猫の音

君の言葉を借りてみた  ~ 心のお天気 覚え書き ~

~ 最終章、再生の朝 ~

2004-10-21 | 心のお天気
一夜にして当たり前に存在していた街は変貌した。
愛する我が街の傷ましい姿は絶叫に近く哀しかった。
焚き木の火を見るたび、あの日の街の匂いを思い出すという。

昨日の嵐から一転し、今日の空は秋色を取り戻している。
でも取り戻せない事態を抱えた人はどの数いるのだろう。

十年前のあの日、激震に教えてもらったのは
教訓や寄り添いあう精神、大切なものの再確認だけではなかった。
強き弱きの図式は動かしようもなく
覆いたくなる光景や、知る由もなかった人の殺伐の一面は
前夜までの暮らしの中では疑いもしていないものだった。

しかし、

主は過ぎた日の体験談ではなく
壊れた日常も、悼んだ心も
必ず再生の朝が来ることを言葉にしておきたかったのだと思う。

傷んだ町に育める華咲く日が早く訪れますように 。

夜明けの絶望

2004-10-21 | 心のお天気
「大丈夫か!」
ドアを叩く隣人の声がする、ロックを外すと幸い玄関扉は開いた。
ここは10階、非常階段のコンクリは骨が見えているが迷いはない
抱えたキャーリーバッグとともに1段1段下を目指す。
地上に降りて間もなく裏手から火があがった。
馴染みの街並みの屋根の低くさに愕然とする。

時間の感覚がなく、吐く息の白さだけで夜明けを計った。

辺りが白み始めてから1段1段下りた階段を昇る足は重かった。
完全な夜明けと同時にパノラマに見える街の全貌に絶望を見た。
上空を低く飛ぶだけの何機ものプロペラの音が神経をより痛くさせる。
ヘリを見上げて睨んだ。

今夜寝れるだけのスペースを確保してからは
キャリーバッグを毛布で包み、コートに猫缶を1つ入れたあとは
膝小僧を抱えたまま主は開けたままの玄関に座り込んでいた。
扉を閉めるのが怖かった。

キャリーバッグはピクリとも動かない、「姫ちゃん?」
毛布を外して覗いてみると固く閉じていた目を少しだけ開けた。
「大丈夫だからね、」
柔らかく諭したつもりの声は硬かった 。