ワシントン訪問の総括 その三の2・完

米国のアジア戦略のキーワードは、ずばり「内政干渉」です。
国際関係において内政干渉とは穏やかでないな、と感じる方々が多いと思います。私も、グリーン氏が平然と”we do interfere in the internal affairs of countries”と言うのを聞き、「来たな!」と思いました。まさしく、アメリカらしいなと。確かに、それは今年3月に発表された新しい『国家安全保障戦略』にも書かれていました。政権によってアプローチの違い(性急に求めるか、忍耐強く働きかけるか)こそあれ、この基本理念は、建国の父祖以来、米国の外交に一貫しているものといえます。

もちろん、やみくもに内政干渉するわけではありません。(しかし、ブッシュ政権の一期目は、911ショックを契機にネオコンが前面に出てきてそれこそ力任せに内政干渉する姿勢を露わにしましたが・・・。)要は、国際社会において行動する際の最低限のルールを守るよう働きかける、ということです。民主主義の確立や意思決定過程における透明性の確保、知的財産権の保護、法の支配の貫徹、などなど。新たに台頭する新興国を力で封じ込めるのでもなく、かといって野放しにするのでもない、一定の国際ルールや規範に基づいた行動をとるよう誘導していくことにより、新興国を「平和的に」発展させることができる、と考えているのです。中国は自らの成長を「平和的発展」と規定していますが、米国から見れば、それをただ拱手傍観していれば「平和的」な発展が保証されるのではなく、国際ルールに基づく行動をとるように働きかけて初めて実現させることができると見ているのです。

その意味で、米国が最も警戒するのは、「アジア的価値」と「欧米的価値」の対立構造(bipolar system)に陥ることです。Asian valueやAsian wayは10年ほど前に日本でも流行った議論ですが、それが普遍的な国際ルールを無視してもよい、「自分たちはそういうものとは別の価値観・世界観に基づいて行動するんだ」となった場合には、そこに深刻な対立関係が生まれてしまう。とくに、重商主義的な外交を展開する中国は、「内政干渉しない」ことをモットーとしているように見受けられます。スーダンやヴェネズエラ、ミャンマーなど国内の人権状況や地域不安定化の可能性などは意に介さずに、あくまで実利(たとえば、天然資源や軍事的拠点づくり)を最優先して外交関係を切り結んでいます。これは、換言すれば、「自国の内政干渉も許さない」という強い意志の表れでもあるのです。

こういう中国が先導する「アジア共同体」なるものは、米国の世界観とは相容れず、それを野放しにすれば、やがて米国の戦略的利益と衝突することは避けられない。ついでに言えば、そのような対立の構図は日本にとっても好ましい地域環境ではないはずだ、というのです。これに対して、お互いに国際ルールに則り、意思決定が透明で予測可能な対外行動をとることが最低限保証されるような国際環境が整えば、それは、日本にとっても、インドにとっても、オーストラリアにとっても、好ましいではないか。その環境の中で、それぞれの国が主体性を発揮して行くことにより、平和的な繁栄が可能となると考えるのです。だから、日本にも、インドにも、オーストラリアにも、ASEAN諸国にも、韓国にも、そういう地域環境づくりのサポートをして欲しい、と呼びかけるのです。

それは、中国を囲んで封じ込めようとするのではない。もちろん、中国が軍事的な勢力拡張に出てきた場合に備えての「リスク・ヘッジ」は抑止力の強化でしっかりやっておくけれど、基本的には中国の経済的な台頭は歓迎すると。したがって、中国が平和的に発展し続けたければ、そのルールや規範を無視することはできないんだというように中国国内の政治的意思決定に影響を及ぼす必要があるし、及ぼしうるのだということなのです。それを端的な言葉で「内政干渉」と表現したわけです。

さて、我が国として、このような米国のアジア戦略にどう対応すべきでしょうか。彼らのの目指すゴールは明らかであり、それは我が国の国益とも合致したものといえます。台頭著しい隣国を「一緒に封じ込めようぜ」と言われたら困惑するほかないし、逆にパワー・ポリティックスよろしく無原則に手を組まれてしまっても迷惑な話ですから、日本にとってもこれまでに十分消化してきた国際ルールや規範に基づいた地域秩序が構築されることは、対中外交を有利に進める上でも歓迎すべきことです。ただし、その「内政干渉」のペースやアプローチについては議論の余地があるでしょう。ブッシュ政権一期目のような姿勢では、率直に言って支持できません。それは、いま米国内の現実主義的な学者や政治指導者の間で高まっているブッシュ政権批判とも共通の問題意識です。つまり、究極のゴールとしては正しいとしても、地域の不安定を惹起してまで強引に「干渉」することは却ってそのゴールを遠ざけてしまうことになる。アジアにおける最大の同盟パートナーとして、我が国は米国に対して常にそのような観点からの助言を怠るべきでないと思います。

しかし、そういった助言がより説得力を持つためには、我が国が「国際社会におけるセルフ・ヘルプ」の原則に立って自助努力を怠らず、同盟協力の中でより主体性を発揮できる法体系や態勢整備を行っていく必要があることを改めて付言しておきたいと思います。

以上でワシントン訪問の総括を終わります。
いよいよ明日から米軍再編論議が本格化します。
明日の本会議で、麻生外相、額賀長官から先の「2+2」の結果報告を受けます。
先日も書いたように、私としては、これを財政論議に矮小化せずに、国会審議の過程で、今回の屈辱の日米協議の結果を「糧」に日米同盟の健全化に向けた努力を続ける一歩をしっかりと刻みたいと思っています。
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