今年の夏休みに日中韓三大学合同教育グローバルプログラムが開催される.
このプログラムは,姉妹校である韓国の慶熙大学校,中国の瀋陽薬科大学,日本の北陸大学の三大学が毎年順番に当番になり,それぞれの大学の2~3年生の有志が一緒に勉強し,国際交流を深めるというもの.
夏休みの恒例行事で,有志学生の教育・交流と同時に,教員による学術シンポジウムも開催される.
この夏は北陸大学が幹事校.
そこで,三大学の学生さんを相手に
クスリに関する講義を2コマしろ,と依頼された.
ヤレヤレ.
中国や韓国から学生さんたちが遠路はるばる金沢にやって来る.
せっかく日本に来るのだから,兼六園や武家屋敷などの金沢観光と共に,日本の化学の底力を知ってもらいたい.
クスリに関する内容なら何でもアリということなので,テーマは鈴木章と遠藤章.
鈴木章は2010年のノーベル化学賞受賞者.
医薬品のみならず,液晶テレビ,スマホのディスプレイなどの材料であるビアリール化合物を簡便に合成する反応,いわゆるSuzuki couplingの生みの親.
この反応は,アカデミック界のみならず,産業界にも大きなインパクトを与え,我々の日常のハイテク生活を大きく変えた.
遠藤章は高脂血症治療薬であるスタチン類を開発した.
このクスリは,血中コレステロール合成阻害薬.
生活習慣病が世界中で問題となっているため,スタチン類は世界で最も売れているヒット商品のひとつ.
遠藤章は,ノーベル賞に近い日本人のひとりかも?
ヨーシ.
この夏は,この2人の日本人化学者の仕事を軸に話を組み立てよう.
学部の2~3年生にも分かるように,とりあえず,鈴木章先生の一般向けの本にざーっと目を通す.
一般向けの啓蒙書なので,専門的なカップリングの解説よりも,鈴木章先生の伝記や語録がメイン.
研究が生まれた背景や学問に対する姿勢などが熱く語られている.
最近,惰性で仕事を流している自分.
久々にこういう本に触れると,化学を始めた頃の学生時代の心に戻ったような気持ちになる.
この本は,有機化学の色あせない輝きを思い出すきっかけになった.
この輝きが,中国や韓国の学生さんにも伝わるといいな.