【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

無駄なコスト

2017-07-11 19:04:40 | Weblog

 宇宙開発に反対する人が「宇宙開発なんかやめて、そんな金があったら地上で使え」と主張することがあります。ではそういった人たちは、戦争にも同じ主張をするのでしょうか?

【ただいま読書中】『ネイビー・シールズ』ミール・バフマンヤール、クリス・オスマン 著、 角敦子 訳、 原書房、2009年、1900円(税別)

 海軍特殊部隊シールズ入隊を希望する兵士は、シールズ基礎水中爆破訓練(BUD/S)を最後までやりとげなければなりません。「昨日より楽だった日はない」という日が26週間続き、脱落率は75〜80%。過酷さでは世界で1〜2位の軍事訓練だそうです。訓練五週目には悪名高い「ヘル・ウィーク」が待ちかまえています。そういえばフィリピンの特殊部隊(たしか「フロッグマン」と呼ばれていました)の選抜訓練をテレビでやっていたことがあるのですが、ここでも「ヘル・ウィーク」がありました。BUD/Sをフィリピンも輸入しているのかもしれません。著者のミール・バフマンヤールは陸軍レンジャー出身ですが、クリス・オスマンはシールズ、つまりBUD/Sをクリアした人間です。で、クリス・オスマンの場合、ヘル・ウィーク(日曜(午前1時頃)〜金曜深夜)の間、眠れたのはトータルで4時間だけだったそうです。
 訓練では肉体をとことんいじめ抜きますが、これは肉体の運動能力と苦痛に耐える限界を向上させると共に、自分の限界がどこにあるのかをきちんと認識できるようになることを意味します(戦闘中に突然限界を超えて戦闘不能になるのは困りますから)。また同時にチームワークの大切さも体にたたき込まれることになります。
 イギリスの特殊部隊SASについて読んだときも思いましたが、こういった特殊部隊に志願する人間は一般部隊では最上の部分のはずです。そこから選抜された特殊部隊員は精鋭中の精鋭。まっとうな司令官だったらそれを“無駄遣い”するのは嫌でしょうね。あるいは逆に「せっかく優秀な“武器”があるのだから、使いたい」と思うかな?
 BUD/Sを無事終了した隊員は、こんどは6箇月の見習い生活に入ります。それをクリアできたら初めて正式なシール隊員と認められます。シールズは本来海軍の部隊ですから、潜水や水中爆破工作の訓練を受けるのは当然ですが、地上での爆破、パラシュート降下、極寒地戦闘、狙撃、船舶拿捕など各種のエキスパートを育てています。衛生下士官も正式なシール隊員がさらに医療訓練を受けて任命されています。
 1983年のグレナダ侵攻以後、本格的な戦闘にシールズが投入されたのは、1989年のパナマ侵攻「正当な理由作戦」でした。直前の予行演習の緊急呼び出しで基地に急行する途中にスピード違反で捕まったトニー・デュッチは、緊急呼び出しの電話に対して喜ぶと同時に「本当だろうな? また切符を切られたらたまらんからな」と言っています。結局彼はパイティージャ空港で両脚を打ち抜かれ(傷の処置後の写真が載っています)それで「彼の戦争」は終わってしまったのですが。しかしデュッチは現役復帰を果たし、こんどはボリビアで麻薬撲滅のために地元警察のトレーニングを担当します。もっとも詳しいことは機密情報なので話せないようですが。
 1991〜2001年のユーゴスラヴィアでは「民族浄化」によって10万人以上が殺され、200万人以上が難民となりました。国際社会は冷淡でしたが、ユーゴの非人道的な実情が明らかになるにつれ放置できなくなり、1999年3月連合軍はコソボに78日の空爆を実施しました。ついでコソボ治安維持部隊が配置されましたが、シールの小隊もその中で偵察任務に当たっていました。その一員だったトム(おそらく偽名)は2003年にまたボスニアに潜入します。任務は戦争犯罪人のカラジッチ(元ボスニア大統領)の逮捕。マスメディアには報道されないでっかい“ニュース”がシールズの周辺にはごろごろ転がっているようです。
 そして「9.11」。ここで紹介されるCIA上級分析官の分析は、今でも聞くに値する冷静なものです。アメリカ人が単にアメリカ至上主義のトリガーハッピーだけではない、ということがわかりますが、問題はそういった冷静な分析をきちんと受け入れる権力者があまりいなかったことでしょう。そして「現場」の人間は、命令に従って「敵」を殺すことに集中します。
 アフガニスタンは「シールの活動には持ってこい」の場所でした。しかし、襲われる方としては、襲ってくるのがソ連兵だろうとアメリカ兵だろうと、変わりの無い恐怖だったことでしょう。
 アフガニスタンやイラクで、シールズは、海兵隊や陸軍特殊部隊、あるいはドイツやポーランドの特殊部隊と合同で作戦行動を取りました。非常に悪い言い方になりますが、各国は特殊部隊の実戦トレーニングをやっていたのでしょうか。
 『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』のクリス・カイルも登場します。この辺になると「どこがフロッグマンなんだ」と言いたくなりますが、戦争の形が変われば、特殊部隊の形も変わっていくのでしょう。しかし、ここまで各国が特殊部隊を鍛え上げているのに、どうして世界でテロが根絶されないんでしょうねえ。


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