【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

竜宮城

2011-04-24 17:51:56 | Weblog

 うっかり立ち入ったら、ミノタウロス、ではなくて竜に食われてしまうところ、なのでしょう。

【ただいま読書中】『日本昔噺』厳谷小波 著、 上田信道 校訂、平凡社(東洋文庫692)、2001年、3200円(税別)

 明治時代に厳谷小波が書いた「日本昔噺」の復刊です。
 「其一 桃太郎」はこんな出だしです。「むかしむかし或る処に、爺と婆がありましたとさ。或る日の事で、爺は山へ柴刈に、婆は川へ洗濯に、別れ別れに出て行きました。時は丁度夏の初旬(はじめ)。堤の草は緑色の褥を敷いた如く、岸の柳は藍染の総を垂らした様に、四方の景色は青々として、誠に目も覚めるばかり。折々そよそよと吹く涼風は、水の面に細波を立たせながら、其の余りで横顔を撫でる塩梅、実に何とも云はれない心地です。」
 私が親に聞いたのとは、私が絵本で読んだのとは、まるっきり違う世界じゃないですか。(これは小波の“編集”が入っているのですが、そのことについては出版当時から批判も強かったそうです)
 そして「鬼の住む嶋」は「日本の東北(うしとら)」にあって「我が皇神(おほかみ)の皇化(みおしへ)に従はない」ものの住処です。物語の舞台は奈良時代なんですかね。
 犬は「弁当をよこせ、さもなければ噛み殺すぞ」とまずは脅しますが、桃太郎に脅し返されて降参、そこではじめて「せめて黍団子を一つ」と恭順します(でも桃太郎は黍団子を半個に“値切って”います)。猿・雉子もはじめは犬と折り合いが悪かったのですが「仲良くしろ」という桃太郎の「軍令」によって道中でチームワークがよくなっていきます。
 厳谷小波は口話を単に文字化するのではなくて、新しい児童文学の基礎を作ることを目指していたようです。さらにそこには当時の、たとえば朝鮮半島での軍事緊張の高まり、といったものも投影されています。そういった点で本書を読むときには、「日本昔噺」を読むぞ、ではなくて、明治の香りのする昔話を読むぞ、という意識をしておいた方が良さそうです。まあ、どちらにしても私にとっては「昔の噺(話)」ではあるのですが。
 そうそう、けっこう細かいところにも気を使ってあります。「花咲爺」で、一番最初に犬の四郎が「ここ掘れワンワン」で掘り出された宝物、これのその後の運命についても本書ではちゃんと言及されています。
 そうそう、「羅生門」もありますが、これはもちろん芥川のではなくて「渡辺綱の鬼退治」の話です(その“前”の話「大江山」ももちろん収載されています)。しかしこの話も最後は「めでたしめでたし」なんですね。(ちなみに「瘤取り」には「めでたしめでたし」はついていません)
 いわゆる昔話だけではなくて「玉の井」「八頭の大蛇」といった神話や、さきほどの「羅生門」「大江山」や「牛若丸」といった歴史物もあります。こういったお話を夜な夜な聞いて育ったのが、日本人の教養のベースになっていたのでしょうね。



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