【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

右から左

2017-07-08 06:47:10 | Weblog

 アラビア文字は右から左に書くことがよく知られているが、実はヘブライ文字も同じく右から左に書くそうです。あの地域って、人種に関係なくなんだか“そういった文化傾向”があるのかもしれません。

【ただいま読書中】『絨毯が結ぶ世界 ──京都祇園祭インド絨毯への道』鎌田由美子 著、 名古屋大学出版会、2016年、10000円(税別)

 京都祇園祭は10世紀に始まり、山鉾巡行は14世紀から続いています。山鉾は懸装品と呼ばれる様々な染織物で飾られていますが、それは山鉾に懸けられなくなった後も大切に保存されています。そのため、古い時代の渡来染織物がタイムカプセルのように山鉾町に保存されることになりました。現存するのは、16世紀ベルギーのタペストリー。16〜18世紀中国の絹織物や刺繍、絨毯、朝鮮の絨毯。17〜18世紀ペルシア絨毯とインド絨毯。18世紀トルコ絨毯。19世紀カザフ絨毯。17〜19世紀インド更紗。18〜19世紀ヨーロッパ更紗と毛織物。19世紀イギリス絨毯……
 本書では江戸時代に日本にもたらされた28枚の17〜18世紀インド絨毯が紹介されます。ただ「絨毯」と言っても、様々なタイプがあるため、本書では「経糸と緯糸とパイル(毛羽)を持った織物」と定義しています。
 絨毯は、羊が家畜化された地域で織られました。イスラームが勃興するとその初期の支配地域がほとんど絨毯生産地だったためか、イスラームの生活の中に絨毯は組み込まれ、イスラームが支配地域を広げるにつれて「絨毯のある生活」が世界に広まっていきました。絨毯は、日常用具(敷物、家具、家畜の装飾品など)であると同時に美術品であり、また礼拝用具や贈答品でもありました。
 本書では、デザイン・材質・織り方の技術などからそれぞれの産地を特定しますが、そのへんはあまりに専門的なので私は軽く読み飛ばしてしまいました。とりあえず、北インド絨毯は曲線的なデザインで動物なども取り入れられているが、南インド絨毯は直線的で幾何学的だそうです。
 北インドは10世紀頃からイスラムの侵攻を受け、18世紀頃までその支配下にありました。南インドでも南端のヴィジャヤナガル王朝(ヒンドゥー王朝)とともに複数のイスラーム王朝が栄えていました。これらのイスラーム王朝はペルシアと外交・宗教・貿易・文化で密接な関係があり、当然絨毯の生産と使用も行われていました。そして、南インド(特にデカン)産の絨毯が、なぜか多く日本に入ってきて祇園祭で使われていたのです。
 絨毯がヨーロッパに入ってきた当初、絨毯は貴重品でステイタス・シンボルでした。貴重なため床ではなくてテーブルに懸けられたり壁や窓からぶら下げたりしていました。肖像画にも「ステイタス・シンボル」として登場しています。教会への寄進としても重宝されました。貴重なものだからこそ、香辛料と同様、貿易の旨味が大きくなり、「絨毯貿易」が成立しました。日本には、朝鮮や中国の絨毯は古くから入ってきていましたが、ペルシアやインドの絨毯がもたらされるようになったのは16世紀以降です。オランダ東インド会社は「日本向けの輸出品」の一つに絨毯を選択しましたが、絨毯は幕府の有力者への贈物としても効果的でした。人気があったため国産化も試みられましたが,羊毛入手が無理だったため木綿糸を用いたパイル絨毯が佐賀や堺で生産されました。鍋島絨毯は現在も生産されているそうです。
 祇園祭の山鉾は、都の疫神を鎮めるためのもので、その懸装品として、絹織物だけではなくて、朝鮮や中国からと思われる、袈裟・虎や豹の毛皮・絨毯などが用いられました。記録からは、16〜17世紀には中国絨毯は見えますが、ペルシアやインドのものは無いようです。18世紀以降、ペルシアやインドの絨毯が懸装品として使用されるようになります。ヨーロッパで絨毯が普及したとき教会への寄進が行われたのと、同様の発想があったのかもしれません。そしてそれは京都近郊の祭にも影響を与えました。大津祭ではベルギーのタペストリーが、長浜曳山祭ではデカン絨毯が懸装品として用いられるようになりました。
 「日本の祭」にインド絨毯、というと言葉では違和感がありますが、たとえば茶の湯でも中国や朝鮮から輸入した茶碗を貴重品として取り込んでいますし、日本文化ではこういった態度が普通のことなのでしょう。インド絨毯から歴史や日本文化について、いろいろ貴重なサジェスチョンをもらうことができました。歴史と地球(世界中の美術館や博物館や図書館など)を走り回った著者に、感謝です。


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