『君戀しやと、呟けど。。。』

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『泥』1~過去/ painシリーズ

2018-02-07 15:09:37 | ショートショート

『お前の母親は、かつてクラスメイトを虐めていた』
『お前の母親は、かつてクラスメイトの物を盗んでいた』
『お前の母親は、かつて友達を仲間に引き入れて、クラスメイトを学校から追い出した』


 同じような内容の手紙が届くようになった。
 最初は、まだ学校に行ってる頃だった。
 今の時代、告発状? って思った。笑って破り捨てて、誰にも話さなかった。
 こんなことを友だちと共有するなんて、今はしない。

 でも、この頃からクラスの中の様子が少しずつ変わっていった。
 みんなの様子がヨソヨソしいのだ。
 無視される訳じゃない。お昼も、それまでと変わらない。ただ誰かがいない。
 それまで七人いたメンバーのうち、二人か三人しか一緒にならなくて、先生や部活の予定が入ったからと抜けていく。

 そんな状態が半月も続いただろうか。
 あの告発文がみんなのところにも届けられていることに気付いた。
 あれは、それまでのものと違い、少しだけ具体的に書かれてある内容だった。
『お前の母親は、クラスメイトの母親に迷惑メールを出し続けた』
 その後に、コピーされた文面があった。
『早く学校辞めて下さい。一緒に教室にいるのが苦痛です』

 聞こえてきた、友だちの言葉。
 あの迷惑メール、お母さんが送ってたんでしょ。今の冴子にぴったりよね。

 気付かれたと分かると、友だちは慌てて話題を代えトーンの違う声を出した。
「みんなのところにも、あの手紙きてるの」
 山科冴子の問いかけに、友だちが言葉を失った。
 間違いない。みんな知っている。
「あれは私じゃない。私は誰も虐めてなんかないじゃん」
 思わず大きな声を出した。その時、後ろの方に隠れていた人から言葉が返ってきた。
「でも、冴子のお母さんがしてたことでしょ。その虐められていた子は学校を辞めたんだよね。冴子のお母さんってPTAの役員で、いろいろ言える立場じゃないよね。イジメしてたんだから」
 学校を辞めた?
「どうして辞めたって言えるの。そんなこと、分からないでしょ」
「だって書いてあったよ。私は学校を辞めるしかなくて、転校もできなかったから人生を棒にふったって」

 今度はこちらが言葉を失う番だった。
 母は確かにPTA役員だ。何をしているのか、冴子は知らない。
 でもみんなは知っているようだ。
「うちの母親、何か言ってるの?」
 笑われた。明らかに、失笑って感じ。

 その翌日から学校に行かなくなった。そして二ヶ月が過ぎた。
 告発状は届く。
 この後はメールや掲示板に替わったから、無限に続きそうだ。
 当の母親は何も知らずに、何故学校に行かないんだと責めてくる。
 部屋に閉じこもる。掃除をするからとたたき出される。そんな毎日の繰り返し。

 そうだ。いい機会だ。聞いてみよう。
「ママはPTAで何をしているの?」
「どうして、そんなことを。誰かに何か言われたの」
「ママは、学校と上手くいってると思ってる?」
 それを言った時、母親の顔はひどく間抜けに見えた。
「先生方とも話はしてるし、問題提起ということなら大丈夫よ」
 じゃ、どうして娘は登校拒否してるのよ。

「学校のイジメ問題って、どうなってるのかな」
 思わず出た呟き。
「イジメはないわ。あの学校は本当にしっかりとしてるのよ。だから安心して、あなたも学校に行きなさい」
「PTA役員の娘が登校拒否じゃ、示しがつかないって感じよね」
「何があったの。ちゃんと話しなさい」
 一度、違うイメージを持ってしまうと、自分の親なのにいい人には見えない。

「ママの子供の頃って、イジメがいっぱいあったんでしょ」
 別に、鎌をかけた心算じゃなかった。
「ないわ。ママのいた学校はいい子が揃っていたもの」
 刹那。何かが決壊した。
「今、私が学校に行けないのはママのせいよ。記憶にないみたいだけれど、ママのしてたイジメのせいで私は登校できないの」
 返ってくる言葉を聞きたくなくて、リビングを飛び出した。

 その夜、帰宅した父に玄関先で話があると切り出した。
 夫婦といっても二人の仲はよくない。でも冴子が学校に行ってるうちは離婚しないそうだ。
「あとで冴子の部屋に行こう」
 食事はいらないからと部屋に戻った。

 ノックの後、父の声が聞こえた。
 入ってくると、そのまま勉強机に背を向けて立った。
「座って」
 そう言ったら、娘といえども気を使ってしまうと笑った。
 冴子はベッドに座り、父が向きを変え向かい合う形となった。

「何かな」
 あまりに話し出さない冴子に、少し空気を和ませようとでも思ったのだろうか。父は少しだけ高めの声で優しく聞いてくれた。買っておいたペットボトルのコーヒーを二本出して、父にも渡す。
「ママのね。学生時代って知ってる?」
 まず、それからだ。何も知らない父に話をしても意味はない。でも知っていると言われても悲しいな、と思った。
「ママと何かあったか」
 しかし父は答えとは違う問いかけをしてきた。
「少し喧嘩みたいになった。でも、そんなことじゃなくて、もっと違うこと」
 ママの性格は、よく言えば明るいのだと思っていた。でも、もしかしたらそれは違ったのかもしれない。
「ママって性格悪いのかな」
 そう言ったら、父は暫く何も言葉をくれなかった。代わりに凄く怖い顔をした。

 何だろう。
 確かに冴子が高校を卒業すると離婚だと言っているのを聞いたことはある。
 でも別居するわけでもなく、この家に帰ってくるのだから本当に離婚をするのかどうかは分からない。
 冴子の中では、二人はあくまで二人という単位で見ていたけれど、それが間違いかもしれないと初めて気づいた。
「パパ。ママと本当に離婚するの?」

To be continued. 著作:紫 草 
 
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