【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

理解の欠如

2017-08-11 07:56:49 | Weblog

 金正恩は「グアムを攻撃するぞ」なんて言ってますが、戦前に日本は「真珠湾を攻撃するぞ」とは言わなかったわけで(言ったら奇襲になりません)これは軍事的には本気度を疑わせる発言だ、と私は感じています。ただ、言った以上やらないとメンツが潰れるから、それを防ぐためには何かをしなくちゃいけない、という困った国内状況に自分で自分を追い込んでいるので、それはそれで世界も困った状況にはなっています。
 対して、これまた世界の困ったチャンのトランプ大統領は「炎と怒り」(fで頭韻を踏んでいて、ご本人は「洒落た言い回し」だと悦に入っているのでしょう)発言で、慌てたティラーソン国務長官は「金正恩が理解できる言葉で強いメッセージを出しただけ」と言っています。だけど、トランプさんは金正恩さんのメッセージを「理解」しているのかな? 威嚇されてかっとなって反射的に言い返しただけ、でなければいいんですけどね。

【ただいま読書中】『ケネディ暗殺50年目の真実』ビル・オライリー/マーティン・デュガード 著、 江口泰子 訳、 講談社、2013年、2000円(税別)

 先日は暗殺直後に書かれた本を読みました。そしてこんどは「50年目」に事実だけに立脚した、という本です。
 独裁的な父親に従い、カリスマ的な兄を見上げて育ったジョンは、本と女を愛するお気楽な次男の立場を楽しんでいました。しかし指揮していた小さな魚雷艇が駆逐艦天霧に沈められ、部下の生死が自分の命令の正しさにかかっている状況で、ジョンはリーダーとして“覚醒”します。そして兄のジョーが戦死(というか、事故死)。作家かジャーナリストになるはずだったJFKは大統領を目指して歩き始めます。
 ケネディが大統領に就任した頃、遠くミンスクではリー・オズワルドというアメリカ人が頭を抱えていました。ソ連に亡命しようとして拒否され、アメリカに戻ろうとしても上手くいかないのです。さらにソ連の女性と結婚して彼の人生はさらに複雑に行き詰まっていきます。
 ピッグス湾事件(カストロ政権転覆のためにアメリカの援助を受けた亡命キューバ人が侵攻しようとして撃退された事件)で、ケネディ大統領と弟のボビーの絆は深まり、次の「共産主義者をやっつける目標」をヴェトナムとします。そして、リー・オズワルドは妻とお腹の中の子供と共にアメリカに“帰国”することにします。
 非常によくできた読み物です。ホワイトハウスでのケネディ家の生活が“リアル”に描かれ、ジョンの愛人たちやジョンとジャッキーの性生活まで結構赤裸々に紹介されます。各章の最後に「暗殺まであと○日」といった感じの指摘があって、非常にスリリングな「読み物」と感じますが、もしもこれが暗殺なしで任期満了となっていたとしても、とても面白い読み物です。それにしても、JFKの性欲はちょっと異常。まるでセックス依存症です、というか、そうだったのかもしれません。
 ケネディは「敵」を増やします。熱心な支持者で大統領当選に大きな力となったフランク・シナトラをマフィアとの繋がりを理由に切り、恨みを抱かせます。黒人の公民権運動を支持してディープ・サウスの白人たちを敵に回します。もちろん国外の“敵”フルシチョフは虎視眈々と“チャンス”をうかがっています。
 オズワルドはFBIに「要注意人物」として一時マークされていました。しかし、彼が拳銃やライフルを購入する頃にはFBIはオズワルドへの興味を失っていました。
 そして、キューバ危機。ピッグス湾事件から多くを学んだケネディはこんどは冷静に振る舞います。
 著者は、キング牧師とケネディ大統領の類似点として、暗殺されたことと演説が上手いこと、そして底なしのセックス好きを指摘しています。
 オズワルドは南に向かいます。早産で赤ん坊を失ったジャッキーはギリシャへ。そしてケネディは、次の選挙のために、苦戦が予想されるテキサス州への遊説を予定します。
 本書では、ウォーレン委員会が出した結論をベースに、“登場人物たち”の人生を重層的に描写しています。私は、ボビー(大統領の弟、司法長官)とジョンソン副大統領のあまりに生々しい憎悪と対立のところで、思わず立ちすくむ思いでした。
 ところで、機密文書の公開はあと20年くらい先でしたっけ? なんとかそこまで生きて、事件のもうちょっと奥を見届けたいものです。