて続き終了。
「良かったな、結婚したで」
「これで僕達は夫婦ですね」
 感極まった少年。
 思いは遂げられ、憑き物が落ちたかのようにすっきり。
「満足したん。
 じゃあ、次は」
 ぴぽぱで、電子ファイルを呼び出し、必要事項打ち込み。
 最後に、同意しますのボタンを押して終わり。
「じゃあ、離婚が成立したから、ばいばいや」
 僅か、2分。結婚より早く手続き終了。
「えっ」
「結婚するより、維持する方が何倍も努力がいるんやで。
 いい勉強になったやろ。
 じゃあね、慰謝料は後で請求するねんでよろしくな」
 惚けている少年を後にして、さっさと立ち去り出す沙耶。
「はあ〜、これでうち ×いくつや」
 沙耶だってお年頃、できればまっさらで好きな人と結ばれてみたいと願ったこともある。
 でも、沙耶に思い詰めた男をあしらうため、仕方なく何度も結婚。
 男も一度は結婚したので、面子も立って気持も醒める。
 別れるために結婚、それもやがて来る世界。
「知りません。相変わらずおもてになりますのね」
 やがて来る時代、結婚が簡単に出来るように、離婚も簡単に出来る。
 はっきりいって、政府はもう結婚という制度に口出しをしないことになっている。
 全ては当人達にお任せ。
 昔ながらに結婚生活をするも良し。
 形だけでも良し。
 遊びとしてだけでも良し。
 どうするかは、結婚という制度が決めるのでなく、二人の間で交わされた契約書次第。
 それがやがて来る世界なのである。 
                                        おしまい

このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
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これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「まあいいでーす。
  リターンマッチなどしゃらくさい。
 何度こようとも、三は一如きに負けません」
「パワーアップした正義の味方の前には、お前達など引き立て役」
 走り出す天空レッド。
「ちょっとむかつくっしょ」
 飛び上がったテルツォは、くるくる回って必殺の踵落とし。
「同じ手が通用するかっ」
 天空レッドは十字ブロックで受け止めると、そのまま押し返した。
「おっとと」
 何とか着地したテルツォ、その瞬間を狙い天空レッドの拳が唸る。
「うわっあぶないっしょ」
 顔を逸らして避けたテルツォ。
「女の子の顔を狙うのは、男として恥を知れっしょキック」
 カウンターの上段回し蹴り。
「なら、腹か」
 天空レッド、上段受けと同時に後ろ回し蹴り。
「女の子のお腹は大事なんだぞーーっ裏拳」
 蹴りをいなした勢いで、テルツォ裏拳。
「なら、胸ならいいのか」
 バックステップで躱し、鼻先を裏拳が掠めると、再び踏み込み。
  張り手攻撃。
「それは変態っしょ」
 音速の言葉で迎撃され、張り手を繰り出そうとした手が止まり、天空レッド攻撃断念。
「なら、どこを攻撃しろと言うんだ」
 慌ててトントン飛び退いて、尋ねる天空レッド。
「女の子の身体は、どこもふわふわ柔らか大事っしょ、攻撃禁止、お障り厳禁」
 一体どうしろってんだっ、などと気にしないで攻撃すればいいのに。
  そこはそれ、女性慣れしてない天空レッドこと海城にとって、女性は神聖、女神、おいそれと手を出してはいけない存在。
   考え込んでしまい天空レッドの動きが止まった。
「よくやったテルツォ」
 背後に回っていたスリーが、三節坤で襲いかかる。
  バキッと木が砕ける音と共に吹っ飛んだのはスリー。
 前回やられた不意打ち技を見事にセンター返し、雪辱を晴らした。
「なっなんですーか、その強さ。この前とは全然違いますーす」
 思わず目が丸くなるサン。
「ふっ馬鹿目。
  復活した正義の味方の登場回は3倍強いという法則を知らないのかっ」
 どっっどどんと、ポーズを決めて言い切る天空レッド。
  いいえ、ただ単に自分に酔った脳内麻薬&病院で打って貰った痛み止め
 多分、テルツォの攻撃を受け止めた箇所とか、三節坤を砕いた拳とか
  明日になれば、凄いことになって、泣くことになる。
 でも今はハッピー脳内麻薬全開で痛みなんか、天の彼方。
「三倍ですと」
 三に反応してしまうサン、腰が退き気味。
「見ろ、この赤い角こそその証。
  もはやお前達の敵う相手ではない、降伏しろ」
「ふっざけるなーです。
  まだ、私と椿がいまーす」
 飲まれ掛けたが、一度は勝った相手と思い直し、再奮闘。
「本名言ってるよ兄ちゃん。
  それにいいの?」
 椿が恐る恐る可愛く、小首を傾げて確認。
「なにがですーか。
  まさか椿、敵に惚れるなんて定番に目覚めたなんてお兄ちゃん許しませんよ」
 敵女幹部と正義の味方のラブロマンス。
  そんな定番が定番ラッシュの流れでフラグ発生か?
「それ、ムッカムカの勘違い。
  怒るよボク」
 目が真剣、本気で兄を睨み付ける。
「ごめんなさーい。許してシスター。
  それでは何がいいんですか?」
「ボク達二人だよ」
 時が止まった。
「しまったーーーーーーーーーーーーーー。
  スリーが倒され、二人になってしまいましーた。
  これでは、三が最強と証明出来ませーん」
 頭を抱え波込むサン。
  で男には容赦ない天空レッドツヴァイ。
「必殺ロケットナックルトルネード」
 肘のロケット噴射で加速された拳。
  それだけで威力十分なのに、わざわざ捻りを加えてパワーアップは定番。
   そう従来の使い古された技も捻りを加えた瞬間、新必殺技に早変わり。
 夜なべして、右腕の強化スーツ素材だけグレードアップした結果可能になった技。
  でなきゃ、捻ったときには肘が砕けてるって。
 悲鳴も上げず吹っ飛んでいくサン。
  遙か先の地面でぴくぴくぴくときっちり三回痙攣して、気絶した。
「それ、卑怯っしょ」
「悪には非情。 
  残るはお前だけ」
「ぐっボクが、二人の仇を討つ」
「攻撃しないで勝つとはこれ如何に。
  これがその答えだっ」
 禅問答の答えが出たのか?
  赤い稲妻、赤い残像を残して走り寄る天空レッド。
 思わず防御の椿。
  すれ違う二人。
「へっ何かすーすーするっしょ」
 椿が視線を下げれば、顔が真っ赤っか。
  胸を隠してへたり込んだ。
 ラフでワイルドな恰好が仇となり、すれ違い様大変なものを掏摸取られてしまったようです。
「これが攻撃しないで勝つの答え」
 大変なものを片手に誇らしげに言う天空レッドだが、完璧に変態です、通報されます。
「うわーーーん、もうお嫁に行けないっしょ〜」
 泣き出した椿。
  ばつが悪そうに3分ほど凝固してしまったのはトライトゥルーに敬意を表してか。
「悪は滅びた」
 天を見上げ、カッコつける。
  そして直ぐさま走り去る天空レッド。
 間違えてない間違えてない間違えてない間違えてない。
  女の子を殴るより、いいじゃないか〜。
 心の中、必死の弁明を叫びつつ走る天空レッドツヴァイ。
  これじゃあ、もはや人気はお終いかと思われた。
 で後日、蓋を開ければ天空レッド、一部の男性ファン獲得して人気が復活したそうです。

                                              おしまい

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これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「次のニュースです。
 先日襲われた天空レッドに続き、
 昨夜正義の兄弟ジロー&シローも襲われる事件が発生しました」
 ラジオニュースをバックに、白衣の青年が高々と発する。
「いよいよだ、兄弟。
 今まではウォーミングアップに近かったが、ついに本番前の試金石。
  三こそ最強証明するため、今宵 方角戦隊 東西南北に戦いを挑む」
「そうそう、正念場だね」
「う〜がんばるっしょ。
  腕がぶんぶん鳴るよ、胸がドッキドキだー」
 テルツォは左手をぐるぐる回し、右手は小振りな胸に当てて、深呼吸。
「いい反応だ、兄妹。
 お前達がいたからこそ、私は三兄弟になれた。
  もしお前達のうち、1人でも生まれてくれなかった、二人兄弟になってしまい
  もう私はどうしていいのか、うっうっ」
「兄ちゃんに喜ばれて、僕も生まれて良かったよ」
「そうそう」
「ありがとうありがとう。
  一など孤独で独善的
  二など傷の嘗めない
 だが、三は違う。
  二人が意見を戦わせても、もう1人が仲裁し、安定する。
 そして、これから戦う四など二で割れてしまう偶数、烏合の衆だ。
  いくぞ、三こそ最強」
 ただ己の主張を通すため、その為だけに3人は夜の街に繰り出す。

 人間の気持ちなど関係なく、朝日は昇り1日が始まる。
「いってくるでー」
「おはよう、さっちゃん」
 沙耶が丁度玄関から出ると、包帯姿で出歩く海城とバッタリ遭遇。
「おはようって、もう身体大丈夫やんか?」
 元気娘沙耶は心配、素直に心配顔、その顔に海城は二カッ。
「ええ、丈夫だけが取り柄ですから」
 安心させるため、海城はふんっと力こぶなど作って見せる。
「なんかしらんけど、担ぎ込まれ来てから、凄い元気出てないか?
  一体何があったんねん」
「そ・れ・は、プライベートです」
「・・・」
 筋肉男がウィンクする姿に、思考が内面に引っ込んでしまう沙耶。
  三日前、夜中に突然隼人に担ぎ込まれてきた海城。
   夜遊びを注意しようとして待ちかまえていた沙耶は、顔が真っ青。
    見れば、海城は感動の最終回かと思うほどの有様だったからだ。
   隼人はテキパキ手当
    沙耶はおろおろ心配。
   当の本人 海城はニコニコしていた。
 兎に角、身体がボロボロなのに反比例するように、海城の気持は高ぶっていた。
  もしかして、Mに目覚めた?と沙耶が本気で検討するほど。
   長い付き合い、本当に喜んでいるのと空元気の区別くらい付く。
 それだけに、一体何があったのか、心配でしょうがない沙耶だった。
「やだな〜そんな顔しないでさっちゃん」
 海城に、鼻の頭をちょんと弾かれた。
「むっ」
 ますますもって変、こんな爽やか青春ドラマが出来る男じゃない。
  こうなったら絶対に問い詰める、拷問してでも吐かせる。
 決意、いざ実行、手を伸ばす。
  がいつもなら直ぐに捕まる海城なのに、ひらりと躱され逃げられる。
「じゃあ、用事あるんで」
 海城は、沙耶に振り返ることなく走り去っていってしまった。
  
「次のニュースです。
  昨夜遅くパトロール中だった方角戦隊 東西南北が襲われ破れました。
 最近立て続けに襲われる正義の味方について、
  正義の味方評論家の久地岳さんに来て頂きました」
「よろしくお願いします」
「早速でですか、正義の味方連続襲撃事件に付いてどう思われます?」
「一言で言うとだらしないですね。正義の味方が・・・・・」
 そんなニュースを昼休みの食堂で聞いた気もする放課後。
「さあ、帰りましょう沙耶さん」
「ああ、そやな」
 あれ以来、忙しい忙しいとなかなか会話すらしてくれない海城に
  面白くない日々を送る沙耶は、鞄を持って立ち上がった。
 なんやかんやと、隼人と九狼も加わって下校開始。
「どうです、学園祭の打ち合わせも兼ねて、新しくできた喫茶店にでも行きませんこと。
  なかなか素敵らしいですよ」
「ああ、そやな」
 ぼーと受け答えする沙耶だったが、暫く歩いたその目に衝撃スクープ。
  今向かっている喫茶店の窓際の席で、海城と見知らぬ美女が会話をしていた。
  二人は息が触れ合うほどに近寄り、何かのパンフレットを見ながら熱心に会話している。
「あら、あれ沙耶さんのアパートの人じゃなくて。
  隣の人美人ですけど、恋人でしょうか?」
 海城が天空レッドと知らない西条は、素直な感想。
「まさか、引退?」
 隼人は驚き顔。
  隼人は、負けて以来なにかと元気だった海城を訝しんでいた。
   それが、春が来ないと思っていた海城さんに恋人とは、意外すぎて当たらないくじに当たった気分。
  あの元気の元はこれだったのか、どうりで負けたのに悔しがらないはずだ。
   まさかこのまま引退?負けたショックで引退するのは正義の味方によくあること。
   いやショックというより、いい機会を得た。
    無報酬危険手当無し将来性無しの正義の味方を続けるより、恋人と明るい人生設計をした方が、そりゃいい。
     まさに、試合に負けて、人生の勝ち組になる。
   そうか海城さん、恋人とお幸せに。
    この街の平和は僕が代わって守ります。
  と独り脳内でドラマを展開する。
 そんな二人はほっといて、沙耶はただ呆然としていた。

 人の気持ちに関係なく、日は沈んで夜は来る。
  そして活発になる闇に生きる者達。
 郊外の公園、広く植物が植えられた空間は、
  昼間は家族のスポットだが、夜は犯罪の温床。
 青々とした芝生は、昼間は寝るのに最高、
  そこに5人の若者が眠っている、夜なのに。
 そして、その傍に佇む3人の魔神。
「やった、やっりまーした。
  最強と謳われ、人気を得ていた、最大の敵 五 をたおしましーた」
 サンは歓喜歓喜の大歓喜。
  それもそのはず、いつもいつも正義の戦隊といえば五。
   たまにイレギュラーで三だったり四だったりしたが、たいていは五。
   二ですら五になる最近、誰もが認めていた五を倒したのだ。
    その喜びは、コスモ級、原子すら砕くぜって感じ。
「やったね兄ちゃん。
  ボクも嬉しくて、足がぴょんぴゅん、お尻フリフリ、全身で喜びを表現だ」
 テルツォは、跳ねて跳ねてちいちゃいお尻を左右に振って振って、ダンスダンス。
「そうそう、良かった。
  どう記念撮影でもアニキ」
「それぐっとあいでーあです、スリー」
「なら俺が取りましょうか」
「それは、かすいません」
 スリーは、横手から自然に現れた手にデジカメを渡す。
  三人は並び、デジカメ目線。
「ボクの笑顔、いいっしょいいっしょ。可愛い」
「はいはーい、可愛いですよ。
  では取りますよーー、一たす一は」
「「「にー」」」
 ニッコリ笑顔でパシャ
「しまったーー」
「どうしたの兄ちゃん?」
「思わず二など言ってしまいましーた、これは失敗でーす。
  写真をワンモアプリーズ」
「いいんですか?」
「なんですと」
「あと一回で」
「はっしまったーーーー、一などといってしまいましーた」
「ふっこれはもはや勝負あったかな」
 不敵な失笑が漏れた。
「はっそういえばあなたは何者ですか。
  そんな全身をフード突きマントで覆ってないで正体をあらわしなさーい」
「そうかそんなに俺の正体を知りたいか。
  ならばしょうがない見せてやろう」
 ばっとマントを投げ捨てれば、その下からは真っ赤コスチューム、天空レッドが表れた。
「お前は、天空レッド。
  一度破れたお前が何の用だ」
「ふっふ、俺はもう天空レッドじゃない。
  ここをよく見ろ」
「なになに」
 天空レッドが示した頭上を見てみると、前にはなかった角がある。
「つっ角突き?」
「それだけじゃない」
 胸を示せば、黒のラインも加わっている。
「俺は天空レッドじゃない。
  天空レッドツヴァイ、お前達を倒すため地獄の底から蘇ってきたぜ」
 格好いいポーズを決めに決める天空レッド。
「マイナーチェンジですーか」
「微妙っしょ」
「そもそも、誰も死んだと思ってないし」
 反応は今一、だがしかし海城の心の中は喜びのビックバンだった。
  誰もが憧れる正義の味方。
   そして正義の味方が憧れるのが、一度破れた後のパワーアップ復活。
  このシチュエーションこそ正義の味方が望んでも、なかなか得られないもの。
   そのチャンスが来てしまった。
  最近ルーチンワーク化してきて正義の味方に情熱がなくなってきた海城にとって
   これほど燃えるものはなかった。
  所詮彼らも、根っこではトライトゥルー同様、己を貫き表現したいのだ。
   普通に正義のためだけならば、警察に入ってるって。
「ずるいぞ天空レッド」
「そうだそうだ」
「それ俺達も狙っていたのに」
「横取りしないでよ」
「人の楽しみを」
 むくむくと春のツクシのように起きあがってくる今まで寝ていた正義戦隊 ファイブベレー
「ふっふ悪いなこれも最初に襲われた者の特権だ」
 抗議はさらっと受け流す。
「だいたい復活早いぞ、地獄の特訓はしてきたのかよ」
「したさ、一日一時間」
「なんだよそれ、受験生のファミコン時間かよ」
「うるさい。こっちだって他の奴等に横取りされまいと貯金はたいて正義の味方デザイナーに頼んで
  超特急でコスチューム作ってもらったんだ。
 おかげですってんてんだ」
「知るか。だいたい一度負けたら落ち込んで、
  それを助ける恋人とか幼なじみとかのドラマを展開してから来るだろフツー。
 こっちだって、これからピンクとのドラマ展開するはずだったんだぞ」
「いないんだからしょうがないだろ」
 多分落ち込んでいれば、そういう展開もあったかも。
  チャンスを自分で潰す天空レッド。
「だっせ、いないのかよ」
「そうだよ悪いか。だからおいしい役ぐらいくれよ」
「ちっしょうがないな、譲ってやるよ」
「ありがとう」
「その代わり、後で家までちゃんと運んでくれよ、歩けない」
 余裕ありそうで彼らも怪我人なのだ。
「リアカーで運んでやるよ」
「恩に着る、なら。
  ううっお前は天空レッド、来てくれたんだ」
「ああ、俺は復活した」
「後は頼むぞ、天空レッド。
  俺達の犠牲を無駄にしないでくれ。
   じゃ、あとよろしく」
 言うだけ言って、再び眠り付くファイブベレー。
「くっみんなの犠牲は無駄にはしないぜ。
  さあ、ツヴァイの力見せてやる」
「いや、最後の方のセリフだけ決められても」
「武士の情けだ、途中のセリフは聞かなかったことにしてやろう」
「どうせ編集するっしょ」
 燃え上がる天空レッドに醒めていくトライトゥルー。
  次回決着か?
  
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                                        つづく

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これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「天空パンチ」
 天空レッドの拳が唸り、今夜も痴漢を退治する。
「いつも助けて頂いてありがとうございます」
「いえいえ」
「これ、いつも助けられている御礼です」
 助けられた女性は、御礼にと手作りのサンドイッチが入ったバスケットを手渡す。
  金銭でないので、ぎりぎり掟に触れないでセーフ、レッドも素直に受け取る。
 この会話の通り、二人はすっかり顔なじみ(一方はマスクしてるが)
  天空レッドの活動範囲はそんなに広くなく、よく言えば地域密着型ヒーロー。
  その為、何回も狙われるような美人さんは何度も助けたことがあり、すっかり馴染み。
「じゃあ、アパートの近くまでお送りしますよ」
「すいません」
 月の輝く夜道、二人は他愛もない会話を交わしているとアパート前
「ではお休みなさい」
「天空さんもお体気をつけて下さいね」
 何事もなくアパート前で別れると、
  天空レッドは今日は店じまいと自分のアパートに帰るのであった。

 ガチャッ パチッ シャー
  軽くシャワーを浴びて出てきた後、
   スポーツドリンクでサンドイッチを頬張る。
「マスタードが効いてておいしいな」
 助けた御礼にと、感謝が込められた上に、美人さんが作った隠し味のサンドイッチはおいしく
  海城は正義の味方やってて良かったと至福の一時。
「ふうっ今日も頑張ったし、寝るか」
 食後は歯を磨いて、正義の味方ランキングを見ることなく寝る。
  天空レッドが耶雅弖市近郊地域密着型ヒーローに落ち着いてくると
  ランキングはぐっと伸びなくなったが、おらが地元のヒーロー応援団のおかげでランキングは安定するようになった。
 地域安定のため戦うヒーローだが、ヒーロー自身が安定したとき牙が抜ける。
 トレーニングこそするが、上を目指した必殺技開発は行わなくなった。
 知名度求めて、未知の犯罪激戦区に殴り込むこともなくなり、馴染み皆さんの通勤路通学路をパトロール。
  ローテイション化していく正義の味方。
   地域が平和になったのだから、いいことなのだ。
   目的を果たしたのだから、手段は消えていくのが自然
 いつか、天空レッドも徐々に人々の記憶から消えていき
  彼も普通のサラリーマンとなり、酒を片手に青春を思い出す。

「さて、今日もパトロールに出掛けるか」
 海城は天空レッドスーツを持つとアパートを出る。
  秘密の隠れ家に向かい、そこで着替え巡回ルートに向かう。
 夜道を歩く心には、安定しても昔と変わらない使命感はある。
  いや昔より地域を守りたい気持がある。
  でも、不謹慎だとは思っていたどきどき感はなかった。
 天空レッドが道を歩いている。
  昔みたいに姿を隠した隠密行動はしない。
  敢えて姿を晒し、犯罪に対する抑止力を行使するようになった。
   ハッキリ言えば正義の味方というより、警察に近い、仕事に近い。
「きゃーーーーっ」
 闇に響く女性の声、初めて聞く声、誰だっ?と思いつつ、
  声の場所に走る走る。 
 俺の縄張りで勝手はさせない。
  辿り着いた場所はマンション建設予定の更地、その真ん中に少女が倒れてるが見えた。
「大丈夫ですか」
 走り寄る天空レッド、
  少女以外誰もいない。
   被害者しかいない。
 何の疑問も抱かない。
  自分が来たから、犯人は逃げ去ったと思い込んでいる。
 傍により助け起こそうと屈み、無防備を晒す腹。
  その腹にコマのように身体を回した少女の遠心力の乗った膝がめり込んだ。
「ぐおっ」
 込み上げる胃液と未消化物を喉元で防いで、ぐっと飲み込み。
  訓練の賜物、考える前に手が勝手に頭部をガード、
   ガードした手に鉛の鞭でも喰らったような衝撃を受けて、手の感覚が消えた。
「ローカルヒーローなのに、やるっしょ」
 感心した口調の少女は、それ以上の追撃することなく一旦後退。
  天空レッドも後退、感覚が戻ると同時に痺れだした腕が治るのを待つ。
 天空レッドは、少女を睨む。
  片方の生足を晒したGパンに、ラフなTシャツ、デニムのチョッキ、ここまではワイルドに決めた恰好。
  獲物を前にした豹のようにぎらぎらした目がこちらを面白そうに向けられ、
   たぶんで笑っているであろう口元はマスクで覆われている。
   やがて来る世界でもこんなファッションは流行ってない、明らかに素顔を隠すため。
    素顔を隠すのは、正義の味方か犯罪者、正義の味方は不意打ちはしないので、少女は悪と断定。
  だが、襲われた理由が分からない?
「そうでなくては、証明にならないです」
「そうそう」
 新たに湧き出す殺気、右後方と左後方一人ずつ。
  口元を覆ったマスクは少女とお揃い、服装は場違いとしか言いようのない白衣を纏っている。
   夜中の徘徊コスプレイヤーということはないだろうから、敵だろう。
  囲まれたと天空レッドは歯軋りした。
「なんだお前達は?」
 表れたマスクの一団に誰何。
「俺達は、三でーす」
「三?」
「そう、三だ。
  三こそ素数にて、安定の数、無敵の数、それを証明するため俺達
   トライトゥルーは戦うのでーす」
「三?」
「なっなんだその惚けた反応は」
 いやいきなり攻撃されて、いきなり三は素晴らしいと言われれば、普通の人は思考が付いていけない。
「古来より、諸葛亮孔明が三は安定の数と言い、三国志が始まり。
 一つより二つ、二つより三がいいと、人気戦隊サンバ○カンでも歌われ、
  更に三は英語で言うサンに通じる、まさに世を照らす数字なのだ」
「えーーーーと。五じゃ駄目なの?」
 戦隊物は5が基本。
「駄目ッ」
 速攻で拒否。
「そう世の中、お前のように三に対して無理解な輩が多い。
  そこで三の素晴らしさを世に伝えるため、
 我等は、美学ランキングに登録し、今宵デビューするのでーす」
「悪のランキング登録者か」
 天空レッドに戦慄が走る。

 悪のランキング、本来の名は美学ランキングという、正義の味方ランキングと対をなす、裏サイト。
  社会が不安定になったとき、人々は安定の象徴正義を求めるが
  裏では、世の中にかまわず己の美学を貫くヒーローを求める。
 その心が生み出したのが、美学ランキング。
  登録者は己の美学に殉じた行動を取り、世に生き様を問う。
   自分の美学をどれだけ貫けるかを競うだけなのだが、得てして周りに妥協せず己の美学だけを貫く者は、
    社会通念に反し、結果悪となる。
  その為いつしか、美学ランキングでなく、悪のランキングと呼ばれるようになった。
「それでなぜ俺を襲う?」
「お前が一だからだ」
「1人?」
「まずは一を倒し、次に二を倒し、次は四と
  我等は三を持って他の数に挑戦していき、ことごとく勝ち、三こそ最強と証明するのでーす」
「そんなの証明したければ、論文でも書け」
「ノー。論文など所詮二次元、証明するなら三次元世界のリアルでなくでは意味がないっ。
  分かって頂けましたか」
「分かるかっ」
「分かって貰えなくても、貫くのー。
  では始める前に、名乗りましょう。
  私は、サン」
 リーダー格らしい、均斉の取れた体付きの青年が名乗った。
「そうそう名乗らないとね。
  俺はスリー」
 もう1人、大男が名乗る。
「ボクはテルツォ」
 不意打ちをして来た少女が胸を張る。
「日本語、英語、イタリア語か」
「おー意外と教養がありますね。でも一だったのが残念、三以外は殲滅でーす」
「もう納得した?納得した?納得した。
  なら、さくさくさくーと死ぬっしょ」
 テルツォがもう待ちきれないと突進してきた。
「悪なら、女でも容赦しないぞ」
 会話の間に腕の痺れは取れた。
  天空レッドも拳を固めて構えた瞬間、背中に衝撃が走った。
「ボク達、三だから不意打ちオッケーしょ」
 背後からの奇襲に、恐らくスリーによる攻撃に片肘をついた天空レッドの頭上
  テルツォが、何ら躊躇することなく硬い踵を、筋力に重力に乗せて落下させてくる。

どうなる天空レッド?
 己を貫く悪に勝てるのか?
  
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                                        つづく

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これは今でなく、
 過ぎ去りし日々でなく、
  やがて来るだろう世界

「けっけ、今頃シュウの奴、勝ったと思って油断してるな。
  その油断が命取りや」
 明かりもなく月明かりだけが差し込む部屋で、がさごそ作業
  シュウの油断した笑顔を思い浮かべ、沙耶はすげえ邪悪な笑みを浮かべる。
「本当にいいですかねこんなことして?」
「あたりまえや。
  勝負はかたなあ あかんのや」
「卑怯でも」
「なにいってんねん。
 勝つためにあらゆる努力をする、これぞスポーツマンシップ。
 それにやっちゃいけないと選挙管理法に書いてないねん」
そう言って二カッと笑った顔は、確かにすがすがしく爽やかに見えた。
 でもなあ〜という隼人は目を凝らして部屋をもう一度見た。
 仕切が置かれた机が並べられ、投票箱が置かれている、ここは投票場。
 選挙管理委員会は準備を終えて帰宅し、誰もいない。
  そこに侵入した隼人と沙耶。
 今し方施した策、果たして見破れる者はいるのかいないのか?
  沙耶の大勝負だった。
  
選挙日
ぞろぞろとクラスごとに呼ばれた生徒達は、投票場に行く。
 投票場の壁には色々投票についての注意書きが書いてあるが
  そんなの読まなくても分かるとばかりに
   さっさと投票用紙に、支持する候補者の名前を書いて投票
   さっさと帰っていく。
選挙管理委員会の手際よい運営で午前中に選挙は終了
 昼の間に開票作業、午後一で発表となった。

投票場に設置された電光掲示板に映し出される結果発表
 シュウ 540票
 沙耶  300票
 美尉  140票
 隼人  140票
 花袋   80票

「くっく、くく勝った勝ったぞ。
  この圧倒的勝利、俺に相応しいぞ」
 結果発表を見に来ていたシュウは、久しぶりの女性をとろけさせる自信の笑顔を見せた。
「おめでとうございます、シュウ様」
 一斉に周りの女性陣が勝利を讃える中、よく通る元気声が響いてきた。
「あちゃ〜こりゃ圧倒的やないか」
「おや、沙耶さんではないですか」
 敗者を見る憐れみの視線。
「おっシュウやないか」
 気軽に応える沙耶、とても負けた敗者に見えない。
「頑張ったのに残念でしたね」
 シュウは勝者の笑み。
「いや〜お互い残念だったな。
  でもうちとシュウの一騎打ちはうちの勝ちやから、まあよしとするわ」
 沙耶は詐欺師の笑み。
「何を言っているんだね、沙耶君」
「何って、だから生徒会長には花袋が選ばれたんだろ」
「可哀想に、負けたショックで気でも狂ったか」
「シュウこそ足下見えてないで。
 選管」
「はい」
 突然声を掛けられた選挙管理委員会委員長は緊張して返事。
 心の中では、間違いは犯してない間違いは犯してないと必死に自分に言い聞かせてる。
「選挙は公正に行われたんやな」
「はい」
 もちろんである、どっちに荷担しても後が怖いのでそりゃもう公平に扱った。
「なら、ルールは絶対やな」
「はい」
 どんないちゃもんも受け付けないように、ルールを予め文章化して投票場に貼り付けておいた。
  抜かりはないと、自信を持てる。
  この自信がなければ、とてもシュウに沙耶、この二人の前には立ってられない。
「よっしゃー。
  シュウ、あそこの張り紙を読みや」
 ガッツポーズで飛び上がり、沙耶はあるルールが書かれた張り紙を指差した。
「なんだと」
 シュウは沙耶が指差す張り紙を読んだ。
 それは多分今日、初めて生徒に読まれる文章。
『今回の生徒会長選挙は不信任選挙とします。
 あなたが最も生徒会長に相応しくないと思う人の名前を書いてください』
「なっなんだとっ」
「えっ!!」
 シュウだけでなく選管長ですら驚いた顔をした。
 当たり前である、こんなルール作った覚えなどないのである。
「選挙は公平、ルールは絶対。
 なら、例え誰も気付かなかったとしても、ああしてルールが公表されてた以上
 今更取り消しはきかんで」
「ばっばかな」
 そうここに張り出され、投票の間中破られることなく貼られていた以上、
  このルールが、今回の選挙のルール、もはや覆せない。
  例えそれが、沙耶が判子まで勝手に押して偽造して、夜中に貼ったものだとしても。
「いや〜なんで、今回に限り不信任選挙になってんねんかね」
 沙耶はしれっと言い切る。
「きさま」
「まあ、負け犬同士仲良うしよや」
 沙耶がシュウの肩を叩こうとしたが、シュウは払い除けた。
「この屈辱は忘れない」
 シュウはそれだけ言うと、その場から去っていき、そのまま転校してしまった。
「嫌なことは忘れた方がいいのに」
 シュウの背中を見送り沙耶は呟いた。
  兎に角これで学園は、シュウがやってくる前の状態に戻り、それこそが沙耶が望んだ状態。
   沙耶は見事自分の目的を遂げたのだ。
「九狼、隼人。
 まあ、選挙も楽しかったけど、うちらの本分は学祭や。
  明日からは、学祭のイベントのアイデア出し、ビシバシ気合い入れていくで」
「はいはい」
「おてやわらかに」
「いい返事や。今日は明日に備えて喫茶店で茶でもしよや」
 沙耶達は、明日の楽しいことを夢見て実現させるため
  笑って帰っていくのであった。
 
 こうして沙耶は、シュウの魔の手から学園を守った。
  これからもシュウの魔の手が伸びるかも知れないが、取り敢えず学祭頑張れ沙耶。

 
                                                おしまい

このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
 存在する人物団体とは、一切関係ありません。

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